PENTAX 100YEARS

HD PENTAX D FA★50mmF1.4 SDM AWに惚れこんだポイントとは?

発売開始から1年以上使用・把握したレンズ特性をポートレート表現で試す

HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AWを装着したPENTAX K-1 リミテッドシルバー(Mark IIへアップグレード済)を構える筆者の岡本尚也さん(撮影:編集部)

ペンタックスよりユーザー待望の35ミリ判フルサイズセンサー搭載機PENTAX K-1が登場して約2年が経った2018年。今か今かと、その登場を心待ちにしていたデジタル時代の最新50mmレンズ「HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW」が、2018年7月についに登場してから早いものですでに1年が過ぎた。

筆者も発売後すぐに本レンズを手に入れて様々な場面で使用してきているが、PENTAX K-1 Mark IIのセンサー性能を最大まで引き出せるということもあって、とにかく使っていて楽しさをおぼえる1本となっている。

HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW

デジタル時代に要求される解像性能にあわせて開発されたレンズで、高い描写性能はもとより、ナチュラルなボケ味も追求した製品である。各収差をより少なくするため内面反射を極力を抑えてフレアによるコントラストの低下を抑える最新のコーティング技術もふんだんに盛りこまれている。

Kマウント用の焦点距離50mmのレンズには、フィルム時代のsmc PENTAX-FA 50mm F1.4も用意されているが、PENTAX K-1 Mark II(有効約3,640万画素)のような高画素センサーの描写力を引き出すには厳しい面があったことも事実だった。

本レンズは、そうした最新のイメージセンサーの要求する性能を満たすものであり、また今後進むであろうイメージセンサーの高画素化をも見越して設計された、デジタル時代に新たに登場した新標準レンズとなっている。

HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AWに惚れ込む理由

発売開始から早いもので1年以上が経った本レンズだが、未だに撮影の現場で感心させられることが少なくない。例えば、これまでのレンズではあきらめていたようなシチュエーション——開放付近からわずかに絞り込むことでボケを維持しつつエッジを際立たせた描写を追求したいシーン。そうしたレンズ性能が鍵となる場面で積極的に作品づくりに集中することができるようになった。

これまでは、ここで「このような表現ができれば」と惜しい思いをしてきたことがあったけれども、念願かなって思い通りの描写が得られるようになった。追い込んだ撮影をしたいシーンであっても、破綻のない描写をもたらしてくれる本レンズは撮影に自由度と、被写体の表情や動きに集中させてくれる信頼性をもたらしてくれた。

例えば人物の撮影。とにかく今まで私が求めていたピント面のキレの良さが際立つ。作例を見ていただいてもおわかりのとおり人物撮影以外のシーンでも、この性能を発揮するシーンは多い。F4に絞り込んだ時点で、解像のピークがきていることがお分かりいただけることだろう。

本記事中で掲載している作例写真はPCやスマートフォンなど閲覧環境を考慮して画像を調整しています。これに伴い、オリジナルの画質とは一部異なる点がございますのでご了承ください。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F4・1/1,600秒・±0EV) / ISO 100
PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.8・1/2,500秒・-0.3EV) / ISO 100

この点だけでも、本レンズ導入のメリットは十二分に得られているわけだが、それ以外にもボケ味や色ノリを求めるシチュエーションでも利点があると感じている。

本レンズは最短撮影距離が40cmとなっており、他の35ミリ判フルサイズフォーマット対応の50mmレンズと比較しても寄れる部類のレンズとなっている。また、そのボケ像はエッジがたった部分からなだらかに溶けていくもので、開放F値F1.4の被写界深度の浅さをいかした寄りの表現で、立体感のある表現ができる点もうれしい。最大撮影倍率は0.18倍と、本格的なマクロ表現を求めるようなものではないが、被写体に少しでも近づけるということは、そうしたマクロレンズ的な表現にも挑戦できるということでもある。

被写体にあと1歩近づきたいという場面で、撮影者の気持ちに寄り添ってくれる、そんな心強さがあるのだ。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/100秒・±0EV) / ISO 100
PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F2.2・1/800秒・±0EV) / ISO 100

筆者はポートレート撮影をメインにしているのだが、モデル撮影が終わった後の帰り道でもスナップシュートしている。帰り道は夜遅い時間となることが多いが、光量の乏しい状況でもF1.4の明るさはPENTAX K-1(Mark II)のファインダーの見えの良さとあいまって、まだまだ撮りたいという気持ちを引き出してくれる。

また本レンズは3枚の異常低分散ガラスに加えて非球面レンズを使用している。が、点光源の中に非球面レンズ特有の年輪模様が入らない点は見事だ。口径食も少なく、画面周辺まで点光源をいれこんでも違和感のない結果が得られる。これもスナップの楽しさをひろげてくれるポイントだと感じている。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/60秒・-2.0EV) / ISO 800

ところで下の写真を良く見てほしい。このレンズを初めて手にした時、筆者は被写体から背景にかけての分離が優れていることをいちばんに感じた。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F4.5・1/1,000秒・±0EV) / ISO 100

F1.4ともなるとピント面が薄く、いわゆる「カミソリピント」になるため、体を前後するだけでピントを外してしまいがちだ。このレンズの場合、そうしたピント面の微調整で活用できるクイックシフトフォーカスに対応してくれたことも、うれしいポイントだった。

これまで筆者は、AFで合焦後、体を前後させることでピントの山をつかんでいたが、この機能のおかげもあって、その手間が省け、より撮影に集中できるようになった。

ピントの山のつかみやすいフォーカシングスクリーンとあいまってトルク感のあるピントリングのフィーリングも心地よい。マニュアルフォーカスで撮っていても高揚した気分で撮影に没頭してしまったほどだ。

使うたびに信頼できる相棒として様々な撮影シーンを支えてきてくれた本レンズ。1年という期間を経て、今回あらためてポートレートにおけるその描写力がもたらすものを考えていった。

撮影では秋の装いを感じさせはじめた湖畔を訪れた。組み合わせたボディはK-1 リミテッドシルバー(Mark IIへアップグレード済)。色と光が気持ちよく降り注ぐ、絶好の撮影日和だ。今回の撮影で、この最新50mmはどのような描写を見せてくれるのだろうか。そんな期待を胸に光線状況を取りこみつつ意地悪な状況での撮影も試みた。以下、本レンズの描写とその切れ味のほどをご覧いただきたい。

最新の技術が撮影領域の幅をひろげてくれる

撮影当日はひろく晴れわたる好天に恵まれた。太陽光はまさにピーカンという状態だったが、あえてフラットな光源のもと、建物を間に入れて撮影した。フラット光でもコントラストのノリが良く、モデルと背景の分離も良い。いかにも現代の最新50mm標準レンズだと感じさせる描写だ。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/1,600秒・±0EV) / ISO 100

モデルの衣装にあたる光の具合を見てもわかるように、非常に輝度差がある場面でのカット。

各収差を抑える設計に加え、最新のコーティング技術が用いられているだけあり、モデルの顔から髪の毛のあたりを見ていただければ分かるとおり、パープルフリンジなどの発生はみられない。このように画面に強い光が入ってくるようなシーンであっても、状況に左右されることなく撮影に集中できた。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/3,200秒・±0EV) / ISO 100

本レンズの開放F値はF1.4だが、このような大口径レンズとなると、つい背景をボカしがちなところを、あえて引きで空や山々の情景も入れ込んだ。ディストーションが極めて少なく、収差による歪みなどの誇張もないため、自然な描写が得られている。もちろん絞り込んでのパンフォーカス撮影も有効である。広角的な表現にもぜひチャレンジしていただきたい。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/3,200秒・+0.3EV) / ISO 100

わざと意地悪な条件で撮影してみた。太陽を背にした光線状況だが、収差の影響はみられない。これは、最新のHDコーティングとエアロ・ブライト・コーティングIIの恩恵である。ただフレアやゴーストを抑えるだけでなく、コントラストが低下しないところにも信頼が置ける。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/1,600秒・±0EV) / ISO 100

寄りと引きの楽しさを味わう

半逆光の中、レフ板を介して適正露出を狙った。モデルとの距離を詰めてバストアップで表情を捉えた。髪の陰影も余すところなく描き出している。F1.4という開放F値での撮影だが、その中にあるピントの芯を実感していただけることだろう。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/1,000秒・+0.3EV) / ISO 100

ポートレートといえば中望遠系の85mm域が主流となっている今現在だが、50mmの魅力は、引けば広角的効果、寄れば中望遠的効果が得られる点だろう。

標準といわれている焦点距離なだけあり、1本で様々な描き分けができる。このカットではわざと情景を入れ込むために引きで広角気味に撮ってみた。サイド光という悪条件なのだが、コントラストの低下もなく、白トビ・黒ツブレすることなく自然な立体感で表現することができた。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/3,200秒・+0.3EV) / ISO 100

ポートレートというと背景を思い切りぼかして仕上げがちなのであるが、「どこで撮影したか」という記録的な情報もストリートでのポートレートでは重要な要素となる。あえて引いて背景を入れ込んでみた。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F2.2・1/600秒・+0.3EV) / ISO 100

湿度感や物体の質感も引きだす描写力

とても難しい光線状態なのだが、あえて開放絞りで撮影した。衣装の陰影のディテールまで克明に出ているカットになったと思う。

何よりも開放絞りF1.4での背景の点光源の口径食の少なさに驚かされるだろう。本レンズの絞り羽根は9枚。円形絞りを採用しており、F2.8まではほぼ真円を維持している。そのため少し絞り込んでの撮影でも余裕をもって臨める。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.8・1/60秒・-2.0EV) / ISO 100

開放絞りF1.4の特性をいかして、あえて前ボケをいれてみた。ボケ味は嫌みのない素直な描写で、すっきりした印象に仕上げてみた。元々ヌケの良いレンズなので不自然な感じもなく、モデルの立体感を表現できたと思う。

PENTAX K-1 Mark II / HD PENTAX-D FA★ 50mmF1.4 SDM AW / 絞り優先AE(F1.4・1/200秒・-2.3EV) / ISO 100

まとめ

今回は街中で撮るポートレートではなく、山あいでの撮影となったのだが、最新のコーティング技術により光線状態に左右されることなく、モデルのポージングに集中して撮影できた。またレンズフードのつくりも良く、レンズ一体形状もさることながら、その遮光効果の高さは最新のレンズコーティングとともに有害な光線のカットに役立った。

光学設計を優先した現代レンズ全般に言えることだが、HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWもまた50mmレンズとしてはやや大きめの部類に入る。だが、これだけの性能をまといながら、近年の高性能化にあわせて高額化してきてしまった50mm F1.4レンズの中にあって、本レンズはそれでも廉価な部類にある。このことは、ペンタックス機を愛用するユーザーならではの利点だといえるだろう。

また、サイズ・重さを気にする向きもあるかもしれないが、PENTAX K-1 Mark IIに装着した時のバランスは良く、モデルと移動しながらのポートレート撮影でもストレスを感じない。実際、撮影当日はほぼ1日中歩き回りながらの撮影となったが、疲労がでることなく撮影に集中できた。

また、明るいF値とボディ側の5軸5段の手ぶれ補正効果と相まって、日中の撮影はもちろん、光量の乏しくなる夕刻から夜にかけての撮影カットでも歩留まりが良い。このことはボディとレンズの重量バランスの良さを物語る結果だと感じている。

もちろんPENTAX KP、PENTAX K-70などのAPS-Cセンサーを搭載するボディに装着して使用するのもいいだろう。この場合、35ミリ判換算で76.5mm相当の準ポートレート域となる。ぜひこうした画角の変化も楽しんでほしい。フルサイズとAPS-Cどちらのボディでもイメージセンサーの性能を引き出してくれることだろう。最短撮影距離が40cmである利点をいかして寄りの撮影も表現の幅を広げてくれるので、モデルの一部分を切り出して見せたい場面でも効果的だ。

何よりも、大口径F1.4の絞りを開放にした状態でピントが決まった時の画からは、今回もため息のでるようなインパクトある描写が得られた。AF速度もポートレート撮影に支障のないスピードで、リズムのよい合焦速度である。解像感のピークは絞りF4辺りから始まりF5.6くらいまでフラットに続く。

ただし、1点だけ注意点がある。ピント面の被写界深度の薄さだ。どのメーカーの一眼レフカメラにもいえることなのだが、測距用のセンサーが別に用意されているその機構上の理由から、ボディによっては個体差がある場合もある。もちろん、ボディ側でAFの微調整は可能であるため、レンズ性能をフルに発揮させたいのであれば、この点にもしっかりと留意しておく必要がある。

ペンタックス機を長く使用してきている筆者自身、本レンズは待ち望んでいた1本であり、発売当初からの付き合いは早いもので1年を過ぎた。レンズの特性やクセは把握しているが、それでもその描写にはハッとさせられることが多く、もっと踏み込んだ表現をしてみたいと、撮影者に思わせてくれる。こうした表現の可能性に気づかせてくれるということもまた、この50mmレンズの魅力なのだと思う。

今回のシチュエーションでもその描写は期待に反しない写りであった。道具としての質感・完成度も高く、所有欲も満たしてくれる。これからも長い付き合いになるであろう1本だ。

付録:ポートレートにも強いペンタックス

カメラに詳しい人の場合、ペンタックスと聞くと風景を連想する人も多いのではないだろうか。確かにK-1(Mark II)はもちろん、PENTAX K-70にいたるまで防塵防滴構造を採用しており、低温でも動作するタフさは過酷なフィールドでの酷使に耐えるものだ。色の再現性も良い。

そうした陰に隠れてしまっているが、ポートレート向きの機能も用意されている。「肌色補正」機能だ。K-1 Mark II、PENTAX KPなどで搭載されている機能で、顔を検出して、肌の質感や色味を調整してくれるというもの。調整方法は2種類ある。ひとつめのType1は色と明るさを調整するというもの。ふたつ目のType2は、Type1の内容にさらに質感の調整が加わる。

カメラ内RAW現像で肌色補正を適用しているところ

以下に機能をオフにした場合、Type1を適用した状態、Type2を適用した状態を掲出した。モデルの顔とニットの質感に注目してほしい。Type1を適用する前後では光の強さが違うことが分かるだろう。オフの状態にType1を適用すると、ぐっと立体感が増している。Type2を適用すると、ニットの質感はほぼ変わらず肌の描写が滑らかになっている。

「肌色補正」機能を搭載した機種を所有されているユーザーの方は、ぜひ一度お試しいただきたい。

左から補正なし、肌色補正Type1、肌色補正Type2

モデル:丹羽明日香
制作協力:リコーイメージング株式会社

岡本尚也

東京都渋谷区生まれ。アパレル会社、広告代理店勤務ののち、フォトスタジオアシスタントを経て独立。ポートレートを主体に撮影をこなす。現在、主にアパレル、ファッション分野のフォトグラファーとして活躍中。カラーマネージメント関係の講師も務める。ペンタックスリコーフォトスクール講師。