会期:2008年9月23日~9月28日
会場:ドイツ・ケルンメッセ
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ペンタックスイメージングシステム事業部 副事業部長兼開発統括部長の北沢利之氏
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ペンタックスは今回のフォトキナに、世界最小のAPS-Cサイズセンサー機「K-m」を持ち込んだ。圧倒的に小さく、しかし右手への馴染みが良いフォルムを持つK-mは、そのサイズとは裏腹にボディ内手ぶれ補正機能までを盛り込むことに成功している。
開発現場のリーダーシップを取ったイメージングシステム事業部 副事業部長兼開発統括部長の北沢利之氏に、K-m、そして今後の製品について話を伺ってみた。[インタビュー:本田雅一]
■ 目指したのは“普及機の中の中級機”
――今年はすでに発表済みのK20D、K200Dの2機種が発売されている中、3機種目としてK-mが投入されました。まずは製品の開発意図について話を聞かせてください。
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K-m
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「ペンタックスの……というよりも、一眼レフカメラ業界全体を見渡してペンタックスの良さを引き出せると確信し、開発を進めてきたモデルです。業界全体を見渡してアマチュア向け一眼レフカメラの1番上にある高級機は、徐々に35mmフルサイズセンサー搭載機が増加してきました。その下に中級機、さらにその下に普及機という構成です」
「このうち普及機が一眼レフカメラ市場全体の7割近くを占めているのが現実なんです。現行ラインナップを充実させる上で、K20Dの上位機種が欲しいというお客様もいるかもしれませんが、実際には高級機市場は台数ベースで5%ぐらいしかありません。今後、35mmフルサイズ機の伸びに伴って高級機市場のシェアが増えると思いますが、一方で趣味性の高いカメラを求めるユーザーがフルサイズへと移行すれば中級機市場のシェアが下がると思います」
「従って、普及機が全体の70%を占める状況は、しばらくの間、変わらないでしょう。普及機のシェアが全体の7割で安定しているのであれば、そこに松竹梅と複数機種を展開する必要があると思います」
「具体的にはK200Dは普及機の中の上位機種ということで、防塵・防滴設計とし+画質に関して最適な技術を提供しています。対してK-mは普及機の中の中級機を狙おうと考えました。世界的に見ると、もっともよく売れているのは、レンズキットで5万9,800円、ボディ単体で4万9,800円といった製品ですが、これらはメーカー処分的に旧機種を継続販売しているだけというケースが多く、メーカーのビジネスとしては難しい。やはり、メーカーとしてボリュームを取りに行くなら、普及機の中の中位クラスと考えてK-mの性格付けをしています」
――K-mの位置づけはよく分かりましたが、どのような狙いで各部の機能をまとめたのでしょう。
「以前は一眼レフユーザーというと40~60代の男性ばかりでした。ところが、日本市場を見るとここ3~4年ぐらいの時間をかけて20~30代のユーザーが増え、全体の20~30%を占めるようになってきました。さらにこの1~2年は明らかに女性比率が高まっています。そこでK-mの主なターゲットを女性とおよび若年層の2つに絞り込みました。女性比率は今のところ10%程度なのですが、これを20%、30%と少しづつ高めていきたいと思います」
――主に女性がターゲット+若い人たちにというコンセプトそのものは、決して新しいものではありませんよね。人口の半分は女性ですし、若年層のユーザー開拓も長期的に見ると業界全体の課題になってくるでしょう。問題はコンセプトをどのように製品に反映したか……だと思いますが、その点はいかがでしょうか?
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K-m
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「まず小型・軽量に徹底的にこだわっています。その次に、操作の易しさです。これらを満たした上で、一眼レフデジタルカメラらしい高画質と基本撮影性能を高めることを考えました」
「サイズに関しては、APS-Cクラスのセンサーを搭載する一眼レフカメラでは、世界最小を実現しています。最軽量かというと、ボディだけなら軽い製品がほかにありますが、キットレンズやバッテリーを含めたトータルの重量は、少なくともベスト3に入るぐらいの軽量機になります。ボディ内手ぶれ補正を内蔵しているため、レンズに小型軽量なものを使えるからです」
「操作性に関しては、基本ですがグリップを握りやすく作りました。その上で、片手ですべてを操作できるよう、ボタン配置を今までと変えています。液晶パネルの左に配置していたボタンは、すべて右に並べ、右手の親指で押せる場所に配置しました。さらにヘルプボタンを付け、操作がわからないときに解説を背面液晶に表示させることができます」
「さらにGUIを一新し、設定項目を1画面にまとめるようデザインしています。その分、機能ごとのタブに分けて、設定項目が隠れていて気付かないといったことがないようにしています。さらにシャッターボタンの半押しができないという人のために、AFボタンを押しやすい場所に配置しました」
――ヘルプボタンは撮影時の人差し指に近い、かなり“特等席”に近い場所が割り当てられていますね。
「一番の特等席には露出補正ボタンを置きましたが、その次を争う場所だとは思います。たとえば撮影時にこのボタンを押すと、選択している撮影モードがどんな目的で使われるものかなどの説明が表示されます。また、何かの機能を呼び出したり、メニューを開いている時に押せば、その項目の説明が出てきます。まだ完全とは言い切れないとは思いますが、様々な利用シーンにおいてユーザーの助けとなるよう、力を入れて開発しました」
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ヘルプ機能の例
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同左
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■ アルゴリズムを改善してAFの高速化を図る
――これまでのペンタックス機はAFに改善を求める声が強かったように思います。その点はいかがでしょうか?
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シャーシは新設計
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「基本的にAFセンサーはK200D、K20Dで採用されたものと同じです。しかしアルゴリズムを改善しているので高速化はされてます。他にもいろいろな点で改善を施していますが、特にサイズに関しては、“小さいとは聞いていたが、ここまでとは”と、予想を超えて小さくなっているという意見が多く、流通からの反応はとても良好です」
――デジタル化されて以降、ペンタックスがもっとも注目を浴びたのはK10Dのお披露目をした前回のフォトキナ(2006年)だったと思います。あの時は予定数を遙かに超える発注で苦労されていましたが、それ故に熱気も凄まじかった。当時と比べるとどうでしょう?
「あのときほどの熱はないかもしれませんが、むしろ今回の方がディーラーからの反応はいいですよ。一部のディーラーは、明らかにK10Dの時よりも素早く反応しています。K10Dは評判が評判を呼んで徐々に盛り上がっていったのですが、今回は製品を見た瞬間から喜んでもらえています」
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手ブレ補正ユニット。ボディ内臓補正方式ながら、小型化を実現した
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――K-mのどんなところにペンタックスなりのオリジナリティを盛り込もうと考えましたか?
「ペンタックスが市場から要求されているのは、やはり小型化だと考えています。K100D、K10Dを開発した時は、いずれも「いい出来だけど、ペンタックスにしては少し大きいよね」と言われました。ですから、次は出来る限りの範囲で小さくしようと思いました。しかし、小型化すると操作系が小さくなって使いにくくなってしまいます。そこで、小さくなった分、片手で使えるようにボタンを再配置した上で、グリップの握りやすさを追求するなどして、小型化による弊害に対処しました。対処療法的な手法ではなく、実際のユーザーの使い方を研究した上で改善するべきところを研究して対応させました」
――手ぶれ補正機構を内蔵させながらの小型化はどのように達成したのでしょう?
「回路は1枚の基板にまとめた方が集積度も上がり、ノイズの面でも有利です。しかし、1枚基板で設計すると、本体の幅や高さを削っていった時、基板の絶対的な面積が不足してしまいます。その部分が一番大変でした。ミラーボックスやペンタ部などメカニカルな部分を工夫しても限界がありますから、電気設計での工夫が主です。さらに、今回は手ぶれ補正機構部を新規設計として小型化を達成しています。最高4段分の補正効果は変えず、小型化するのは大変でした。我々のボディ内手ぶれ補正機能はムービングコイル方式で、マグネットとコイルの大きさと位置関係で動きの最適化が難しいのですが、うまく対処することができました」
■ 「K20D」と「K200D」の後継機を2009年夏前に投入
――ご自身の話でもフルサイズ機の話が出ましたが、当面はこの3機種で展開していくのでしょうか?
「DAレンズ対応機に関しては、基本的に3ラインナップで製品を更新していきます」
――ということは次の製品はK20D、K200D、それぞれの後継機種となりますね。これは2009年だと思いますが、いつ頃になるでしょう?
「2009年の夏前には両製品の後継機を発売します。日本ならボーナス前、海外ならクリスマス前に新商品を出して欲しいという声が強いので、発売時期のターゲットは最初から決まっています。その時期に向けて両後継機とも開発を進めていますから、どうしても発売日は近くなります」
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K20D
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K200D
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――ラインナップを増やす予定はないのでしょうか?
「その予定はありません。35mmフルサイズセンサーは、すでにライバルメーカーの多くが高級機に搭載済みですし、さらに今後は中級機の価格帯まで降りてくるでしょう。もちろん、可能性としては我々も常に35mmフルサイズセンサーの採用を検討はしていますが、具体的な開発は始めていません」
■ フルサイズより「645 Digitalを優先したい
――それよりは645システムの方がビジネスとしての可能性がある、ということでしょうか?
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PIE2007に参考出品した645 Digital
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「そうですね。社内の優先順位としても、フルサイズセンサー採用機の開発よりも、645デジタルの方が高いんです。前回のフォトキナや参考出展したPIE(フォトイメージングエキスポ)での反響で、ペンタックスのフィルムカメラユーザーから、645デジタルへの期待の声を多く聞きました。また、他社の35mmフルサイズ機ユーザーも、趣味性の高いカメラを突き詰めれば645へと来てくれる方もいるかもしれません。プロフェッショナルの分野でも、風景撮影などに使いたいという声をいただきました。こうした声にはきちんと応えていかねばなりません」
「645デジタルのシステムでキャプチャした絵を見ると、奥行き感などが35mmベースの一眼レフシステムと全く違うことが一目でわかります。既存の中判レンズ資産を活かせますし、ユーザーメリットもあると考えています」
――PIE2007の時にも鳥越氏が「645 Digitalは必ずやる」と話していましたが、実際に開発には着手しているのでしょうか?
「一時的に開発を中断したのは、社内の開発リソースの関係でしたが、ある程度、やらなければならない開発が一巡したので、取り組めるようになってきました。ペンタックスは中判といっても、スタジオ撮影用途よりもアマチュアカメラマンが風景撮影用に使っているケースが多いので、そうした方々の期待に応えたいですね」
――言い換えれば35mmベースのシステムではAPS-Cサイズセンサー搭載機にフォーカスするということですね。
「35mmフルサイズセンサー機を出すとなると、レンズラインナップから見直す必要がありますから、当面の間はAPS-Cサイズに注力することになります。それにペンタックスの手ぶれ補正はボディ内ですから、フルサイズセンサーでの動作を考えるとイメージサークルに関しても考え直さなければなりません。一部ではありますが、イメージサークルがギリギリのレンズもありますから。それに他社と同じことをやっても、後追いではビジネスとして難しくなるだけです」
――35mmフルサイズセンサー機が今後、市場でどのような位置を確保していくかにもよりますが、“35mmフルサイズはAPS-Cの上位フォーマット”といったイメージができあがってしまうと、APS-Cサイズ機の多くが価格的に下へと引っ張られてしまうでしょう。そうした懸念は持っていませんか?
「“フルサイズの下”というイメージは持たれてしまうでしょうね。それが原因でAPS-Cサイズ機の価格トレンドが下がっていく現象は、ある意味しかたがないでしょう。しかし、そうした中にあってもAPS-Cサイズ機には小型軽量という利点があります。それにAPS-Cサイズ機でも35mmフルサイズセンサー並の画質が実現できれば、それでもいいでしょう。我々も小型軽量で、なおかつ高画質じゃなければ生き残れないと考えて開発をしています」
■ 次期モデルでは35mmフルサイズ並の画質を目指す
――では来年の夏に発売する2機種は、APS-Cサイズセンサーで35mmフルサイズセンサー並の画質を目指しているということでしょうか?
「もちろん、そうです」
――高画質といっても様々な切り口がありますが、たとえばセンサー自身のS/N比などで言えば、何らかの技術革新が無ければフルサイズ同等にはならないでしょう。何かフルサイズ並の画質を実現する確信があるのでしょうか?
「センサーメーカーと一緒に開発している面もありますから、今は詳しくは言えません。また、同じセンサーを使っていたとしても、後段処理で大きく画質は変わりますよね」
――後処理というのは、センサーからの信号をA/D変換するまでの信号処理や品質の話でしょうか? それともデジタル領域でのNRの話でしょうか?
「その両方ですね。デジタルの信号処理でもノイズ対策を施せますが、それと同じぐらいにセンサーからA/Dコンバータまでの経路におけるノイズ対策が重要です。ノイズ処理のやり方で、画像の見え方はかなり違ってきます。我々の場合、風景撮影を特に意識していてグリーンの再現性と高域のレスポンスは気にして開発しています」
――センサーメーカーと共同開発というのは、K20Dにも採用されたサムスン電子製センサーの次世代版でしょうか?
「我々はその時点でのベストなセンサーを選ぶというスタンスです。たとえばK-mはK200Dと同じソニー製の1,000万画素CCDです。どのセンサーメーカーとは言えませんが、技術革新によってフルサイズ並になるという技術的な見通しはあります」
■ 課題は多いが動画機能搭載も前向きに検討
――一眼レフカメラへの動画撮影機能搭載が流行の兆しを見せていますが、これに関してペンタックスのスタンスをお聞かせください
「今までもコンパクトでは味わえなかったような動画、レンズの力を活かせる動画が撮りたいという意見はありました。自分たちも開発はしていますし、手ぶれ補正機能の次は動画が重要になると思っています。ただ、問題もあります。ひとつは音の問題。いろいろな音が一眼レフの動作時には出ますから、これの対策をしなければなりません。当然、絞りやAFの動きが滑らかに追従しなければならないですよね。これらの条件をクリアできれば、レンズの力を動画で表現できる新しい世界が開けると思います」
■ URL
フォトキナ2008
http://www.photokina-cologne.com/
ペンタックス
http://www.pentax.jp/
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・ 「K-m」が人気のペンタックス(2008/09/24)
( 本田雅一 )
2008/09/26 17:56
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