特別企画

ポートレート写真家・福島裕二さんに聞く ニッシン「MG10」の魅力

グリップ+無線コマンダーで自由な光を さらに意外な使い方も

2018年8月24日にニッシンジャパンより発売されたグリップ式のストロボ「MG10」。"マシンガンストロボ"のMG8000の次世代機種として開発されたものだが、MG8000のユーザーである筆者としては、スペックだけではなく、MG10を使うと実際にどのような写真が撮れるのかを知りたい、と強く思った。

そこで、MG10を用いて女性ポートレートの作品撮りを行なっている写真家の福島裕二さんにお願いして、撮影現場を見せていただきながら、MG10の具体的な使い方を教わることにした。

ニッシンジャパンのストロボ、MG10とは?

発光部に高耐熱クオーツ管を採用して連続した発光にも耐えられる設計としたストロボ。ガイドナンバー80という大光量を実現している。

前モデルはクリップオンタイプだったが、後継モデルである「MG10」はグリップタイプとなっている。これにより、ストロボを単体・手持ちで使用できるようになった。また、グリップ上部にはワイヤレスのレリーズボタンも備え、カメラから離れてシャッターを切ることができる。

発売は9月下旬。数量限定で発売された「スピードライト MG10+Air10s キット」(キヤノン/ニコン/ソニー用)は、8月24日からニッシンジャパン特約店で先行販売されている。

MG10で撮影してもらった写真家・福島裕二さんとは?

上野勇氏に師事。1997年独立。フリーランスとして活躍。2003年、有限会社ハーベストタイムを設立。女性を主題とした撮影を得意とし、商業撮影、雑誌など多数の媒体で活躍。その撮影手法は多岐に及ぶ。

最近では「浜田翔子×福島裕二写真展」を渋谷のギャラリー・ルデコで開催。盛況のうちに終了した。

以下、MG10を使用した福島さんの作品と感想を見ていただきたい。

パターン1:ブラケットでカメラの横に装着

D5 / Milvus 1.4/25 ZF.2 / 25mm / マニュアル露出(2秒・F5.0) / ISO 125

――迷わずこの場所で撮影を始められましたが、なぜこの時間、場所を選ばれたのか教えてください。

MG10を初めて使ったとき、「光が綺麗なストロボだ」と感じました。そこで、その光の綺麗さがわかりやすく出る時間と場所で撮影をしようと考え、ここを選びました。

――質問内容から少し離れてしまいますが、「光が綺麗」とは具体的にどういうことでしょうか?

MG10は「演色性」が高いストロボです。そのことを「光が綺麗」と表現しました。セコニックのスペクトロマスターC-700を使いMG10の演色性を計測してみましたが、1/250、F11、ISO100のとき、Raは「98.3」と出ました。

自然光が当たったときと同様の色を再現できるのがRa100ですから、Ra98.3はそれに近い値です。そのため、MG10は自然光が当たったときに近い色表現ができる、といえます。

※演色性……演色性照明で物体を照らすときに、自然光が当たったときの色をどの程度再現しているかを示す指標で、平均演色評価数(Ra)を使って表すのが一般的。

――光の綺麗さがよくわかるのが、この時間・場所だったということですね。

はい。ストロボの光がわかりやすく出るのは、暗いところです。だから、時間帯としては、暗くなる「夜」に撮影するのが良いと思いました。

ロケーションに関してですが、モデルさんのメイク中に、スタジオの外を眺めていたら雲の形が良かったのと、その雲がモデルさんのアンニュイな表情に合うように感じたので、背景に空が入るこの場所を選びました。

――カメラ周りのセッティングについても教えてください。「オンカメラ」という言葉がありますが……MG10はカメラの上部に装着するクリップオンタイプではなく、握って持つグリップ型なので、カメラの上に乗せる("オン"する)ことはできませんね。

そうですね。ですので今回はカメラに専用ブラケットを装着して、そこにMG10をつけています。さらに、ブラケットの位置を調整して、MG10の光の芯がレンズの真横にくるようにしています。ちなみに、MG10の光量は、カメラのホットシューの上に乗せたAir10sというコマンダーで調節しています。

――モデルさんの真正面から撮影していますね。

僕はモデルさんと真正面から向き合った写真が好きなのでこのように撮りました。

――真正面からストロボを当てると、モデルさんの顔が真っ白になってしまうイメージがあります。

確かにそれはあります。このように、ストロボを直に当てる撮影では、モデルさんの肌が真っ白にならないよう、肌の反射率をふまえてお化粧できるメイクさんにお願いする必要があります。そうしないと、攻めていけません。

――ストロボを使う撮影ではメイクさんの存在も大切なのですね。

女性ポートレートを撮影する場合は、特に大切ですね。

――具体的な撮影の設定について教えていただけますか。

光の感じがよくわかるように、MG10にはアクセサリをつけず、直にモデルさんに光を当てています。光量は、強く当たりすぎない程度にマニュアルで調整しています。被写体にだけ光を当てたかったので、照射角度は200mmにして、光の当たる範囲を狭くしました。

また、背景にある夜景や雲をきちんと描きたかったので、三脚を使い、シャッタースピードは2秒に設定しました。色味は、青白いよりも、暖色系の方がしっくりきたので、WBを6670Kに設定してオレンジっぽくなるように調節しました。

――普段のお仕事で、よくストロボをブラケットに装着して撮影していますよね。MG10はAir10sを使って無線でコントロールできますから、ストロボをもっと離れたところに置いて撮影しても良い気がします。あえてこのスタイルで撮る利点はなんでしょうか?

このスタイルは、ストロボの向きがレンズの光軸と合っているので、光の向きを非常に捉えやすい、という利点があります。あとは、ストロボの光が被写体に直に当たると「生っぽい」雰囲気が出るので、そういった表現をしたいときによく使います。グラビアのお仕事で写真を組むときには、そういった表現のカットが混ざっているとメリハリがつきますしね。

パターン2:オフカメラでモデルの周囲から当てる

D5 / Milvus 1.4/25 ZF.2 / 25mm / マニュアル露出(2秒・F5.0) / ISO 125
D5 / Milvus 1.4/25 ZF.2 / 25mm / マニュアル露出(2秒・F5.0) / ISO 125

――この作品は、「リモートシャッターレリーズ」機能を使用して撮られたものですね。

はい。カメラを三脚に設置した上でMG10を手持ちにして、モデルさんの周りをぐるぐるまわり、いろいろな角度から光を当てました。MG10のレリーズボタンを押して、リモートでカメラのシャッターを切っています。

――MG10の特徴として「リモートシャッターレリーズ」機能がありますね。グリップ部前面にあるレリーズボタンを押すと、リモートでカメラのシャッターを切ることができる機能です。カメラとAir10sをレリーズケーブルで有線接続し、ストロボ側から無線でAir10sにレリーズの信号が送られると、Air10sがカメラのシャッターを切る、という仕組みです。

カメラとAir10sをレリーズケーブルで有線接続した状態。

AFレンズで「リモートシャッターレリーズ」機能を使う場合は、MG10のレリーズボタンを半押しするとピントが合いますが、僕はMFレンズを使ったので、置きピンにしています。「リモートシャッターレリーズ」機能、めっちゃいいです!

――どういうところが、めっちゃいいですか?

僕は、その時々の、モデルさんの雰囲気にあった光の向きで撮影をしたいと思っています。モデルさんがカッコイイ雰囲気のときは、サイドから光を当てて陰影を強く出してみたり……。「リモートシャッターレリーズ」機能を使えば、モデルさんの雰囲気にあった光の向きを瞬時につくれます。そこが、いいなあと思います。

――モデルさんの雰囲気にあった光の向きを瞬時に判断するのは、福島さんのような経験豊富な人でないと、難しい気がします。

ストロボ初心者の方にこそ「リモートシャッターレリーズ」機能はオススメです。光の向きを勉強するには最高だと思いますよ。「こういう光の向きだと、こういう雰囲気になるんだ」と、自分でストロボを動かしながら学んでいけば良いんです。

――MG10はグリップも大きいので、持ちやすそうですね。

成人男性の手に馴染みやすいサイズだと思います。モデルガン遊びをするような感覚でストロボを握れるので楽しいです。

――MG10は"マシンガンストロボ"MG8000譲りの高耐熱仕様ですが、連続発光についてはいかがですか?

高速連写をしましたが、オーバーヒートすることは一度もありませんでした。シャッターチャンスを逃すことなく撮影に集中できましたね。

――MG10はモデリングに使える内蔵LEDライトもついていますね。LEDに関してはいかがですか?

モデルさんに当たる光を目視で確認できるため、便利です。こんな風に、LEDだけでも撮影できちゃいます。

D5 / Zeiss Otus 1.4 / 55 ZF.2 / 55mm / マニュアル露出(1/10秒・F2.8) / ISO 800

――こちらもLEDで撮影したものですか? さきほどとは違う雰囲気ですね。

D5 / Zeiss Otus 1.4 / 55 ZF.2 / 55mm / マニュアル露出(1/10秒・F2.8) / ISO 800

はい。LEDで撮影したものではありますが……。MG10の照射角度を24mmにして、ズームカバーを先端まで伸ばすと、ズームカバーの端から光が漏れます。その漏れた光でライティングしています。

――漏れた光とは……?

ちょっとマニアックな話になりますが、僕、MG10のズームカバーを先端まで伸ばしたときに、端から漏れてくる光が柔らかくて大好きなのです。

ズームカバー通常時。

ズームカバーを先端まで伸ばして、光が横に漏れている状態。

こちらの作品は、向かって左からストロボを発光させて、モデルさんに光を当てています。しかし、端から漏れてくる光だけを当てているので、とても柔らかい印象です。

D5 / Zeiss Otus 1.4 / 55 ZF.2 / 55mm / マニュアル露出(1/100秒・F2.8) / ISO 800

――(ストロボヘッドにつける)アクセサリーなしで撮っているとは思えない雰囲気ですね。

MG10の魅力は、アクセサリーなしでもいろいろな光のバリエーションを作れるところだと思います。

パターン3:3灯で撮影

D5 / LENSBABY Velvet 85 / マニュアル露出(1/160秒) / ISO 100

――今度は室内に移動しての撮影ですね。

はい。さきほどは夜景という"状況"を生かした撮影をしましたが、次は、何もない白い部屋で画角や背景を変えず、アクセサリもつけず、MG10の使い方だけで写真に変化をつけてみたいと思います。

――セッティングについて教えてください。

全部で3灯のMG10を使います。これらの光量調整はAir10sで行います。まず、カメラ横の1灯を【A】、モデルさんの頭上の1灯を【B】、背景の壁に当たっている1灯を【C】とグループ分けしました。さきほどと違うのは、Air10sでTTLオートとマニュアルを混在させて調光しているところです。今回は、【A】をTTLオート、【B】と【C】をマニュアルで調光しています。

――Air10sでTTLオートとマニュアルを混在させて調光できるようになったのは画期的ですね。

僕がAir10sで最も気に入っている機能です! 光量を固定したいものと、常に動かしたいものを混在させられるということです。現場では、背景の光量は固定(マニュアル)、モデルさんの前面を照らす光量は可変(TTLオート)で撮影したいケースが多いので、そういったときにTTLオートとマニュアルを混在させて調光できるのは大変ありがたいです。

――各ストロボの具体的な設定を教えていただけますか。

モデルさんの頭上にある【B】は、モデルさんをメインで照らすキーライトの役割を果たします。自然光っぽく見えるように、ライトをモデルさんの斜め上に配置しました。光の芯を当てるのではなく、漏れる光を当てるのがポイントです。光量は「1/64」、照射角度は200mmです。

――背景にあるストロボについても教えてください。

背景の壁際にある【C】は、漏れる光がちょうど壁に当たるような配置にしました。漏れる光で背景を柔らかく照らしたかったからです。【C】はマニュアルで調光しました。光量は「1/128」、照射角度は200mmです。

――カメラ横の1灯についても教えてください。

カメラ横の1灯は、モデルさんの前面から照射し、全体のトーンを整えるためのものです。グループは【A】とします。モデルさんの動きに合わせて光量を調節したいので、【A】はTTLオートで調光しました。光量は「-2.0」、照射角度は24mmです。

――全体的に光量を弱めにして、漏れる光を使いライティングをすると、こんなに自然な印象になるのですね。アクセサリなしで撮影されているとは思えません。驚きです。

ライトの使い方だけで写真の雰囲気を変えていくと、ライティングの力がつきます。漏れる光を使い全体を柔らかい印象にするだけではなく、たとえばこんな風に、直当てして硬い光を楽しむのも一興です。

D5 / Zeiss Otus 1.4 / 85 ZF.2 / 85mm / マニュアル露出(1/200秒・F2.5) / ISO 100

――また雰囲気が変わりましたね。

【B】と【C】はそのままです。お肌が綺麗なモデルさんだったので、あえて硬い光を当てて、肌の透明感を演出したいと思いました。

そこで、【A】をカメラから離し、モデルさんの口元周辺を狙って直当てしました。スポット的に当てたかったので、【A】の照射角度は200mmにしています。

D5 / Zeiss Otus 1.4 / 85 ZF.2 / 85mm / マニュアル露出(1/200秒・F2.8) / ISO 100

――直当てしてもこんなに綺麗なのですね。

演色性の高いMG10だからできることです。

モデルさんが大人っぽい表情をしてくれたので、それに合わせてまたライティングを変えてみました。

D5 / Zeiss Otus 1.4 / 55 ZF.2 / 55mm / マニュアル露出(1/200秒・F2.5) / ISO 64

モデルさんの表情に真っ先に目がいくようにしたかったので、背景の壁を照らしていた【C】の光が壁に当たらないようにして、背景をやや暗く落とし、フレーム内のハイライト(最も明るい場所)がモデルさんの顔にくるようにしました。表情の良さが際立った写真になりましたね。

――写真のフレーム内における「ハイライト」の位置や面積の大切さがよくわかります。

人間の目は、まず「ハイライト」が気になるようにできています。全体的に白っぽい写真(ハイライトの面積が広い写真)よりも、局地的に白い写真(ハイライトの面積が狭い写真)の方が、そこに目がいきますよね? 表現したいものに合わせて、ハイライトの面積をコントロールできるようになれば、写真はより楽しくなります。MG10は光が綺麗だし、扱いやすいので、ハイライトのコントロールの勉強には最適ですね。

――よりドラマティックな雰囲気になりましたね。

モデルさんの表情がどんどん大人っぽくなっていったので、それに合わせてより大人っぽいライティングにしてみました。セッティングの意図ですが……、直感的に決めちゃいました。これぞ、MG10の真骨頂、というライティングだと思います。アクセサリーなしでパッと繊細な光のコントロールができるので、撮っていて楽しいですね。

――そういえば……今日はたくさん写真を撮られていたと思いますが、MG10のバッテリーの減り具合はいかがでしょうか。

873枚撮りましたが、リチウム電池はほとんど減ってないようです。光量を弱めにしていたというのもありますが……。最も減っているもので、充電器にさしたとき残量が87%と出ていました。13%しか使っていないということですね。

まとめ

ズームカバーの端から光が漏れだす光をうまく使えば、グリップ式のストロボとは思えぬほど柔らかい光をつくりだせるMG10。演色性も高いので、硬い光で直当てしたときの描写も良い。福島氏の撮影を通じて、MG10は、アクセサリーなしでも豊富な光の種類を楽しめるストロボであることがわかった。

しかし、決して玄人向きのストロボというわけではない。内蔵LEDライトが搭載されたので、ストロボを発光させる前に、光が当たっている範囲を目視で確認できる。また、ストロボを手に持ち、動かしながらシャッターを切ることができる「リモートシャッターレリーズ」機能を使えば、光の向きとその効果を学べる。これからストロボを使ってみたいという初心者にもぴったりだ。

初心者から上級者まで、どのような人が手にしても、撮影の可能性をさらに広げることができるだろう。

MG10写真展&セミナーのお知らせ

11月上旬、福島裕二さんがMG10を使って撮影をした作品を展示する「MG10展」を渋谷ギャラリールデコの6Fにて行います。このとき撮影した作品も展示します!

また「MG10展」に先駆け、10月には福島裕二さんによるMG10セミナー「MG10×福島裕二 特別セミナー@ニッシンスタジオ」も開催予定です。

詳細は、ニッシンジャパン、および福島裕二写真研究のTwitterアカウントで。

制作協力:ニッシンジャパン株式会社
モデル:香川美音

大村祐里子

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。