特別企画
自然写真家・鈴木一雄のランクアップ撮影術
フルサイズ一眼レフでワンランク上の写真を堪能する
2018年10月1日 11:00
自然写真家・鈴木一雄氏は「作品のチカラは、被写体の力+撮影者の技術力+撮影者の感動力の総合力だ」と語り、長く写真を続けていく中で陥りがちなスランプの原因について指摘する。さらに、作品をより良いものにするための道具のレベルアップについても語り、PENTAX K-1 Mark IIの使いこなしを交えながら、鈴木氏おすすめの最新機能なども紹介する。
自然写真家・鈴木一雄
1953年福島県生まれ。自然界が発しているさまざまな聲(こえ)を五感で受け止め、その物語を描くことに精力を傾ける。(公社)日本写真家協会会員、日本写真協会会員、日本自然科学写真協会会員。フォト寺子屋「一の会」主宰。日本写真家連盟常任講師。全日本写真連盟関東本部委員。写真集に『‐日本列島‐花乃聲』『‐日本列島‐季乃聲』『櫻乃聲』『おぐにの聲』『裏磐梯の聲』『尾瀬の聲』『尾瀬しじまの旋律』『裏磐梯彩景』、著書に『‐見たい撮りたい‐日本の桜200選』『デジタル露出の極意』『風景写真の極意』『露出の極意』など多数。「写真による自分史つづり」を提唱。
[ランクアップ撮影術①]“感動力”を大切に
写真愛好家には、ベテランになるほど患いやすい疾患がある。それは「感動喪失病」である。素晴らしい光景に出会うほど、以前は感動できた風景に感動できなくなってしまうという病だ。
以前にある雑誌の取材で撮影していたときのことである。原稿執筆に追われていたため、久しぶりの朝焼けに出会えた私は、うれしさのあまりたくさんのシャッターを切り続けた。だが、終わった頃に写真愛好家がやってきて、「今日の朝焼けはダメでしたね。私は1枚も撮りませんでした」と話したのである。私はその方に「一期一会の出会いを大切にし、もっと感動するように心掛けてください」とアドバイスした記憶がある。
私たちは、常に『感動喪失病』という贅沢病にならないように注意しなければならない。作品のチカラは、被写体の力+撮影者の技術力+撮影者の感動力の総合力だ。技術力が向上していっても、感動力が低下してしまっては、写真のチカラは強くならないし、スランプが訪れる。だから、過去の素晴らしい光景を基準にして眼前の光景を評価するのはやめよう。生きていること、撮影に来れたこと、シャッターを切れることの喜びと感謝の気持ちを忘れず、一期一会の光景に心を震わせることが、写真上達の極意である。
だからこそ、技術力のステップアップを心掛けると同時に、自らの“感動力”を高めることに努めたい。
[ランクアップ撮影術②]広角レンズから撮る
これまでの撮影会などで最も多かった質問は、「先生、どこを切り取れば一番いいフレーミングになりますか」という内容である。そこには大きな問題が潜んでいる。それは、一番を求めて最も魅力的な部分だけを切り取ろうとすると、どうしても望遠レンズでの作画になってしまう。すると次以降は、目障りな部分が気になったりして作品作りの展開が限られてしまう。
私が推奨する撮影術は、現場では“まず広角レンズでの作画から始める”ということだ。人間に対峙する場合と同じで、細かな短所を気にするのではなく、長所を評価して丸ごと受け止めるのである。
例えばこの「田植えの頃」は、右側のガードレールや電柱などを気にしていては撮れない作品だ。確かに、画面にガードレールなどはないに越したことはないが、それらの人工物を嫌っていたのでは、このスケール感と季節感に満ちた作品は撮れなくなってしまう。だから「広角レンズで丸ごと被写体を受け止めて作画する」ことを常に心掛ける必要があるのだ。それができれば、あとは引き算をしていき、次々と多様なフレーミングが可能になってくる。
[ランクアップ撮影術③]一写入魂の姿勢
ある時、私が主宰するフォト寺子屋「一の会」の会員のひとりが、興奮しながら私に報告してきた。「この前、旅行会社の撮影会に参加してきたんです。そうしたら、担当した先生は“フレーミングは少し広めにして撮るようにしましょう。後でいろいろなトリミングができますから、失敗はありません”と指導したんですよ。プロがこういう指導をするなんでおかしいですよね!」
私自身は、銀塩写真もデジタル写真も、これまで発表してきた写真展作品及び写真集の作品はすべて“ノートリミング”にこだわってきた。それは、写真家を目指した時から「自分自身が胸を張れないような取り繕いはしない。完成度の高い作品作りを目指す」と誓ったからである。この考え方は、フォト寺子屋「一の会」の会員にも受け継がれている。
今日にいたり、つくづく「急がば回れ」だと実感している。丹念に探求しようとする姿勢は、写真上達のための最も大切なカギだと思う。“ノートリミング”は、その象徴と言えよう。また、後からいろいろ取り繕うことはしないという姿勢を持つと、その後の取り組みにおいて「潔く、迷いなく写真人生を楽しめる」ことにもつながる。それらが、“ノートリミング”の意義であり、奥義といえよう。
もちろんノートリミングにこだわる際に重要なのはファインダーである。視野率は100%でなければ、意図しないフレーミングになってしまう可能性があることを覚えておく必要がある。
道具をレベルアップすれば作品もランクアップ!
PENTAX K-1 Mark IIというフルサイズ機を選択する意義は何か。その最大の理由は「作品をより良いものにし、写真人生をもっと楽しむための道具のレベルアップ」ということになろう。画質や描写性能、高感度特性、さらにはフラッグシップ機が有する特別な性能や機能など、最高のカメラを使うことで作品がより良いものになるのは間違いない。
これまで写真愛好家の中では、フルサイズ機の性能を認めつつもその大きさと重さがネックとなってあきらめてきた人は多い。とりわけ、高齢者の方や女性の方々にその傾向が見受けられる。だが、K-1 Mark IIはフラッグシップ機としては、かなりコンパクトなサイズであり、比較的軽量といえる。
夏の森の中に咲くレンゲショウマという花だ。下を向いてうつむき加減に咲いている。私は仰ぎ見るように、HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWを使って絞り開放で狙った。ため息が出てしまうほどの美しいボケ味とは、このことを言うのであろう。背景の森の風情が失われることなく、樹木や森の雰囲気が優しく、そして美しく描かれている。道具のレベルアップは、カメラだけではなくレンズについても言えるということを覚えておこう。
[K-1 Mark IIのスゴ技①]進化したリアル・レゾリューション・システム
有効画素数約3640万画素を誇るK-1 Mark IIの画質は、本当に秀逸だ。写真展などで大きく伸ばすと、APS-Cとの差は明確になる。そしてさらに「リアル・レゾリューション・システムII」というすごい機能を備えている。
PENTAX K-1に初めて搭載されたリアル・レゾリューション・システムは、一般的なフルサイズ機の限界を超えた解像力と精緻な色再現を可能にした。それは、画期的な超高精細画像の生成技術である。今回のリアル・レゾリューション・システムIIは、新たに手ぶれ補正モードを搭載し、暗いシーンや三脚がないときでもリアル・レゾリューション・システムを活用できるというものである。
私はK-1 Mark IIで撮影した作品を事務所の大きなモニターで鑑賞するたびに、そのチカラに驚かされる。「待ちわびし春」は、被写体の細かなディテールや立体感、そして臨場感が半端ではない。花びら一枚一枚がしっかりと描かれている。それは中判デジタルカメラに肉薄する画質であり、誰もが衝撃を受けざるをえない。
このチカラは、写真展などで大きくプリントしたときに発揮され、他の作品に比べて明らかな違いとなって現れる。また、やむを得ずトリミングをする写真愛好家の方にとっても、この超高精細画質は救世主の画質といえるのではなかろうか。
[K-1 Mark IIのスゴ技②]抜群の高感度性能
ISO 819200を実現した超高感度性能の飛躍は、本当にすごい。PENTAX K-1がISO 204800であったことを考えると、二段分の増幅を実現したことになる。もちろん100000を超えるようなISO感度設定を行うことはほとんどないが、実用できる高感度領域が拡大されたのは確かである。高感度ノイズが気にならない領域が大幅に拡大しており、作品作りの自由度が格段に広がった。
「梅雨の晴れ間」は、手持ちで撮影した作品である。青空のコントラストを高めたり葉のテカリを除去するために、PLフィルターを使っている。この状況でISO 800にすると1/80秒というシャッター速度になってしまう。手ぶれは手ぶれ補正によりある程度はカバーできるが、風による葉などの被写体ぶれが気になることは多い。そのようなときに、高感度ノイズを気にせずに、安心してISO 2000以上の感度設定が使えるメリットはとても大きく、感動的である。
[K-1 Mark IIのスゴ技③]画期的な操作部アシストライト
下の作品「朧」は、薄暗い午前4時過ぎに撮影した作品である。私の写真教室で、夜明け前の長時間露出をテーマとした撮影を行ったときのものだ。20名ほどの参加者が午前4時過ぎからスタンバイし、30秒という長時間露出で描く残雪の風景、特に水の流れの幻想的な表現に挑戦したのである。
このときに、レンズ交換を行うためにヘッドランプを点灯する人がいて、その光が撮影中のほかの人に迷惑をかけるという事態が起きた。暗い中での撮影(夜明け前や日没後、夜の星撮影など)では、レンズ交換やSDカードの交換などのために、ヘッドランプを点灯させることがある。手元用の小さな赤色ペンライトを用意しておけば問題はないが、周囲まで明かりが漏れてしまうヘッドランプでは、周囲の人の撮影に支障を来すという問題が起きる。
PENTAX K-1 Mark IIは、そのような問題を解決する画期的な機能を備えてくれた。それが、「アシストライト」である。照明ボタンを押すと、レンズマウント、SDカードスロット、ケーブルスイッチ端子部、液晶モニター背面の各箇所に配置された小さなLEDライトがともり、暗い中での操作がスムーズに行えるのである。これは、世の中のカメラでPENTAX K-1/K-1 Mark IIだけに備えられたスグレモノの装置なのだ。
[K-1 Mark IIのスゴ技④]ISO感度による一発露出調整
風景・ネイチャーのジャンルにおいては、瞬時に露出の組み合わせを変えたり、段階露出で撮影する場面が結構多い。動く被写体をとらえたりするときなどは、急いでシャッター速度や絞り値を変えるだけではなく、ISO感度まで変更したい場面が出てくる。そのようなとき、ダイヤルを回す操作のみでISO感度を瞬時に変えられるPENTAX K-1 Mark IIには大きなメリットを感じることができる。
「滝登り」では、ジャンプするサクラマスを高速シャッターでシャープにとらえるためにシャッター速度を1/1,000秒に固定、そして絞り値は被写界深度を深くするためにF16に固定した。その結果の適正露出としてISO 2000を選択したが、雲の動きによって時として明るさが変わる。それに対応して適切に露出を調整しなければならないが、それを可能にできる唯一の手段が素早いISO感度の変更である。
機能ダイヤルをISO感度に合わせておけば、設定ダイヤルを回すだけでISO感度を瞬時に変更でき、露出を変えることができるのだ。他のメーカーにはない、優れた操作性がここにある。
[K-1 Mark IIのスゴ技⑤]便利なフレキシブルチルト式液晶モニター
作品は、四隅までしっかりフレーミングすることが大切だ。K-1 Mark IIのファインダー視野率は100%で、そして見えやすく、とてもフレーミングを決めやすい。
問題は、ローアングルやハイアングル時のフレーミングである。ローアングルに重宝するアングルファインダーやハイアングルに必要な踏み台などを常時携行している人はほとんどいない。そのためにフレーミングが雑になったり、撮影をあきらめてしまうケースもあるだろう。
K-1 Mark IIには、液晶モニターを4本のステーで保持するフレキシブルチルト式液晶モニターが搭載されている。これを活用することで「カタクリの舞」のようなローアングルの場面やハイアングルの場面でも、簡単にフレーミングを決めることができる。これも特筆すべき機能といえる。
新しいステージへ
ここまでいろいろと述べてきたが、これはあくまでも自然写真家・鈴木一雄の考え方である。読者の皆さんには、参考になったと思われるものを引き継いでいただき、今後の撮影に役立たせていただければ、それだけで望外の喜びである。
さあ、新しいステージに一歩踏み出し、楽しい写真人生を歩もう。
風景撮影術特別セミナー「PENTAX K-1 Mark IIのスゴ技と紅葉撮影の極意」
10月21日(日)に、新宿センタービル49階の+OURS新宿コワーキングスペースにて、自然写真家 鈴木一雄氏による特別セミナー『PENTAX K-1 Mark IIのスゴ技と紅葉撮影の極意』が実施されます。
日時:2018年10月21日(日)13時30分開始、15時30分終了予定
集合場所:新宿センタービル49階 +OURS新宿コワーキングスペース
制作協力:リコーイメージング株式会社