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【インタビュー】EOS 5Dとキヤノン デジタル一眼レフのこれから

〜キヤノンの岩下知徳 取締役に聞く

EOS 5Dを持つ岩下知徳氏
 本誌の読者ならば、キヤノン取締役、イメージコミュニケーション事業本部 副事業本部長の岩下知徳氏と言えば、あの人かとスグに思いつくのではないだろうか。昨年9月のPhotokina 2004、今年2月のPMAと2度に渡って、キヤノンのデジタルカメラ戦略について、お話を伺っている。

 その岩下氏はPMAでのインタビューで、「EF-SレンズはAPS-Cサイズセンサーのデジタル一眼レフで不足しがちな広角域を補う、補完的な役割として今後も展開していくが、主流はあくまでもEFレンズ」だと話していた。また前回のPhotokina 2004では、「センサーサイズをユーザーのニーズに合わせて自由に選択できる事は、フィルムカメラに対するデジタルカメラの長所だと考えている」とも発言している。

 今から考えれば、これらの発言は、すべてEOS 5Dを念頭に置いたものだったのかもしれない。ご存知のようにキヤノンは先日、ハイアマチュア向けのカメラとして初めて、35mmフィルムのコマと同一サイズを持つCMOSセンサーを搭載したEOS 5Dを発売した。

 実売で40万円を切る程度と、まだ低価格とは言えないものの、十分に手の届く価格に大型センサーを搭載したEOS 5Dの投入背景、そして今後のデジタル一眼レフカメラの戦略や動向について、岩下氏に話を伺った。


中判なみの画質を5Dでハイアマチュアにも

EOS 5D
--- 今から思えば、これまでのインタビューでの岩下さんの発言は、5D投入を暗示していたのかもしれないと感じました。これまでキヤノンは、デジタル一眼レフカメラの市場をエントリー、ハイアマチュア、プロの3つのユーザー層に分けて考えていると話しておられましたが、今回は新しくプロの下に位置する製品が加わったことになるでしょうか?

岩下 予想とはずれて申し訳ありませんが、3つのユーザー層という考え方は変わりません。20Dはハイアマチュア層に向けたAPS-Cサイズセンサーのモデルでしたし、今回の5Dも同様にハイアマチュア層向けに投入した製品です。もちろん、プロの方が使うこともあるでしょうが、基本的なターゲットユーザーの位置づけは変わっていません。

 デジタルカメラにとって、センサーサイズはコスト面で最も大きく影響する部分ですから、価格は20Dよりも高価です。しかし、カメラの位置付けとしては20Dと並列になります。

--- CMOSセンサーは半導体製品ですから、サイズがコストに及ぼす影響は大変大きなものです。それが100万円のカメラから一気に40万円以下の製品へと搭載された。この流れは意図的に作らなければできないでしょう。ハイアマチュア向け製品にフルサイズセンサーを搭載する事で、どのような変化をもたらしたいのでしょう?

岩下 5Dはフルサイズセンサーをアマチュア層でも購入できる価格帯に持ってくることで、中判フィルムで撮影している画質重視のカメラマニアに、是非ともデジタルの世界へと足を踏み入れて欲しい。そうした思いが込められています。

--- とはいえ、製造時に回路を一括露光できないフルサイズセンサーだけに、もう少しゆっくりしたペースでの採用になると考えていました。

岩下 中判フィルムで写真を撮っている方々というのは、我々にとっては未知の新規市場です。これまでキヤノンは35mmフィルム以下のフォーマットでしかカメラを製品化していません。キヤノンにとっての新規市場で新しい顧客を獲得するために、あえてフルサイズにこだわったのです。


--- 狙い通りの結果が得られる感触はありますか?

岩下 元々の発想はEOS-1Dsを投入して以来、中判以上が主流だった写真スタジオに対してデジタル化を提案し、お客様から中判なみの画質だと評価していただいたことがきっかけです。中判なみと評価されるEOS-1Dsの画質を、アマチュアのカメラマンにも味わってもらおうという趣旨です。実際にユーザー向けの発表イベントなどを見学してみると、狙い通りにハイアマチュアの方々が興味を持ってくれていました。

 一方、やや意外だったのはプロの写真家が、ものすごく興味を持ってくれている事です。特にプロの場合、まだ銀塩フィルムでの撮影が主のカメラマンの方々が、特に5Dに高い関心を示してくれています。

--- 1Dsのユーザーはメカ的な速度が必要ない方々でしょう。となると、1Dsよりも5Dの方が良いと思う人も出てくるはずです。1Dsとのシェアの食い合いといった局面にはならないでしょうか?

岩下 防塵防滴など、プロ仕様との差は存在します。たとえば、ファインダー視野率も100%ではありませんし、本当の意味でプロを狙った製品とはなっていません。


ニーズに応じた最適なサイズのセンサーを

--- デジタル一眼レフカメラの事業を本格化した2000年には、もうフルサイズセンサーへのロードマップはできていたのでしょうか?

岩下 センサーのフルサイズ化を見据えていなかったと言えば嘘になります。以前にもお話ししましたが、センサーサイズを自由に変更できるというのは、メリットでもあるんです。APS-Cサイズは、一眼レフカメラらしい画質をある程度確保するために最低限必要なサイズという事で引いた下限です。次に速度を重視したプロ向けのAPS-Hサイズ、それに35mmフィルムカメラそのままの使い勝手を実現するフルサイズと、ユーザーの嗜好や用途、あるいは製品の性格付けによって適切なサイズを提供できます。

--- ということは、今後も3つのセンサーサイズで開発を継続していくと考えていいのですね?

岩下 それはお客様のニーズ次第です。たとえばAPS-CサイズセンサーでISO1600といった領域ではセンサーサイズの違いが画質の違いに直結します。しかし将来、センサーの性能が上がってくれば、APS-Cサイズでも十分な性能が出せるかもしれません。

 我々はお客様のニーズに対して適したセンサーサイズをご提供していますから、今後、フルサイズが圧倒的に良いという事になれば、フルサイズへと収斂していくかもしれません。しかし逆にAPS-Cサイズへと向かうかも知れない。これは技術の進歩とニーズによって変わるもので、キヤノンがサイズを一方的に揃えるという話ではないでしょう。ただし、現時点でという条件を付けるならば、3つのサイズでの提供はバランスが良いと思っています。


--- これは以前にも伺いましたが、サイズが異なる複数のセンサーが混在していると、それらを併用するユーザーにとっては、所有レンズの焦点域選びで悩みが出てこないでしょうか。

岩下 必要に応じていくつかのサイズから用途に合わせて選んでいただきたいと考えています。選んでいただいた結果として、必要な画角が得られれば、それでご満足いただけるのではないでしょうか。ただし、APS-Cサイズセンサー機に関しては、広角側で画角が不足してしまいますから、EF-SレンズはEFレンズでカバーできない領域を埋めるために開発を続けます。

--- 個人的にフルサイズの5Dの試作が上がった時、どのような感想を持ちましたか?

岩下 私はプライベートではEOS 10Dを使っているのですが、このところすっかり小さなファインダーに慣れてしまっていました。5Dの良さというと、やはりファインダーでしょうね。一眼レフカメラはファインダーのために、こうした複雑な仕組みになっているのですから、ファインダーの大きさや見え味は大変重要です。フィルム時代と同じ画角が得られるか否かといった問題よりも、ファインダーの大きさがフルサイズセンサー機を使って、もっとも感動するところではないでしょうか。

--- 現在のデジタル一眼レフカメラ市場を俯瞰して、フルサイズセンサー機のアマチュア市場への投入が与える影響について、どのようにお考えでしょう。

岩下 これは結果論なのですが、5Dを発表して以来、我々の予想を遙かに上回る反応がありました。元々はハイアマチュアの方々、特に銀塩フィルム時代からカメラが好きだった方々に使ってもらおうと開発したカメラですが、自分たちが想像していた以上にフルサイズにこだわっている方々がいるのだと実感しました。

--- フルサイズセンサー機によって、デジタル一眼レフカメラの市場は拡大するでしょうか?

岩下 デジタルカメラ市場全体は8,000万台、その中の350万台のデジタル一眼レフカメラは、ニッチ市場です。フルサイズセンサーへのニーズは、一眼レフカメラユーザー全体の中にあってはさらにニッチでしょう。しかし、その中のハイアマチュアというユーザー層だけで考えると、決してニッチな市場とは言えないと思います。今回の製品でターゲットにしているユーザー層に対しては、フルサイズセンサー機は幅広く求められていると考えています。これまでなかなかデジタルの世界に飛び込んでくることができなかったお客様に使っていただくことで、市場を活性化できると考えています。


センサーサイズは大きくても小さくてもメリットがある

--- 以前、岩下さんは“デジタル一眼レフの市場はコンパクトデジカメの1/10規模にまで拡大する可能性はある”といった趣旨の発言をされました。フルサイズセンサー機や天体写真向けなど、さまざまなニーズに細かく対応することで、業界全体としてこの目標は達成できるのでしょうか?

岩下 8,000万市場に対して800万台というのは、銀塩時代の理屈をデジタルに適用したものですが、正直に言えば将来の目標は800万台だ! とは言えません。結局、そうした数字はあまり意味がありません。何らかの理屈を付けて、それを目標として創意工夫を施しているわけです。

 別の切り口で見ると、デジタル一眼レフはデジタルコンパクト機の数年後を走っているとも言えます。コンパクト機は市場の伸びが鈍化してきていますから、一眼レフももうしばらくすれば急ブレーキがかかるだろうという悲観的な見方もありますよね。結局、理由付けによって目標の数字は大きく変わるものです。

 我々が考えなければならないのは、なぜお客さんはコンパクトデジタルカメラを年8,000万台も買っていただいたのか。銀塩時代はピークでも4〜5,000万台ぐらいだったのです。それを超えているのはなぜなのか? そして、急ブレーキがかかった理由はどこにあるのか? 何か間違いがあったのではないか? そう自問しながら、答えを見つけていかなければなりません。

--- 岩下さん自身、その答えは見つけつつあるのでしょうか?

岩下 私なりの答えは、銀塩にはない新しい顧客を喜ばせる機能や使い方が、銀塩時代を超える市場を創り出したのではないかというものです。デジタル化によって、さまざまな機能をアイディア次第で追加できるようになりました。それが買い換えサイクルを短期化し、ひとり数台を所有する時代へと導き、8,000万台市場にまで伸びたのでしょう。現在でも新機能は搭載され続けていますが、相対的には鈍化してきました。これが市場にブレーキをかけていると考えています。

 それを一眼に置き換えたとき、どのようなお客様のベネフィットを、どのぐらいの速度で、いつまで提供し続ける事ができるのか。その継続性維持が、将来のデジタル一眼レフカメラ市場を左右していくでしょう。


--- 5Dに話を戻すと、ユーザーに対する新しい価値の提供という意味がフルサイズセンサーにあったということでしょうか。

岩下 5Dは、これまでに無かった新しい価値を提供しています。イメージセンサーは、どうやってもサイズが大きくなれば高くなるものです。大きなセンサーを安く作れるならば、小さなセンサーはもっと安くできる。しかし、何事にも分岐点があり、ある分岐点を超えて低コスト化できるならば、がんばって新しい価値をできる限りの低価格で提供する意味が出てきます。今回のように一気にフルサイズセンサー搭載機の価格を下げることで、新しい価値をお客様が見いだし、市場を拡げてくれるのであれば、それに挑戦する価値はあるということです。

 天文写真向けのEOS 20Daも、ニッチの世界ですが、これも実は予想以上に数が出ているんです。ニッチだからといっても、そこにお客様にとっての価値があるのなら、挑戦していくべきでしょう。

--- 今後、フルサイズセンサーを採用した機種のラインナップは増えていくのでしょうか?

岩下 可能性はあります。しかし、これもお客様のニーズ次第です。センサーサイズが大きくなれば、本体の大きさや値段にも影響があります。センサーサイズ拡大によるメリットとデメリットをどのようにバランスするかでしょう。やや大きく、高価になっても欲しいと思ってもらえるかどうかを注目していきます。

--- たとえばEOS Kiss Digital Nのようなエントリーユーザー向け製品を購入するユーザー層に対しても、フルサイズセンサーのメリットはあるとお考えですか?

岩下 画質という切り口では明らかにメリットはあります。しかし、画質の向上とサイズや重さを天秤にかけると、小さいカメラの方がエントリーユーザーには良いのではないかと個人的には思っています。

 とはいえ、先ほども話したようにセンサーサイズを自由に選べるのはメリットなんですよ。デジタルの時代になった時、“これはしめた!”と思いました。これまでカメラメーカーは、フィルムメーカーが作るフィルムに画質やサイズを縛られていましたから、これを自分たちで自由に選べる。サイズが大きい事にもメリットがあり、小さいことにもメリットがある。市場動向やニーズに合わせて、これからも検討していけばいいですよね。


カメラのメカ部分だけでも、まだまだやることはある

--- 5Dではセンサーサイズを35mmフィルムと同一にするという切り口で進化したわけですが、20Dや1Dも含めて、全体のラインナップは完成度がかなり上がってきました。今後、デジタル一眼レフカメラはどのような形で進化していけるとお考えですか?

岩下 デジタル部分を抜きにして、カメラのメカ部分だけを考えても、まだまだやることはありますよ。一眼レフカメラを数十年も作り続けていながら、まだ進化は止まっていないと思います。カメラは最終的な成果物である絵を取り出すための道具です。良い絵を得るための道具としての完成度は、もっともっと突き詰めなければならない。快速、快適に限りはありませんから、今後もそれらを高めていかなければなりません。

 一方、デジタル部分ともなれば、まだまだ始まったばかり。デジタル一眼レフカメラに限れば、以前はコダックとの協業で作っていましたから、自分たちだけでやり始めて僅か5年程度です。基本性能、画質の各要素それぞれに突き詰め、高めていく余地はたくさんあります。

--- いろいろな可能性を突き詰めるという意味では、一眼“レフ”である必要もないのでは?

岩下 結果的にミラーを挟んだ光学ファインダー以外のレンズ交換式カメラが出てくるかもしれませんね。しかし、そこにはEVF(電子ビューファインダー)が一眼レフのファインダーを置き換え得るものなのかどうか、難しい問題があります。応答性、見え味、環境適応性、それに消費電力など、問題はまだまだ大きい。一眼レフ方式の代わりになりうるものになれば、その時点でミラーをやめればいいだけだと思っています。

 たとえば、20Daは天文写真向けにライブビュー機能を入れています。ライブビューの好きだ、嫌いだは別にして、液晶モニターで画像を確認して撮影したいというお客様はいますから、そのための研究もやっています。ピント合わせの手法としても有効でしょう。

--- 最後にEOS 5Dに関して自己採点していただけますか?

岩下 今回はフルサイズセンサーの良さを皆様に知ってもらう。そのためのカメラとして、思い通りの製品ができました。ですから、現時点では100点です。ただし、今後もずっと100点のままというわけではありません。来年はもっと良い製品を出す年にしたいですから、来年の今頃は現時点を振り返って50点だったと言いたいですね。我々はもっともっと前へと進んでいきたい、進んで行けると思っています。


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( 本田雅一 )
2005/10/17 00:05
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