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【インタビュー】キヤノン岩下副事業本部長、デジタルカメラ市場を語る


イメージコミュニケーション事業本部 副事業本部長の岩下 知徳氏
 昨年9月に発売したEOS Kiss Digitalは一眼レフデジタルカメラ市場拡大という使命を果たし、EOS-1D Mark IIはスポーツ報道の現場を席巻。中級機も先日発売が開始されたEOS 20Dが好調。Photokina 2004直前には1,600万画素のEOS-1Ds Mark IIも発表。さらにはコンパクトデジタルカメラの分野も、常にトップをキープしている。

 そのキヤノンでかつて一眼レフカメラの開発に携わり、現在はデジタルカメラ事業全体を率いるキヤノン取締役、イメージコミュニケーション事業本部 副事業本部長の岩下知徳氏にキヤノンのデジタルカメラ事業について話を伺った。


デジタル一眼は市場拡大期だがラインナップ追加はない

 インタビュー直前にニコン富野氏にも話を伺った。岩下氏とは旧知の仲との事だが、キヤノンとニコンは喧嘩仲間ではなく、互いに切磋琢磨する仲間だと話していた。互いに意識し合う両社はしかし、市場で激しい競争を演じている。

「おそらく、いつかは“どこが勝った”、“いやうちの勝ちだ”という話になるでしょう。市場が成熟してくれば、いつかは勝者と敗者に分かれることになります。しかし、勝ち負けが決まるのはずっと先の話ですから、今はニコンもキヤノンも一緒になってデジタル一眼レフカメラという市場を拡げていく段階だと思っています。市場はどんどん拡大していますから、シェア争いをするよりも、自分たちの製品の売り上げをいかにして伸ばしていくか。そういった意味では、今回のPhotokinaのように、各社たくさんのデジタル一眼レフカメラが登場してきたことは業界にとってとても良い事だと思います」

―現在、キヤノンのラインナップはプロ向けトップモデルのEOS-1D/1Ds Mark II、ミッドレンジのEOS 20D、エントリー製品のEOS Kiss Digitalの3層に分かれている。今後、このラインナップはどのように変化していくのか?

「我々はトップエンドからエントリー製品までのピラミッドをつくり、そのピラミッドを大きくしていくことで市場を大きくしようとしています。ピラミッドを大きくするには、ピラミッドを構成するレイヤー(層)を拡大していく必要があります。各レイヤーの製品には明確な違いがあり、きちんと棲み分けができています。その結果、別レイヤーに新製品が登場しても、他のレイヤーには影響をほとんど影響を与えません。たとえば、1D Mark IIや20Dは、それぞれの従来機が発売直前の月まで予定通りの数量が売れ続けていました。同様の棲み分けができる環境になれば、ピラミッドはさらに大きくなるでしょう」


EOS-1Ds Mark II EOS 20D EOS Kiss Digital

―ということは、ピラミッドを大きくする、即ち新しいレイヤーを追加することも将来的にはあるが、現時点では考えていないということか?

「現時点でEOSシリーズに棲み分けは非常にうまく行っています。少なくとも今の市場規模で4つ目のレイヤーを作るビジネス的なメリットはないでしょう。個人的な意見としても十分に強力なラインナップだと思っています。それぞれのレイヤーで、それぞれの製品がきちんと売れながら市場を拡大させていくというのが、現時点での戦略です」


目的別にセンサーサイズを変えられるのはデジタルの良さだ

―自社で優秀な特性のセンサーを開発、生産している事が、キヤノン製デジタル一眼レフカメラの競争力を高める事につながっているように見えるが、その点についてキヤノン自身はどのように考えているのか?

「我々は以前から、原則としてその時点でもっとも良い撮像素子を使うと明言してきています。現時点では自社のCMOSセンサーが良質であるため採用していますが、開発時点で他に良い選択肢があるならば、それを選ぶでしょう。考え方の基本は変わっていませんし、キヤノンのデジタル一眼レフカメラがCCDを使う可能性がないわけではありません」

「しかし、CMOSには省電力で並行読み出しが可能などの強みがあります。その一方、ノイズが多い事が弱点と言えます。そして、ノイズに関してはセンサー技術の進歩によって問題はかなり解決し、強みばかりが残っていますから、現時点でCMOS以外を選ぶ理由はありません。そしてCMOSセンサーを使うならば、(製品開発プロセスなども考慮し)社内調達になります」

―センサーに関しては現在、35mmフィルムフルサイズ、焦点距離1.3倍相当、焦点距離1.6倍相当の3種類がラインナップの中に併存しています。それぞれ同じ目的でも異なる焦点距離のレンズが必要となり、同時併用する際にはもどかしさを感じる場面も多いが、これを2種類以下に統合することは考えていないのか?

「センサーサイズを機種によって変えられるのは、カメラのデジタル化によるメリットのひとつ、というのが我々の基本的なスタンスです。センサーサイズを収斂させるよりも、目的ごとに特徴を活かしたセンサーを搭載する方がメリットが大きいと思います。EFレンズ群の良さを最大限に活かすにはフルサイズセンサーの方がいいでしょう。しかし、より速度を重視するならば焦点距離1.3倍相当のセンサーでしょうし、コスト重視ならAPS-Cサイズがベストです」


“コンパクトな1D”は今のところない

 銀塩フィルム時代であれば、EOSシリーズにはトップエンドモデルとアマチュア向け中級期の間に、フラッグシップの操作性や機能などのエッセンスを低価格かつ軽量コンパクトにまとめたモデルが存在した。EOS 5やEOS 3といったモデルがそれに該当する。また、銀塩フィルムの頃は、EOS-1シリーズも標準モデルならば十分にコンパクトで機動力が高かった。

―“コンパクトな1D”が欲しいというニーズ、あるいはそれに応える用意はあるか?

「難しい質問ですね。1Dシリーズのコンパクト化は“全く考えていない”と言えば嘘になります。しかし、現時点で予定があるか? と言われれば“ありません”という答えになりますね」

―サイズや重さの点で、もう少し軽快なモデルも欲しいというニーズもあるのでは。たとえばEOS 20Dではボディにやや不満が残るが、レンズの相互運用性も考えてAPS-Cサイズ向けのEF-Sも使える軽量コンパクトなプロフェッショナル向けという位置付けの製品もアリでは?

「プロフェッショナル向けは高感度特性が重要でしょう。先日のアテネオリンピックでも、ISO800やISO1600を標準的に使うユーザーがほとんどでした。スポーツ以外でも、高感度ならば様々な条件に対応できます。現時点ではAPS-Cサイズのセンサーで、ISO1600まで仕事で使える高感度を実現するのは難しいのではないでしょうか」

―中級機のEOS 20D/10DとEOS 1D系での相互運用性を高める計画はないのか? たとえばソフトウェアの面では、やっとDigital Photo Professionalが1D系以外のデジタル一眼レフカメラにも対応したが、それ以外の面では?

「求められているニーズが異なるため、バッテリも構成やサイズが異なります。ソフトウェア面での相互運用のサポートは可能ですが、ハードウェアの場合は相互運用を意識しすぎると中途半端になってしまいます。中級機とプロ向けでは求められるものが異なりますし、様々な仕様を決める上での優先順位も異なりますから、それぞれの用途に最適な選択肢を選ぶようにしています」


デジタル一眼レフカメラ市場はまだまだ伸びる

―デジタル一眼レフカメラの需要予測をキヤノンはどのように見積もっているのか?

「正直に言えば、我々にもよくわかりません。しかし過去のデータはあります。銀塩フィルム時代、一眼レフカメラは市場全体の約1割を占めていました。今年はデジタル一眼レフカメラ市場が急激に伸びていますが、それでも4%ぐらいにしかなりません。デジタルカメラ市場全体が年間6,000万台と言われていますから、600万台ぐらいの潜在市場はあると言えるでしょう。従って、まだまだ市場は伸びる余地があると思います」

―デジタル一眼レフカメラのシェアが、デジタルカメラ全体の10%に届かない理由は何か? さらに伸びていくために必要な要素とは?

「コンパクトデジタルカメラ市場がこれほど伸びている背景には、多様な製品が登場し、パーソナル化が進んでいるのが理由です。一家に1台から1人1台、1人数台と使われる場面に応じて使い分けるユーザーが増え、市場全体を押し上げています。同様にデジタル一眼レフカメラも、使われる場面を増やしていかなければ、10%という数字は難しい。たとえばEOS-1Dsは中判カメラが常識だった写真館に入ることで、それまで35mmカメラが使われていなかったところにも広がっています。同様に用途範囲を拡げていくことが、デジタル一眼レフカメラ市場を拡げる上で重要になってきます」


“ピクセル等倍に拘りすぎる”と、そのコストは必ずユーザーに跳ね返る

 ピクセル等倍で鑑賞するユーザーが多い事に加え、高画素化で最小錯乱円よりもピクセルピッチの方が小さくなってくるなど、35mmフィルム時代よりも高い精度がカメラにもレンズにも求める声が出てきている。

 ピクセル等倍鑑賞での評価が正しい手法とは思わないが、一方で現実にユーザーの声があることも無視できない。

「第一にカメラの目的は鑑賞できるプリントを得ることです。最終的な成果物はプリントであって、スクリーン上の画像全体が見えない拡大された像を鑑賞することではありません。もちろん、我々はピクセル等倍での収差やフォーカス精度に対して、きちんとした対応を行っていくつもりです。しかし、そればかりに着目し、拘りすぎるとユーザーにとっても不利益だと思います。1,000万画素を越える画像のピクセル等倍評価に耐えるシステムを作るための開発負担はコストを増大させますから、結果的にユーザーの手元に届く製品の価格として跳ね返ってきます。しかも、高いコストを払っても、結果としてのプリントは変わらないことになります。これはメーカーにとっても、ユーザーにとっても良いことではないでしょう」

―先日、アドビがデジタルネガ(DNG)フォーマットを提案したが、キヤノンはDNGに対してどのような考えを持っているか?

「RAWファイルは機種ごとに異なるプライベートなフォーマットです。だからこそ、カメラが捉えたすべての情報を引き出せます。一方で、標準化を行うことの良さも確かにあり、様々なアプリケーションで共通に扱えますが、独自の進化を妨げるという短所もあります。改善の方向が明らかでも、自分たちだけでその拡張を行えず、みんなで手を繋いで一段づつ階段を上っていかなければなりません。一方、プライベートフォーマットのRAWならば、いつでも好きなときにカメラの進化に応じてフォーマットに改善を加えることができます。アドビがスタンダードを作ろうとするのは構いませんが、それによってプライベートファイルをやめるという議論は今のところありません」


コンパクトカメラの感度はいずれ使いやすい値に収斂する

―岩下氏はコンパクトカメラ事業も統括している。現在、コンパクトカメラはISO50が標準感度になってしまっており、ISO50での画質をキープしながら高画素化が進んでしまってる。コンパクトカメラのユーザー層を考えれば、ISO100〜400で十分な質を確保できるようになるべきではないか?

「ISO50モードを最初に導入したのはキヤノンでした。質問は感度特性を無視しての高画素化に意味があるのか? という趣旨だと思いますが、ビジネスとして考えたとき、ターゲットとするユーザー層が求める画素数を実現しなければ商品として価値を出しにくいという面もあります。カタログ上の数値として、画素数が求められているのも事実なのです。本来ならば、偏ったスペックとするよりも、全体を見渡してのバランス良いフォーマットにすべきですが、今の流れをメーカーが主導してトレンドを変えることは難しいでしょう。しかし、いずれ市場のトレンドはバランス指向へと移り変わるものです。時間とともに画素数以外の部分が評価されるようになれば、最終的にはウェルバランスな製品に収斂すると思います」

―昨今、日本のコンパクトデジタルカメラ市場は成熟し、売り上げも頭打ちになりつつあると言われている。この点について、今後のコンパクトデジタルカメラの市場をどのように見ているか?

「確かにデータを見る限りには、デジタルカメラの普及率向上に衰えが見られます。しかし、何らかのブレイクスルーがあれば、まだ市場が拡大する余地はあると見ています。そのためには何らかの技術革新を起こさなければなりません。機能でも、大きさでも、そして性能でも、なんでも良いのですが、新しい技術革新がコンパクトデジタルカメラの継続的な成長には必要です」

―デジタルカメラ市場はここまで、さまざまな技術革新や進歩を次々に重ね、すさまじいスピードで前へと進んできた。まるで薪にガソリンをかけて燃やすが如くのようだ。しかし、そのガソリンもそろそろ底を尽きそうな印象を持っている。さらにこの燃焼を促進する新型燃料の投入が、継続的な成長には必要だろう。ではキヤノン自身はその燃料を現時点で持っているのか?

「残念ながら、現時点では市場を拡げるだろうとハッキリ言い切れる要素は持っていません。しかし、懸命に探しているところです。メーカー側が革新的だと考えている技術でも、実際にそれがユーザーニーズにマッチしたものかどうかは分かりません。たとえば、ヒット商品になると思って商品開発を行っても、実際には10個に1個しかヒット商品は生まれません。我々は数多くの革新的な技術を探し、それを製品に反映させていかなければなりません」


キヤノンのホームページ
http://canon.jp



( 本田 雅一 )
2004/10/01 17:04
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