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対談:ニコンデジタルカメラの20年……D70(2004年)からZ6III・Z50II(2024年)までを振り返る
- 提供:
- 株式会社ニコンイメージングジャパン
2024年12月13日 07:00
当サイト「デジカメ Watch」は開設以来、今年で20年を迎えました。その20年の歴史の中、デジタルカメラのトレンドを牽引してきたメーカの1つが、ご存じニコンです。
ということで、このページでは2名のフォトグラファーによる対談企画「ニコンの20年」をお送りします。
お招きしたのは、ニコンのカメラ・レンズ全般に造詣が深い、ニコンといえばこの人!の阿部秀之さん。そして鋭いカメラ評論で知られる一方、元ニコンシステムに在席していた豊田慶記さんの2名になります。
お2人にはFX・DX両フォーマットのカメラについて、過去から振り返ってもらいました。
はじめに
——今回お集まりいただいた意図は、ニコンがこの20年にリリースしたレンズ交換式カメラについて、お2人にその思い出を語ってもらおうというものになります。
阿部秀之(以下、阿部): 歴代すべての機種ではないけど、この20年で気に入ったカメラはいくつか購入しました。新しいのでいえば「Z6III」で、いま1番使っている。フラッグシップモデルのようなスペックではないけど、デジタル一眼レフカメラの普及期からミラーレスカメラの現在まで、まさに20年の進化が見て取れるモデルですね。
豊田慶記(以下、豊田): ニコンといえばハイスペックな製品が注目されてきましたが、エントリーモデルの充実度も見逃せません。この企画のために、12月13日(金)発売の「Z50II」を使わせてもらったところ、お気に入りのカメラになりました。性能、扱いやすさ、価格のバランスが良く、長く愛機として使えるだけの性能を持っていると思いました。エントリーモデルという触れ込みではありますが、ビギナーから経験者まで広くオススメしたいカメラになっています。
——ではさっそく、2004年から振り返っていきましょう。
2004年:デジタル一眼レフ普及の契機…「D70」
——デジカメ Watchが始まったのが2004年9月。その約6カ月前に「D70」が発売されています。後のエントリークラスの発展を予感させる製品で、かなり話題になりました。この機種についての思い出はありますか、阿部さん?
阿部: もちろん買っています(笑)。当時「D70」を紹介するニコンの全国セミナーを担当していました。まだデジタル一眼レフカメラが多数派ではない頃で、来場者に「デジタルは難しくないですよ」と知ってもらうのが、そのセミナーの役割の1つでした。自分でも勉強しながら、デジタル一眼レフカメラの世界に入っていくところでした。
2005年:ニコンファンに認められた「D200」
——サイト開設から初のニコン製デジタル一眼レフカメラの記事が、「D2X」でした。
阿部: 「D2X」「D2H」は“ガンダム”のあだ名で呼ばれていましたよね。ペンタ部の白い受光センサーの見た目からで来ているのですが、「F5」由来のRGB測光センサーというニコンらしいアイデアがデジタルのD1桁系にも取り入れられていられているわけです。
——同じ年の12月に発売されたのが「D200」です。当時のカメラファンに好評を持って迎えられました。
阿部: D200の発表会にも参加したのですが、これまでにない行列で驚いた記憶があります。前のモデルの「D100」も話題になりましたが、ニコンファンはカメラ性能を求める性質があるので(笑)、「D200」のスペックがニコンファンにも認められたのだと思います。
2006年:エントリークラスの出発点…「D40」
——2006年になって出たのが「D2Xs」と「D80」です。さらにこの年、エントリークラスの「D40」が発売されています。
豊田: 名機でしたね。「D70s」ゆずりのイメージセンサーでしたが、高感度画質が大きく進化するなど画質自慢のカメラでした。
阿部: ボディ内モーターが省略されたということで、一部のファンからいろいろ言われましたが、それについて「人それぞれで必要なカメラがあるのでは?」とも感じていました。誰もが同じフィルムで同じ写真を撮る時代から、そうじゃないとわかってきたのがこの頃ではないでしょうか。カメラの作り方が変わってきた印象です。
2007年:FX & DXの2ライン体制がスタート…「D3」「D300」
——ニコンファンにとって、2007年は重要な年になりました。「D3」「D300」の発売です。DXフォーマット1本だったところに、FXフォーマットという、35mmフルサイズセンサーのラインアップが加わりました。
阿部: 「D3」は買いましたね。初の35mmフルサイズということもありますが、同時にボディの出来が良かった。触ってすぐ「ニコンはやっぱりこういうカメラだ、これは買わないわけにはいかないだろう」という感想が出ました。暗いところに強くなったのもこの頃からでしょう。
豊田: 初めての常用ISO 6400ですよね。
——同時発表の「D300」はいかがですか?
阿部: これも買っています。たまにいまも防湿庫から出して触っていますが、良いカメラですね。「小さいサイズの本物」というか。当時、ニコンは「D3」「D300」を2つのフラッグシップといっていました。
豊田: 僕も買いました。メカの良さが際立っていて、手の届く価格帯なのにAFもすごい。特に横方向のAFエリアのカバー範囲、これが広くて使いやすかったのです。「D3」の購入も考えたのですが、その点で「D300」を選んだのを覚えています。
阿部: 僕は登壇したニコンのイベントで「D3」を戦車と例えていて、それはF1マシンのような超高性能だけど繊細なカメラではなく、何でも出来る実戦的なカメラという意味。「D300」はその戦闘力をそのまま小型にしたイメージですね。
2008年:ライブビュー・動画に対応…「D90」
——翌年の2008年、早くもFXフォーマット第2弾の「D700」が発売されます。
阿部: ずんぐりしてて、ちょっと好きじゃなかったかな(笑)。この頃はペンタ部にストロボが入っているんだよね。ファインダー視野率が約95%なのも気になりました。「D3」は約100%なのに。
豊田: そのファインダー視野率ですが、実際には平均的にもう少し良い視野率だったようです。ばらつきを考慮し、ニコンの基準で厳しめの数字を公表していたようですね。
——同じ年に「D90」が出ています。デジタル一眼レフカメラで初の動画記録が可能なモデルです。
阿部: 「D90」も買いました。このクラスとしてはペンタプリズムのファインダーが良く出来ていて、しかも当時の新機能、ライブビューがブツ撮りで使いやすかったです。
豊田: 「Lv」とプリントされた専用ボタンがありましたよね。
阿部: そう、“ルイヴィトンボタン”とかいってました(笑)
2009年:充実するエントリークラス…「D5000」「D3000」
——2009年、この年にエントリークラスがD5000系とD3000系に分かれます。デジタル一眼レフカメラの本格的な普及期ですね。
阿部: 「D5000」はニコン初のバリアングル液晶モニター。実はこの頃になるとDXの高感度画質がかなり良くなっています。条件によっては、ISO 25600くらいまで許容範囲で使えた記憶があります。
豊田: クラスで1番の高感度画質の良さを目指した機種ですね。同じ年に出た「D300s」より高感度ノイズは少ないです。「D5000」が「D90」の、「D3000」はD60のイメージセンサーを引き継いだモデルなのでしょう。
阿部: ところで、豊田君はいつからいつまでニコンにいたの?
豊田: 2007年から2011年です。
——ではこの頃は在籍中ということですね。「D300S」についてはいかがだったしょうか。
豊田: メモリーカードスロットが「D300」のCFシングルからCF/SDのデュアルになりました。制約がある中でサイズを変えずにデュアル化するのが大変、という声を聞いた記憶があります。私が担当した部分では、調光制御をD300から少しだけ改良したパラメータを採用しました。「D300」と「D300S」はベストセラーとなったカメラのようですね。
2010年:進化するミドルクラス…「D7000」
——2010年に行きます。ミドルクラスの「D7000」が発売されました。ここに来てDXのミドルクラスが2系統に分かれます。
阿部: 「D300」の下位だけど後から出たこともあり、機能は「D300」以上。例えば画素数は「D300」より上ですね。あと、ホワイトバランスの登録が複数できたのを覚えています。オリンピックを意識したと聞きました。
豊田: かなりAF性能が良かったですね。小さいながらも高機能で動体に強いという、APS-C機のトレンドを体現したというモデルでしょう。
阿部: AFポイントも多いんですね。「D7000」で水球を撮ったのを覚えています。結構撮れたんですよ。最初は人に合って、次にちゃんとボールにピントが行く。最後は人にピントが合う。
豊田: いまでもD7000系は人気がありますよね。
阿部: でも「D500」が出るまで、ニコンファンから「俺たちはD300の後継機が欲しいんだ!」といわれ続けていました(笑)。小さくて高性能なのに……
2011年〜2012年:進化著しいFXミドルクラス…「D800」
——東日本大震災のあった2011年は、「D5100」だけが4月にリリースされました。その後もタイ工場が洪水に見舞われるなど、ニコンをはじめとしたカメラ業界には受難の年なります。明けて2012年に発売されたのが、D1桁系の「D4」です。
阿部: XQDを初めて採用したニコン機です。XQDは新しいメディアだったのでニコンファンの間では反発もあったのですが、個人的には悪いことではないと思っていました。そうしないと進歩が止まってしまうから。XQDを知るため、ソニーのストレージ部門に勉強しに行ったのを覚えています。
豊田: 「D4」は最後に開発に関わった製品です。測距限界が−2EVまで下がり、真夜中にF4で高い精度のAF-Cで撮れることに「すごいカメラが出た」と驚いたのを覚えています。3Dトラッキングの精度も良くなっていたかと思います。
阿部: 「D3」に比べて、肌色が良くなった印象でした。
豊田: それまで渋めの発色だったのを、撮ってすぐに納品できることをコンセプトに変えた頃です。メモリーカードとして、XQDとCFのどちらかを選べたのも特徴でした。
阿部: フィルム時代のフラッグシップのリリース間隔は大体10年でした。それがデジタルになったらそうはいかない。「D3」と「D4」の間は約2年ですからね。
——同じ年、FXフォーマットのミドルモデル「D800」「D800E」が出ました。特に「D800E」は光学ローパスフィルターを機能させないという、当時としては思い切ったスペックが話題となりました。
阿部: 髪色の微妙なグラデーションを再現できるなど、繊細な色作りになった印象を受けています。肌色もますます良くなった。カメラとしての出来も良かったし、「D300」の頃からつながるニコンらしい製品。持っていて満足できるカメラでした。
豊田: この機種は謎に安かったですよね。僕が発売の翌年に買ったとき、ボディのみで24万円でした。
阿部: 「Capture NX2」が対応する最後のカメラということで、今でも手元にあります。「Capture NX2」は、本当にわかりやすくて簡単なソフト。
——有効画素数が3,630万画素と一気に上がっていますよね。そのあたりも話題になりました。
阿部: 「そんなにいらない」という人もいたけど、カメラ好きな人はやっぱり画素数を気にしていたのではないかな。当時最高クラスの3,000万画素以上と聞いて、1度はディスプレイで拡大して見たかったのではないでしょうか。
2013年:ヘリテージデザインモデルの元祖…「Df」
——2013年に話題となったのは、ずばり「Df」でしょう。賛否両論ありましたが、思い切った製品でした。
阿部: これも買いました。いまも好きなカメラですね。こういうカメラを一眼レフの形で出したのがうれしかったですね。動画機能がないなどのコンセプトも良いです。非Aiニッコールレンズも含めて、一部を除いて古いレンズが使えるのも素晴らしい。ファインダーはちょっと残念でしたが。
豊田: ニコンでないと出せないカメラです。見た目はクラシカルですが、良い意味でゆるく写真を楽しめる雰囲気も良かったと思います。このカメラは知り合いの婚礼カメラマンが良く持っていました。式場で撮りだして撮ると喜ばれたそうです。
——エントリーも順当に進化しています。「D3300」は有効2,410万画素CMOSセンサーを搭載するまでになっています。
阿部: しかも光学ローパスフィルターレスでEXPEED4。てんこもりのエントリークラスでした。モノコック構造も先進性を感じましたね。
豊田: それでいてすごく安いんですよね。このスペックでボディのみ6万5,000円でしたか。クルマを撮るプロの間でも、サブ機として流行っていました。高画素で軽くて、クルマの横に付けて撮っていて落としても損失が少なかったからです。
2014年:充実するFXミドルクラス…「D810」「D750」
——2014年です。ようやく半分まで来ました。この年に「D800」系がモデルチェンジし、「D810」が登場しています。
豊田: 個人的に「D810」は意欲的なモデルと感じています。高画素機ゆえにひろいやすいミラーショックについて、ミラーバランサーの採用ではっきりとの対策を打ち出したカメラ。「D800」と「D800E」を1つにして光学ローパスフィルターレスに1本化したのも当時のトレンドを見るようです。
阿部: ミラーバランサーには、ニコンの神業ともいえる高度な技術が使われています。こういう機構ブレへの対策が必要になることは、D800が市場に出ないとわからないことでした。
——同じ年、「D750」も発売されています。これも長く売れていましたね。
阿部: いまでも使っている人をよく見かけますよ。例えば植物園に行くと、「D750」に高倍率ズームをつけた方がたくさんいらっしゃいますね。エントリークラスから採用が始まったモノコック構造がきいていて、軽いボディが際立っていました。
豊田: FX初の可動液晶モニターというのも特徴でしょう。発売時、24-120mmVRキットが30万8,000円と個別に買うよりはるかにお手頃価格でした。
2015年:ミドル&エントリークラスの円熟期へ…「D7200」「D5500」
——2015年に発売されたのは、DXフォーマットの「D5500」と「D7200」になります。
豊田: 「D5500」は、ニコンのデジタル一眼レフカメラで初めてのタッチパネル搭載モデルでした。タッチシャッターなど、タッチ操作したいという意見が高まってきたのでしょうか。
阿部: スマホの影響もあったのでしょうね。
豊田: このカメラのAFは動体に強く、サーキットでも何回かAFのテストを行いましたが、上位モデル並みの合焦精度でテストの都度とても驚かされました。それに、どの個体を使ってもAFのずれが少ない。歩留まりが良いというか、しっかり作り込んであるエントリーモデルという印象でした。
2016年:待ち望まれたアッパーミドル…「D500」
——2016年の代表モデルとえいば、「D5」と「D500」でしょう。どちらもEXPEED5とXQDを採用しています。
阿部: 「D500」は、「D300」の後継機を待ち望んでいた人のためのカメラ。僕も買って、今も持っています。10コマ/秒の連写性能はすごかったし、撮っている感触もすごく良い。
豊田: ミラーのバタつきが気になりづらいし、AFエリアのカバー範囲も広い。APS-Cらしく、フルサイズではできないことを打ち出していたのが良かったです。
阿部: SnapBridgeもこの世代からですよね。スマホと常につながっているというアイデアのアプリ。当初はつながらずとても使いづらかったのですが、いまは改善してつながりやすくなりました。
2017年:FXミドルクラスの完成形か…「D850」
——翌2017年、FXフォーマットの「D850」が出ています。有効画素数はついに約4,575万に。これも読者の人気が高い機種でした。
阿部: ファインダー倍率が約0.75倍と高く、上位機よりもスペックが上というのはこれが初めてだったのではないでしょうか。風景、ポートレートが撮りやすいということで、もちろん買っています。イイカメラですね。「一眼レフの完成形」という例えに同意したくなるモデルです。
豊田: 僕も「D850」は買おうか真剣に悩みました。使っていて気持ち良く、写りも良い。ファインダーも素晴らしい。半年くらい、「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gと」一緒に買おうかと悩みました。高いレンズの描写に応えて、レンズの力を出してくれる性能があるカメラです。
阿部: オプションにフィルムのデジタイズをするための「フィルムデジタイズアダプターES-2」がありますよね。そのためだけに買った人を知っています。これまでにも似たようなアクセサリーはありましたが、「D850」のネガフィルムデジタイズ機能は、他のニコン機に移植されませんでした。なぜでしょうね。
——同じ年に「D7500」が出ています。
豊田: D500と同じイメージセンサー、エンジンを搭載した「小さなD500」でした。前モデルの「D7200」も良いカメラでしたが、ISO 10000を超える領域では「D7500」の方が格段に良い画質になるなど進化していました。
2018年:ついにフルサイズミラーレスを投入…「Z7」「Z6」
——2018年、ついにミラーレスカメラの「Z7」「Z6」が発売されました。当時の感想はいかがだったでしょうか。
阿部: 正直いうと、「思っていたものとは違っていた」という感じです(笑)。ニコンのフルサイズミラーレスカメラということで、D800系のようなもうちょっと重くて大きなボディを想像していたら、ミラーレスカメラとしての小ささを追求した製品でした。これはこれで良いのですが、予想を超えていましたね。
——その後使ってみて、印象は変わりましたか?
阿部: 触ってみると「やっぱりニコン」だなと。ちゃんと本物感が感じられました。ユーザー発表会に来たお客様も最初はいぶかしげな感じでしたが、触ると気持ちが変わってきているのがわかりました。触ってもらって、ファインダーを覗いてもらって良さがわかるカメラ。
豊田: 当時、ダントツに覗き心地の良いEVFでした。さらに、出てくる絵が良かったですね。一眼レフカメラ時代よりもしっかりピントが合いやすい。それに、傾けて設置されたAF-ONボタンや、かちっと閉まる感触のメディアスロットカバーなど、細かな作り込みに感動しました。
阿部: 一緒に出てきたレンズもすごかったよね。いままでのレンズと違うぞ、という印象。特に「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」の画質の良さには「ひゃー」となりましたから(笑)
豊田: 絞り開放から使えるF1.8ですね。画質に関してはこの時点である意味完成していました。
阿部: ぱっと見で「マウントのお化け」なんて当時いわれていましたが、あれだけFマウントを大事にしていたニコンだけあって、よほどの吟味をしてこのマウントを選んだのでしょう。それが画質の良さにつながったのだと改めて思います。
2019年:ZマウントがDXにも波及…「Z50」
——翌2019年、早くもZマウントのDXフォーマット機が登場しました。このモデルはかなりヒットした思い出があります。
豊田: 「Z50」は、ニコンがZでやりたかった小型化を素直に実現したカメラだと思います。キットレンズの実力もすごくて、予想をはるかに超える光学性能でした。
阿部: エントリーモデルをちゃんと出すのは大事だと思います。15万円くらいで買えるのなら、写真に興味を持つスマホユーザーにカメラも選んでもらえるでしょう。そういう意味で、ニコンは良いエントリーモデルを作っていると思います。「Z50」の成功は、D5000、D3000のシリーズがあってこそなのでしょう。
——Zになってニコン機の画質は良い方向に変化したと思いますか?
豊田: 全然違いますね。それまでも満足してましたが、全然違う。絵作りも進化しているのでしょうが、おそらく新マウントのレンズから来るものが大きいのでしょう。
2020年:早くも第2世代へ…「Z7II」「Z6II」
——2020年に発売された「D780」は、現在もラインアップに残るデジタル一眼レフカメラです。
豊田: 一眼レフカメラですが、中身の主だったところはミラーレスカメラの「Z6」。ハイブリッドカメラです。像面位相差AFを搭載していて、ピントの精度がものすごく良い。「ピント精度がこんなにも画質に影響を与えるのか」と感じた製品でした。今でもOVFを搭載した製品を選べるというのが面白いですし。ニコンの一眼レフカメラが好きだけど、「D850」は大きすぎて……という人にもおすすめできます。
阿部: 僕はこれを最後に買う一眼レフカメラにしようと思っています(笑)。このカメラで使いたいレンズ、例えば「AI AF DC-Nikkor 135mm f/2D」も残していて、しかも念のためもう1本買っておきました。マウントアダプターを使って「Z7」につけてとるのとは違うじゃないですか、やっぱり。
豊田: この当時、「Z7」のイメージセンサーを搭載した「D880」が出るのでは? と噂されていましたよね。「D850」のファインダーを積んだかもしれないその製品も見たかったかもしれません。
——この年の一眼レフカメラの発売に驚かされましたが、ミラーレスカメラの開発は早く、もう「Z7II」「Z6II」が発売されました。
豊田: 「Z7」「Z6」から、より一眼レフカメラに近いかたちになり、好感が持てました。電装系も大きく変わっています。連写も強化され、XQDのシングルスロットからCFexpress/SDのデュアルスロットになっています。
阿部: あと、前の世代よりAFがかなり良くなっていますよね。XQDからCFexpressに移行したわけですが、カメラメーカーがどのメモリーカードを採用するのかは重要。普及率だけで選ぶようだと、安パイだけだとカメラの進化がとまってしまう。
2021年:究極のミラーレスカメラとして…「Z9」
——勢いに乗るZですが、2021年にはDXフォーマットの「Zfc」が登場しています。
阿部: 僕はこれも買いました。コロナ禍で写真が撮れないときに出たということもあり、これでガンガン写真を撮りに行くという気持ちはなかったけど、こういうときこそ「愛でるカメラ」として手にしたかったのです。手に入れてみると、ちょっと駅前に飲み物を買うときとか、公園まで散歩に出かけるときとかに、軽い気持ちで持ち出せる。あと、同じようにレトロなデザインのカメラアクセサリーをつけて見たりと、楽しいカメラです。アクセサリーが欲しくなる、アソビが広がるカメラ。
豊田: 購入者へのコミュニケーションで思うところはありますが、使っていて楽しいカメラ。ではあるのは間違いないです。しかもベースが「Z50」だけあって写りは本格派、抜群に良い。遊びで撮っていていつの間にか本気になったとしても、付いてくるカメラといえます。ほぼフィルムカメラの「FM2」と同じサイズの慣れ親しんだ見た目のカメラが出た、という喜びもありました。
——そしてこの年、ついにZ初の1桁系となる「Z9」が発売されました。
阿部: 買いました(笑)。ファームアップの頻度が多くて、買ってお得なカメラでした。機能がどんどん上がっていくのはうれしいですね。デザインもこれまでから一転してカメラらしくなっていますよね。
豊田: ミラーレス、一眼レフの区別なく、カメラとしてすごくよくできていたという印象でした。特にOVFを超えたEVF。ドット数が覗き心地を決めるのではないということを教えてくれました。メカシャッターをなくしたのは思い切った決断だと思います。
阿部: ニコンだからこそなくせたのかもしれませんね。ずっとカメラを作ってきた、あれだけシャッターのことを考えてきたニコンがやめたのだから、「そういう時代なんだな」と納得しやすいのかも。
豊田: 8K記録をはじめ、動画の面でも画期的なカメラ。それに、炎天下で使っても動画が止まらないというタフさ。夏日に1日中使えましたから感心です。
2022年:新しいフィールドへの挑戦…「Z30」
——続く2022年には、EVF非搭載の「Z30」が出ています。ニコンとしては珍しい、いわゆるVlog向けの製品ですがいかがでしょうか。
阿部: ニコンがVlogのことを真面目に考えているのは良いことだと思います。動画の世界にもスマホではないカメラが必要でしょう。この機種でやめずにがんばってほしいです。トライポッドグリップをつけて撮るのもそれなりに楽しく、しばらくは旅先で使ってました。ボディの造りも良いんですよね。
豊田: レンズ交換できるコンデジのような感覚で使うと、とても楽しいカメラでした。当時のZでは最も強力な瞳AFを持っていましたし、カメラとしての魅力はつまっている印象です。「Z50II」が出たので、新しい展開にも期待がかかります。
2023年:D800系ファンの夢を叶えた…「Z8」
——2023年といえば昨年の話です。この年、「Z8」が発売されています。1桁機のボディ下部をなくしたミドルクラスの系譜になぞらえるモデルで、「Z9」の登場から、待ち望んでいたニコンファンも多かったのではないでしょうか。
阿部: まさに僕らの夢を実現してくれたZですね。かつてのフィルムカメラ「F5」に対する「F100」と同じ関係性ですが、「F100」はファインダー視野率が下がったりと、「F5」をそのまま小型化したカメラではなかった。それが「Z8」だと、ほぼ「Z9」の機能を踏襲しています。細かく見れば違いますが、肝心なところは「Z9」と同じ。ということで、僕もすぐに買いました。「Z9」からかなり小型・軽量されてうれしかったですね。
豊田: 単に下を切っただけではなく、実際には大工事だったと聞きます。バッテリーのバワーも下がる中、よくこの性能・この値段でまとめてきたなと。
阿部: すでに「Z7」系と「Z6」系のミラーレスカメラがでていますが、その上のクラスを待っていたニコンファンは多かったのではないでしょうか。具体的には「D800」系のミラーレスカメラです。そういう人にはぴったりだし、「Z7」「Z6」系よりボディが多少大きくても問題ない。もちろん「Z9」よりは小さいけど。
——「Z9」と違い、メモリーカードスロットがCFexpress Type Bのデュアルではなく、CFexpress Type BとSDメモリーカードの組み合わせなのですね。
豊田: 個人的は世界のどこでも手に入るということで、SDメモリーカードの安心感は評価しています。
阿部: 僕はCFexpressが好きなので少し残念だった(笑)
——次いで発売されたのが「Zf」です。こちらはいかがでしょうか。
豊田: 「Df」と違いミラーレスカメラをベースにしているのですが、少しボディが分厚く感じました。「Zfc」の手軽さ・気軽さが薄れているのは、個人的に少々残念でした。それでも古いレンズと組み合わせる楽しさがあったりと、これも「Df」「Zfc」のように、ニコンらしい製品です。それに、モノクロ撮影の充実度はすごいと思いました。
阿部: 今までのカメラのモノクロ機能とは違うよね。オレンジフィルターやレッドフィルターなどをシミュレートした製品はあったけど、モノクロフィルムとは何かが違った。それが「Zf」ではモノクロフィルムそのものの仕上がりになります。せっかくのヘリテージデザインなので、この機能は「Zf」だけて使えると良かったかもしれないよね(笑)
2024年:Zはどこまで進化するのか…「Z6III」「Z50II」
——というわけで、いよいよ今年、2024年に発売された製品です。まずは「Z6III」から。
阿部: 高感度に強い「Z6」系の新製品を待っていたこともあって買いました。とにかくAFが良いことに満足です。しかも軽い。「Z8」も「Z9」より軽いから購入したようなものでしたが、「Z6III」は当然ですがもっと軽い。持ち出す気軽さは「Zfc」と同じくらいですね。いま1番使っているカメラです。
豊田: AFは順当に進化していますね。ニコンではぶっちぎりにできが良いと思います。それにEVFも1番良い。肌に触れるところの処理なども良くなっていて、手になじむカメラにもなっています。自由度が高いので、バリアングル式液晶モニターも使いやすく感じます。
阿部: バリアングル式液晶モニターは良いよね。使っているとなれてくる。移動時に裏返しておくと、モニター表面に傷が付く心配がないし。
豊田: フレキシブルカラーピクチャーコントロールですが、絵作りを手軽に遊べるという点で、良い取り組みだと思います。ニコンの場合、元の絵の確かさもあるので、それと両面でアピールしてもらえるとうれしいですね。
——12月13日(金)に発売されるのが、最新の「Z50II」です。ヒットした「Z50」の後継ということで、こちらにも期待がかかりますね。
豊田: 「Z50」より大きくなったといわれるけど、指の届く位置にボタンがある適切なサイズ感が気持ちよかった。タッチパッドAFを使えば、マルチコントローラーがないことも気になりません。「Z6III」に続きEVFも良いですね。AFも「Z6III」に近いところまで迫っていますし、何よりこの性能でこの価格(ボディのみ14万5,200円)。
阿部: 「Z50」で物足りなかったところが全部治っている印象です。うまく「II」につないだなと。これなら、「Z50」のユーザーも買い替える価値があるのではないでしょうか。特にEVFが良いですね。スマートフォンのユーザーに驚いて欲しいのがEVF。このボディの軽さに加えて、ダブルズームキットの望遠ズームレンズで、スマホユーザーにカメラの良さをアピールしてほしいです。
豊田: このクラスにプリキャプチャーが入っているのも驚きですよね。エンジンの力の進化を感じます。
阿部: プリキャプチャーって、1度わかったらすごい便利だよね。イメージセンサーは「Z50」と同じなのに、この写りの良さには感心します。このカメラの設計は国内だけではなく、ニコンのアユタヤ工場も関与していると聞きました。高度な工程が、ワールドワイドでこなせるようになっているわけです。会社としての方向性が良くなっていると感じます。
まとめ…「ニコンらしさ」とは?
——というわけで2004年から2024年までを振り返っていただきました。それらを通した「ニコンらしさ」とはなんでしょうか。
阿部: 新しくなったニコンミュージアムを見て思ったのは、ニコンの物作りって、1番最初のところから今までがつながっているということ。レンズをベースにずっと続いている、その中にカメラがある……と感じて、この会社はすごいなと改めて思いました。それでいて新しい製品分野へのチャレンジ意欲も旺盛でニコンらしいところ。
豊田: カメラ屋というより、光学屋というイメージですよね。レンズもそうですが、ファインダーの覗き心地にこだわってきた、それがミラーレス時代にも踏襲され、ラインアップの上から下まで現れています。「Z6III」「Z50II」クラスの製品にも、道具としての質感の高さが発揮されていて、そこもニコンらしいところ。変な動作がなく安心できる点を考えても、さすが報道でもまれてきただけあるなと思います。
阿部: あとどのレンズも良いよね。外れがない。特にZになって特色が現れてきたように思います。マウントを変えた効果でしょう。しかもここにきて「NIKKOR Z 35mm f/1.4」や「NIKKOR Z 50mm f/1.4」が出るとは(笑)。どちらも面白いレンズですよ。「Zレンズにハズレなし」といわれる中、開放から絞っていくと画質が変わっていくレンズを出すなんて……と思ったら、以前からDCニッコールとかで、そういう楽しさを教えてくれていましたね、ニコンは。ボディもそうですが、Zの幅が順調に広がりつつあるのを感じています。