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α350
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PMA08、フォトイメージングエキスポ2008(PIE2008)では、各社から気合の入った新製品が発表された。秋にはPhotokinaも控える2008年だが、これを機に各社の戦略について本田雅一氏がインタビューした。シリーズでお届けする。
コニカミノルタとの提携後、一眼レフ事業の譲渡を受けて、α100で市場に参入したソニーも、中級機のα700をリリース。そしてエントリー機のα200、特徴的なライブビュー機能を持つα350(海外ではセンサー画素数の異なるα300も発売)と立て続けに製品をリリースし、さらに35mm判サイズのセンサーを搭載した上位機種の発売も近づくなど、一気にフルラインナップを揃えるまでに至った。
ソニー デジタルイメージング事業本部AMC事業部長の勝本徹氏に、デジタル一眼レフカメラ事業について話を伺った。
■ ワールドワイドで新規顧客の手応え
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ソニー デジタルイメージング事業本部AMC事業部 勝本徹事業部長
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──北米ではカメラ専門店チャネルへと、なかなか参入できない悩みがあると伺っていました。しかし、日本では“α”という名前が広く知られていることもあり、海外とは事情が異なるでしょう。日本でのソニー製一眼レフカメラの認知は、思ったように拡がっていますか?
世界的に見ると、一眼レフカメラはカメラ専門店で多く販売される製品です。国にもよりますが、大きなカメラチェーン店よりも、都市単位での有名店ときちんとおつきあいをしていかなければなりません。これには時間がかかりますが、しかし、どの国でも流通に製品を流すためのパイプは繋がるようになってきました。
野暮ったい言い方かもしれませんが、“地元のカメラ屋さんにも顔が通るようになってきた”ことで、販路の開拓はかなり拡がってきています。α200、α300、α350とラインナップが整ってきたことも要因の1つですが、きっかけはα700の発売でした。
ただし日本市場に限って言えば、数多く販売しているお店は大手量販店で、家電製品の流通とほとんど変わりません。中にはキタムラさんのように、カメラ専門の大手全国チェーンもありますが、そうした専門店流通に関しても特に問題はありません。
──α100の場合、発売直後の“初速”はものすごく速かった(よく売れた)のですが、その後はやや低空飛行で、“ソニーの一眼レフカメラ”が定着したと言うには、やや厳しい状況が続いたように思います。α700発売以降についてはどうでしょう?
昨年4月からの2007年度はα100の新鮮味が失われ、シェア的にはおとなしい時期が続いたのはおっしゃるとおりです。しかしα700は、狙い通りにαマウントレンズをお持ちの方々に積極的に購入していただくことができていると思います。
──αマウントカメラとしては、α-7 DIGITAL以来の中級機でしたから、対応レンズを持っているユーザーにとっては待ちかまえていたアップデートですよね。しかし、既存のαマウントレンズの所有者、コニカミノルタのカメラを使ってきたユーザーに対して中級機をきちんと提供するという方策以外にも、新規顧客を多く獲得していかなければ、αマウント機は徐々に縮小していくことになりませんか?
新規顧客の獲得という意味では、α200、α300、α350が投入され、ワールドワイドで急速に立ち上がりつつあります。α300とα350は、それぞれ発売している地域が異なっていますが、おのおのの機種がきちんと売れているという手応えは感じています。
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α700
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──以前から、ソニーが一眼レフカメラを作ったら、どのような製品になるのだろうか? と話題になっていましたが、α100もα700もボディ内手ブレ補正機能を除けば、非常に保守的な製品という印象を受けました。そうした意味では、α350を発売したことで、やっとソニー独自の部分が製品に現れてきたように見えます。
実際にソニー内部の技術などを活用できた製品は、α700以降です。新BIONZや最新のCMOSセンサー、BRAVIAと連携しての写真閲覧などです。しかしライブビューの実装という意味では、α300、α350からになりますね。急に何かが変化したというよりも、少しづつできるところから、ソニー内にある技術やノウハウを盛り込んでいます。
──海外モデルも含めるとエントリークラスに3つの機種があることになります。
エントリー機で一眼レフカメラに入ってきたお客様がステップアップするためのボディとして、α700を発売しました。これはαでデジタル一眼レフカメラの世界に入ってきたお客様が、さらに上級モデルを使いたいという時に対応できる奥行きを与えるための製品ですが、一方でエントリークラスの間口を拡げることも必要だと考えました。
既存のαマウントレンズユーザーに伝統的なスタイルの一眼レフカメラを求めている方が多い中で、どのような製品で間口を拡げるかが鍵です。一眼レフカメラらしい製品としてα200を置き、コンパクト機ユーザーにも使いやすいライブビュー搭載カメラとしてα300、α350があります。発売はα700、α200よりも遅くなってしまいましたが、それも不完全な使い勝手のままでライブビュー機能を搭載したくなかったからです。自然に光学ファインダーを使っている場合と同じ機能・俊敏さをライブビューでも持たせたかったんです。
──日本で1,000万画素のα300を発売しない理由は何でしょうか?
要望があれば発売しても良いのですが、過去の例ではボディの機能が同じならば、必ず高画素のボディが売れるという傾向が、日本ではとても強いんです。一方、海外では価格に対してセンシティブな市場も多いので、1,000万画素センサーを搭載したα300が必要でした。どちらを販売するか、あるいは両機種ともラインナップするかは、各地域ごと現地法人が判断しています。
──コスト面でα300はα200よりも高価になるでしょうが、しかしソニーならではの特徴を出すという意味では、ライブビュー搭載機にラインナップを絞ってα200ではなくα300に1本化しても良かったのではありませんか?
α200とα300を分けたのは、今回のライブビュー構造ではある程度、ファインダー倍率に関して妥協せざるを得ない部分があったからです。α300、α350は光学ファインダー時と同等の機能と俊敏性をライブビュー時にも備えているため、基本的にライブビューで撮影することに重きを置いています。これに対してα200は光学ファインダーの倍率や見え味を重視したコンベンショナルな一眼レフカメラです。
■ 新機能は悩むくらいたくさん準備している
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α350
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──昨年の今頃、私はここまでライブビューが認知されるとは想像もしていませんでした。勝本さん自身は、ライブビューが差異化を行なううえで重要なポイントになると予想していましたか?
我々は、ライブビューは必要な機能の1つだろうと考えて開発していました。それ故に、中途半端な使い勝手は避けたかったんです。コンパクトデジタルカメラで、液晶モニターを用いて撮影するのが当たり前になっていて、デジタルカメラ以外は使ったことのない世代が増えているのに、それらと同じような撮影方法ができないのでは、機能、性能、価格で上位に位置する一眼レフとしてダメなのではないかと考えていました。
──α350は光学ファインダーの倍率では不利ですが、一方でレスポンスの良いライブビュー時の操作感を得られた。ここまでライブビューに特化した製品にするのであれば、たとえばマニュアルフォーカスのアシストを行なうなど、もうすこし積極的にライブビューを活用しても良かったのでは?
α350に関してはマニュアルフォーカスでの利用は想定していませんが、今後の検討課題とは言えるかもしれません。確かにデジタルで映像を常に取り込みながら動作していますから、さまざまな機能を実装することは可能でしょう。しかし、使いこなしに楽しみがある一眼レフカメラなので、どこまで踏み込んでいくかは常に議論している部分です。
──今後、ライブビューを起点に新しい機能を追加するならば、どんな機能を組み込みたいですか?
基本的にコンパクト機でやっている機能は、なんでも可能ですよね。“親切さ”と“余計なお世話”の境目の判断はとても難しいものです。お客様がどんな使い方を求めているのか。ここまでの4台と、今年発売予定のフラッグシップ機は見た目も機能も、伝統的な一眼レフカメラのスタイルでやってきてましたから、そろそろ伝統にとらわれない、思い切り伝統に挑戦する機種ができないかとは考えています。
これまでも新しいことには挑戦したいとは思っていましたが、まだ基礎がしっかりしていない段階では定着しません。基礎を作り上げた後には、挑戦ということも考えられるようになります。
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αが搭載するイメージプロセッサ「BIONZ」
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──伝統を打破する機種というのは、すでに開発に着手しているのでしょうか?
どんなことができるか考えてみよう、という話はしています。αに搭載するイメージプロセッサも、次はどんな能力、その次はどこまでの能力と、徐々にパワーアップしていくロードマップがあるので、将来のプロセッサでどんな機能が組み込めるだろうか? と悩んでいます。
言い換えれば、悩むぐらいに材料はあって、そこから実際にその時点でのプロセッサで対応できる機能を組み込んでいきます。準備している項目はたくさんありますよ。
──ボディのデザイン面に目を向けると、小型化の面で他社に及んでいない部分もあります。エントリークラスには、徹底的に小型・軽量を目指した機種も必要でしょう。
小型・軽量という開発軸は、たしかに必要だとは思います。自分たちもぜひ挑戦してみたい。ここまではオーソドックスにグリップをしっかり握りやすくとか、スタミナのためにバッテリを小さくしないようにしようとか、基本的な部分を外さないように商品企画してきました。販売プロモーションと連携しながら、ある部分を諦めて別の部分を伸ばすという商品もやろうと思えばできるでしょう。しかし、あえてそうしたことは行なわずに来たんです。最初の2年はきちんと基本を押さえていこうと。しかし、ラインナップが一通り揃ったことで、次の段階で小型化という切り口もあるかもしれませんね。
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α350のイメージセンサー
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──α事業を始めるにあたって、強みのひとつにソニーグループ内にイメージセンサー最大手の事業部が存在することを挙げていましたが、その強みを生かして、大型センサーを搭載する高性能コンパクト機を開発することに興味はありませんか?
実はこれまで、サイバーショットの事業部とはあまりコミュニケーションしていませんでした。サイバーショットはαとは別に、すでに確立された世界でしたので。しかし、我々もラインナップが揃い、値段もこなれたところで、どこまでがαの事業で、どこまでがサイバーショットなのか、その境目を互いに意識するようになってきています。たとえば、操作性や機能、宣伝などの面で一緒にやるところが増えてきています。αの事業部は基本的にαマウントレンズを使うカメラを扱う部署なのですが、サイバーショットの事業部と一緒に新しい製品を生み出していくことも、今後は可能かもしれません。
■ フルサイズ機はアマチュアも無理せず購入できる価格に
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35mm判フルサイズセンサーを搭載したαフラッグシップモデル
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──35mm判フルサイズセンサー搭載機も、いよいよ開発の最終段階と見受けられますが、外観デザインや画素数は最終のものと考えていいのでしょうか?
センサーの画素数は、すでにセンサーを開発している事業部が製品を発表してますので、2,400万画素で変わりません。外観に関しても、PMAやPIEでお見せしたものは最終にかなり近いものです。
──フルサイズセンサー搭載機でもライブビュー機能を搭載するのでしょうか? それとも光学ファインダー重視でライブビューは搭載しないのでしょうか?
ライブビューに関しては、さてどうなるのか。今のところお話はできません。
──価格帯に関してはかりかねている人も多いようですが、どのぐらいの価格帯になるのでしょう?
現在、フルサイズセンサー機には2つの価格帯がありますが、では上の方か下の方かというと、プロ以外のユーザーにも使って欲しいので、それなりの価格、つまりアマチュアの方にも無理せず購入できる価格にしたいと考えています。現在発売している製品よりは高価になりますし、格安で販売することはありませんが、“高い”という価格にはしたくありません。
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フラッグシップ機のスケルトンモデル。縦位置グリップは着脱式
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──特に開発において気を遣っているところはありますか?
できるかぎり軽量な製品にしようとは考えています。縦位置グリップが着脱式ですので、普通の一眼レフカメラと同じような感覚で使えるものになるでしょう。銀塩時代のプロ機、最上位機は縦位置グリップ部がなくコンパクトで、必要に応じてオプションを取り付けていました。その頃のプロ機と同じぐらいの感覚で使えるでしょう。
具体的な数字は言えませんが、α700とどちらを使うか迷うぐらいのサイズや重さになります。写真で見るとペンタ部が大きいため存在感がありますが、実はそれほどボディ部分のサイズは大きくないんです。
──以前と変わらず、堅実路線に感じますが、確かに旧コニカミノルタユーザーに対しては実直な印象を与えるでしょう。しかし、新規に他社マウントのシステムを使っているユーザーや、新規の一眼ユーザーを獲得するには、もっとソニーならではの“得意技”が必要だとは思いませんか?
仕掛けは始めていて、1モデルしかラインナップを持っていない時とは異なることができるようになってきました。たとえばTVCMもそうですし、Webサイトでの積極的なプロモーションや新聞への広告投資も行なっています。街頭イベントをやったり、大型ポスターなどで、カジュアルなユーザー層へとαをアピールするプログラムを世界中で展開しています。
(他社マウントのユーザーを奪うというのではなく)これから一眼レフカメラを使おうとしている方々に、手軽に始められるよう、家庭を意識した明るいトーンの宣伝を徹底的に行なっています。特にα350のライブビュー機能に関しては、これから一眼レフカメラを買おうという方々に大変好評をいただいています。
■ URL
ソニー
http://www.sony.co.jp/
ソニーα350関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/02/05/7906.html
ソニーα200関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/02/05/7905.html
■ 関連記事
・ 【インタビュー】一眼レフと“ソニーらしさ”(2007/09/22)
・ 【PMA07】αの歴史において最高峰となるカメラを作る(2007/03/10)
( 本田 雅一 )
2008/04/28 19:27
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