いま“知っておきたい”トレンドワード

CFexpressってどんなカード?…買う前にチェックしたいポイントとは

昨今の技術の進歩は目まぐるしく、気づいたら知らない言葉が増えている、ということはありませんか? この連載では、よく聞くけど何となくしか知らない、気になっているけど今更聞きにくい、といった「トレンドワード」を易しく解説していきます。(編集部)

CFexpressってどんなカード?

最近のデジタルカメラに使われるメモリーカードに大きな変化が起きています。その中心にいるのがCFexpressカードです。

数年前まではほとんどのカメラにはSDカードが採用され、一部の上位機にXQDやCFastといった高速カードが使われていましたが、これらは現在、事実上CFexpressカードに統一され、今までSDカードを使用してきたグレードのカメラも徐々にCFexpressカードを採用する事例が増えてきています。

すでにCFexpressカードを使用している読者も多いと思いますが、今一度CFexpressとは何なのか、どのような特徴を持っているのかを簡潔に整理してみます。

CFexpressカード登場の歴史

まずはCFexpress誕生の経緯を簡単におさらいしてみましょう。

実はCFexpressにもバージョンが存在しており、初期のCFexpress 1.0は2017年にCFA(CompactFlash Association)で策定されました。ちょうど、高速メモリーカードがCFastとXQDに分裂していた時代です(この両者もCFAにて規格の策定が行われた)。2年後の2019年にはCFexpress 2.0が策定され、これが現在(2023年)の最新バージョンとなります。

CFexpress 2.0ではType AからType Cまで3つの仕様が規定され、多くのメーカーが採用するCFexpress Type Bでは理論上の最大転送速度が2,000MB/sという超高速性能を実現しています。小型のType A(最大転送速度が1,000MB/s)は今のところスチルメインのカメラとしては、ソニーのαシリーズのみに採用されています。

CFexpressはXQDと同じサイズ、形であり、使用するインターフェイスもPCI expressと共通であったため、当初はXQD採用機がファームアップすることでCFexpressに対応しました。初めての対応機はパナソニックのLUMIX S1R(2019年11月にファームアップ)で、直後にニコンD5やZ 6/Z 7なども対応しました。

しかし、XQDとCFexpressは通信するためのプロトコルが異なっていたため(日本語と英語のような関係)、XQDネイティブ機では通信時に翻訳が必要となり、CFexpressの高速性能がなかなか発揮できない状況でした。

はじめてのCFexpressネイティブカメラは2020年2月に発売されたキヤノンの「EOS-1D X Mark III」です。それまでCFastを採用してきたキヤノンもCFexpress(Type B)を採用したことで、次世代高速カードは事実上CFexpressに統一されることが決定づけられ、それ以降カメラの高速カードにはCFexpressが採用されています。

なぜCFexpressが必要になったのか

当時主流のSDカードは、高速なUHS-IIでも書込み速度が最大で250MB/s前後、XQDやCFastも450MB/s前後。一方で、すでにカメラの連写性能は15~20コマ/秒に達しており、「カメラ内で生成するデータ量>>メモリーカードの書込み速度」という状況でした。

メモリーカードが、カメラが出来ることの幅を狭めてしまっていたとも言えるでしょう。

そんな中で圧倒的な高速化を実現しつつ、多くのメーカーが参入できる汎用性を持ち、パソコンの世界のような素早い変化に対応出来るように策定されたのがCFexpressであり、あっという間に次世代高速カードの座を得ることとなりました。最大転送速度は2,000MB/s(TypeB)と従来の数倍という圧倒的な速度を持つカードで、これならカメラ側の性能をしっかり引き出すことができます。

以下は現在使われているCFexpress 2.0とSDカードのスペック比較表です。

CFexpress
Type A
CFexpress
Type B
SD UHS-ISD UHS-II
外形寸法(mm)28×20×2.838.5×29.8×3.832×24×2.132×24×2.1
インターフェイスPCIe 3.0/1レーンPCIe 3.0/2レーンUHS-I(独自)UHS-II(独自)
プロトコルNVMe 1.3NVMe 1.3独自独自
理論最高速度1,000MB/s2,000MB/s104MB/s312MB/s

パソコンに詳しい方ならCFexpressの仕様がパソコン用のM.2 NVMe SSDとほとんど同じことがわかるでしょう。実際、パソコン用のNVMe SSDをCFexpress用に変換するためのアダプターが売られているほど中身はほぼ同じなのです(後述する互換性のために個人的に使用はおすすめしませんが)。

PC用パーツにも使われる汎用規格を採用することで、コントローラーなどの必須部材の調達も容易になったほか、今後、より高速なPCI express 4.0や5.0への拡張の余地を残しているのも特徴です。

また、SDカードとは異なり、端子が剥きだしではなく、金属プレート採用で堅牢かつ放熱性も高い筐体であるというのもポイント。

CFexpress選びで重要なポイントは?

これからCFexpressカードを選ぶ場合は、「メモリーの種類」、「最低継続書込み速度」、「カメラメーカーの推奨リスト」の3つに着目すると良いでしょう。

CFexpressに用いられるメモリーは一般的な「TLC」と「pSLC」に大別されます。TLCはメモリー内のセルに3bitのデータを記録する方式で、pSLC方式はTLC用のメモリ1セル内に贅沢に1bitのデータを記録する方式です。

pSLCは容量単価が高い一方で、高速性能や耐久性がズバ抜けているため、CFexpressの性能をしっかり引き出すことが出来ます。TLCは安価ですが、特に低容量モデルでは書込み性能が思ったほど出ない場合がある点に注意しましょう。ただし、最近はProGrade DigitalのGOLD 512GBなどTLCでも実写性能がpSLCモデルに匹敵するものも現れています。

続いて大事なのは最低継続書込み速度です。SDカードでいうビデオスピードクラス(V60やV90といった表記)に近いものだと思ってもらえればOK。メモリーカードのラベルに書いてある「○○MB/s」という速度は瞬間的に出る最高速度であり、その速度が継続する訳ではありません(一部のモデルを除く)。特に4Kや8Kといった高ビットレート動画や激しい連写を多用する場合は最低の書込み速度がどのくらいであるかをチェックする必要があります。最低継続書込み速度が500MB/s以上あれば多くのカメラで快適な撮影ができるはずです。

最後に大事なのがメーカーの推奨リストです。現在はまだCFexpressの歴史も浅く、カメラとカードの間で相性の問題が生じる場合があります。パソコンとカメラでは動作環境が大きく異なるため、CFexpressを適切に動作させるためにはカメラ用のチューニングが必須になるのです。安定動作させたいのであればカメラメーカーが公表する推奨カードリストの中から選ぶのが確実。目星を付けているカードが推奨リストに無い場合は、少なくとも、メモリーカードメーカーが公表する対応表くらいはチェックしておきましょう。

その他、長時間の動画撮影を行う人ならカードの発熱性能、比較的高価なカードなので万が一の時の保証体制などもチェックしておくと良いでしょう。

CFexpressはどんな人に必要なのか

筆者はCFexpressが世の中に出てきた時期から長くCFexpress対応カメラを使ってきました。CFexpress使用のメリットを一言で言うと「メモリーカードの存在を忘れて撮影に集中できる」に尽きると思います。

SDカード機では頻繁にアクセスランプが点灯し、高速連写ではバッファーが詰まってしまうこともしばしば。大事な撮影ではカードの状態を常に意識しながら撮影することが求められます。CFexpressならよほど激しい連写をしなければバッファーが詰まることもないですし、アクセスランプもすぐに消えてくれるため、カメラにカードがあることを忘れてしまうくらいストレスなく撮影できます。撮影後のデータ取り込みも一瞬です。

もちろん、SDカードで全く不自由していないという人が急いで乗り換える必要はありませんが、メモリーカードによるカメラ機能の制約を感じたことがある人はCFexpressを使ってみるのをおすすめします。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主宰。ライフワークは写真をより楽しむための情報を発信すること。2021年より北海道に移住して活動中。