特別企画

ペンタックス「J limited 01」とはどのようなカメラなのか(その1)

プロジェクトメンバーから仕掛け人のTKO氏とアニキを直撃

J limited企画を掘り下げていくのにあたり、プロジェクトメンバーを代表してTKO氏(右)とアニキ(左)にお話を聞いていった。実機が展示されている東京・新宿のリコーイメージングスクエア東京にて

ペンタックスのAPS-Cフラッグシップ一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III」が、4月23日に発売された。かねてよりアナウンスされていたカメラで、待ち望んでいたユーザーも多いことだろう。一方で、4月には同じくペンタックスから気になるカメラが登場した。そう、PENTAX K-1 Mark II J limited 01こと「J limited 01」だ。本機の魅力はどのような点にあるのだろうか。仕掛け人たるTKO氏とアニキにJ limitedプロジェクトメンバーを代表して本モデルのポイントを聞いていった。

J limited 01とは

同機について掘り下げていく前に、まずJ limited 01がどのようなカメラであるのかをおさらいしておきたい。

まず本機のベースとなっているカメラは、PENTAX K-1 Mark II(以下K-1 Mark II。本稿執筆時点での同社直販価格は税込25万8,500円)だ。同機は有効約3,640万画素の35mm判フルサイズセンサーを搭載し、2018年4月に発売されたモデル。位置づけとしては、2016年4月に発売された35mm判フルサイズ一眼レフカメラ「PENTAX K-1」の後継となる。K-1 Mark IIとK-1との違いは、アクセラレーターユニットの搭載に伴う画質や機能の向上で、K-1の後発として発売されたPENTAX K-70やPENTAX KPで搭載されたアクセラレーターユニットを羨むK-1ユーザー向けに提供された基板交換サービス「PENTAX K-1アップグレードサービス」も大きな話題を呼んだ。PENTAXユーザーからの声をうけて製品化された唯一の35mm判フルサイズセンサーを搭載するモデルだ。

J limited 01は、この35mm判フルサイズ機のフラッグシップモデルたるK-1 Mark IIの基本性能を継承しながら、デザインや各種部材をフルチューン・カスタマイズしたモデルとなる。基本性能自体はK-1 Mark IIと同等なので、スペック表ベースでの比較では違いを見出すことは難しいけれども、このフルチューンにより同機は全く別のカメラに仕上がっていると言っても過言ではない。では同機の特徴とはどのような点にあるのか、デザインだけに止まらない魅力を掘り下げていった。

J limited 01前夜

本機が一般に公開されたのは2020年11月7日、昼の部と夜の部の2回にわけてライブで配信されたトークイベント「J limited online event 2020 “Morning & Night”」に遡る。この時点では新しいJ limitedのコンセプトモデルとしての紹介で、“これから社内稟議にかける”という段階だった。まさに仕掛け人の両氏の“やりたいこと”がつまった状態だったと言えるだろう。

配信中ではJ limitedのコンセプト解説もあった

筆者は夜の部に参加して本機のコンセプトを聞いていたが、ひじょうに趣味性の高いアプローチだという印象が記憶に残っている。カスタマイズモデルというアプローチまでは、これまでにも見られた展開だったが、使用している部材、加工内容を聞くにつれ、かなりのコスト度外視モデルになるのでは、と想像していた。一方で、趣味の道具なのだから、デザイナーや企画者の趣味を色濃く反映したモデルがあってもいいと思わせてくれた瞬間でもあった。

年が改まって2021年の2月25日、正式にJ limited 01が発表された。形になった製品版が、この配信時に紹介された内容とほぼ同じだったことも、二重の意味で衝撃的だった。使用部材はもとよりロゴに至るまで手が加えられていたからだ。

カスタム部はグリップ、マウント部、トップカバー、塗装、ユーザーセッティングに設定された撮影モードで構成されている。カラーはブラック&ゴールド、ヴィリジアン、スカーレットルージュ、LX75メタリックの4種類。受注生産式で1台1台を組み上げていく。実機はリコーイメージングスクエア東京およびリコーイメージングスクエア大阪の2拠点で展示されている。

職人技が光る絶妙な塗装

今回複数カラーでの展開となったJ limited 01だが、その塗装には車用の塗料が用いられているという。無論そのまま使用するのではなく、さらに粒子を微細なものにするなど、微妙な調整が加えられているのだという。塗れるかどうかは別にして「本当にいい色ができた」というTKO氏。しかもカメラは凹凸が大きいため、塗っていくと奥まで色が届かないこともあるのだという。かといって厚塗りするとパーツ同士の「合い」に問題が生まれる。こうした極めて難しい条件であっても、同社工場の職人はすべて手吹きで対応してくれているのだという。こうしたアプローチは、一眼レフカメラ「K-x」で100カラー展開した際の知見や、限定カラーの製品を展開してきた同社ならではの強みをいかしたアプローチでもある。恒常的に難しい塗り工程を経験しているからこそ、コストバランスを維持しながら生産できるというわけだ。

パーツの塗装では、意外にも自動機に入れたほうがバラツキが多くなりがちなのだという。ともすれば、ボディの前後で各パーツの色が合わないことすらあるのだそうだ。

実機を観察していくと、今回のモデルはどのカラーも絶妙な色味となっている上、塗装面積自体もボディ全体に及んでいる。背面モニターで隠れてしまうボディ裏側や、記録メディアスロットの内側に至るまで徹底して塗装が施されている。形状は言うまでもなく複雑だ。こうしたアプローチとなっているため、塗装の難易度自体も相当に高くなっているのだとTKO氏は続ける。にもかかわらず、同社工場ではこうした厳しい工程にも応えられる職人がいる。難しくても、何度も何度もトライしてくれる人々の協力あってこそなのだという。ちなみに塗料の配合は午前と午後で配合を調整しなければならないほど、シビアなのだという。

塗膜の質は、その日の気温、湿度、塗装面の状態などで微妙に異なる。こうした対象の声を聞き分け、適切な配合、塗り具合でつくりわけていくことができる職人がいること。そして人の手ならではの微妙な調整をお願いできる体制が整っているからこそ、1%erに届く、特別な塗装が実現できているわけだ。

では、各カラーのコダワリはどのようなところにあるのだろうか。一概にカラーバリエーションと括ることのできない、各モデルに込められたデザインの意図を聞いていった。

まずはスカーレットルージュから。赤色の塗装は、以前にもPENTAX K-30(2012年)で用いられていたというが、今回の色は以前使われていたクリスタルレッドよりも、さらに鮮やかなものになっているという。色は塗り重ねていくにつれて濁りがちになっていくのが通常だが、本モデルでは深みのある赤ながら、明るく鮮やかな赤が実現できたのだという。

配色は黒とのツートン。ペンタ部や肩部などに施された文字色も黒にするなど、徹底して配色バランスに配慮することで統一感ある仕上がりとなっている。

ヴィリジアンは、暗いところではPENTAX KP J limited(以下、KP J limited)で使われたダークナイトネイビーに近い色合いに見えるが、明るいところでは緑がかった青に見えるなど、今回のラインアップ中で最も見る角度で色の変化が大きいモデルとなっている。塗膜の形成を何層でおこなっているのかまでは話せないとのことだったが、何重にも及ぶ多層塗りを用いることで、この色味を実現しているのだそうだ。

特に多角形状で成形されているペンタ部に顕著に色の変化が認められるが、その秘密は、後述のペンタ部のコダワリポイントで詳しく見ていきたい。本モデルの配色は、深い青緑のボディにあわせて、ペンタ部のロゴは白抜きに、それでいて肩部の製品ロゴなどの文字色はガンメタリックで統一。ダイヤル等の操作部は黒でひきしめられている。

ブラック&ゴールドは、一般的な黒ボディのそれに近いイメージだが、グリップ部の赤やマウント部の金色がひときわ際立つ仕上がりだ。ペンタ部の形状や細身のメーカーロゴの効果もあいまって、K-1 Mark IIよりもずっと小さく見えるほか、他カラーと比較してもひとまわりコンパクトに見える。このあたりは配色バランスのなせる技だが、こうした視覚効果による選択肢が用意されていることも、同シリーズにかける同社の心意気が宿っているといえるだろう。

さいごにLX75メタリック。ぱっと見ただけでは一般的なシルバーモデルと思いがちだが、本モデルの配色には具体的なオマージュが宿る。その元となっているモデルというのが、PENTAX LXの75周年モデル「PENTAX LX Limited」だ。ここに端を発することからのネーミングとなっている、というわけだ。

配色自体もLX75周年モデルにあわせた仕上げに。フィルム巻き上げレバー部の配色バランスなども取り入れて、黒いダイヤルの中央にシルバーのダイヤルを配するなど、徹底して配色バランスを寄せている。同機との2台持ちなどの楽しさも誘発してくれる、実に心憎い演出だ。ちなみに、操作ダイヤル上の文字色はガンメタリックを使用。遊び心に満ちた仕掛けが満ちた仕上げで、同シリーズの展開によせる、同社の懐の深さが伺い知られる。

また、通常モデルではホワイトとなっている黒ダイヤルの文字色は、今回のモデルでは各機共通で「ライトグレー」色を使用。色を抑えることで、文字盤の面がカメラ本体になじむように、との工夫なのだそうだ。

二重構造を採用したペンタ部カバー

ペンタプリズム部にカバーをつけるという発想自体は、初代J limitedモデルでも見られた構造だったが、J limited 01ではこれが二重構造になった。これだけでもコストがはね上がるというのに、最も外側のカバーには真鍮が用いられているというのだから心憎い。美しい塗装が剥がれるのは忍びないものの、つい地金が出てきた時を想像させる。実に演出過多というくらいの遊び心が感じられる部分だ。

ひとつめのトップカバー
トップカバーに真鍮部材を用いたレンズ一体型カメラ「PENTAX MX-1」。写真の実機はTKO氏のカスタムが施された状態

ところで、このカバー。パーツ名称としてはカスタムトップカバーAおよびBという名称がつけられているわけだが、それぞれの成形・加工にも細かなコダワリが詰め込まれている。

まず最も外側のカバー(カスタムトップカバーA)から。写真を見てもわかるとおり、直線を基調にした多角形状で成形されているが、この形状を実現できた秘訣はブロックからの削り出しを加工方法に採り入れたことがキーになっている。部材は真鍮。削り出し自体は機械加工で行っているとのことだが、この複雑な面と線をつくりだす技術は、相応の細かさが要求されることだろう。聞けば、やはりその通りで、職人たち自身もかなり細かな作業で応えてくれているのだという。

そのコダワリの加工は、ほぼハンドメイドといっても過言ではない過剰さだ。真鍮の削り出し工程までは機械加工を用いているが、機械による仕上げ加工後の工程(バリやサポートの除去、磨き、表面加工など)では、職人の手作業に拠っているのだという。

そして更なるコダワリポイントとして、一見すると直線基調のラインどりがなされているが、実は曲線が盛り込まれているのだというのだ。と言われてみても、どの部分なのかを判別することは至難。ぱっと見では、どの角度から見ても直線にしか見えないはずだ。

トップカバーA。この中に曲線があります

では、どこが曲線になっているのかというと、「PENTAX」ロゴを頂点に、左右に連なる部分と、後方につながる部分だ。微妙に逆アールを描いていることがわかるだろうか。ひじょうに角度が緩やかなので手で触れてみなければ判別のしづらい部分だが、これが全体の印象をシャープなものにしている。

エッジ部が絶妙に逆アールを描いているため、面に均一に光が当たらなくなっているのだ。これにより、線が立ちながらも必ずどこかの面には影が入るカッティングとなっている。これによりトップ部の形状がうかびあがり、エッジが立って小さく見えるのだそうだ。ちなみに、この形状デザインのために通常の型抜き成形が使えなかったのだという裏話も聞かれた。

斜め俯瞰から見たところ。青緑から群青、そして鮮やかながらも深いブルーへ。様々な表情を見せてくれる。塗膜の内から光を反射して輝く細かな粒子は夜空に輝く星のよう。今回はヴィリジアンを手にすることができたが、他のモデルも同様に様々な表情をみせてくれることだろう。写真ではHD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited(ブラック)と組み合わせているが、このトップカバーAは長玉レンズをつけた状態で最も似合うようにデザインされているのだそうだ

また、実機をつぶさに観察していくと、この微妙な曲線があることで、光の反射に変化があり、よりペンタ部のシェイプと色の変化を楽しむことができるようになっている。製品Webページ上では「面の組み合わせにこだわり、光の当たり方によって大きく表情を変えるデザイン」との説明となっているが、この表現には全てが集約されている。つまりカット面の線自体は直線基調だが、面自体は削り出しによる成形手法を最大限いかすべく、面のとり方に、かなりの工夫が凝らされているのだ。観察すればするほどに、新しい気づきが得られる上、経年でも塗膜の状態による変化が楽しめる工夫ともなっている。

ホットシュー付近に設けられた滑り止めのための段々。直線のように見える部分だが、微妙な段差が設けられている。こうした加工も切削加工を採りいれたからこそ実現できたポイントなのだという。

「PENTAX」ロゴの見せ方にも、細かな調整が施されている。多くのカメラ製品では、この面はフラットになっており、メーカーロゴをしっかりと誇示するデザインがとられることが普通だが、本モデルでは、ロゴの上下がそれぞれわずかに突出しており、ロゴ文字を少し奥まった位置にあるように見せている。そのため、ロゴの主張が控えめになっており、また全体の雰囲気をすっきりとした見た目にすることにつなげているのだという。正面から捉えた時にロゴの部分に陰が入ってしまうのは、メーカープロダクトという面から言えば泣き所には違いないが、デザインでいえば、ひじょうにスマート。こうした処理はモノとしての魅力も深めてくれると考えるのは筆者だけではないはずだ。

続けてトップカバーB。こちらは素材にエンジニアリングプラスチックが用いられているが、塗装の質感はAと見比べても違和感がない。PENTAXロゴ部分は、カバーなしのものに近いイメージになっているが、もう少し平面性が高くなっており、シャープなイメージとなっている。また、上部の「AOCo」ロゴにかけて、ここでも円弧があしらわれており、エッジの出し方が調整されていることがわかる。旧製品の意匠性も逐次盛り込んでいきたい考えだというTKO氏。この円弧の部分は「PENTAX SP」を彷彿とさせる仕上げになっているのだそうだ。

ちなみにこのカバーにあしらわれている「AOCo」ロゴは掘りこみとなっている。ロゴ自体はエッジのたった直線で掘られており、ゆるやかな面どりとのコントラストをなしている。トップカバーAをつけてしまうと隠れてしまう意匠だが、やはりどうしてもデザインとして取り入れたかったのだとTKO氏は語る。

また写真のトップカバーBはヴィリジアンのものだが、これとブラック&ゴールドモデルでは、「PENTAX」ロゴの色をライトグレーとなっている。

合計で3種類の「PENTAX」ロゴがあるわけだが、カバーを装着した状態とカバーを外していった状態で、それぞれ「差」がでるように微調整を加えていったことが、デザインの背景なのだそうだ。

トップカバーAの色はホワイト、そしてトップカバーBのライトグレーと続き、トップカバー無しの状態では、再びホワイトになる。ロゴのサイズも微調整が加えられており、トップカバーBは、カバー無しのロゴに比べて、ほんの少しだけ小さく調整。トップカバーAは、カバー形状が大きく異なることと、そもそもロゴタイプ自体のサイズが小さいことから、色はホワイトを採用しているのだという。

ちなみにシークレットデザインとして、製品発売後同社公式Twitterアカウント上から報告のあった、エーピーマーク(通称目玉マーク)の印刷は、このトップカバーBに施されている。以前PENTAXが社章にも用いていたマークで、同カバーに用いたデザインは、目頭のある初期タイプを採用している。デザインの由来は、ギリシャ語に明るい同社の役員が、一眼レフに通じるという発想からギリシャ神話の一つ目の巨人サイクロプスに意を得て考案したものだという逸話が伝わっているのだそうだ。一つひとつのデザイン・意匠に由来やストーリーが宿る点も、一眼レフカメラの歴史に深く根ざしている同社ならではの特徴を表している部分だといえる。

また、飾り穴に見える部分もプラスチック素材の加工特性をいかしたあしらいとなっている。実はこの部分、滑り止めとしての機能も担わせているのだそうだ。触れてみるとカバーを装着するときに確かに指があたる部分に位置する。もちろん見た目のアクセントにもなっていて、目を楽しませてくれるポイントでもある。トップカバーAを装着した状態でも、ちらりと覗くデザインとなっており、部材の厚みがもたらす物理的な高低が、微妙な陰影をつくりだしている。デザインのためのデザインではない、まさに機能とデザインの一致だといえるだろう。

トップカバーが二重構造になっている本モデルだが、装着できないレンズがいくつかある。というのも、カバーがかなり前面にせり出すデザインとなっているため、太さのあるレンズの装着ができなくなっているからだ。ただ、全てのレンズの装着を考慮していくと、皆同じデザインに行くついてしまうのだと指摘するTKO氏。「でも、そうしたレンズを装着したい時のためにカバーを取り外すことができるデザインにすればいいんじゃないか、と割り切った時に、カメラのデザインってもっともっと自由度が上がって、違ったものになっていくんじゃないか、と思います。」と続ける。

後半パートでは、特徴的なグリップ部やマウント部の処理についてお伝えしていきます。

本誌:宮澤孝周