新製品レビュー
キヤノン PowerShot V10
Vlogカメラ界に放たれた“小さな”刺客 1.0型センサー&超広角レンズの実力を見る
2023年6月6日 07:00
キヤノンがVlog向けに特化したカメラ「PowerShot V10」を6月下旬に発売する。ここでは動画機能を中心としたレポートをお届けしよう。
PowerShot V10は、キヤノンが新たに立ち上げた「PowerShot Vシリーズ」の第1弾となるモデル。「カメラ初心者でも簡単に扱えるVlogカメラ」というのがコンセプトになっている。
昨今は日常や旅行などを動画で残すVlogが流行っており、各社がVlogを意識したカメラをリリースしている。記憶に新しいところではソニーが35mmフルサイズセンサーを搭載した「VLOGCAM ZV-E1」を約30万円という価格で発売して話題になった。
PowerShot V10はセンサーは1型で、価格も5万9,950円(直販価格、税込)と比較的カジュアルな位置づけになっている。
スタンド内蔵で使いやすい
デザインは伝統的なカメラのイメージとは異なり、片手操作を前提とした縦型のボディとなっている。どちらかというとアクションカムや360°カメラを思わせる形状だ。小形軽量で、常にカバンに入れて持ち歩けるサイズが特徴。しかもスタンドを内蔵していて、簡単に置き撮りができるのがユニークだ。
レンズは固定式で35mm判換算での焦点距離が19mm、開放F2.8という超広角単焦点レンズを搭載。背景も入れつつの自撮りができる。最短撮影距離は5cmだ。
画素数は動画が1,310万画素、静止画が1,520万画素となる。
動画は4K 30p、フルHD 60pなどに対応する。4K記録時は温度上昇を考慮して20分で一旦記録が停止する仕様だ。それ以前でも連続撮影で温度が上がると停止することがあった。4K撮影は長回しをするというより、要所要所を短く撮っていくスタイルが合うようだ。
ユーザーインターフェースは同社カメラの流れを汲むもので、「Q SET」で素早くパラメーターを変更できるなどおなじみの仕様となっている。ミラーレスカメラのEOSよりはシンプルで細かな設定はできないぶん、操作に慣れやすい簡単さというものはある。
スマホ連携も十分な機能があり、アプリの「Camera Connect」を使うと撮影ファイルの転送やリモート撮影、ライブ配信(YouTubeLIVE、FacebookLIVE)が可能となる。
かなり広めの画角
今回の作例動画はすべて4K 30pで撮影している。まずは画角のイメージを確認した。19mm相当ということで、手に持っての自撮りでもけっこう背景を写し込むことができる。また、人物から1.5mくらい前の地面に置くと全身も容易に映すことができる。
マイクは大口径の高音質タイプと謳っている。実際、人の声が明瞭に録音されているのがわかる。全方位集音型ということで、周りの環境音も広く入っている。マイク端子もあるので、こだわるなら外部マイクが使えるのもポイントだ。
手ブレ補正をチェック
手ブレ補正は電子式のみ。切/入/強の3段階となる。強にするとかなり補正が効くが、そのぶん画角は結構狭まる。画角が広いのでもともと手ブレは目立ちにくいこともあり、歩きながらといった撮影でなければ手ブレ補正は入れずとも許容範囲な印象だった。
種類が豊富なカラーフィルター
エフェクトとしては「カラーフィルター」という機能があり、14種類のフィルターを掛けることができる。シーンに合わせて数多くから選べるのがメリットだ。一方、同社製カメラで採用されている「ピクチャースタイル」は非搭載となっている。
強力な美肌機能
キヤノンのカメラで初めて搭載したというのが美肌機能だ。スマホでは一般的な機能なので、こういった用途のカメラには欠かせないということなのだろう。撮影モードのひとつとして「美肌動画」があり、強さは+1~+5の5段階から選べる。デフォルトは+3で、好ましいイメージになった。+5になるとCGのような雰囲気になる。
夜景の画質
一般的なスマホよりも大きな1型センサー搭載ということで、高感度画質を見るために夜景を撮影してみた。感度はオートなので不明だが、真っ暗な夜に撮影してもノイズ感はあまりなく、スッキリしたイメージになっていた。よく見ると標識の文字やビルのディテールも結構残っていて、夜景も安心して使える画質と言えそうだ。
マルチカムへの応用も
スマホやすでに持っているカメラにPowerShot V10を加えて「2カメ」で撮るというのも”映え”の面では期待できそうだ。本機は内蔵スタンドで簡単に設置できるので、全体を捉える「置きカメ」としては特に使いやすい。
昔は2カメ以上の映像を同期させる「マルチカム編集」は機材やコストの面で大変だったが、最近はハードルが下がった。例えばBlackmagic Designの動画編集ソフト「DaVinci Resolve」なら無償版でもマルチカム編集ができる。今回はそれを使って、スマホで撮ったアップとPowerShot V10で撮ったワイドの映像をまとめてみた。
作例のようにPowerShot V10で自分を映したり、また反対側に向けてその人が見ている景色を収めるのも良いだろう。調理やダンスなどマルチカムと相性の良いケースもあると思うので、”スマホにプラス1台”という使い方も大いにありだろう。
静止画を試す
静止画はオートモードでJPEG記録のみ可能となっている。露出補正があるくらいで、美肌機能やカラーフィルターも適用できずコントロールできる部分はあまり無いという割り切った仕様だ。
画角が広めなので、自撮りでも周りの景色を多く入れられる。
センサーサイズやレンズ性能などでミラーレスカメラには及ばないだろうが、十分きれいに写せると思う。
ISO 800の高感度で撮影。ノイズリダクションによるディテールの消失も多少あるが、普通に見るだけなら十分な画質だろう。
まとめ
スマホで動画を撮るとバッテリーの消費やストレージの圧迫などが不満点としてあるが、スマホのカメラが別体になったと考えるとそれらも解消でき、「Vlogをちゃんと撮ってみよう」という人にはエントリーしやすいモデルとなっている。
アクションカメラのようなタフネス性能は無いが、高性能なマイクを搭載していたり、すぐに手持ちで撮りやすい形状だったりと日常を記録するには好適なパッケージングという点が評価できそうだ。
気になったのは、撮影モードが「オート/美肌/手ブレ補正/マニュアル露出」に分かれており、美肌以外のモードでは美肌補正が使えない点。また、カラーフィルター機能が使えるのはオートとマニュアル露出のみとなる。さらに、手ブレ補正は美肌モード以外で使えるようになっている。
なので、例えば美肌とカラーフィルターおよび手ブレ補正は同時に使えないということだ。ユーザー層を考えると、どのモードであっても美肌補正は使えたほうが良いと思うので、こうした排他になってしまう仕様が今後のモデルで改善されるとさらに完成度が高まると思う。
とはいえ、筆者が最初に手に取った際は写真で見たものより小さく感じたし、持ち歩きは全く苦にならない重さでもある。ミラーレスカメラを使ったVlogだと「撮影してる感」を気にするユーザーもいるとのことだが、本機は目立ちにくいのでお店の料理なども撮りやすいと思う。スマホのコンパニオンとして持ち歩くには「かなり使えるガジェット」というのは間違いなさそうだ。
モデル:進藤もも
撮影協力:Le Beurre Noisette TOKYO