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ライカのカメラ責任者に聞いた「ライカQ」詳報

ステファン・ダニエル氏インタビュー

代官山T-SITEでのローンチイベントが盛り上がった翌日、ライカカメラ社のプロダクトマネージメントディレクターであるステファン・ダニエル氏に、ライカQの気になるポイントについてインタビューする機会を得た。

ライカカメラ社プロダクトマネージメントディレクターのステファン・ダニエル氏

ダニエル氏は16歳で入社し、1999年に30歳でM型ライカのプロダクトマネージャーとなった人物。現在は写真関連製品のプロダクトマネージメントディレクターを務める。フォトキナをはじめとする新製品発表の場には必ず登壇しており、現代ライカの父のような存在だ。

レンズは35mmも検討した

--- “フルサイズコンパクト”の構想はどこから出てきたのでしょうか?

単焦点レンズの高画質コンパクトカメラにはライカXシリーズがあり、好評でした。ただ、なぜフルサイズセンサーの機種がないのか、という声がありました。

ライカQ

--- なぜ広角の28mmを選んだのですか?ライカといえば古くは50mm、近年は35mmがスタンダードというイメージです。また、35mmでもなく、21mmでもなく、28mmなことに理由は?

技術的な背景があります。搭載レンズは明るく、よく写り、小さい必要があります。35mmのF1.7なども研究しましたが、今回搭載した28mm F1.7のレンズと同じクオリティを維持しようとすると、35mmのほうが大きくなったのです。また、センサーとのバランスも考慮しました。

加えて、レンズが28mmであれば、35mmや50mmで撮影する場合、クロップ用の「デジタルブライトフレーム」で記録範囲の周辺を見ながら“ライカ的”に撮影できます。レンズ自体が35mmや50mmでは、それができません。

--- レンズ一体型ならではのわかりやすいメリットはどこにありますか?

ライカMレンズに28mm F1.4のズミルックスが加わりましたが、あれはレンズ自体の全長がライカQの厚さと同じぐらいです。レンズ交換式カメラは、レンズ一体型のカメラにくらべてどうしても大きくなるのです。

--- 撮影画像の周辺画質や周辺光量も好印象ですが、これもレンズ一体型ならではのメリットでしょうか。

はい。レンズとセンサーのそれぞれに工夫をして、マッチングしています。可能な限りレンズ側で性能を高めていますが、“さらにいい画像を作る”という意味で、周辺光量や歪曲収差といった部分では、多少の画像処理も活用しています。

--- そのレンズ周りで、特に目立った技術的チャレンジは何でしたか?

光学式手ブレ補正、マクロ機能、高速AFという初の要素があります。今まででもっとも複雑なレンズのひとつでした。

--- マクロモードにここまで力を入れた理由は何ですか?

レンズが28mmの単焦点なので、ユーザビリティを広げるために接写で汎用性を高めました。ライカMレンズの使い勝手をマクロ撮影時にも取り入れたく、距離指標がフォーカシングに連動する構造になっています。

このレンズ周りの操作性は「ライカらしさ」としても意識していて、ライカを好むファンをくすぐるような“メカニズム”や“操作感”を盛り込んでいます。例えば、一世代前の「マクロ・エルマー」のような雰囲気です。

筆者注記:2014年まで販売していたマクロ・エルマーM f4/90mmは“メガネ”と呼ばれるアタッチメントで接写を実現したが、その際にレンズを通常撮影時と上下逆に取り付けることで、接写用の距離指標が見える仕組みになっていた。現行の同名レンズはライブビュー撮影が前提のヘリコイド付きアダプターを用意している。

--- 光学式の手ブレ補正はどれぐらい効きますか?

シャッタースピード2.5段分です。動画撮影時のブレ補正にも使えます。

--- フォーカスリングの指掛けがM型ライカのようで親しみを感じましたが、要望があったのですか?

ライカMレンズにもノブがないものがありますが、「何故ないの?」と聞かれることがよくあります。なので、ライカQには付けようという話になりました。また、AFモードのロック機構をどこかに入れたかったので、ノブを付けたことでそれも同時に叶いました。

新しいCMOSセンサーの採用、新しいデザインチームの設立

--- レンジファインダーのライカM(Typ240)が有効2,400万画素のフルサイズセンサーを積んでいますが、ライカQも同じCMOSIS製ですか?

CMOSIS製ではありません。また、センサー自体も別物です。ライカQはAFを搭載しているので、マニュアル機のライカMに用いるセンサーと異なり、高速読み出しが大事です。これにより、10コマ/秒の連写や高速AFを実現しています。

--- 「最高ISO50000」とはライカMに比べて飛躍的ですが、例えばCMOSが裏面照射型であるとか、構造的な特徴がありますか?

裏面照射型ではありません。確かに最高感度はアップしましたが、ライカM(Typ240)は2012年の製品ですから、3年間の技術的進化ということです。

--- ボディ背面のサムレストが面白いデザインだと感じました。カメラの収納性を意識しましたか?

これはデザインチームからのアイデアで、ライカらしいシェイプを残しながらグリップを持たせることができました。今回のライカQはアクセサリーも含め、すべて“インハウス”のデザインです。

このサムレストをデザインしたのは、4月に設立された社内デザインチームに属する25歳のデザイナーです。シンプルなものを採用できてよかったと思います。

“フォトエキスパート”に向けたライカQ

--- 新システムには昨年登場のライカTがありますが、想定ユーザーは違いますか?

ライカT(APS-Cセンサーのレンズ交換式カメラ)は現代的で、大型モニターとタッチ操作を多く取り入れている点など、コンパクトカメラユーザーのステップアップも想定しています。一方ライカQは、クラシックなM型ライカも意識したアイコニックな製品です。 “フォトエキスパート用”と言い切ってもいいほど写真好きに向けたカメラです。

--- ライカMとの棲み分け・使い分けも考えていますか?

もちろんライカMシステムのサブでもいいのですが、35mmのデジタル一眼レフカメラを使っている方々が、大きく重たい機材の代わりに「よく写る小さなカメラ」という選択をするのもいいと思います。

やはりM型が柱。ライカM7も引き続き製造中

--- 昨年、ドイツ・ウェッツラーのライツパーク新社屋がスタートしましたが、生産体制などに変化はありましたか?

全てがよくなっています。ライツパークの社屋はカメラの設計や組み立てに特化されている建物なので、スムーズに流れています。もともと家具工場だったところを買った“ゾルムスの迷路”とは違います。組み立て時にホコリが入りそうになることもありません。

ドイツ・ウェッツラーのライカカメラ社屋

--- ライカにもシリーズが増えましたが、現在の柱となっているカメラは何ですか?

やはりMシステムが柱で、大きなパートです。

--- フィルムのライカM7やライカMPもまだ生産していますか?

はい、レギュラー製品です。フィルムカメラには、新製品のライカM-Aもあります。

--- ライカQをXシリーズに組み込むことは考えませんでしたか?

派生モデルとして「ライカX○○」とすることは考えましたが、スペックがあまりに素晴らしいので、独自のものにしました。

ライカQ

--- 「Q」の文字には何をイメージすればよいですか?Quiet、Quickあたりがお似合いかと思いますが。

「Q」に特定の意味はありません。しかし、Quiet、Quick、Qualityと、いろいろな単語がありますね。

(本誌:鈴木誠)