【フォトキナ】製品担当者に現地で聞いた「ライカM」詳細
2012年9月17日、フォトキナ2012の会期前日にライカカメラ社は「DAS WESENTLICHE」と題したイベントをドイツ・ケルンで開催。新製品「ライカM」「ライカM-E」「ライカS」「ライカX2ポール・スミスエディション」を大々的に披露した。
ライカブース。ケルンメッセのホール1を借り切る大規模なもの | 製品コーナーも、製品シリーズごとに分かれている |
本誌では、それらが発表された翌日にフォトキナ2012の会場で製品担当者にインタビューを敢行。各製品について詳しいお話を伺った。
■「M」の理由はインターネットの画像リーク
これまでのM型ライカでは、数字の前後やバリエーションこそあれ「M」の後ろにナンバリングを行なうのが基本だった。それが突如として「ライカM」という、ある意味でカメラの1カテゴリを示すワードがそのままモデル名になった。これにはいわゆる“M10”を待ち望んでいた世界中のファンが驚いたことだろう。
ライカM。2013年初旬に発売予定 | タッチ&トライには人が絶えない |
ライカカメラCEOのAlfred Schopf氏によると、このネーミングのきっかけは2〜3カ月前にインターネット上で“M10”の画像がリークされたことだという。それに加えて、M12、M13、M14とモデル名の数字が増え続けていくことへの疑問から議論を重ね、今後M型はライカM、ライカSシリーズは「ライカS」としていきたいと考えたそうだ。
ライカカメラCEOのAlfred Schopf氏 |
新しいライカS。マルチファンクションハンドグリップを装着したところ | ボディとともに3本の新レンズも発表した |
なお、ライカMには「Typ 240」、ライカM-Eには「Typ 220」というタイプナンバーがそれぞれ与えられており、カメラボディのベースプレートに貼られたシールなどで確認できる。今後、腕時計のリファレンスナンバーのような役割となるのだろう。
その“新しいライカM”では、同シリーズのコンセプトである「大きなセンサーを小さなボディに」を踏襲。加えて独自開発のCMOSセンサーを採用するなど「フルオリジナルデバイスの商品」と強調していた。バッテリーはボディサイズを守りつつ大型・大容量化している。ライカカメラ社としては、ボディの小型化は常に意識しているポイントだという。
高画質にこだわった製品作りが同社のポリシーだが、「ときどきMモノクロームやX2ポール・スミスのような、話題性のある面白い製品も出していきたい」と話すSchopf氏。カメラメーカーでありながら、ラグジュアリーブランドとしての存在感も放つ同社は、古くからの価値観や伝統的な強みを保ちつつ、新しい技術的チャレンジにも積極的で、いずれも比類ない高品質で成功してきたと語る。
ライカX2ポール・スミスエディション | |
デジタルM型ライカの総生産台数は「M8から数えて10万台前後か少し多いと思う」とSchopf氏。台数的には今後も増やしていきたい考えで、新しいライカMにおいてライブビューが可能になったことについて「広がる用途の可能性が予想以上で驚いている」と話していた。それに伴ってライカMの需要も拡大するだろう、との見込みだ。例えばM9のレンジファインダーでピントを合わせられないというユーザーにも、ライカMの拡大表示やピーキング機能が助けになるとしている。そのレンジファインダー機構の今後については「捨てる理由がない」とシンプルな回答だった。
ライカM-Eも、間違いなく今回のハイライトだろう。ライブビューなどの豊富な機能を求めない向きへの“ピュアなカメラ”という位置づけや、CCDセンサーを好む向きに対して選択肢を残すという配慮だそうだ。ベースとなるライカM9の開発費をほぼ回収できたというのも、ライカMやM9-Pを下回る価格設定を実現した要因だという。
ライカM-E | |
USBコネクターやフレームセレクターを廃したのもシンプル志向への配慮 | |
ライカM(左)とライカM-E(右)を比較 |
今回のイベントに併せてライカは、99周年を記念した「NINETYNINE YEARS」という本を発売。100年を目前に99年を記念した理由は、「9」はライカに縁のある数字だからだという。例えば初めてデジタルで“ライカ判”を実現したM型ライカの「ライカM9」は2009年9月9日に発表した。
しかし、Schopf氏はインタビューの最後に「だが、100周年にも期待していてほしい」と含みを持たせた。
■2,400万画素のフルサイズCMOSを新採用。オプションでGPSにも対応
続いて、同社カメラ製品のプロダクトマネージャーStefan Daniel氏にライカMの細かな仕様について伺った。
ライカMは新しく撮像素子に「LEICA MAX 24MP CMOSイメージセンサー」を採用。コダックおよび同社イメージセンサー事業を継承したTruesense Imagingのものから代わり、ベルギーのCMOSISと共同開発した。同社がデジタルカメラ用のイメージセンサーを開発するのは初めてのことだという。
ライカカメラ プロダクトマネージャーのStefan Daniel氏 | ライカMでは新たに35mmフルサイズ相当のCMOSセンサーを搭載 |
有効2,400万画素の同CMOSセンサーは、ライブビューとフルHD動画記録に対応。ライブビュー機能により広角レンズを外付けの光学ビューファインダーなしに利用できるほか、「ライカRアダプターM」経由で装着したライカRレンズで正確な望遠・マクロ撮影が可能になるというメリットを謳う。
アダプター経由でライカRレンズを装着すると、アダプターのマウント部に記された6bitコードをカメラが認識。カメラ本体が記憶している21種類のレンズ名(5桁番号)を選ぶことで撮影画像のExifにレンズ名が書き込まれるという。レンズ補正などは行なわない。
ライカRアダプターM経由でライカRのレンズを装着したところ。ハンドグリップ、アダプターの三脚座、EVFも取り付けている |
新たに採用したCMOSセンサーはこれまでのCCDセンサーより低消費電力で、バッテリー寿命も伸びたという。処理を行なうMaestroエンジンもDSPプログラムからASICになり、同じく低消費電力化に貢献しているそうだ。
ライカMのバッテリー(左)とM8〜M9のバッテリー(右)。放電容量はほぼ同じだが、電圧が3.7Vから7.4Vになっており、2倍のバッテリー容量としている |
画作りは「よりパーフェクトに近づいた」と自信を見せるDaniel氏。引き続きローパスフィルターは搭載しない。画素が小さくなったものの、有効画素エリアを大きく使えるため、感度が向上したという。
そのほかのM9からの変更点としては、ボディのウェザーシール(防滴構造)や、3型92万ドットに大型・高精細化した液晶モニターがある。ファインダー内でフレーミングを示すブライトフレームは、採光窓を必要としないLED式を採用。カーデザイナーWalter de'Silva氏が手がけ、同社が2010年に発売した限定モデル「ライカM9チタン」と同様の仕組みだといい、被写体の明るさに応じて表示の明るさが変わる。また、フレームラインは赤と白の2色を設定メニューから選べる。
ブライトフレームを2色から選べる | 電子水準器も搭載した |
新しいアクセサリーも発表された。「マルチファンクションハンドグリップM」は、右手の指を輪に通してカメラを保持するフィンガーループを利用可能。グリップ部にGPSアンテナを内蔵し、撮影画像のExifに撮影地を書き込むことができる。加えて底部にはシンクロ端子、TTL端子、DC電源端子、USB端子を用意。TTL端子を用いて外部ストロボを接続すると、外付けEVFとの両立が可能になる。
もう一つの新しいM型として登場したライカM-E。「E」に込められた意味は特に明らかにしていないとのことだが、英語の「easy」でも「economy」でも構わないとDaniel氏は話す。しかし、伺った中ではドイツ語で“初心者”を意味する「einsteiger」(アインシュタイガー)が最もふさわしいのではないか、としていた。
ライカIIIcなどに見られたアンスラサイトグレーのカラーを採用。理由は「好きだから」とDaniel氏。貼り革も新しいパターンのものを採用している | シャッターボタンやダイヤルはシルバーとした |
カメラの仕様はM9をほぼ継承しているが、そこには完成度が高かったというM9をライカMの登場でこのままフェードアウトさせるのも惜しいとの考えがあり、写真を撮ることに集中できるピュアなカメラとして「M9の第二の人生」が始まるとの考えだという。
■「カメラがどうあるべきか」を知るブランド
印象的なカラーリングの「ライカX2ポール・スミスエディション」が話題を呼ぶライカXシリーズについて、担当者のMaike Harberts氏に話を伺った。
ライカXシリーズ担当者のMaike Harberts氏 |
ライカX2は、APS-Cサイズ・有効1,620万画素のCMOSセンサーを搭載し、“Made in Germany”をアピールするレンズ一体型カメラ。2009年の「ライカX1」以来、Mシステムと同社ブランドの日本製コンパクトカメラの間を埋める製品として成功したとしている。
Harberts氏によるとXシリーズの位置づけは「Mが難しいと感じる人向け」だそうで、その証拠にライカX2はシャッタースピードと絞りのダイヤルをそれぞれ用意し、両方を「A」にしておけばプログラムオート撮影が可能。慣れてきたらそれぞれのダイヤルを動かすことでマニュアル撮影を行なえるようになっている。もちろん、AFも利用可能だ。
ライカブースに展示していたXシリーズのラインナップ |
同機種のレンズは35mm判換算36mm相当の「ライカエルマリート f2.8/24mm ASPH.」。ライカで撮られた“名作”の多くが35mmや50mmのレンズで撮られたものだといい、人気と支持を集める焦点距離としてライカX1から採用している。持つよろこびを与える要素として、バルナック型と呼ばれるスクリューマウントのライカをかたどったボディデザインもポイントだ。
X2ポール・スミスエディションは、ファッションブランドのポール・スミスにデザインを依頼した限定モデル。これまで同社が「サファリ」や「チタン」といった限定モデルをリリースしてきた中で、さらに新しいことをしたかったのがきっかけという。コラボレーションにあたり、どのようなブランドがライカに合うかをファッションブランドに限らず検討したという。
ライカX2ポール・スミスエディション | 付属のケースを装着したところ |
アクセサリーや箱もポール・スミスによるデザイン | 限定1,500台の全てに認定書とカードが付属 |
ストロボ部分に描かれた電球のイラストはPaul Smith氏による“落書き” | ケースやストラップといったアクセサリーにはポール・スミスのロゴが入っている |
ブランドを選ぶ際には、カメラとのコラボレーションを行なう上での“基盤”も大事と語るHarberts氏。Paul Smith氏自身が子供の頃から写真を撮り、ライカを使っていることもあり「カメラはどうあるべきかを知っているブランド」としてポール・スミスが候補に挙がったのだという。
ちなみに、ポール・スミスとライカのコラボレーションは過去にイギリスで例があり、D-LUXシリーズのケースをイギリス限定で250個販売したのだそう。
ポール・スミスからはデザイン初期段階からネオンカラーなどビビッドな配色の提案があったそうで、アクセサリーとのマッチングなどを見ながら色を絞り込んでいったという。製品化が決まったデザインは今秋から来春・来夏のメンズラインに定番的に使われる配色で、今季にマッチする配色に仕上がったとHarberts氏は話す。
付属のクリーニングクロスにはM3をデザイン。アイコニックな存在であり、クラシカルなイメージとして選んだ。Paul Smith氏自身も古いライカを持っているそうだ |
同製品はパッケージまで含めポール・スミスのチームによるデザインだが、あくまで「デザイン依頼」であるため、カメラ本体にはポール・スミスのロゴは一切ない点を強調していた。
また、フォトキナでXシリーズに関した発表としては、カラフルな展示が目を引く「Xアラカルト」もある。Xシリーズをもっと違う色にするなどパーソナライズしたいと市場から要望があったそうで、もともとM型でアラカルトを実施していたこともあり、対応はスムーズにいっているという。
Xアラカルトの展示コーナー | 本体カラーやレザーの見本と、数多くのサンプル機を用意していた |
レザーは10種類を用意。ケース、ストラップのコーディネートのほか、ボディへの刻印が行なえる。ボディカラーには、通常製品にないチタンカラーも用意した。ウェッツラーの新工場で1カ月以内で渡せるように体制を整えたいという。
【2012年10月9日】記事初出時、ライカMのベースプレートについて「プレートを外すことなくSDメモリーカードを交換できる穴も備えた」と記述していましたが、穴のように見える箇所は無線LANの電波を通すために樹脂素材を組み合わせていた部分と判明したため、該当部分を修正しました。
2012/9/24 00:15