特別企画
中判ミラーレス「FUJIFILM GFX 50S」で撮る 長崎〜池島〜阿蘇
最新GF110mmF2を含む3レンズの実写画像を掲載
2017年7月3日 12:00
FUJIFILM GFX 50Sは、35mm判よりもひとまわり大きいイメージセンサーを搭載した中判デジタルカメラである。有効画素数は約5,140万画素と、キヤノンEOS 5Ds(約5,060万画素)と数字的には同等にも見えるが、35mm判フルサイズセンサー(約36×24mm)と比べると、GFXのセンサーサイズ(43.8mm×32.9mm)の方がより大きいことで、表現できる階調の幅広さや高感度撮影時のノイズの少なさといった点が有利となると考えられる。
GFX 50Sの外観や機能については、掲載済みの過去記事を参照いただきたい。
本稿では長崎県および熊本県での作品をもとに、画質や操作性をレポートしたいと思う。
標準ズームレンズ1本、単焦点レンズ2本で撮影
一緒に持参した交換レンズは3本。
GF23mmF4 R LM WRは、35mm判換算で18mm相当の超広角レンズとなる。単焦点レンズだが標準ズームレンズのGF32-64mmF4 R LM WRとほとんど変わらない大きさだ。
35mm判換算で25-51mm相当となるGF32-64mmF4 R LM WRは、広角から標準域をカバーするオールマイティな扱いやすいレンズだ。それでいて画面周辺まで非常に高画質なので、GFX 50Sの高い画質を遺憾なく発揮することができる。
GF110mmF2 R LM WRは、35mm判換算で87mm相当の中望遠単焦点レンズとなる。全長はGF32-64mmF4 R LM WRを最短まで縮めたときより約1cmほど長くなるが、太さはほぼ同じだ。
それでは撮影画像を見ていただこう。
長崎
長崎の街は海と山がとても近いため、とにかく急坂が多い。この坂は丘の上の西洋人居留地に住んでいた外人さんが頻繁に通っていたことから、いつしかオランダ坂と呼ばれているそうだ。
撮影は47.3mm(35mm判換算37mm相当)、開放絞りF4で行った。中判以上のラージフォーマットでは、同じ絞り値であっても35mmフルサイズでの撮影よりも被写界深度が浅くなる。そのためこの写真でもピントを合わせた人物から、坂の奥にむかうにつれてやんわりとぼけていることがわかる。とても自然な遠近感のある写真となった。
長崎の街に点在する歴史的な洋館のひとつ、東山手十二番館のテラスにて撮影。梅雨に入ったばかりの曇り空を透した日が柔らかに降り注ぐ。
GFX 50Sのラージフォーマットと87mm相当の中望遠、さらにF2の大口径レンズにより、引きの画作りでも人物が浮き立つ柔らかで奥行きを感じさせる描写となった。中判という余裕のあるイメージセンサーから得られる階調の豊かさも魅力的だ。
同じく東山手十二番館の鎧戸を背にしてのウエストショット。人物の右目にピントを合わせて撮影。絞りを1段絞ったF2.8に設定しているが、35mmフルサイズに比べ被写界深度が浅くなるラージフォーマットの特性により、左目や顔のラインはすでにアウトフォーカスになっていることがわかる。また肌の深みのある階調とともに。ぼけがなだらかに遷移していく様はとても自然で美しい。
長崎港に停泊する観光客船。まるでビルのように巨大な船は多くの外国人観光客を乗せて長崎にやってくる。客船が停泊する期間、街は多くの外国人で賑わう。歴史的にもいちはやく外国船に開かれたこの港町は、様々な文化が混じり合った独特な雰囲気を持つ魅力的な街だ。
GF110mmF2 R LM WRは近距離のみならず遠景の撮影でも解像感の高い描写ができる。このように近景から遠景までを画面に取り入れた立体的な撮影には最適だ。
長崎の街と港を見下ろす鍋冠山展望台からの夕景撮影。対岸の港湾施設には、産業革命遺産として世界遺産にも登録されている1909年製のジャイアントカンチレバークレーンの姿も見える。感度をISO 800に設定したうえで三脚を使用し、スローシャッターも併用した。
高感度ノイズも見られずシャドウ部の締まりも良い。開放絞りF4での撮影だが、コマ収差が若干見受けられる程度で点光源の滲みは少ない。
池島
かつて炭鉱の島として栄えた長崎県の池島。2001年に炭鉱は閉山され、現在は稼働していない炭鉱施設と炭鉱で働いていた人々のための集合住居群が、解体されることなくいまも現存している。集合住居は一部を除き廃墟化が進んでおり、年月とともに島の生植が建物の内部までも侵食するように覆いつつある。
今回は炭鉱の管理者に特別な許可を得て撮影を行うことができた。現在の様子を記録として残すためにも、GFXシステムの高解像度かつ高画質なカメラを使用することには大きな意義があると考える。
旧炭鉱施設の錆びた鉄扉を背景にテレ端64mm(51mm相当)でのポートレート撮影。バストアップのポートレート撮影を行うならばもう少し長めの焦点距離が欲しいところだが、このような全身を入れた引きの撮影を行うのであれば、換算50mm相当前後の画角で切り取るようにすると丁度良い距離感となる。
撮影時にはEVFを装着しファインダーの画面に罫線を表示させて、建物の垂直と画面が傾かないように常に気をつけた。人物撮影であっても建物と絡ませる場合、とくに正面からの撮影では建物とカメラの垂直を揃えることが基本となる。
池島炭鉱の坑道内。現在石炭の採掘は行われていないが、希望すれば当時の坑内の様子を体験する見学ツアーに参加できる。今回はツアーに参加することを条件に坑内での撮影許可を得ることができた。また三脚の使用も認められたので長秒撮影にもトライしてみた。
坑内は狭く限られた空間だが18mm相当の超広角レンズのおかげで奥行きのある画作りができる。坑内の照明のみでの撮影だがオートホワイトバランスも良好で大きな色の偏りもない。なお照明周辺の滲みは坑内に浮遊している水蒸気などの微粒子によるものと思われる。
すっかりと島の植生に覆われた池島の集合住居を背景にしてローアングルからワイドショット撮影。標準レンズと比べると被写界深度が深くなる傾向の広角レンズだが、ラージフォーマットでは同じ絞り値でも35mmフルサイズの被写界深度よりも浅めの被写界深度となるため、前ぼけを活かした撮影とすることができた。
阿蘇
世界最大級の大きさを誇るカルデラの一部として構成される熊本県阿蘇山の外輪山。激しい起伏の山肌を覆う緑に初夏の生命感を感じる。絞りをF8まで絞り込み画面周辺まで画質を均一化させて撮影。
画像を等倍に拡大して確認すると。草葉の一枚まで分離しリアルに描写されている。それでいて画像処理によってシャープネスを上げた際に現れるようなエッジの硬さも見られず、とても自然な描画となっていることがわかる。個人的な感想としては、EOS 5DsRよりも自然な解像感に思える。
最短撮影距離である0.9mまで近づき紫陽花の花を撮影。しっとりとした階調とクリアな解像が相まってリアルな描写へと繋がる。手前から奥にいたる自然で大きなぼけが居心地の良い立体感を醸し出してくれる。GF110mmF2 R LM WRでの撮影は、ポートレート撮影のみならずネイチャー撮影でも大きなアドバンテージを得ることができるだろう。
圧倒的な高画質を35mm機と同じ感覚で
今回はGFXシステムを撮影に投入することで、このシステムの方向性を明確に見極めることができた。
大きくて重量のあるカメラは、ともすれば機動性が下がり、また操作や取り回しにも独特な作法や縛りが発生し撮影の自由度が制限されかねないものだ。しかしこのGFXシステムでは、当初こそ大きさと重量にふりまわされそうになってしまったが、撮影を進め1日と経たないうちに、ほとんど35mmフルサイズ機と同じ感覚で撮影することができるようになった。
それは一般的なデジタルカメラと共通する操作系であったり、秀逸なEVFなどの存在が大きな役割を担っているからなのに違いない。
また、GFX用のレンズには最近のデジカメ用レンズとしては珍しく絞りリングが設けられており、これを積極的に使用することで細やかな露出コントロールを直感的に行うことも可能だ。普段マニュアル露出を多用する私とって、とても馴染みのある操作性でもあった。
このようにGFXシステムは最新であると同時に、頑固なこだわりのスタイルに柔軟に対応できると感じた。またそのシステムから生み出される画像は、プロフェッショナルユースな品質を保証する、最前線で高いポテンシャルを発揮できるシステムとなっていると判断できる。
※本記事内で使用した撮影画像は、礒村写真事務所主催の長崎撮影ワークショップとそれに関連した場所で撮影したものです。いずれも撮影地の管理者の同行および許諾を得た範囲で、もしくは一般的な公道とそれに準じた場所から安全に十分配慮したうえで撮影しています。各撮影地に赴いた折には、その場の取り決めに沿って決して立ち入りを制限されているエリアへの侵入は行わないようにお願いします。
モデル:夏弥
撮影協力:長崎県フィルムコミッション、長崎市文化観光部観光政策課、三井松島産業株式会社、池島炭鉱さるく