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【PMA07】Mark IIIは初代EOS-1以来の大きな改革

~キヤノン取締役 岩下知徳氏に聞く

キヤノン取締役イメージコミュニケーション事業本部 事業本部長の岩下知徳氏
(2006年のPhotokinaで撮影)
会場:米国ラスベガスコンベンションセンター
会期:2007年3月8~11日(現地時間)


 キヤノンの一眼レフカメラをみていると、さまざまな意味で“理詰め”で開発していることがよく伝わってくる。無駄がなく、そのときにできることをしっかりとやり、決して冒険をしない。奇をてらうのではなく、正面からセオリー通りに攻め、自分のスタイルを崩さない。

 新製品の開発サイクルやラインナップの構築手法に関しても同じことが言える。キヤノンはすべての製品を、1年半というサイクルで更新してきた。今後どうなるかはわからないが、少なくともこれまでは、ライバルの動向で製品リリースを早めたり、遅らせたりといったことをしない。

 先日発表されたEOS-1D Mark IIIに関しても同じ。EOS-1D Mark II Nが発売されたのが1年半前。予定通りの新機種投入である。しかしながら、EOS-1D Mark IIIには、単なる新製品として以上の意味があるという。

 かつてEOS-1の開発にも携わったキヤノン取締役イメージコミュニケーション事業本部 事業本部長の岩下知徳氏に、EOS-1D Mark IIIの話題を中心に話を聞いた。


EOS-1D Mark IIIで描く世界は、従来のEOSとは全く異なる

EOS-1D Mark III
──今回のPMA直前に、プロフェッショナル向けのEOS-1D Mark IIIが発表されました。さまざまな性能アップ、機能アップ、バッテリシステムの変更や軽量化などが行なわれています。1年半サイクルで新技術を投入してアップデートという流れですが、今回のアップデートは前回のマイナーチェンジよりも、ずっと大きなもののようです。

 「1年半サイクルのモデルチェンジという話が出ました。確かにそのように定期的に新技術をお客様に届けるように努力していますが、しかし、今回のMark IIIは普段の製品アップデートよりも大きな意味を持っています」。

 「これまでのEOSとは全く別の世界を、これまでキヤノンで開発してきたさまざまな要素技術を新たに投入し、アーキテクチャを一新しました。部分的に互換性を切って、大きく進化させたのがMark IIIです。顔だけを見ると同じように見えますが、操作性やバッテリなど、あらゆるところを変えています」。

──プロ機の場合、スペックや耐久性など単体製品の質だけでなく、システムの継続性や整合性なども重要ですよね。しかし、しかるべきタイミングでは、真っ白い大きな模造紙の上に新しいシステム図面を完全に引き直し、内部の構造や周辺のアクセサリまで含めて、キレイに整合性の取れたものにしなければならないでしょう。今回は、1D発売以来の大改革ということですね。

 「その通り、EOSというシステムを、一番根本的な部分から構築し直し、新しい設計図面として起こすことに挑戦したのがMark IIIです。見直しは1989年のEOS-1から採用していた、ボタンを押しながらダイヤルを回す操作性も含めて変更していますから、そうした意味では初代EOS-1以来の大きな変更と言えるでしょう」。


──プロ機に求められる過去の製品との継続性を考えると、たとえばバッテリシステムの変更などは難しい決断だったのでは?

 「もちろん、我々は(顧客の投資を守る意味で)継続性を軽んじてはなりません。しかし、さまざまな種類の要素技術が発展し、それを活かすことで大きなジャンプアップができるタイミングには、アーキテクチャの一新もまた求められます。Mark IIIに関しては、EOS-1Dで培ってきた進化の流れに加えて、製品とは全く別に開発を続けてきた要素技術の両方が同時期に成熟してきたことで、その2つ(EOS-1Dシリーズの正常進化と、要素技術の進歩)を同時に盛り込みました。そして、この大きなステップアップのタイミングで、操作性までを含めたシステム全体の見直しをかけたのです」。

──EOS-1Dシリーズには、スタジオ向けのEOS-1Dsシリーズがありますが、こうしたメインストリームの製品から枝分かれするモデルも、新しいアーキテクチャに統一されるのでしょうか?

 「製品計画についてはお話できませんが、プロ用の機材は、当然、新しいアーキテクチャをベースに開発しています」。

──リチウムイオンバッテリへの対応や省電力化など、電源周りの変更を考えれば、必ずしも従来のEOS-1Dシリーズのフォームファクタにこだわる必要はないと思います。設計の自由度は大幅に上がっているでしょう。従来の2機種以外に、別のバリエーションを持つことはありませんか?

 「おっしゃるように、設計自由度は大きく向上していますから、増やそうと思えばバリエーションを増やすことは可能です。しかし、それでは開発リソースが分散しますから、1台ですべてをカバーできるのが理想です。残念ながら、スタジオ向けに関してはEOS-1Dシリーズだけではカバーできず別モデルとしていますが、モデル数を増やすのは理想ではありません」。


進化速度が速い時期には、1機種に全力投球する

EOS Kiss Digital X
──今回、キヤノンからの新製品はありませんが、昨年はエントリークラスの製品に幅と厚みが出てきたことで、ユーザーがさまざまな方向から一眼レフカメラの世界に入ってこれる環境が整ってきたように思います。ニコンはエントリークラスに3つもの入り口を用意している。一方、キヤノンは1機種だけでそれを受け止めています。さすがに1機種のみで全員を満足させるのは難しい面もあるのではありませんか?

 「カメラは趣味のための製品ですから、ひとそれぞれ、いろいろなニーズがあり、1機種だけでは全員を満足させることができないというのは、その通りだと思います。市場のボリュームがある程度以上になれば、増やす必要はあるでしょう。増やす方向が(ユーザーピラミッドの中の)上下なのか、それとも左右なのかはいろいろな意見があるでしょうが、“増やす”ということに関して、異論はありません」。

 「しかし、それは今の時期ではありません。現時点では1機種に開発リソースを集中させ、徹底的にベストな製品を追求することの方が重要です」。

──もちろん、それは理想でしょう。しかし、メカ部品の共通化を進め、電装系の仕様を変えるなどで差別化をするなどして、その上で異なるテイストの製品に仕立てるというアプローチの方法はあるのでは?

 「まったくその通り。同じだけの開発パワーで、たくさん機種を作れるのであれば、ユーザーは好みの製品をチョイスできますからベストです。しかし現実には開発リソースの分散で、成果の出方が弱まるでしょう。デジタル部の進化速度が遅くなれば、そうした事も可能かも知れませんが、現在の技術進歩の速度をきちんとフォローアップした上で、さらにベストな製品を開発するというところまでは、まだ市場サイズは小さいと思います。進化速度が速い時期には、息の長い製品を作るために1機種に全力投球し、可能な限りベストな製品を提供する方がいいと考えています。今のKiss Digital Xのスペックを見てください。あの価格帯にあって、現在でもスペックは最先端です」。

 「これは以前にもお話ししましたが、一眼レフカメラというのは、重くて、大きくて、値段も高い。消費者にとっては三重苦の製品です。では、なぜそこまでして三重苦の製品をお客様は購入してくれるのか。それは一眼レフカメラならではの性能、機能、画質を求めているからに他なりません。ならば、優先すべきは性能であって、画素数などのスペックを落として別のバリエーションを作る意味があるでしょうか」。


──ところで、EOSシリーズの中では、ハイアマチュア向けのEOS 30Dが、20Dと比べて大きなアップデートがなかった事を考えると、そろそろモデルチェンジを迎えても良さそうです。

 「30Dはまだ発売して1年しか経過していません。実はハイアマチュア向け製品というのは、商品を企画するうえで一番難しいんです。一番上は、とにかく自分たちができる限りの技術を詰め込んで、最高の製品を目指せばいい。一番下は徹底的にコストをいじめ抜くことで価格を下げれば魅力的な製品になります。しかしその間の製品は、どのあたりの価格帯で、どのような機能を盛り込めばいいのか。その取捨選択が難しい。どのような製品が求められているのかを市場から勉強しながら、真剣に検討しています。たとえばハイアマチュアクラスでも、5Dならば銀塩カメラに近いユーザーニーズがありますし、30Dにはそれとは別の要望がある」。

 「デジタルカメラの技術進化はまだまだ止まっていません。技術が伸びるということは、トップエンドの技術を、さらに下位の製品にも下ろしていける事を意味しています。Mark IIIで開発された技術は、徐々にその下の製品へと反映され、EOSシリーズの進化を支えていくことになるでしょう」。



URL
  PMA07
  http://www.pmai.org/index.cfm/ci_id/27922/la_id/1.htm

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( 本田 雅一 )
2007/03/11 01:37
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