特別企画
星景撮影からみたPENTAX K-1 Mark IIの魅力とは
アストロトレーサー、D FA★50mmF1.4 SDM AWの使用感も
2018年11月27日 10:23
防塵・防滴構造と-10度の耐寒動作保証などの耐環境性に加え、最高感度ISO 819200の達成など、フィールドカメラとしての完成度を高めたPENTAXの35ミリ判フルサイズセンサー搭載フラッグシップ機PENTAX K-1 Mark IIの魅力は何か。
過酷な条件下での山岳と星景写真の撮影を続けている山岳写真家の村田一郎氏に実際の使用感を語っていただいた。使いこなしや星景撮影ならでのポイントや設定、アストロトレーサーの使用感なども含め紹介していこう。
山岳写真家・村田一朗
山岳星景写真家の村田一朗です。山岳星景写真と山岳写真を生業としています。東海大学海洋学部海洋工学科卒業後、約20年電機メーカーに勤務したのちにプロ転向しました。主な撮影山域は北アルプス南部の燕岳~槍ヶ岳、宝剣岳、八ヶ岳、丹沢など。銀塩時代はエボニー製SV45などを使い、ニコンD1からデジタルでの撮影を開始し、2001年からデジタルに完全移行して、現在はPENTAX K-1 Mark IIで作品創りをしています。またハード・ソフトの自作を得意としています。12月4日には写真集『燕 Tsubakuro』(フォトアドバイス株式会社)が発売予定です。
星景写真を撮り始めたきっかけ
星景写真をはじめたきっかけは、デジタルになってピントや露出などがその場でチェックできるようになったことと、ニコンD3の登場(2007年11月)によりカメラの高感度性能がグンと上がって、比較明合成での星景撮影が現実的になったためでした。
実際にはそれよりも前からテスト自体ははじめていましたが、直接のきっかけはD3で感度が実用的になったことが、その大きな要因でした。
星景写真の魅力
星景写真の魅力は、何といっても「肉眼で見えないものを撮る」ということでしょう。例えば天の川を撮る場合、肉眼で見るよりも写真で見る方がハッキリとその姿を確認することが出来ます。
私の場合は星の軌跡を描くようにして撮ることが多く、それが「自分にしか出来ないこと」につながると考えています。
ですので、私の撮影する星景写真の特徴は、どうしても軌跡が切れ切れになってしまいがちである比較明合成の欠点を、技術とクオリティーの両面から"いかにうまく繋げるか"という点で追い込んでいくようにしていることだと考えています。
軌跡を描かせて撮影するためには、相当の枚数を一夜で撮影することになります。そのため、電源をいかに確保するか、ということが問題になってきます。とはいえ、山中に持っていくことのできる機材の量には限界がある……。厳冬期の北アルプス3,000mの稜線であっても、まるまる一晩(冬季は約12時間)連続撮影が出来るか否かが機材選択のひとつのポイントになってくるわけです。
次の2つの作品では、それぞれ600枚のカットでインターバル合成をしています。星が降り注ぐ感じを表現するため、さらに独自の処理を加えて、星が彗星のように尾を引いているイメージを表現しています。
ちなみに、1枚目の作品で空に青味があるのはマジックアワーから撮影を開始したためです。
山岳風景では岩も大事なテーマになります。2枚目の作品では右下に「ゴリラ岩」と呼ばれている岩を配置し、ゴリラが横を向いているような様子と星を組み合わせています。
K-1 Mark IIを使う理由
実は星景写真を最初に発表した時に使用していた機材はPENTAXではありませんでした。冒頭でもふれたように、ニコンのD3を使用していました。
D3で星景撮影をしていた、そんな時に転機が訪れました。『デジタルフォト』誌の2010年4月号で表紙とギャラリーに私の撮影した星景写真が掲載されることになったのです。そして、そこに掲載された作品を見たPENTAXの人から同誌の編集長経由で「星に強いPENTAXで星景を撮ってくれないか?」と誘われたことが、同社の製品を使い始めたきっかけとなりました。最初に使ったのは発売直後のK-5で、K-5 II s、K-3、K-1、K-1 Mark IIと使い続けています。この間、K-70、KPを使用する機会もありました。
PENTAXのカメラはメーカーの言う通り、確かに星の撮影にとても向いていました。しかし、全く問題がないわけでもありませんでした。実用的な超広角レンズがなかったのです。
しかし、その問題も「HD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WR」の登場で解消されました。このレンズが登場したことで、星景と山岳写真双方の仕事でしっかり使えるシステムが整ったのです。実際に仕事のおよそ7~9割はこのレンズで撮影していますし、最も使用頻度の高い焦点距離は15mmが多いです。
K-1 Mark IIにいたり、高感度にたいへん強くなっているなど、35ミリ判フルサイズカメラならではの長所が、さらに強力になりました。これもK-1 Mark IIを愛用している理由のひとつです。
ほかにも星を撮るための機能が盛り沢山であることや、ユーザーモードが5つあり、それぞれに設定を登録できることにも魅力を感じています。メニューが良くできている点も気に入っているポイントです。
K-1 Mark IIとK-1の違いは?
K-1 Mark IIとK-1の最も大きな違いは「アクセラレーターユニット」を積んでいる点です。
KPがでた時、K-1よりも明らかに発色が良いことに衝撃を受けました。正直「なんだ!? このカメラは!!」と思ったものです。そして、K-1 Mark IIにも同じ「アクセラレーターユニット」が搭載されています。35ミリ判フルサイズセンサーの高感度性能やボケを使った表現がしやすいことなども後押しして、まさに現状で「最高性能のボディ」だといえると思います。
それまで使っていたK-1も、もちろんアップグレードしました。同じくK-1を使用していた知人が「アップグレードしない」と言っていたことが全く理解できないほどでした。
なぜ星景にHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRが合うのか
星景写真と一般的な撮影の最もおおきな違いは、空の面積を大きくするほど星が沢山写るということです。大面積で空を写し込むため、当然、星がなければ冗長な構図となるようなケースがほとんどです。しかし、星景写真ではこの大きな空間こそこが主題となるわけです。そのため、広角よりもさらに広い画角を有する超広角レンズや魚眼レンズが星景撮影では主力レンズとなってきます。そこで、HD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRを使用します。
HD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRの最大の魅力は15mmという焦点距離とF2.8という明るさにあります。この2つが揃うと天の川を十分に写すことが可能となるほか、北極星を中心に軌跡を描かせる場合であっても、無理のない構図をとることができるのです。
そして、ズームリングとピントリングに適度なトルクがあるため、セッティング時に不用意に動いてしまうこともありません。細かいことですが、暗闇の中でのカメラ操作が強いられる星景撮影ではかなり重要なポイントだといえます。もちろん撮影開始時にテープ止めすると、より確実なセッティングができます。
また、星の撮影ではレンズの光学性能がかなり気になってきます。画面周辺部で星が流れてしまったり、エッジに色が乗ってしまったり、ゴーストが出てしまったり……。本レンズでもはそういったことは皆無とはいえませんが、必要にして十分なレベルに抑え込まれています。
画角と光学性能の高さ、そして使い勝手の良さ、これら3点が本レンズが私のメインレンズとなっている理由です。
村田流星景撮影術
ここで、私の星景撮影時のセッティングを紹介します。
まず、星景の舞台となる大空が入るように三脚を据え、角度を合わせます。
撮影時の設定はマニュアルモードを使用します。絞りはF2.8、ISO感度をISO 6400にあわせて、シャッター速度は8秒にします。また、手ぶれ補正もオフに。この設定をあらかじめユーザーカスマイズに登録しておくと便利です。K-1 Mark IIはカスタマイズ設定を5つまで記録して、ダイヤルで即座に変更できるところも便利。気に入っているポイントです。
また、気温差でレンズが曇ってしまうことを防止するために、レンズヒーターとそれを駆動するためのモバイルバッテリーも必須です。
縦位置で撮影する場合も考えてL型ブラケットを装着しておくなど、光軸が変わらないように工夫しています。
山岳写真における50mmレンズの魅力とは
荷物を1gでも軽くしたい山岳写真撮影ではズームレンズの使用が一般的です。そのため、単焦点レンズの出番はあまり多いとはいえず、まして焦点距離50mmは星景でも使用する機会が少ないというのが現実です。
前にもふれたとおり、超広角ないしは魚眼レンズで広大な風景を撮るというのが山岳・星景写真のメインテーマであるため、標準レンズは広角レンズに比べて焦点距離が長く、かといって遠くのものを引っ張って撮るには超望遠に比べて短い、ということになってくるわけです。
このように、山岳・星景写真では一見して使い道がないかに思われる50mmレンズですが、実は「HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW」は発売と同時に購入したレンズでもあります。
写真は標準レンズに始まり、標準レンズに終わると言われていますし、やはり使っていて楽しいレンズです。気づけば標準レンズばっかり10本以上が手元にあるように思います。
HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWの使用感
手にした時から危惧していたことですが、やはり重いです。しかし、重い分だけ、いかにも「あらゆる光学的な補正がかかっている」感じがします。他社の高級標準レンズを何年か使っていますが、勝るとも劣らないレンズだと思います。
しかし、出てくる絵はとてもシャープで、柔らかいボケも醸し出します。それでいて色ノリも良い。こういうレンズは今までなかったように思います。プライベートでポートレートも撮っていますが、被写体の産毛の1本1本まできれいに解像したことにはびっくりしました。このレンズは最強のポートレート・レンズだと感じています。
星景や山岳には不向きですが、上高地や丹沢など、撮影ポジションに比較的自由がきく場所では、その有効性を発揮してくると思います。
次の作品は上高地で化粧柳の細い枝がまだ陰で焼岳に朝日が当たっていた時に撮影したものです。細い枝の"ビシッ"とした感じや、徐々に光が当たり始めている部分の、奥の方の化粧柳の今にも色飽和しそうな赤い枝先の"あの色"も、しっかりと描写してくれました。まさに撮影者の期待と記憶に応えてくれるレンズです。
高画質を追求した★つきレンズらしい桁外れの描写性能も魅力です。宿泊施設がすべて閉鎖された後の上高地で星空を撮影してみたところ、ご覧のとおりの描写が得られました。
次の作品は焦点距離50mmで狙う山と星の組み合わせとして、明神岳のピークを撮影したものです。この時は雲の多い条件だったため、軌跡がかなり途切れ途切れになってしまいました。そこで合成時には軌跡が途切れていない部分だけを選びだして作業を進めました。
いずれ他の場所でもしっかりと作戦を練って星景撮影に挑みたいと思います。
苔むす山中でも使ってみましたが、木々の細かい枝や密生する苔などの細かいものがピシッと解像しています。曇り空で空が白とびしてしまうような状況でしたので、極力空が写らないように木々で埋め尽くして撮影しました。昔の大判カメラを彷彿とさせる描写です。
絞り込んだ時の精細な描写力がある一方で、絞り開放時のとても柔らかいアウトフォーカス部の描写も魅力です。次の写真は苔の花だけに目線がいくように浅い被写界深度を活かして撮影しました。最短撮影距離が短いのでちょっとしたマクロ撮影も可能ですし、これを開放で撮るとシャープでボケ量の大きい写真が撮れます。
合焦範囲がとても狭いので精密なピント合わせではライブビューを活用しています。星景撮影でもライブビューでピント確認をしていますが、気持ちよくあわせることができます。
アストロトレーサーで星景を撮る
対応機種は限られますが、PENTAX独自の技術であるアストロトレーサーが使えることも同社のカメラの魅力です。
これはオプションのクリップオンGPSユニット「O-GPS1」をカメラのホットシューに取りつけて使用する機能で、カメラ側の手振れ補正機構のSR(Shake Reduction)を利用して、簡易的な赤道義として天体追尾撮影が行なえるようになる、というものです。
なお、PENTAX K-1 Mark II 、PENTAX K-1、PENTAX K-3 IIは、GPSユニットを内蔵しているため、標準でアストロトレーサーを使用することができます。
赤道義のセッティングは正確に地球の回転軸に向けるのですが、初心者には難しいと言わざるをえません。北半球は北極星が有るので比較的やさしいといわれていますが、南半球になるとかなり熟練を要するといいます(北極星は有っても、南極星は無いため)。
その点、アストロトレーサーはカメラに取りつけるだけでGPSから位置情報を取得し、星の動き(正確には地球の動き)を計算し、自動で星を追いかけてくれるため、撮影者が北極星を見つけられなくても、カメラ側が全て自動でやってくれるのです。
唯一、赤道義に劣る点として露光時間が最大で5分までという制約があります。これは手ぶれ補正機構を利用している関係で、動かせる範囲に限度があるためですが、通常の撮影では5分もあれば実用上十分なので心配は要らないでしょう。
次の作品は夏の槍ヶ岳でアストロトレーサーを使用して撮影したものです。一晩中雨が降っていましたが、午前3時頃に止み、雲が晴れました。空気中のチリが雨で洗われて非常にクリアだったことと、夜明けが近いために青味が乗って良い色合いになりました。
アストロトレーサーは天体写真向け?
前記したとおり、赤道義を使った撮影は、もともと天体写真のための技術でした。ただ、それは星景写真というジャンルがなかった時代でもあったからです。
赤道義を使って星景を撮ると、星は止まって写りますが、地球部分(地上風景)は逆にぶれてしまいます。こうしたことがあるため「赤道義もアストロトレーサーも星景向きではなく、やはり天体向きだ」と思いがちです。
しかし、露光時間を程々にセットすると「星は止めて写し、地上風景も程々に止めて写す」ことが可能になります。
では「どれ位にセットするのが良いか?」という問題ですが、焦点距離を15mmに、絞りはF2.8に固定してみましょう。露光時間は最大で5分ですが、流石に15mmとはいえ、これでは地上風景が流れはじめてしまいますので、現実的な露光時間は1~2分程度にとどめるべきでしょう。露出に関してはISO感度で調整することとなりますが、ISO 6400までに抑えておきたいところです。
まとめ
いま発表されているレンズのロードマップにフルサイズ用魚眼ズームレンズが予定されていますが、星景には魚眼レンズは実に相性の良いレンズです。早く使ってみたいですし、出たら必ず購入します。
超広角レンズ以上に広い画角と魚眼レンズ特有の"歪"は、まさに星景撮影のためにあるといっても良いくらいです。天の川を撮る場合、超広角レンズでは一部分しか撮影できないという不満がつきまといますが、魚眼レンズであれば、そうした不満も解消されますし、独特の歪が宇宙のスケール感を感じさせてくれます。はやくK-1 Mark IIでその世界を楽しみたいですね。
それともうひとつ、APS-C用の11-18mm F2.8の登場も楽しみのひとつです。K-1 Mark IIでクロップして使うか、KPを買い足すべきなのか、実は今からとても悩んでいます。KPを買いたすのが王道の気がしていますが、smc PENTAX-DA FISH-EYE10-17mm F3.5-4.5ED[IF]と合わせて星景専用に……。でも、機材が重くなりそうなので、やっぱりK-1 Mark IIでクロップして使おうかな。