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【インタビュー】15年間のノウハウが結実した「タムロン AF 18-250mm」(A18)

〜開発陣に聞く

AF 18-250mm F3.5-6.3 Di II LD Aspherical(IF)Macro(Model A18)
 軽量コンパクトな高倍率ズームレンズとして人気の高いタムロンのAF 18-200mm F3.5-6.3 XR Di II LD Aspherical (IF) Macro (A14)。その上位機種であるAF 18-250mm F3.5-6.3 Di II LD Aspherical (IF) Macro (A18)の企画・開発担当者に、開発の背景について話を聞いてみた。

 過去を遡れば、やはり大ヒット作となったAF 28-300mm F3.5-6.3 XR(A06)から続く一連の系譜を引き継ぐ製品と見られる製品だが、実はそこには大きな進歩・進化の跡があった。

 参加していただいたのは桜庭省吾氏(執行役員 光学開発本部 本部長)、渡辺祐子氏(光学開発本部 光学開発一部 部長)、佐藤浩司氏(映像事業本部 商品企画室 室長)、板垣昌次(映像事業本部 設計技術部 部長)、戸谷聰氏(映像事業本部 設計技術部 機構設計課 課長)の5名である。


軽く、小さく、リーズナブルに高倍率ズームを

前列左から渡辺氏、桜庭氏、板垣氏、後列左から戸谷氏、佐藤氏
── まずは今回の新製品、A18(AF 18-250mm)の商品企画にまつわる経緯を教えてください。

佐藤 企画は2005年末にスタートしました。A14(AF 18-200mm)の発売が2005年2月で、そのユーザーの声を集めた上で上位機種として立案したものです。

── スペック上だけの数値で言えば望遠側に50mm伸びただけ(実際には外形サイズや重量も微妙に異なる)ですが、望遠側に伸ばすというのは市場からの声ということでしょうか?

佐藤 広角に伸ばすのか、望遠に伸ばすのかといった議論は当然ありました。市場からの声として、実際に購入いただいたユーザーや、商品を扱っている販売店にも意見を聞いています。すると、広角を広げてほしいという声よりも、望遠を伸ばして欲しいという意見が数多くあったのです。

 商品の企画として議論を重ねたのは、単純にズーム倍率を上げるといっても、どこまで伸ばすべきなのか? という点です。A18(AF 18-250mm)の元祖とも言えるA06(AF 28-300mm)が多くのお客様に受け入れられた理由のひとつに、コンパクトさがあります。A06とA14(AF 18-200mm)がほぼ同サイズであったように、A18に関しても大きさを変えてはいけないという目標を開発側に提示しました。

 タムロンのレンズ開発の思想として、軽く、小さく、リーズナブルという点があります。高倍率ズームレンズは、その1本でどこでも持ち運び、撮影を楽しんでもらうことが大前提としてあり、250mmという望遠端の焦点距離は、サイズを変更せずに達成できるギリギリの倍率でした。


AF 18-200mmF3.5-6.3 XR Di II LD Aspherical (IF) Macro(Model A14)
── 企画・開発時に目標としたのはサイズだけですか? A06(AF 28-300mm)、A14(AF 18-200m)は、高倍率で、なおかつ手頃な価格のレンズでありながら、比較的ズーム時の繰り出し動作がスムースで、操作性が犠牲になっていないという点も高い評価を得た原因だったように記憶しています。

板垣 もちろん、ズーミングした時のスムースな動作については滑らかになるように配慮しています。ズーム倍率が大きいということは、レンズの移動量が増えるということですから、大きな設計変更を伴います。トルクが一定になるよう、お客様が使う立場に立って配慮した設計にしています。実際に店頭などで確認していただければ、従来とほとんど変わらない操作感でご利用いただけることがわかると思います。

── 実際にファインダーを覗いてみると、50mmという数字以上に望遠端が伸びた印象がありました。しかし数値だけで言えば200mmから250mmへの変化はやや微妙な印象も受けます。300mmという案はありませんでしたか?

桜庭 当然、300mmにしたいという声もあり、仕様について検討したこともあります。しかし300mmになると、鏡筒の長さが足りなくなるため、サイズを大きくせざるを得ません。スペックとサイズのバランスがもっとも良かったのが18-250mmというスペックでした。250mmといえばAPS-Cサイズのカメラでは388mm相当(1.55倍換算)の画角になりますが、これ以上の望遠になっても、手ブレ補正がついていないカメラでは手ブレが目立ってしまうでしょう。

── A06が発売された頃に比べると、サードパーティ製レンズに対して安さだけでなく、画質も求めるようになったと思います。こうした市場環境の変化に対して、商品の企画自体が変化しているところはありますか?

佐藤 デジタルカメラの時代になって、写真好きが高じて一眼レフカメラの世界に入ってきたユーザーとは別に、パソコンの世界から写真の世界へと入って来るユーザーが増えたとは感じています。そうしたお客様は、サードパーティレンズ=安物というイメージを持っていません。中には携帯電話のカメラから、いきなりデジタル一眼レフという方もいますので、より高い品質の製品をブランドに拘らずに選んでいただけるようになったと実感しています。


A14(AF 18-200mm)とほぼ同サイズ、でも設計はまったく別

── 具体的にA14に寄せられていた意見を教えていただけますか?

佐藤 当社は1992年に初代28-200mmを発売してから、高倍率ズーム15周年になります。28-200mmといったスペックのズームレンズは1990年頃にはすでに市場に存在していましたが、レンズが大きく、重く、画質が今ひとつよくないと言われていました。そんな時代に、高画質とは言わないまでも、実用に耐えうる画質、軽く小さい携帯性、そしてリーズナブルな価格が受け入れられて販売を伸ばし、タムロンが高倍率という新しいジャンルを市場に作り出したといえます。15年という時間軸の中で評価していただいたことを、新製品でもやり遂げることが最大の目標でした。

──倍率を上げる以外にも、マクロ機能を充実させることで使えるフィールドを広げるというアプローチもあったのではありませんか?

佐藤 マクロ撮影機能はニーズとしてもちろんあります。マクロに特化した機能を入れることができればいいのですが、サイズとコストという制約の中で高性能と高スペックを実現するために、今回は現在のマクロ倍率1:3.5というスペックに落ち着いています。


A18(左)とA14
── 結果的にはA06(AF 28-300mm)、A14(AF 18-200mm)と見た目にもそっくりなサイズのまま、18-250mmというズーム倍率を実現しています。A14の時は18mmからの高倍率ズーム設計でかなり苦労したと聞きましたが、A18(AF 18-250mm)はその発展系と考えていいのでしょうか?

桜庭 その通り、当初はA14を踏襲しながら開発を行なっていました。しかし、実際の製品は全く異なる光学設計になっています。ポイントは2つあります。サイズをA14と同じにすること。そして、望遠端を250mmに伸ばした上で、さらに光学性能を維持、あるいは高めることです。この2つを満足させるため、今回は軽量コンパクトなズームレンズの象徴であったXRレンズ(高屈折レンズ)を使わないことにしました。モデル名にもXRの名前は入れていません。

── XRレンズを使わないことで、光学設計面でどのような変化があるのでしょう?

桜庭 XRはA06を開発する際に採用したガラスで、これを第1群に採用することで、大きく重い高倍率ズームレンズを小型軽量にすることができました。A14も、そのノウハウを生かして開発したレンズです。しかし、XRレンズは諸刃の剣でもあり、特に諸収差を補正するのが難しい。XRレンズはレンズ自身のパワーが強いため、それに伴って収差も大きくなりやすいからです。

── つまりA18のスペックでXRレンズを使うと小型化は達成できるけれど、画質は落とさざるを得ないということですね。ではXRレンズを使わなければどうなるのでしょう?

桜庭 従来はXRレンズを使うことの弊害を、さまざまな種類のガラスや非球面レンズを組み合わせ、収差を打ち消すノウハウを研鑽してきました。しかし、そのノウハウや手法も今回のレンズではうまくいかなかったということです。そこでタムロンが得意としているXRガラスの使いこなしはあえて採用せず、異常低分散ガラスなどの特殊ガラスを第1群に使う、従来とは異なるアプローチで設計を行なっています。

 ただし、単純に設計のアプローチを変更するだけではレンズは大きくなります。そこで第1群と第2群のパワー配置を、従来の設計とは大幅に変更して全体のサイズが大きくならないように工夫しました。

── 従来に比べて第1群のパワーが落ちる分、第2群に割り振ったということですね。その分、少しだけ重くはなってしまった。

渡辺 今までは小型・軽量化の代名詞としてXRを使っていましたが、光学設計というのはさまざまな手法があります。今回、これだけの製品をXRなしで設計できたのも、過去の15年の歴史の中でノウハウを蓄積していたからです。今後、さらに工夫を重ねたり、あるいはレンズ設計の技術が進歩すれば、XRを使いながら諸収差を抑えることが可能になるかもしれないですね。A18は現時点での限界とも言える製品なのですが、もっともっと知恵を絞っていけば、少しずつ進歩することはできると思います。


A18のレンズ構成図
緑がLDレンズ、オレンジがADレンズ、ピンクが複合非球面レンズ
A14のレンズ構成図
緑がLDレンズ、水色がXRレンズ、ピンクが非球面レンズ

── こうした高倍率のズームレンズでは、どうしても収差は残るものです。言い換えると、“どのような収差をどの程度残すか”という、収差の残し方がレンズの善し悪しを決めるように思います。A18では、どのようなことを意識して味付けをしたのでしょう?

渡辺 デジタルになって、レンズ設計の概念が大きく変化したと感じています。フィルムからCCDあるいはCMOSになって、一番大きな変化は色収差が目立ちやすくなったことです。フィルム時代ならほとんど問題にならなかった、ちょっとした色収差が絵の破綻を大きくしてしまいます。今回のA18でも、やはり色収差抑え込むことに力を注いでいます。

 また、基本はとにかく収差を小さく、そしてシャープさを重視した設計にすること。製造面での効率を上げる工夫をすることで、コストを上げずにコーティング品質を上げたり、設計環境が改善されてトライ&エラーで試行錯誤しやすいなどの要因があって完成できました。


A18(左)とA14
── メカ部分の苦労も多かったでしょう。レンズの移動距離が長くなっているのに、外形は変わっていないのですから。

板垣 おっしゃるとおり、広角端での長さはA14と同じです。しかし、望遠端にまでズームリングを回すと鏡筒はA14よりも13mm長い。これでも光学設計側に1mmでもレンズ移動を短くしてもらうよう、何度もやり直しをしてもらって、やっと実現できた数字です。13mmというとたいした長さではないように思えるかもしれませんが、元々、A14でも望遠端は鏡筒がギリギリのところで接続される状態でした。ただの1mmも、伸ばすことができない設計だったんです。筒を何の工夫もなく伸ばそうとすると、重なっている部分が短すぎて剛性を出せなくなり、ガタつきが出ます。A14の時点で、筒の長さがギリギリだったのです。

── 筒の長さが足りないとなると、通常は全体の長さを伸ばすしかありませんよね。どのように工夫を?

戸谷 内部のカムを移動させながら、さらに別のカムを移動させる設計にしています。移動したカムが、鏡筒が外れてしまうようなギリギリの長さの部分で間に入り、それ自身が構造体になるという工夫を行ないました。一般的なメカ設計のアプローチでは、ここまでのコンパクト化はできません。

──A06、A14の美点のひとつに、安価な価格や高倍率・コンパクトな設計にも関わらずズーム操作がスムースという点がありましたね。レンズの移動距離を伸ばしながら、操作性がほとんど変化していない。どのような工夫を施したのでしょうか?

戸谷 1群の繰り出し量が13mmの増加とお話ししましたが、2群、3群に関しても、それぞれ4mm程度移動量が大きくなっています。元々コンパクトに仕上げている中で、この差はとても大きい。A14はA06の改良だったのですが、A18では全くの新規設計になっています。その結果、スムースなズームリングの操作性を実現しています。もっとも、操作性に関しては、是非とも店頭でその動きを確かめていただければと思います。


正直、開発できないと思っていた

3月のPIE2007に参考出品された手ブレ補正付きの「28-300mm F3.5-6.3 Di VC」(開発中)
── 当然、今後も新しいレンズを企画・開発していくのでしょうが、今後取り組んでいきたいレンズについて話してください。

戸谷 これまで、小さく、軽く、リーズナブルな製品を開発してきましたから、次となるとやはりコンパクトなものを期待されるのでしょうね。この点は今後もこだわっていきます。また、28-300mmの手ブレ補正レンズを開発中ですから、このレンズをまず出すこと。それにそこで培った手ブレ補正レンズの技術を横展開することを考えたいと思います。

── では最後にそれぞれが担当している立場から、今回のA18を自己評価していただけますか? また、ユーザーには店頭で実際の製品に触れながら、どのような点に注目して欲しいですか?

佐藤 99.4点です。マイナスの0.6点は、ほんの少し増えた鏡筒の太さが0.6mmだからですが、他は言うこと無し。望遠端が50mm増えて、ほとんどサイズが変化していないことを評価していただければと思います。

渡辺 当初、商品の企画案を聞かされたときは、正直、光学設計を行なう立場から、開発できないと思っていました。スペックは満たせたとしても、このサイズでは無理だと思ったのです。基本に立ち返ってひとつひとつ、レンズの材料だけでなく、形状や構成を個々に見直して、積み重ねて、ゴールが見えない中で改善を施していったら、やっとできあがった。しかも、望遠端が伸びているだけでなく、光学的な性能はA14と同等以上を実現しています。設計者から見ると50mm伸ばすというのは、おそらく想像するより遙かに大きなものなのですが、コツコツと積み重ねて実現したA18の成果を楽しんでください。

桜庭 現時点では100点を付けたい。話したいことはもう一通り出てしまいましたが、13.9倍というズーム比が、写真の世界をどう変えるのか。是非とも感じて欲しい。

板垣 100点満点で120点を狙いたい製品に仕上がりました。全く新しいアプローチの機構で、このサイズ、この操作性を達成できたのは、15年間のノウハウがあったからこそ。今後の高倍率ズームにも、同様の機構設計を用いてコンパクト化に取り組んでいきたいと思います。光学設計が頑張って作ったものに服を着せるのが我々の役目。レンズの顔をしっかり見て、触って、そしてシャッターを切ってみてください。

戸谷 設計した瞬間は常に100点と感じます。しかし、製品化されてしまうと、今度はその成果を基礎に、さらに改善できる部分が見えて来ます。工業製品ですから、商品化する上で性能を安定させるため、作りやすさなどを優先しなければならない部分もあります。そう考えると80〜90点ぐらいかなとも思います。とはいえ、現時点でお届けできる軽量・コンパクト・リーズナブル、そして高倍率のレンズとしては、A18が最高のものとの自負はあります。是非、A14と並べてみて、ほとんど変化していない大きさに注目して欲しい。並べてみて、その上で携帯性や画質でマイナス面はないことを確かめてください。



URL
  タムロン
  http://www.tamron.co.jp/
  ニュースリリース
  http://www.tamron.co.jp/news/release_2007/0201.html
  製品情報
  http://www.tamron.co.jp/lineup/a18/

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( 本田 雅一 )
2007/06/27 00:47
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