特別企画

いまこそ伝えたい、ライカSLの魅力

お仕事から街歩きまで、惚れ惚れ使えるフルサイズミラーレス

ライカSLは2015年末に発売開始されたフルサイズミラーレスカメラだ。筆者は発売から2年近く経った2017年8月にやっと入手。そこからさらに2年近く経過したわけだが、いまだにライカSLに夢中であり、手に入れた時と変わらない高いモチベーションを保ち続けている。

ライカSLの何がそんなにイイのかについては本誌でも以前に記事化したけれど、2018年9月にパナソニック、シグマとの3社協業「Lマウントアライアンス」が発表されてライカLマウントに注目が集まりつつある今、もう一度ライカSLについて語ってみたい。

2015年10月〜ライカSL発表〜

ライカSLの発表会はドイツ・ウェッツラーにあるライカカメラ本社、通称ライツパークにて2015年10月20日の夜7時から行われた。筆者も出席したが、日本のカメラメーカーの製品発表会とはちょっと違う、エンターテイメント要素のある、とても楽しい発表会だったことをよく覚えている。

ライカSLのお披露目イベントはライツパークのホールで行われた。招待客は全世界から約800人。
2015年10月に行われたライカSLのお披露目イベント。プレゼンしているのは当時のライカカメラ社CEOのオリバー・カルトナーさん。

ライカSLを初めて見た時の感想はとにかく「デカい!」ということ。ボディはともかく、同時発表された「バリオ・エルマリートSL F2.8-4/24-90mm ASPH.」の大きさはかなり衝撃的だった。発表会の翌日にはライカSLとセットでウェッツラーの街中を撮り歩く機会があったのだが、同じライカでも軽快なM型とはまったく異なるヘビーさに「こりゃ完全に仕事用カメラだなぁ」と実感。

24-90mmの標準ズームを装着したライカSL。今は見慣れたが、このときはそのボリューム感に圧倒された。

もちろん、ライカSLはプロやハイアマ用に企画されたカメラなのでその通りなのだが、自分がライカを使いたいシチュエーションである「街中をブラブラ散歩しながらスナップを撮る」目的にはちょっとアンマッチなことを残念に感じたのだ。誤解の無いように付け加えるなら「大きなカメラやレンズは全部ダメ」と思っているわけではなく、あくまでも「自分がライカを使いたい目的に対しては」という話である。

2017年8月〜ライカSLを入手〜

自分には少し縁遠いカメラかなぁと思っていたライカSLだが、何だかんだあって2017年8月9日にライカSLボディとMマウントアダプターのセットを購入した。その経緯はここにも書いたが、それまで死蔵気味だったノクティルックス50mm F1とかズミルックス75mm F1.4といったM型用の大口径レンズを有効活用したいという意図があった。

ズミルックス75mm F1.4を装着したライカSL。M型ボディとの組み合わせでは使いこなしが難しい大口径中望遠レンズも、ライカSLならとっても使いやすい。

で、その考えは(自分としては)間違いではなくて、それまで出動機会が少なかったM型用の大口径レンズに加え、90mmとか135mmといったM型用望遠レンズの使用頻度も高くなった。90mmや135mmはM型ライカだとレンジファインダー機ならではの、どうしても使いこなしが難しい部分がある(それがまた面白かったりもするのだけど)のだが、ライカSLとの組み合わせではそういうハードルの高さはなく、もっと気軽に使うことが出来る。

しかもM型用の90mmや135mmは優れた描写を得られるレンズが多く、ライカSLで使うことでその美点を再発見することも多々あった。純正SLレンズとの組み合わせではドデカく感じていたライカSLのサイズ感も、Mレンズとの組み合わせなら「それほど大きくないじゃん」という実感があり、これもある意味発見だった。

小ぶりなMレンズとの組み合わせなら街歩き用のスナップにも十分に使えるサイズ感だ。個人的にはこのズミルックスM 50mm F1.4 ASPH.を装着して持ち出すことが多い。

そうやってライカSLを「自分のカメラ」として使い込んでみると、カメラとして実によく考えられている操作系ロジックや操作感触の良さにどんどん引き込まれていった。あくまでもM型ライカの補佐的な目的で入手したライカSLであったが、気がつくとM型ライカと同じくらい使用頻度が高いお気に入りカメラとなった。

これはズミルックスM 50mm F1.4 ASPH.とライカSLの組み合わせで撮ったもの。以前にも書いたけど、ライカSLの高解像度EVFは本当にマニュアルフォーカスがやりやすい。
こちらも同じくズミルックスM 50mm F1.4 ASPH.で撮影。今となってはM型と同じくらいの頻度でスナップ用途にライカSLも活用している。

いろいろな使い方に対応する多様性も魅力

例えばスタジオなどで、効率よく撮影を進めたいなら、縦位置グリップとSLレンズを装着すれば完璧。

ライカSLの魅力はいろいろあるが、そのひとつは多様性に富んだ使い方が可能なことだ。例えば、スタジオでお仕事の人物撮影をするなんて時は縦位置グリップを装着、レンズはもちろんSL用を使ってスピーディに効率よく撮影を進ませる。

もともとライカSLはこういう用途を想定して作られたカメラだと思う。ライカSLの発表会に併設されていたテスト撮影コーナー。

で、仕事が早く終わったからスタジオの近くをちょっと歩いてスナップしようかなと思ったら、縦位置グリップを外し、コンパクトなM型用レンズに交換して、という具合に、「フル装備のお仕事仕様」→「軽快なスナップ仕様」へ即座にコンバート出来てしまう。

SLレンズからMレンズに付け替えればお仕事モードからスナップモードへトランスフォームできる。もちろんRレンズを使うための母艦としてもいい。こういう多様性もライカSLの魅力のひとつだ。

もちろん、同じ様な使い方は他のミラーレス機でも可能だけど、M型用レンズを装着した時の使い勝手と画質に対するこだわりや面倒見の良さはライカSLならではだし、そもそもマウントアダプターを含めた全てがライカ純正で完結するのは大きな強みだ。

また、ライカSLにはRレンズアダプターも用意されているので、Rレンズを有効活用したい人にとってもライカSLは魅力的な選択肢となるはず。ライカと言うとどうしてもM型ボディとレンズへの関心が高く、Rシステムについてはあまり話題になることは少ないものの、アポ・マクロ・エルマリートを始めとして、ものすごく魅力的な描写を得られるRレンズの実力の高さは知る人ぞ知る事実。

一眼レフのライカRシリーズが途絶えた今、ライカSLはライカRレンズという資産を継承する正式かつ最良の手段だ。もちろん、ライカSLにはMレンズと同様、Rレンズを装着した時の使い勝手や画質への配慮も十分に盛り込まれている。

2015年の発表会では、ライカSLに使うことができるレンズの幅広さもプレゼンされた。すべてライカ純正に限っても合計で145本。当然ながら今はもっと多い。
シネレンズとアトモスを組み合わせたライカSL。単なる動画対応ではなく、ちゃんと仕事で使うことも考慮した仕様なのがポイントだ。

手にする度に実感できる高い官能性

スペック的にライカSLを見た場合、2015年の登場当時ならともかく、2019年の今となっては他に比べてものすごくハイスペックというわけではない。だが、昨今次々と登場した各社のフルサイズミラーレス機と比べても、個人的にはライカSLの魅力は依然として高いと思っている。

なぜならライカSLの魅力はスペックに現れる機能面だけではなく、使い勝手の良さや、官能性能の高さにあると思うからだ。この官能性能については以前に書いたEVFの良さやボディデザインの細かいディテールの素晴らしさ、手にした時の剛性感の高さから、細かいところではバッテリーをイジェクトする時の感触に至るまで、他のメーカーのカメラでは到底味わえない感覚に満ちていると思うのだ。

高解像度なEVFの見え味の良さはもちろんだが、このアイピースの造形はさすがライカ。思わず覗きたくなる、眼を誘うような形状だ。

仕事柄、いろいろなカメラメーカーの人と会うことが多いわけだが、その時に筆者がライカSLを持参している場合は、その良さを体験してもらうために誰彼かまわず触ってもらうようにしている。大抵は手にした瞬間「うわ、何コレ!」という感想になる。そう、あのソリッド感溢れるフィーリングは見ただけでは分からなくて、手にした時に初めて実感できる種類のものなのだ。とあるメーカーの人に見せた時は「ウチのボディは良く出来ていると思い込んでいる上司を説得したいから、このライカSLを貸してくれませんか?」なんてこともあった。

残念ながら、この「官能性の高さ」についてはどれだけ書いても伝わらないと思うので、ちょっとでも気になった人はライカストアや扱いのあるショップでぜひ実際に触れてみて欲しい。その場合、SL用レンズ付きだと全体の質量に惑わされてしまうので(筆者がそうだった)、可能であればM型レンズを装着した状態で触ると、このボディの良さを実感できると思う。

シンプルでクリーンなデザイン処理は長く使ってもまったく飽きない。むしろ、使えば使うほど、この無駄のなさに惚れ惚れとする。

制作協力:ライカカメラジャパン株式会社

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。