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「ProGrade Digital」って何?――知名度急上昇中のメーカーに聞いた“メモリーカードのこれから”
未来のカメラに必要とされるメモリーカードとは
2024年7月10日 17:00
積極的な製品展開と、精力的なカスタマーサポートで近年急速に知名度を高めているメモリーカードメーカーがある。日本での販売は2019年に開始したばかりの「ProGrade Digital」だ。
CFexpress 4.0などの新規格にもいち早く対応する同社によると、メモリーカードの進化や変化というものが、“デジタルカメラの進化”と密接に関わっているのだという。
そこで今回、同社日本代表の大木和彦さんに「ProGrade Digitalって何?」をテーマにインタビューを敢行した。どんなメンバーで構成されているのか、そして彼らが目指しているものは何なのか。メモリーカードの未来を一緒に考えていただければ幸いだ。聞き手は、ProGrade Digital製品のユーザーでもあるカメラマンの中原一雄さん。(編集部)
ProGrade Digitalとは――経験豊富なプロフェッショナル集団
——中原一雄さん(以下、中原):最近はメモリーカード選びで必ず候補に入るくらい「ProGrade Digital」は定番のブランドになったと感じていますが、日本で販売を開始したのはミラーレスカメラが主流となった2019年(創業は2017年12月)と比較的最近です。どのような経緯で設立された会社なのでしょうか?
大木和彦さん(以下、大木):ProGrade Digitalは“偶然”と“勢い”で生まれた会社です。
ProGrade Digitalを創業する直前まで、創業者のウェス・ブリュワーは、米国大手半導体メモリーメーカー・Micron(マイクロン)の持つ「Lexar(レキサー)」ブランドの総責任者でした。2017年9月に「Lexar」が売却されたため退職し、「自分たちの経験を活かしたユニークなメモリーカードビジネスをやらないか?」と仲間を募って設立したのがProGrade Digitalです。
——中原:売却されたLexarに残らず、独立することを選んだのですね。「自分たちの経験を活かしたユニークなメモリーカードビジネス」とはどのようなものでしょうか?
大木:今のカメラに必要なメモリーカードだけではなく、“未来のカメラに必要とされるメモリーカード”をつくることです。
メモリーカードは規格品ですので、作るだけであれば難しくはありません。しかし、未来のカメラに必要とされるメモリーカードを企画・提案し、実際に必要とされた、という結果をつくるのは簡単ではありません。カメラが進化していくプロセスの中で、メモリーカードがどのような役割を果たしてきたか、あるいは果たすことができるか。それらを技術的にも、経験的にも知っている必要があります。
——中原:具体的にどのような技術や経験がメモリーカードメーカーに必要だと考えていますか?
大木:大きく分けて3つあります。
1つめは、メモリーカードの主要部品であるフラッシュメモリーを深く理解している点です。
当社の主要メンバーは、フラッシュメモリー大手のMicronとSanDisk(現ウエスタンデジタル)での経験が長く、フラッシュメモリーの技術的方向性と、メモリーメーカーの事業指向を理解しています。メモリーカードの未来は、フラッシュメモリーの未来と切り離して考えることはできません。
——中原:確かに今のCFexpressはパソコン用のSSDにかなり近く、両者ともすごい勢いで進化していますよね。フラッシュメモリーのロードマップを知らずに、未来のメモリーカードの製品開発はできない、ということですね。
大木:ふたつめは、カメラメーカーとの長いパートナー関係です。
SanDiskとLexarは、長くメモリーカードブランドの双璧でしたから、カメラメーカーと情報交換を重ね、カメラの進化に必要な製品を開発・販売してきた経験があります。この経験と知識は、結果として、パートナー関係に関わってきた個々人に蓄積されています。
——中原:独立したばかりの会社にもかかわらず、巨大なカメラメーカーと短期間でパートナーシップを築けたのはそれまで蓄積してきた技術者同士の関係性だったのですね。ウェスさんはじめ、創業メンバーが本当に業界のキーマンだったことがうかがい知れます。
大木:最後は、世界中の多くのプロフェッショナル写真家や撮影家の方々との交流です。
多くのプロフェッショナルやハイアマチュアの方々とのコミュニケーションルートがあることによって、実際にメモリーカードがどのように扱われているか、今後どのような製品が求められているかといったことを知ることができます。
最も重要なことは、“現場”を継続的に知ることによって、どのような未来の製品が、どのように彼らのワークフローを改善できるか、それを継続的にシミュレーションできることにあります。
未来のカメラに必要とされるメモリーカードとは
——中原:さきほど「未来のカメラに必要とされるメモリーカードをつくること」を目指していると仰っていました。これまでの事例ではどのようなカードがそれにあたりますか?
大木:一番の成功例は、pSLCメモリー搭載の「CFexpress Type B COBALT 325GBカード」(2020年2月発売)です。
CFexpress規格が成立した2018年時点から、CFexpressカードの採用により、デジタルカメラはRAW写真での無限高速連写や8K RAW動画記録ができる高性能カメラに進化していくと考えていました。しかし、当時のフラッシュメモリー技術では、持続書込み速度が落ちないpSLCメモリーを採用する必要がありました。
——中原:pSLCメモリーは産業用の高信頼性メモリーのイメージだったので、当時民生用のメモリーカードに採用されると聞いたときは驚きました。かなり高コストなメモリーですよね。
大木:pSLCは、TLCの3倍の容量を必要としますので、容量単価も必然的に3倍になります。ビジネスリスクもありましたが、CFexpressカードの普及には、カメラの驚くような進化が一番効果的だと考え、pSLC搭載カードを「COBALT」と名付け、カメラメーカー各社にサンプル配布しました。
pSLCはセルあたり1ビットのデータを保存し、TLCはセルあたり3ビットのデータを保存する。pSLCは、TLCと比較して簡易な保存方法のため書き込み速度は速いが、同容量を保存する場合には3倍のセルが必要で、その分高コストとなる。
——中原:高価なCOBALTカードのサンプル配布とは気前が良いですね。
大木:カメラメーカーのエンジニアの方々にCOBALTの高速性能を体感してもらいたかったので気前よく配りました。
その結果として、キヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1DX Mark III」で、RAW+JPEGラージでの1,000枚以上連写や、5.5K RAW動画記録が実現され、その後のミラーレスカメラ「EOS R5」における8K RAW動画への対応に繋がりました。それからまもなくニコンの「Z9」、パナソニックの「LUMIX GH6」、富士フイルムの「X-H2S」など各社からCOBALTの高速性能を活かすモンスターカメラが発売されています。
——中原:今ではpSLC搭載CFexpressカードは多く見られますが、一時期は高速カードといえばCOBALT一択でしたよね。もし御社がCOBALTカードにいち早く取り組んでいなかったら、どうなっていたでしょう?
大木:これらモンスターカメラのスペック、特に動画は異なるものになっていたかもしれません。
COBALTは、デジタルカメラの標準スペックに大きな進化をもたらしましたし、ProGrade Digitalのブランド認知度およびイメージの向上に大きく貢献してくれました。
——中原:最近は超高速なCFexpress 4.0カードでも、TLCを採用したGOLDカードが主流になっている気がします。COBALTカードの今後はどうなりますか?
大木:高速SDカードにはまだpSLCが必要なので継続ですが、CFexpressのCOBALTは在庫限りで販売完了となります。
TLCメモリーの技術進化で書込み速度が劇的に向上し、COBALTと同レベルでモンスターカメラの速度要求に応えることができるようになった、という背景があります。
——中原:COBALTが終了するのはユーザーとしては少し寂しいですが、先ほど仰っていたフラッシュメモリーの進化に柔軟に対応するということですね。
大木:通常のビジネスベースであれば、同容量で3倍高いCOBALTはCFexpress用としてはいったん役割を終えたと考えています。
今後はCFexpress 4.0規格カードも普及が加速するでしょうし、カメラも対応すると思います。TLC搭載の高速バージョンとなるCFexpressカードは「IRIDIUM(イリジウム)」と名付けて新たに発売します。
——中原:ブランドの確立したCOBALTにこっそりTLCメモリーを搭載して存続するのではなく、新たな高速シリーズを作るのは御社らしいですね。「IRIDIUM」の登場が楽しみです。在庫限りのCFexpress COBALTはどのように売り切るのですか?
大木:7月11日(木)から始まるAmazon Prime Day先行セールから20%OFFで販売します。
役割を終えたと言いましたが、pSLCの価値は変わりません。コストを考えれば相当なお買い得ですので、是非この機会にお買い求めください。
——中原:1ドル110円の円高だった発売当時のセールで4万円くらいで買った記憶があります。この円安で325GBが約3万2,000円はかなりお買い得ですね。
Refresh Proについて――ファームウェアアップデートで進化し続けるメモリーカード
——中原:ほかに「未来のカメラに必要とされるメモリーカード」の実例はありますか?
大木:当社製カードリーダーとセットで利用するメインテナンスソフト「Refresh Pro」に、CFexpressカードやSDカードなど当社製メモリーカードのファームウェアアップデート機能を搭載したことです。
メモリーカードも、パソコンやスマートフォンのようにお客様の手元でアップデートできるようにしたい、というのはSanDisk、Lexar時代を通じて私たちの長年の願望であり、夢でした。今後は、ご自宅でアップデートができること、が製品選択の1つの重要な要素になる可能性があります。
——中原:ファームウェアアップデートをすることでユーザーはどのようなメリットが得られますか?
大木:カード購入時には存在しなかった、未来のカメラや未来の新しい機能との互換性が向上し、メモリーカードの安心・安全性が高まることです。ファームウェアアップデートにより、カードは進化し続けることができます。
ファームウェアアップデートは新しいカメラや新しい機能との互換性向上のために行われます。同じ製品でもファームウェアのバージョンが異なれば、互換性レベルが異なる可能性があります。全てのカードを最新ファームウェアにアップデートできるということは、全てのカードの品質を揃えることができることになります。
当社の例では、過去4年間、全てのカードのうちのいずれかのカードで、四半期毎に平均1.5回のファームウェアアップデートを行ってきました。カメラとカードの高性能化により、ファームウェアアップデートの頻度と重要性が増していると言えます。
——中原:メモリーカードのファームウェアアップデートで互換性が上がった具体例はありますか?
大木:最近の例では、CFexpress 4.0 Type B GOLD 1TB、2TBカードの最新ファームウェア(ELFMFB.5)がREDのデジタルシネマカメラ「KOMODO-X(1.2.5)」および「V-RAPTOR(1.7.5)」に対応した例があります。
——中原:買い直しをせず、ファームウェアアップデートだけでカメラメーカーのお墨付きをもらえるのはユーザーにとってすごく有り難いですね。しかもRefresh Proは先日無償化されてタダでファームウェアアップデートできるようになりました。これまで有償だったものを無償にした狙いとは何でしょうか?
大木:ProGrade Digital製品を持つより多くのお客様に、できれば全てのお客様に、ファームウェアアップデートを含めたRefresh Proのメリットを受けていただきたいからです。
当初有償にしていたのは、継続的に開発コストがかかるため、サービス継続コストを少しでも回収することで、継続性を維持したいと考えていましたためです。しかしながら創業から6年が経ち、一定のビジネス規模に達しましたので、無償にしてより多くのお客様に活用していただく方が、会社全体として継続性の維持に貢献できるとの判断に至りました。
——中原:ユーザーの反響はどうですか?
大木:既に、当社製カードリーダーをご利用のお客様の約4.5%の方にご利用いただいております。無償化の発表から1カ月あまりですので、かなり早い普及速度だと思います。
とはいえ「全てのお客様に」という目標にはまだまだ遠いので、サニタイズとヘルスを合わせた3大機能のメリットを伝える努力をしていきたいと思います。
——中原:私もさっそくファームウェアアップデートをしてみましたが特に違いを体感出来ていません。これは将来起こるかもしれなかった不具合の原因が減ったと思って安心しておけばいいですか?
大木:メモリーカードはカメラのアクセサリーですのでファームウェアアップデート後に違いを全く体感できず、問題も起こらず、そのまま性能通りに使用できていて、カードの存在を忘れるぐらいであれば、それはむしろ最も理想的な撮影環境にあると言えます。
——中原:それは良かったです。安心しました。確かに、メモリーカードが気になるときは、何か問題が発生したときが多いですね。いつもより速度が遅いとか、容量が足りないとか。エラーが発生したとか。メモリーカードの存在を忘れられるときが最も理想的、なるほどと思いました。
サポート体制は「即時対応・即断即決」
——中原:最近のメモリーカードは1枚数万円するものが多いので、個人的には速度だけでなくサポートの質もカード選びで気にするようにしています。SNSでしばしば「ProGrade Digitalはサポートがすごい」という話題を目にしますが、どのようなサポート体制になっているのでしょうか?
大木:日本では、お客様サポートは私が担当しています。
——中原:サポート対応のスタッフではなく、代表自ら対応しているということですか??
大木:生まれて間もない会社の製品を選んでくれたお客様のトラブルを、少しでも早く解決したいという思いから始まっています。「即時対応・即断即決」が必要なので私が担当することにしました。
——中原:私は幸い、まだお世話になったことはありませんが、交換品を先に送ってくれたり、データ復旧をしてくれたという話も聞いたことがあります。これもホントですか?
大木:本当です。お客様のご不便を1日でも早く解決するために、基本的に交換品を先にお送りしています。データ復旧も、購入日から3年間の保証期間内であればご希望された場合には、当社で実施しています。保証対応ですからもちろん無償です。
——中原:カメラメーカーのプロサービス並の対応ですね。私が今まで経験してきたことのなかで、ここまでサポートの充実したメモリーカードメーカーは知りません。なぜそこまでサポートに力を入れるのですか?
大木:実際にサポートを担当し、お客様と直接コミュニケーションする楽しさを感じています。プログレードデジタルの製品はオンライン(Amazon)でのみ販売しているため、お客様と“乾いた関係”になりやすいとも言えます。そこでサポートでどれだけ“温かい関係”をつくり出せるか、それも「サポートも“プログレード”」のチャレンジだと考えています。
——中原:私も国内参入直後に試しに使ってみて以来、ProGrade Digitalを愛用しています。これまで使ってきた印象は「速くて誠実」です。最新の規格にいち早く対応してくれますし、カードの公称速度や価格にも透明感があります。これらについてこだわっている点があれば教えてください。
大木:創業者ウェス・ブリュワーの影響が大きいです。2つの側面があります。
彼は、シーゲート、サンディスク、マイクロン(レキサー)と記録メディアのトップ企業で30年以上のキャリアがあり、いち早く最新の高速メディアを発売する“早さ”と“速さ”が決め手ということをよく知っています。
ふたつめは、学生時代からメイド・イン・ジャパン製品(エレクトロニクスのソニー、バイクのホンダ、カワサキなど)が大好きで、日本企業の真面目さ、誠実さに学ぼうという姿勢があります。お客様やパートナー企業との信頼関係がビジネスの成功に最も重要だと考えています。
将来のビジョン
——中原:最後にProGrade Digitalが目指す未来のビジョンや、今後の展望について教えてください。
大木:当社のビジョンは「プロフェッショナル向けに最高性能のプロ仕様のメモリーカードとワークフローソリューションを提供すること」とされています。言葉に過ぎないこの目標を、お客様の手元で具体的に実現できる製品やサービスを提供していくことが今後の展望です。
本日お話ししてきた「未来のカメラに必要とされるメモリーカード」も「Refresh Pro無償化」も「プログレードのサポート」も、目標を実現するための製品やサービスです。
いち早く最高性能の製品を発売する姿勢を持ち続け、かつ販売・購入時点だけ最高性能でOKではなく、お客様の手元で最高性能を維持・向上できるソフトウェアを提供し、トラブル発生時には即時・即断・即決できるサポート体制、このサイクルをグルグル回して、ProGrade Digitalを選んで良かった! 正解だった! と思っていただける会社であり続けたいと考えています。
——中原:これからもカメラの性能を100%引き出してくれるカードはもちろんのこと、撮影から取り込みまで私たちカメラマンのワークフローを快適にしてくれる安心のサービス、製品の登場に期待しています!