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α9とα7 IIシリーズの違いを見てみよう

連写、AF機能が大幅進化 操作部材もより充実

α9

ミノルタ時代からαシリーズの最高峰には「9」が冠されてきた。その伝統は、もちろんソニーにも継承されている。一眼レフカメラではα900、トランスルーセントミラーカメラのα99、α99 II。そして、ミラーレスカメラにもいよいよ「9」が登場した。

ソニーα9は、α7 IIシリーズをベースに、裏面照射型の積層型CMOS撮像センサー「Exmor RS」を搭載。ブラックアウトなしで最高20コマ/秒の高速連写を可能にしたハイエンドの35mmフルサイズミラーレスカメラだ。5月26日の発売が予定されており、実売価格は税別で50万円(税込54万円)程度と予測されている。

α9の登場でソニーのフルサイズミラーレスカメラのラインナップは合計7モデルになった。基本的なデザインが同じで、パッと見の印象も似た7モデルだが、それぞれに違っている部分もあって、どれがいいのか考え出すと悩ましい。

が、新しいα9については、まだ細かい判明していない部分もあるので、そのあたりは想像力でおぎないつつ、α7 IIシリーズとのスペック比べをやってみることにした。

α7R II
α7S II
α7 II
α9α7R IIα7S IIα7 II
発売日2017年5月26日2015年8月7日2015年10月16日2014年12月5日
実勢価格税込54万円(店頭予想価格)税込35万円前後税込33万円前後税込16万円前後
画素数有効2,420万画素有効4,240万画素有効1,220万画素有効2,430万画素
手ブレ補正効果5段分4.5段分4.5段分4.5段分
常用最高感度ISO51200ISO25600ISO102400ISO25600
拡張最高感度ISO204800ISO102400ISO409600ISO25600
測距点(位相差)693点339点117点
測距点(コントラスト)25点25点169点25点
連写速度約20コマ/秒(電子シャッター)約5コマ/秒約2.5コマ/秒5コマ/秒
カードスロットSD×2SD×1SD×1SD×1
撮影可能枚数(EVF)約480枚約290枚約310枚約270枚
撮影可能枚数(液晶モニター)約650枚約340枚約370枚約350枚
外寸126.9×95.6×63.0mm126.9×95.7×60.3mm126.9×95.7×60.3mm126.9×95.7×59.7mm
重量(本体のみ)約588g約582g約584g約556g

撮像素子

α9に搭載されている撮像センサーは、裏面照射構造を持つ積層型の「Exmor RS CMOS」だ。有効画素数は2,420万画素、ローパスフィルターあり仕様(と思われる)なのはα7 IIと同じだ。

高精細タイプのα7R IIは裏面照射型の有効4,240万画素のローパスフィルターレス、高感度タイプのα7S IIは有効1,220万画素のローパスフィルターありとなっている。

従来のExmorとの違いは処理の速さで、α9のExmor RSは、α7 IIのExmorと画素数は同じながら、読み出し速度が20倍以上に向上。画像処理エンジンのBIONZ Xも、名前は従来と同じだが、処理能力は約1.8倍に向上しているという。このスピードの差が如実にあらわれているのがAFと連写のスペックだ。

AF・連写

α9のAFは693点の撮像面位相差検出と25点のコントラスト検出を併用するファストハイブリッドAFで、画面の約93%をカバーする。位相差117点のα7 IIや399点のα7R IIと比べると(α7S IIは169点のコントラスト検出AFを搭載する)、測距点数の多さもさることながら、カバーエリアの広さに圧倒される。ハードウェアとしては史上最強と言っていいだろう。

測距点の配置

これだけ測距点があるにもかかわらず、α9ではAFとAEの演算を実に最大で毎秒60回も実行。最高1/32,000秒の電子シャッターと組み合わせることで、20コマ/秒もの高速連写を実現している。Aマウントレンズ装着時も撮像面位相差検出AFで最高10コマ/秒連写が可能だ。

ただし、メカシャッター使用時(最高速は1/8,000秒)は5コマ/秒となり、これはα7 IIシリーズ(α7S IIだけは速度優先連続撮影時の数字)と同じスピードである。

連続可能枚数

驚くべきは速さだけではない。バッファメモリーの大容量化によって、LサイズのJPEG画像なら画質にかかわらず362コマまで、14bit圧縮RAWでも241コマ(RAW+JPEGの場合は222コマ)まで連続で撮れる。

ちなみにキヤノンのフラッグシップ機であるEOS-1D X Mark IIは14コマ/秒(ライブビュー時は16コマ/秒)、CFastカード使用時でRAW画像を170コマまで。ニコンのフラッグシップ機であるD5は12コマ/秒、XQDカード使用時で14bitロスレス圧縮RAWの場合は200コマまでとなっている。

税込で70万円ほどもするハイエンドの一眼レフカメラでこうなのだから、α9の連写パフォーマンスがいかに高いか、そしていかにリーズナブルかが理解できる。

電子シャッター

しかも、電子シャッターなのでほとんど無音。作動音を気にせずに撮れるのも強みだ。一眼レフがその作動音のせいで撮影が許可されなかったり、防音ケースの使用を余儀なくされるようなシーンでも、α9なら問題なく対応できる。その手の撮影の多いカメラマンにとっては、電子シャッターは大きなアドバンテージになりうる。

また、電子シャッターにまつわるローリングシャッター歪みが抑えられるアンチディストーションシャッターであることも見逃せない。これまでより動きの速い被写体に対応できるのも魅力のひとつだ。

感度

感度の設定範囲は常用範囲でISO100~51200。拡張範囲ではISO50~204800。これは高感度仕様のα7S IIから1段ずつ低い数字で、裏面照射型の強みと、高速化したBIONZ Xのおかげだと考えていいだろう。

なお、α7 IIは常用でISO100~25600、拡張時はISO50が設定できる。α7R IIは裏面照射型だけあって多画素ながら常用でISO100~25600、拡張でISO50~102400としている。

動画

動画の記録方式はXAVC S(3,840×2,160、30p、100Mbpsほか)、AVCHD(1,920×1,080、60p、28Mbpsほか)、MP4(1,920×1,080、60p、28Mbpsほか)。6K解像度に相当する領域から4K映像を取得。1コマ1コマをリサイズして記録することで解像感を高める手法はα6500に採用されたものと同じようだ。

なお、α7R IIとα7S IIは3,840×2,160、30p、100Mbpsの4K動画、α7 IIは1,920×1,080、60p、50MbpsのフルHD動画という仕様となっている。

記録メディア

記録メディアは、α7 IIシリーズは1スロットでSDカードとメモリースティックデュオが使える仕様だったのが、α9は2スロットになった。ひとつはSDカード専用でUHS-IIに対応。もうひとつはSD(UHS-I対応)とメモリースティックデュオに対応する。

左はα9、右はα7R II

静止画のみまたは動画のみまたは両方を2枚のカードに同時記録したり、JPEGとRAWまたは静止画と動画の振り分け記録が可能なほか、一方からもう一方へのコピーもできる。

デザイン

基本的なボディデザインはα7 IIシリーズのものを踏襲。幅と高さはほぼ同じでグリップの形状やシャッターボタンの位置なども変わっていないようだが、製品画像を見比べるとボディの厚みが増していて、グリップの山の高さもやや大きくなっている。そのため、ホールド感は若干変わることになりそうだ。

左はα9、右はα7R II

一方、重さはほとんど変わっていない。ボディ単体では588gで、これはα7S II(3機種のうちでもっとも重い)とたったの4gしか違わない。ただし、新型のバッテリーNP-FZ100が大容量化して重くなった関係で、CIPA基準の数字(バッテリーと記録メディアを含む)が46g重い673gになっている。

外装部材には、上面、前面、背面カバーおよび内部フレームにマグネシウム合金を使用。接眼部やグリップ部もカバーすることで剛性をアップさせている。また、マウント座金を固定するネジが従来の4本から6本に増え、より重量のあるレンズへの対応もはかっている。

バッテリー

ちなみにこのNP-FZ100は、α7 IIシリーズのNP-FW50の約2.2倍の容量を持ち、ファインダー撮影時で480枚、モニター撮影時で650枚の撮影が可能。

左はα9、右はα7R II

α7 IIシリーズで撮影可能枚数がもっとも多いα7S IIが310枚(ファインダー撮影時)ないし370枚(モニター撮影時)であるのに比べるとぐっと増えている。電気を食わない光学ファインダー式の一眼レフにはかなわないが、ミラーレスカメラではトップの数字となる。

操作系

左手側上面にドライブモードダイヤルとフォーカスモードダイヤル、背面にはジョイスティック状のマルチセレクター(おもに測距点選択を行なう)が新設された。

α7 IIシリーズではAF/MF/AEL切換レバーとボタンがあったのが、α9ではAF-ONボタンとAELボタンを独立して装備。右手側側面のあまり押しやすそうに思えない位置にあったMOVIE(動画撮影)ボタンも背面に移動した。

モードダイヤルにロックボタンが追加されたほか、登録したカメラの設定を呼び出せる「メモリーリコール」が2ポジションから3ポジションに増加。「スイングパノラマ」と「SCN(シーン)」が消えて、動画機能の一種である「S&Q(スロー&クイックモーション)」が追加された。

また、細かいところでは、好みの機能を割り当てられるC3ボタン(α7 IIシリーズでは右手側背面にあった)が左手側に移動。コントロールホイールが若干大型化しているといった違いもある。

手ブレ補正

ボディ内手ブレ補正は新開発の補正ユニットと、より高精度なジャイロセンサーを採用。補正効果はα7 IIシリーズ3機種が4.5段なのに対し、α9は5.0段にアップ。動画撮影時にも光学式補正を使うようだ。

EVF

EVFは視野率100%、倍率0.78倍で、これはα7R II、α7S IIと同じ(α7 IIだけは倍率が0.71倍と少し低い)。表示デバイスは0.5型の有機ELで、α7 IIシリーズの約236万ドット(1,024×768ピクセル×RGB)に対して約369万ドット(1,280×960ピクセル×RGB)へと高解像度化している。なお、表示フレームレートは標準の60fpsと高速な120fpsから選択が可能だ。

液晶モニター

3.0型のチルト式液晶モニターもα7 IIシリーズの122.88万ドット(640×480ピクセル×RGBW)から144万ドット(800×600ピクセル×RGB)に変更されている。

また、新しくタッチパネルが内蔵となり、画面に触れることで素早く測距点を移動させたりなどの操作が可能となった。

端子

左手側側面の外部端子も増強されている。α7 IIシリーズは、マイク端子、ヘッドホン端子、マルチ/マイクロUSB端子、HDMI端子を備えるが、α9にはさらに有線LAN(100BASE-TX)とシンクロターミナルが追加。有線接続による安定したデータ通信が可能になったほか、スタジオ用の大型ストロボにも対応。報道の現場やスタジオでの使用も考慮しての措置と思われる。

左はα9、右はα7R II

無線機能

もちろん、Wi-Fi機能も内蔵。NFCに対応しているところはα7 IIシリーズも同じだが、新たにBluetoothも搭載。スマートフォンなどと連携することで位置情報を取得するなどの機能が利用できる。

同梱品

ボディには、リチャージャブルバッテリーパックNP-FZ100(税別9,000円)、USB充電用のACアダプター、リチャージャブルバッテリーチャージャーBC-QZ1(税別9,800円)などが付属。USB充電と別体充電器を使って1度に2本のバッテリーが充電できるところはα7R II、α7S IIと同じだ(α7 IIはACアダプターのみが付属)。

また、同梱のアイピースカップはロック機構付きのFDA-EP18に変更されている。なお、このFDA-EP18はα7 IIシリーズやα99 IIにも利用できる。

オプション

オプションとして縦位置グリップVG-C3EM(税別3万5,000円)、NP-FZ100を4個まで装着できる外付けマルチバッテリーアダプターキットNPA-MQZ1K(税別4万2,000円)などが用意される。

VG-C3EMはマルチセレクター、AF-ONボタン、AELボタンなどを装備。NPA-MQZ1Kはカメラへの給電だけでなく(NP-FW50に対応したカメラにも利用できる)、急速充電器としての機能も持つ。一般ユーザーには縁がなさそうなアイテムだが、長時間の撮影を視野に入れて機材を選ぶプロには歓迎されるだろう。

VG-C3EMを装着したところ

また、手持ち撮影時のホールド性を向上させるアクセサリーとしてグリップエクステンションGP-X1EM(税別1万2,800円)やモニター保護ガラスシートPCK-LG1(税別3,500円)などもボディと同時に発売される。GP-X1EMはα7 IIシリーズにも利用できる。ただし、三脚への取り付けはできないのでその点は要注意。

GP-X1EMを装着したところ

あとはレンズの拡充が課題か

OLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIが、18コマ/秒のAF追従連写を実現していることから、α9の20コマ/秒連写というスペックにはそれほど驚くことはない。が、連写中にもブラックアウトがないことや、RAWでも200枚以上連写できるパワフルさは見逃せない。

AFにしても、画面のほぼ全面をカバーする693点測距というスペックは前代未聞で、多くのスポーツ系カメラマンの心をざわつかせているに違いない。

ただ、現時点では純正レンズのラインナップはまだまだ層が薄く、特に単焦点の超望遠レンズがない(Aマウントレンズを含めても300mm F2.8と500mm F4の2本しかないが、キヤノンやニコンには300mmから800mmまでの単焦点レンズが8本ないし7本ある)のはマイナス要素と言える。が、1、2本も出れば状況はがらっと変わるだろう。「まだ一眼レフ使ってるんですか?」と言われる時代はそう遠くないのである。

気になるのは、α9の登場で、α7系の立ち位置がどう変わるか、である。画素数が同じα7 IIは実売価格がα9の3分の1以下だから共存は問題ない。

が、将来的にα9Rやα9Sが登場する可能性もあって、そうなったときにα7R IIやα7S IIの立場が微妙なものになりかねない気もしないではない。となると、次のα7系は標準タイプに一本化となる可能性もあるわけで、そのあたりがどうなるのかも含めて注視していきたい。

北村智史

北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら