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【インタビュー@Photokina 2006】
「多様化するにはデジタル一眼レフ市場はまだまだ小さい」

~キヤノンイメージコミュニケーション事業本部長 岩下知徳取締役に聞く

キヤノン イメージコミュニケーション事業本部長の岩下知徳取締役
 前回のPhotokinaではEOS 20Dをメインに展示したキヤノン。今年はEOS Kiss Digital X(EOS 400D)が新製品として主な展示製品になっているが、自社開発エンジンによる昇華型プリンタなどプリント用機材のバリエーションが増え、画像の入り口から出口までをサポートするデジタルイメージングの総合ソリューション企業としてのアピールを強めているようだ。

 いつものようにキヤノン取締役イメージコミュニケーション事業本部長の岩下知徳氏に、キヤノンのカメラ事業について話を聞いた。


-- 2年前にも岩下さんに話を伺いましたが、前回のPhotokinaと今回のPhotokina。キヤノンの展示はどう変化しましたか?

 「会場が新しくなるとともにレイアウトが変化し、我々のブースも1.5倍に増えています。銀塩時代はカメラというハードウェアだけを提供する会社でしたが、デジタルの時代となって入力から出力まで、トータルシステムとしての広がりを意図したブースに変化しました。ブースの広がりにより、そうした提案をゆとりをもって行なえるようになりました。イメージコミュニケーション事業本部だけで17もの新機種を持ち込みましたが、どれが新製品なのだろう? と迷うぐらい。言い換えると、それだけ幅広い提案型のブースにできたと思います」。

-- 他社の新製品動向を見ると、たとえばレンズ交換式カメラにも、様々なバリエーション、特徴的な製品が生まれてきています。すべてのメーカーが同じ方向に向いていた前回のPhotokinaよりも多様性があるように感じました。そのあたりはいかがでしょう?

 「デジタル一眼レフの市場全体が大きくなっているため、多様化しているのでしょう。しかし各社の目指す方向に変化があるかといえば、そのようなことはないと思います。どのメーカーも、最高の一眼レフカメラを作ろうという方向は同じです」。

 「一眼レフカメラという商品は、サイズが大きく、重く、そして高額なカメラです。そうした評価軸で見ると、コンパクトカメラには全くかないません。それでも一眼レフカメラが欲しいと言ってもらうためには、大きさや重さや値段以外の部分に価値観を見いだす製品でなければなりません」。

-- では一眼レフカメラの、大きい、重い、高いを我慢してでも使おうというモチベーションを生むために不可欠な要素とは何でしょう?

 「それは高画質だと思います。高画質の中には画素数もありますが、感度特性や濃度変化の特性など多様な切り口があります。さらに言えば、スチルカメラはムービーカメラとは異なり、動いている景色の中にある一瞬を切り取る道具です。いかにして、欲しい瞬間を切り取るのか。レリーズラグなどの速度やファインダーなどの部分も、良い画質、求める画像を得るために必要不可欠です。それらをひっくるめて、すべてが一眼レフカメラという商品の強みですよ。それはキヤノンだけではなく、どのメーカーも。そして過去も現在も変わらない価値です」。


EOS Kiss Digital X
 「たとえばEOS Kiss Digital Xは、従来機よりも高精度のAFセンサーを搭載しました。AF性能を向上させなければ、画素を増やしてもその解像度を生かせません。一眼レフカメラである以上、入門機であっても高画質という視点は外してはならないと考えています」。

-- 確かに画質、特に高ISO時の画質やカメラ内生成のJPEG画質など、良いと言える部分は少なくありません。しかし、一方でカメラボディの機能や細かなスペックは保守的すぎるようにも思えます。消費者向け製品には、もう少し遊びやバイヤーの心をくすぐるような要素があってもいいのではないでしょうか?

 「我々から見ると、デジタル一眼レフ市場はまだまだ小さく、製品が多様化する次期ではないように思います。先日、我々の短期決算で経済アナリスト向けにはデジタル一眼レフ年間460万台市場のうち、240万台を確保するという計画を発表しています。年間460万台というのは、銀塩一眼レフカメラが一番売れていた頃から比べると、まだ半分でしかありません」。

 「コンパクトデジタルカメラは多様な製品が生まれ、共存していますが、それは8,000万~9,000万台ぐらいと言われる大きな市場があるからです。8,000万台のうち10%としても、800万台市場でしかなく、まだまだ市場が小さすぎるという認識です。多様な製品というのは、市場が大きくなりユーザーの幅が拡がってきた時にしか成功しません。とはいえ、全く何も取り組まないというわけではなく、昨年、天体写真向けのEOS 20Daを出したのも、その成果の一つです」。

-- おっしゃることはわかるのですが、50%前後のシェアを持つマーケットリーダーのキヤノンには、ユーザーの幅を広げる市場開拓の役割を期待する関係者も少なくないのではありませんか?

 「そうした気持ちがないわけではありません。しかし、今の2倍ぐらいの市場で多様性を求めても、市場を細分化しすぎて成長を妨げる可能性もあります。銀塩一眼レフカメラ全盛期よりも台数規模が大きくなれば可能です」。


キヤノンはキヤノンが持つ特徴を磨く

-- では将来に向けて、EOSシリーズの多様性を増すアイディアは、すでにいくつかもってらっしゃるのでしょうか?

 「それは、具体的には言えないのはご存知でしょう。とはいえ、いろいろな方向は模索しています。上位機種に関しては特に、様々なアイディアと技術を暖めています。入力から出力までを、一本筋の通ったシステムとして提供したいと考えています。また下位モデルに関しては、コンパクトデジタルカメラとの親和性を高める方向での検討を行っています」。

-- キヤノンの一眼レフカメラ事業は、レンズ事業も含めて実に好調に推移しています。ここまでシェアが高ければ、もう少し風呂敷を広げて事業を拡大しようとしてもいいと思うのですが、キヤノンの持つシェアからするとコンパクトに事業を進めているイメージがあります。

 「いえ、そんなことはありません。先ほども申しましたが、重い、大きい、高いの三重苦を持つ一眼レフカメラで、きちんとした価格で販売し、そこから利益を得て次の投資に回す。これを続けるには、画質の向上に取り組み続けなければなりません。高画質化のための技術開発は、あまり目に見えてスペックに現れにくいのですが、そこには資金も時間も必要です。コンパクトなんてことはありませんよ」。

 「地味かもしれませんが、EOS-1Ds Mark IIで高画質化を果たしたことで、それまで中判以上のカメラしか使われていなかったスタジオ向けにも、弊社のデジタルカメラが使われ始めています。高画質化、35mmフルサイズ化といった取り組みが新しい市場を生んでいます。今後も高画質に対する投資は惜しみません」。

-- 研究開発という意味ではきちんと投資を行なってらっしゃいます。そうではなく、やや下品な言い方かもしれませんが、ここまで高いシェアときちんとした利益率の確保が可能なのであれば、他社の得意分野にも踏み込んで、全方位的にあらゆるユーザーを取り込むことができるのでは?

 「そんなにうまく行くものではありません。確かに、工業製品の場合、良い製品を作れば売れるものです。しかし、一眼レフカメラには製品の善し悪しという評価軸以外にもうひとつ、好きか嫌いかという評価軸があります」。

-- つまり、キヤノンが嫌いな人がいるということでしょうか?

 「その通りで、キヤノンが嫌いな人はいます。それは各社の製品に“ファン”がいるからです。ですから、新製品で他社の得意分野に向けてどんなに良い製品を出しても、それが正しく評価されるわけではありません。我々は、今現在キヤノンが好きな人に向けて、もっとキヤノンが好きになってもらう製品を開発することに集中した方がいい。キヤノンはキヤノンが持つ特徴を磨くことで、それまでキヤノンに興味を持っていなかった人に、すこしづつでもその良さが浸透すれば良いと思います」。


Kiss以外のエントリーモデルの可能性も

EF 70-200mm F4L IS
-- 一眼レフカメラへのボディ内手ブレ補正機能搭載に挑戦するベンダーが増えています。現時点で商品化しているのは2社ですが、今後は増えていく可能性もあります。

 「レンズ内で補正するのがベストというのがキヤノンのスタンスです。今回発表した新製品、EF 70-200mm F4L ISは4段相当の手ブレ補正が可能ですが、現時点で4段分の効果をボディ内手ブレ補正で実現するのは厳しいでしょう。レンズはそれぞれの特性が異なるため、個別に最適な制御を組み合わせた方が合理的です」。

-- ボディ内とレンズ内の手ブレ補正は、必ずしも排他ではないでしょう。低価格レンズや過去に販売されたレンズなどでも手ブレ補正が効くメリットがボディ内防振にはありますよね。

 「最終的に手ブレが少なくなればいいわけで、実はセンサーの高感度特性の問題も大きく関係してきます。かつてAFの駆動方法で、どちらの手法が良いかという議論がありましたが、基本的には手ブレという現象、原因が、レンズとボディのどちらに強く依存するかによって決めるべきでしょう。我々は原理原則に則って、理想的な補正をストレートに機能として実装しています」。

-- 次のPhotokinaのころ、キヤノンの一眼レフカメラはどうなっているでしょう?

 「アナリスト向けの説明会で我々は、2008年には300万台のデジタルカメラを出荷すると話しました。しかしこれは2006年に220万台という数字を元にした予測です。これが240万台に上方修正されましたから、2008年の300万という数字も上の方に修正することになるでしょう。市場全体では600万台に達しているはずです。このぐらいの市場規模になれば、次に何をしようか。どんなアイデアを具現化しようかと、あれこれ思考を巡らせている頃でしょうね」。

 「特にエントリークラスのユーザーを、Kissシリーズの1台だけで満足させることができなくなる可能性があります。そこでKissシリーズとは異なる魅力、価値を持つ製品の開発を検討し始めているかもしれません」。



URL
  Photokina 2006
  http://www.koelnmesse.jp/photokina/

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( 本田 雅一 )
2006/09/30 01:46
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