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キヤノンの新機軸カメラ「PowerShot V10」が生まれた背景

“動画・ライブ配信市場”への挑戦とその狙いとは

キヤノンは、Vlogカメラ「PowerShot V10」(以下、V10)を6月下旬に発売する。本稿では、製品の外観写真を交えながら、製品発表会で語られたコンセプトを確認していきたい。

動画を基軸とした新シリーズ

これまで、キヤノンは新たな映像体験の提案を目指した“新ジャンルカメラ”の開発を展開してきた。「iNSPiC REC」「PowerShot ZOOM」「PowerShot PICK」といえば、記憶に新しい読者も多いかもしれない。これらは、同社が世の中のトレンドを捉え、ユーザーの声を聞きながら新しい価値体験を提供しようと努めてきた歴史の一部でもある。

今回、キヤノンは新たに動画を重視した「PowerShot Vシリーズ」を立ち上げると宣言した。V10をその新シリーズ(ジャンル)の第一弾モデルとして、本格的に動画・ライブ配信市場に挑戦していく。

キヤノンがこの市場に取り組む背景には、主に次の要因があるという。「コロナ禍による生活環境の急激な変化」「デバイスや通信環境など様々なテクノロジーの進化」「映像を使ったコミュニケーションの活発化」。時代の流れをこのように認識した同社は、動画・ライブ配信市場について今後も継続的に拡大していくことが考えられると判断した。

PowerShot Vシリーズでは、「想い出を記録するデバイス」であることに加えて、カメラが人と人をつなげていく「コミュニケーションツール」として、その役割を広げていくことを目指す。同社がこれまでカメラやレンズの開発により培ってきた、美しい映像を残す技術、小型化する技術。これらをベースに、今後も動画・ライブ配信市場にユニークな特徴を持つ製品を投入していく構えだ。

だれでも手軽に、簡単に…

だれもが手軽で簡単に操作でき、かつ本格的な動画撮影を可能とするカメラを目指したV10。同カメラの特徴として、キヤノンが掲げたのは以下の3つの柱だ。

・スマホライクだけど本格的
・簡単&コンパクト
・充実した動画機能

スマホライクだけど本格的

ポケットにそのまま入れられてしまうほど小型なV10。本体を縦型としたのも、スマートフォンに近い感覚での操作を企図している。

本体は手のひらに収まるほど小ぶりなサイズ。前面側には撮影ボタンを備えるのみ。親指で“スマホライク”な操作が可能としている

カラーはブラックとシルバー
背面の操作部もシンプルなデザイン
本体右側面にはHDMI端子とMIC端子
底面には三脚用ネジ穴も備える

本体はコンパクトながら、画質にもこだわった。その結果が1.0型イメージセンサーの搭載だ。「暗い場所でもクリアに撮影したい」というユーザーの声もあった。本体の天面には大口径マイクを内蔵した。これにより高品質な音声収録が可能になるという。

レンズの焦点距離は35mm判換算で19mm相当(静止画時は18mm相当)。自分撮りをするときに、手を目いっぱい伸ばさずとも、自然な持ち方で自分と背景を写せる画角を検討していった。

肘を伸ばしきらない程度に構えた。被写体と、広い背景を同時に移すことができそう

簡単&コンパクト

本体の特徴のひとつが、内蔵スタンドの搭載だ。三脚などのアクセサリー不要で、持ち運びから撮影まで気軽に使用できるとアピールする。

面白いのがその構造で、通常時(下の画像左)はスタンドが背面モニターの内側に収められている。背面モニターを開くとスタンドが出せるという仕組みになっており(同中央)、これも本体サイズの小型化に一役買っていそうだ。スタンドは真っ直ぐに伸ばすことも可能で(同右)、手持ち時のグリップになる。

また、カメラとパソコンをUSB接続すると、アプリのインストールなしでWebカメラになる。これにより、ライブ配信やオンラインミーティングなどで簡単便利に活用できるとしている。

本体左側面にUSB Type-C端子を備えた

充実した動画機能

キヤノンでは初の「美肌動画モード」を搭載した。このほかにも14種類の動画カラーフィルターも備える。

背面モニターはタッチ仕様
動画カラーフィルター「BrightAmber」(左)「BrightWhite」(右)
色合いの調整も容易にできる

スマートフォンアプリ「Camera Connect」との接続により、ライブ配信も簡単に実施できるとしている。ちなみに、メニュー画面はEOSユーザーにもお馴染みのデザインだ。

徹底したユーザーリサーチ

キヤノンマーケティングジャパン調べによると、動画撮影をするユーザーを「撮影のみ」とSNSなどへの投稿を含む「撮影&投稿」の2パターンに分けたとき、「撮影&投稿」が全体の4分の1を占めたという。さらに、その中でVlogをしている人は47%に達した。

47%の内訳を見ると、カメラを使ってVlogをしている人(以下、カメラVlogger)が23%、スマートフォンを使ってVlogをしている人(以下、スマホVlogger)が24%だった。同社はさらにヒアリングを徹底。カメラVloggerとスマホVloggerが抱える課題とニーズについて調査を進めた。

トライポッドグリップ「HG-100TBR」とも組み合わせられる

カメラVloggerからは、デジタルカメラの動画機能としてでなく、あくまでも「Vlogのため」の機材が欲しいという要望があった。また、カメラで撮影する上での不満として、「三脚など必要な荷物が多くなる」「音質がよくない」「スマホとの連携・接続が悪い」という声が集まった。

一方、スマホVloggerからは、スマートフォンに近い感覚で本格的に撮影できるカメラが欲しいという声があった。また、「スマホの充電を消費したくない」「容量を圧迫したくない」といった課題を抱えていることも判明。カメラを買わない理由について、「買っても使わない」「使い方がわからない(難しそう)」といった意見が多かったという。

こうして集めたユーザーの声に対して、キヤノンは「PowerShot V10」で応える。先の章で紹介した「スマホライクだけど本格的」「簡単&コンパクト」「充実した動画機能」がその回答だった。

PowerShot Vシリーズの展開は?

ポケットに忍ばせておきたくなるカメラ。実機を触った率直な感想だ。サイズ感が思った以上に良く、すぐに手に馴染んだ感覚が得られたのは、日頃からスマートフォンを扱っている影響だろうか。キヤノンの意図がよく伝わるデザインといえるだろう。見た目もスタイリッシュで好印象。

筆者は、休日に散歩をするときでもなるべくカメラを持ち歩くようにしているが(最近はもっぱら小さいカメラ)、思い返してみるとカメラで動画は撮らない。動画を撮るとしたらスマートフォンだ。カメラ機能が高性能なスマートフォンではないため、もっときれいに撮れたらいいのにな、と思っていたところだ。どうやらキヤノンが想定するユーザーに当てはまっているようだ……。

ポケットにすっと収まるサイズ感。スマートフォンと同じ感覚で持ち歩けそう

PowerShot V10のキーメッセージは「365日、Vlogしよう」。非常にコンパクトだけど本格的に撮影できる。毎日持ち歩いて、毎日撮りたくなる。ユーザーの身近なカメラになってほしいという想いが込められている。

これが“動画カメラ”といわれると、そのイメージから一見かけ離れたようにも思える姿をしたPowerShot V10。だが、同社のコンセプトを聞くと納得の答えといえるかもしれない。キヤノンが本格的に動画重視とする「PowerShot Vシリーズ」の、今後の展開に注目したい。

本誌:宮本義朗