特別企画
ここからはじめる星景写真
必要な機材から、あると便利なアイテムや活用方法も案内
2019年7月31日 10:42
星景写真とは
星景写真と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべますか? 多くの方がイメージされるのは、下の写真のような、星と風景がひとつの画面に収まった写真ではないでしょうか。
この写真は、北極星のある方角を広角レンズで捉えたものです。
作例のものはボディに「PENTAX KP」を、レンズには「HD PENTAX-DA 15mmF4ED AL Limited」を使用して撮影しました。レンズの焦点距離は、35ミリ判換算で約23mmです。
露光時間は約53分です。さらに露光時間を長くすると、軌跡はもっと長くなっていきます。ただし、北極星の近くは星があまり動かないので(北極星はほとんど動かないので軌跡が無くて点になります)、軌跡の長さは短くなります。
星景撮影で最低限必要な機材は?
それでは、星景写真で必要となる機材をみていきましょう。
まずは何といってもカメラから。ボディは35ミリ判フルサイズでもAPS-Cでも大丈夫です。レンズは出来るだけ広角で、そして出来るだけ明るいレンズが良いです。
このほか撮影で必須となる機材はというと、バッテリー、メディア、三脚、クイックシュー、レンズヒーター、モバイルバッテリー、テープ、ルーペ、ヘッドライトなどです。それぞれの道具の使い方や目的について、すこし説明を補足していきます。
三脚
脚はあまり伸ばさない方が転倒した場合にカメラを壊しにくいです。脚の開脚角度を変えられるものは広げてあげるとより倒れにくくなります。地上から1mや2m位、星に近づいても、星が大きく写ったりしませんから、安全面に配慮したセッティングをしましょう。
メモリーカード
出来るだけ大容量の物。目安としては最低32GB位は欲しいです。村田は512GB×2枚を使っています。一晩中比較明合成するなら128GB〜256GBくらいあると安心です。スピードは必要ありませんが、しっかりしたメーカーのものを使うことをお勧めします。
レンズヒーターとモバイルバッテリー
夜霧を受けたり、湿度の高い条件だったりすると、レンズが曇ったり夜露が付いたりする事があります。そこでレンズを温めることで防止することが出来ます。「夜露防止ヒーター」と呼ばれるものが売っていますから利用すると良いでしょう。モバイルバッテリーにUSBで繋いで、ヒーター部分をレンズの先端近くにセットします。
ヘッドライト
撮影現場は暗いですからケガ防止のためにも必要です。他に星の観測をしている人がいるときなどは赤いライトが良いです。赤だと瞳孔が開きにくいので、暗がりに慣れた目でもまぶしくないのと、星が見づらくなるのを防げます。
あると便利なグッズ・機材
あると便利な機材としては、クイックシュー、リモートレリーズ、ルーペなどがあげられます。
クイックシュー
暗いところで三脚にカメラを固定するのは意外と面倒です。クイックシューがあると、取りつけでまごつくことが減って便利です。でも、安物はかえってブレ発生器になりますから、しっかりしたものを使いましょう。
セッティングについて
星景は、撮影時に暗闇の中でカメラを操作することになりますので、事前に撮影設定を登録してよび出せるようにしておくと便利です。
セッティングには事前セッティングと本番セッティングがあります。
事前セッティングとは、ホワイトバランスやISO感度などの設定を星向きに作りこんでおくことです。本番セッティングは、実際に現地で行うセッティングのことです。
それでは、まず事前セッティングからみていきましょう。今回は説明用にPENTAX K-1 Mark IIを使用しています。機種によってはメニュー項目の表現や構造が多少違うことがありますが、基本的な設定項目はどのようなカメラでも共通していますので、“どの項目を、どのような設定にするか”を気にしながら、みていってください。
事前セッティング1:ホワイトバランスを指定しよう
まず、ホワイトバランスの設定をおこないます。
日中の撮影では、ホワイトバランスはオートにして使っている人も多いかと思います。ですが、星景撮影では、オートや太陽光では黄色い写真になってしまいます。
理由は、夜は太陽が出ていないから。オートホワイトバランスは、太陽が出ていることを前提にした設定なのです。
そこで正確な色味で撮影するため、まずホワイトバランスを“ケルビン(K)”で指定します。お勧めは3,500Kです。数字が小さくなると青っぽく、数字が大きくなると黄色っぽく、さらに数字が大きくなると赤っぽくなります。ちなみに太陽光は5,500Kに相当します。
事前セッティング2:比較明合成の準備をしよう
次に露出です。
星を流して撮影する場合、比較明合成という方法を用います。
比較明合成とは?
星の軌跡を撮る方法には、銀塩フィルムの時代からバルブ撮影という方法がありました。ですが、この方法には軌跡を長くすればするほど、その軌跡が薄くなっていくというジレンマがありました。
デジタルでも同じようにバルブ撮影はできますが、現在では「短い軌跡のもの(短くても軌跡が薄くないのがミソです)を沢山撮って、後から合成する(軌跡をつなぎ合わせる)」という“合成”が主流となっています。
この時に用いられるのが「比較明合成」という手法です。いわば、画面の明るいところだけを寄せ集めて合成する、と思えばいいでしょう。
例えば、同じ構図で数十コマ、数百コマ撮影したとします。このとき、空の明るさは終始変わりません。そして、星の明るさも変わりません。ただ、星の位置だけが動いていきます。これを比較明合成すると、空の明るさはそのままで、星の軌跡だけが寄せ集められる、ということになります。
合成と言っても、途中でカメラを動かしたりしてはダメで、最初から最後まで微塵も動かさずに撮影する必要があります。
昔はパソコンで1枚1枚を合成していましたが、ペンタックスのカメラにはボディ内に、この比較明合成をやってくれる「インターバル合成」という機能がありますので、ここではそれを使います。合成はカメラが勝手に自動でやってくれるので楽ですし、背面モニターで星の軌跡がだんだん伸びていく様は見ていて感動しますよ。
比較明合成で標準とする露出は「ISO 1600、F2.8、8秒」です。
設定方法は次のとおりです。
[1]撮影ダイヤルを[M](マニュアル露出)で[ISO 1600、F2.8、8秒]にします。
[2]ドライブモードから[インターバル合成]を選びます。
[3]撮影待機時間を[最短](最短が選べない場合は[インターバル撮影の動作]から[2 撮影待機時間]を選んでください)
[4][撮影回数]は[2000回]を指定します。
[5][開始トリガー]は[2秒セルフタイマー]とします
[6][合成方法]は[比較明]
[7][途中経過保存]にチェックを入れます。
ここまで出来たら、これをUSERモードに登録しましょう。村田はUSER1に[Star]として登録しています。
本番セッティング1:機材をセットしよう
つづけて本番セッティングについてみていきます。機材のところで触れた内容と一部説明が重複する部分もあるかと思いますが、改めて最初から説明していきます。
まず、
(1)「どんな星の軌跡と地上風景を組み合わせて撮りたいか」
を決めましょう。
(1)が決まったら、次に三脚を立てる場所を探します。
この時、腐葉土の上のようにやわらかい地面より、砂利や岩、コンクリートなど、かたいところの方が向いています。地面がやわらかいと、撮っている最中にシャッターの振動で三脚が少しづつ「歩き始める」ことがあります。
三脚はついつい背の高さに合わせて脚を伸ばしがちですが、風などで転倒するとカメラやレンズの被害が大きいです。思い切って脚は伸ばさずにセットする方が良いです。その時に脚の開脚角度を変えられるものであれば、少し広げておくと転倒リスクが段違いに減ります。
三脚が立ったら、
(2)ボディにレンズをセットして三脚に固定
します。
このとき、メディアとバッテリーの確認もしておきましょう。
本番セッティング2:ピントを合わせよう
機材の準備が整ったら、まずピント合わせをします。星は暗すぎてAFではピントが合いませんのでちょっとテクニックを使います。
そのテクニックというのは、
〔1〕まず「現場で見える、なるべく明るい星を探す」ことです。
明るい星が見つかったら、
〔2〕撮りたい焦点距離にズームをセットしてから(ここ重要です)
〔3〕できるだけ星が画面のど真ん中に来るようにカメラをセット
します。
このときピントの位置は、取りあえず“無限遠”にあわせておきます。
次にカメラを操作して、
〔4〕ライブビューモードに切り替え
をします。
ライブビューの拡大率を上げていって、手順〔1〕で見つけた星を大きく見えるようにします。
出来ればルーペを併用しつつ、マニュアルフォーカスで「星が一番小さく見えるところ」に合わせましょう。
ここまで出来たら、不用意にピントがズレたりしないように、
〔5〕テープでピントリングを固定
します。ズームレンズを使用している場合は、この時ズームリングも一緒に固定しましょう。
本番セッティング3:構図を決めよう
構図ですが、ライブビューで構図を確認できる場合は、光害がかなりある撮影現場です。でもライブビューで見えていたらそれで構図を決めます。幸運にしてライブビューでも構図が確認できないくらい光害が少ない場合は、テスト撮影をして構図を決めましょう。
ISO感度をISO 12800などにし、感度を上げた代わりにシャッタースピードを1秒などに変更して、まずはシャッターを押してみてください。そして背面モニターを見て納得のいくまで構図の微調整&テスト撮影をおこなうことで、構図を決定します。
ここまで出来たら、露出を正しいもの(光害が無い場合で比較明合成するときは「ISO 1600、F2.8、8秒」が標準露出です)に合わせましょう。
また、レンズヒーターを持っている場合は、ここでヒーターをセットします。ヒーター部分はレンズのなるべく先端に取りつけるようにします。ただしフードの切り欠きからはみ出ないように注意してください。そうでないとヒーターでケラれ(画面の四隅にヒーターが写り込んでしまう)ちゃいますよ。
ここまでくれば、後はセルフタイマーを2秒にセットして撮影をスタートするだけです。
ちなみに、比較明合成中の撮影で途中でやめたくなったら「電源OFF」にすれば大丈夫です。撮影データが書き込まれてから電源が切れます。バッテリーを抜いて電源を落とすのはナシですよ。
方角によって星の軌跡と露出時間の関係は異なる
下の写真は「PENTAX KP」と「HD DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WR」を用いて、西側の空を撮影しました。
焦点距離16mmで撮っていますので、35ミリ判に換算すると約24mm相当です。
露光時間は合計で約20分相当です。北極星を入れたものと比べると、軌跡の長さはそれほど違わないのに、露光時間は1/3で済んでいます。これは、西や東は軌跡の長さが一番長くなる方角だからです。ちなみにレンズを東に向けると、軌跡が右上を向いたものが撮れます。月も同じように東から登って西に沈んでいきますので、カメラをどの方向へ向けるかで星の軌跡の形や長さが変わることを、ぜひ覚えておいて構図をつくるときに思い出してみてください。
星を流すだけが星景写真ではありません。星を止めて撮る方法もあります。この場合は天の川を一緒に撮ると絵になりやすいです。天の川もまた、星々と一緒に動いてきますから、地上風景とどういう絡ませに方をするのかを考えて、撮影時の計画をたてて撮ると良いでしょう。
この作例は「イルカ岩」と言われる、イルカの口から天の川が吐き出されているようにイメージして撮ったものです。
また空がだいぶ青いのは夜明け近くでマジックアワーが近いためで、星景を撮るうえでは一番きれいな時間帯です。ただ時間的には10〜20分位しかないのでタイミングをうまくつかんで撮ってみてください。
PENTAXの一眼レフなら、こんな機能も
ペンタックスの一眼レフカメラには「アストロトレーサー」という、長時間の露出でも星を止めて写すことができる便利な機能があります。さいごに、この機能の使い方を説明していきます。
アストロトレーサーとは?
天の川などを撮ろうとするとどうしても長時間露光が必要になってきます。
地球の自転に合わせてカメラを制御して星を止めて写す「赤道義」というものがあります。地球の回転軸に正確に合わせるセッティングが必須なので北極星を見つけられないとセッティング自体が出来ません。そのため、北極星が雲に隠れていたりするとセッティングも出来なかったりします。本格的に天体写真を撮る人向けと言っていいでしょう。
一方、アストロトレーサーはGPS信号とレンズ情報から星の移動を計算し、センサーのSR機構を利用して、イメージセンサー自体を動かすことで赤道義と同じ機能を持たせています。
赤道義を使うのに比べて、カメラがGPS情報をもとに自動で調整してくれるため、特別な知識や経験(北極星を探す必要もなくなります)がなくても利用できますので、初心者にも扱いやすい機能となっているのが特徴です。
アストロトレーサーを使って天の川を撮る場合は、「ISO 3200、F2.8、1分」が標準露出です。光害があって画面が明るくなりすぎるようなら、感度を落としたり絞りを絞ってみてください。
具体的な設定は次のようにしていきます。
〈1〉撮影ダイヤルを[B](バルブ)を選びます。
〈2〉PENTAX K-1ならGPSボタンを押してGPSをONにします。PENTAX KPならGPSユニット「O-GPS1」をホットシューに取りつけて、電源を入れます。
〈3〉グリーンボタンを押すとシャッタースピードが[Bulb]から時間表示に切り替わります。ちなみに10秒から20分まで設定できるようになります。
〈4〉露出を「ISO 3200、F2.8、1分」にします。
〈5〉ドライブモードから[2秒タイマー]を選びます。
ここまで出来たら、これをUSERモードに登録しましょう。村田はUSER2に[AstroTracer]として登録しています。
アストロトレーサーは装着レンズの焦点距離や撮影方向によって異なりますが、最大5分まで星を追尾することが出来ます。が、星景として作品を作る場合、星を止められてもその分、地上風景がブレてしまいます(これは赤道義を使った撮影でも同じです)。そこで露光時間を1〜2分に留めておくと、地上風景がそれほどブレずに済みます。これがアストロトレーサーを使う上での最大のコツと言っても良いでしょう。
下の写真は、アストロトレーサーをONにして撮影したときのものです。
OFFのものは地上風景はもちろんピシッと止まっていますが、星は露光時間1分のために流れてしまっています。
ですが、ONのものは露光時間1分にもかかわらず星は止まっています。その分、地上風景はブレています。露光時間を1分に留めているので地上風景のブレは最小限に抑えられ不自然さを感じずに済んでいます。
下の動画は、スターストリームという機能を使用して撮影したものです。
スターストリームとは?
ペンタックスのボディ内合成機能のひとつに「スターストリーム」という動画モードがあります。
これは星々を彗星のように軌跡を描かせて動画として仕上げるものです。
北極星を中心に円を描く様子を収めても良いですし、星々が直線的に動くさまを収めても良いでしょう。撮影のコツは星の動きを考慮して構図を決めてあげることです。あとは、それと合う地上風景を探してみてくださいね。
初心者向け(秘)撮影ポイント
ここまで来たら早速星のきれいな郊外へ撮影に行きましょう! と、言いたいところですが、ご自宅の玄関前で構いません。テスト撮影して比較明合成がちゃんとできるかを確認してみてください。
三脚のネジが緩んでいて、構図がだんだんズレていってしまったり、ピントがあまりよくなかったりするかもしれません。そういう問題は郊外まで遠征しても解決しません。
問題なく撮れるようになってから、郊外へ出かけてみてくださいね。
というわけで、村田が良く出かける(秘)撮影ポイントを教えちゃいます。
富士五湖のひとつ精進湖です。ここは湖畔までマイカーで乗り入れられますから、車の50cm先に三脚がセットできます。特に比較明合成の場合、数十分は待機時間があるので、その間、車の中で休憩できるのは助かります。
トイレもありますし、自販機もあります。車で5分行けばコンビニも1軒あります。何より富士山と星が一緒に撮れます。天の川だってここならばっちりです。
注意点としては週末はもちろん、平日でも一晩中星を撮ってる人が多く集まってきている場所ですので、湖畔に降りる際に車のヘッドライトをハイビームにしてしまうと、全員分の写真をダメにしてしまいます。ですので、ハイビームは絶対にしないようにしてください。それと、車を降りる際にルームライトも付かないようにしておいてくださいね。自分の後から車が入ってくるとわかりますが、かなり気になります。
若干の注意点はあるにせよ、今度の週末は精進湖まで足を延ばしてみてはどうでしょうか?条件さえよければいきなり星景が撮れちゃいますよ。
付録:各撮影項目別カメラ設定早見表
さいごに、これまで解説してきた撮影目的またはPENTAX機特有の機能について、カメラの設定項目とその設定値をまとめました。スターストリームについては、機能のみの紹介でしたので、設定数値はこれを参考にしてみてください。なお、あくまでも標準的な設定数値ですので、撮影時の条件で調整が必要になる可能性があることだけは留意しておいてくださいね。
目的/設定項目 | 比較明合成 | アストロトレーサー (PENTAX機のみ) 天の川撮影時の設定値 | スターストリーム (PENTAX機のみ) |
---|---|---|---|
撮影モード | マニュアル露出 | B(バルブ) | マニュアル露出 |
ISO感度 | ISO 1600 | ISO 3200 | ISO 6400 |
F値 | F2.8 | F2.8 | F2.8 |
シャッタースピード | 8秒 | 1分 | 8秒 |
ホワイトバランス | 3,500K | 3,500K | 3,500K |
セルフタイマー | 2秒 (ドライブモードで変更。レリーズがあれば設定不要) | 2秒 (ドライブモードで変更。レリーズがあれば設定不要) | 2秒 (ドライブモードで変更。レリーズがあれば設定不要) |
GPS | 設定不要 | ON | 設定不要 |
制作協力:リコーイメージング株式会社