コラム

今、フルサイズミラーレス3社に思うこと

ニコン/キヤノン/ソニーフルサイズ戦国時代に寄せて

いよいよ9月28日に発売されるニコンの「Z 7」。キヤノン「EOS R」も10月下旬の発売を控えるなど、この秋はフルサイズミラーレスカメラの歴史が大きく進む。一方で、着々と世代を重ねてきたソニー「α」の存在も、ここにきてさらに重要性を帯びてきた。

本稿ではソニーαユーザーでもあり、ニコンZとキヤノンEOS R双方の発表会で実機を触りまくっていた写真家・落合憲弘さんに、フルサイズミラーレスカメラについての率直な印象を綴ってもらった。

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思いがけず相次いだ、大物フルサイズミラーレス機の発表。

「ついにきた!」「待ちくたびれた!!」「もう遅いよ……」

心に抱く思いはそれぞれだろうけれど、純粋に心を躍らせ発売日を待っている人にとっては、ケツがムズムズしてタマらない日々の真っ最中であるハズ。タイヘンだよね、「待つ」って。

かくいう私は、フルサイズミラーレス機を有する各社がそれぞれ見せる個性あふれる展開に対し、わき上がるさまざまな感情を、少々持てあまし気味の今日この頃だ。今回ここでは、そんな思いを気の向くままに、思うことをブチまけてみたい。

とはいえ私もオトナである。こういう場での発言には、それなりのNDフィルターをかけることは忘れないつもりだ。そして、もし「偏見フィルター」がかかっていたとしても、それはまぁ署名記事ということで、お許しいただきたく……。

慎重な姿勢を示したニコンZの発表

「最大限のスピードでこの時期でした」なのか、「満を持して!」なのかは、神と中の人のみぞ知る真実。ただ、偶然なのか必然なのか、はたまた相手の出方を見て発表日に微調整を加えたのかは不明ながらも、ニコンZとキヤノンEOS Rの発表日は、互いに互いの爆風を受けそうなほどに近かった。

石橋を叩きながら顕微鏡で微細な割れ目の安全性を確認しつつのスタートと見えたのが、ニコンZ。ニコンZの高画素と万能キャラの2モデル態勢は、ソニーαのラインナップが「総合的な攻撃力を高めるためのアグレッシブな態勢構築」と感じられたのに対し、後発のニコンではどうしても「守り」の姿勢に見えてしまう。いや、それは悪いことではない。悪くはないのだけど、よくいえば堅実、俗な見方をすると強烈なサプライズには欠けていた(今後登場するNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctは攻めてますが)。

8月23日の発表会より

Z 7

Z 6

一眼レフカメラをディスらず、昔からのニコンユーザーに新たな価値を提供し、しかもできることならば他社に流れたユーザーを取り戻したい……。そういった複雑な思いのバランスポイントが、まず、このようなカタチを生んだのであろうから、まぁ致し方のないところではある。難しい選択だったハズだ。当事者の立場に立つことを想像するだけで胃が痛くなる。

ニコンZが本領を発揮するのは、高速モデルをリリースしてからか。「いや、そちら方面は一眼レフカメラに……」なんてことをこの先も言い続けるつもりだとしたら、相応の覚悟が必要だ。魑魅魍魎が跋扈するミラーレスの世界である。堅実で、想定内で、マジメで真っ直ぐで、が許されるのは最初だけであり、「いい人ね」で終わってしまうパターンが一番マズイのだ。私はそれで、過去の恋愛において何度か失敗してきている(話が違う)。

2019年に発売が予定されているNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctと24-70mm f/2.8、14-30mm f/4(モックアップ)

ボディと同時に魅力的なレンズが揃うEOS Rシステム

ニコンZに"被せるように"発表されたのがキヤノンEOS R。製品の発表会に足を運んだとき、「ニコンZの発表を見てからスッタモンダを経ての今日の発表会なんだろうなぁ」と直感したのは、お得意の妄想癖が暴走しただけのことなので気にしないで欲しい。

EOS Rシステム発表会の様子

EOS R

EOS Rに対する第一印象は、とても良好だった。でも、それはEOS Mデビュー時の個人的な印象が最悪だったことの反動が効果的に作用してのものだったともいえる。つまり、EOS Rには、EOS Mで得られた教訓や反省がしっかり活かされていると感じ、その姿勢に共感を覚えたのだ。

例えば、マウントアダプター。コントロールリングの追加だけでも「あー、それ、よく考えてるよねぇ〜」ってなるところ。更に可変NDフィルター内蔵だー、偏光フィルター内蔵だー、っていわれた日にゃ「うわー、そうきたかー」ってな感じで思わずニヤリ。マウントアダプターを使いたいがためにEOS Rを手に入れるなんていう、一種の逆転現象すら起こりかねない、ジツにイイ感じの外堀の固め方なのだ。

マウントアダプター EF-EOS R

コントロールリング マウントアダプター EF-EOS R

ドロップインフィルター マウントアダプター
EF-EOS R ドロップイン 円偏光フィルター A 付

ドロップインフィルター マウントアダプター
EF-EOS R ドロップイン 可変式NDフィルター A 付

ほかにも、RF28-70mm F2L USMという、「ならでは」なレンズを発表段階でちゃんとカタチにしていたところ、そしてそういう飛び抜けたレンズと一緒にRF24-105mm F4L IS USMをしっかり揃えているところも巧いと思った。「新マウントミラーレスカメラならではの凄いレンズは今、作ってますからぁ〜」では、やっぱりチト弱いのである。

RF28-70mm F2L USM(左)とRF24-105mm F4L IS USM(右)

ただカメラとして、モノとしての仕上がりは、レリーズ感触や作動音にまできちんとデザインの配慮が行き届いているように感じられるニコンZの方が明らかに上だ。そのあたり、EOS Rは良くも悪くもキヤノンの中堅EOSそのものといった味わい。外装の質感、使用時の手応えや音に価格なりの価値を見いだせるかどうかは、受け手の経験値や趣味嗜好で大きく異なることになるだろう。たぶん、昔からのキヤノンユーザーは気にならないと思うのだけど。

EOS Rシステム

気になるソニーの動静

一方、ソニーαの現状は、フルサイズミラーレスカメラというくくりにおいては完全に独走状態にある。二大巨頭がようやく追撃を開始したものの、正直、現状では力及ばずの印象が拭えない。少なくとも、ブランドイメージや性能面の官能性を排除し、カメラの機能だけを評価するならば、追撃者たちの第一弾はソニーαの牙城を崩すどころか、届いてすらいないと思うのだ。初代フルサイズミラーレスαが我々の前に姿を現したとき、こんな世の中になることを誰が想像しただろう。

ここで逃げ足をさらに速めれば、他社の追撃をかわすことはまだ容易だ。なにより、イメージセンサーの性能が1歩も2歩も先を走っている。もはや画質面をうんぬんする時代ではなく(どの機種もすでに十分な実力を備えているということ)、例えば高速性を見るならば、EOS RもニコンZも、どちらも動体を10コマ/秒で追える(AF・AE追従で連続撮影できる)ようになるのは、まだまだ先の話。今回のスペックを見ても、そのあたりの「苦しさ」は明らかだ。

AE/AF追従で最高20コマ/秒の高速連写を実現したα9。

とはいえ、ソニーからしてみれば直撃は免れたものの、衝撃波によるダメージは少なからず受けているとの認識であるはず。そもそも、キヤノンとニコンがこの領域に参入してくることを最も恐れていたのはソニーである。だから、フルサイズα投入以降、命がけの全力疾走でここまできた。プロサービスの立ち上げなどを含め、必死の形相で地盤を固めてきたのだ。それは、まさしく今この瞬間のためだったはず。本当の勝負はこれからなのだ。

ソニー・イメージング・プロ・サポートのトップページ。

だからこそ、ソニーは速やかに引き離し策を発動するに違いない(←期待をこめた無責任な妄想)。ということは、次のニューモデルにはα9を越える過去最大のサプライズが……????(←同)キヤノンとニコンのフルサイズミラーレス参入は、古くからのキヤノンファン、ニコンファンを喜ばせるのと同時に、ソニーの次期モデルに対する期待をいたずらに高める効果まで発揮してしまったようだ。それがキヤノン、ニコンの買い控えにつながってしまうなどという皮肉な展開になっていないことを祈るばかりである。

落合憲弘

(おちあいのりひろ)適材適所をイイワケに、1型からフルサイズまでを分け隔てなく使う浮気者。各社フルサイズミラーレス機の勢力構図については、3年後の動静がカギを握ると判断しており、少なくとも現時点においては「騒がず、踊らず、決めつけず」の姿勢を決め込むことにしているのだが果たして……? 1988年よりフリー。2018年カメラグランプリ外部選考委員。