新製品レビュー

ソニー VLOGCAM ZV-E1

ついにフルサイズセンサーを搭載 小型ボディにプロ機譲りの動画性能

ソニーの新型ミラーレスカメラ「VLOGCAM ZV-E1」が4月21日に発売になった。動画用途をメインにしたVLOGCAMシリーズの最新モデルということで、ここでは動画機能を中心にレポートしたい。

これまでVLOGCAMはレンズ一体型が1型センサー、レンズ交換式がAPS-Cセンサーとなっており、本機はシリーズ初の35mmフルサイズセンサー搭載機となる。日常などを映像で残すVlogは映画的表現(シネマティック)がひとつのトレンドであり、大きなボケ表現で有利なフルサイズセンサーは待望のスペックだったといえそうだ。

ZV-E1はフルサイズセンサーの搭載のみならず、AIを活用した自動フレーミングや強力な手ブレ補正機能、簡単に映画風の映像が撮れる「シネマティックVlog設定」、タイムラプス撮影、3カプセル式マイクなどの機能を新たに盛り込んでいる。

また、「マイイメージスタイル」といって、オート撮影時に背景のボケ具合、明るさ、色合いを直感的にスライダーで調節できる機能も新搭載している。

わかりやすさを重視したアイコンが左右に並ぶUIになっている

プロレベルの記録形式も

シネマティックVlog設定やマイイメージスタイルといった機能だけをみると、カメラや撮影の初心者向けのように見えるが、実はプロ機に迫るスペックになっている。

撮像素子は有効約1,210万画素の裏面照射型CMOSセンサーで、画素数を抑えて高感度画質を高めている。動画の画質で定評のある「α7S III」と同じスペックだ。ダイナミックレンジは最大15+ストップと広く、感度も常用で最高ISO 102400となっている。

4K 60p(6月以降に4K 120pへのアップデートが予定されている)記録にも対応しており、スロー表現も可能。また、編集を前提とした情報量重視の「S-Log3」記録に対応する。

記録設定も最大600Mbpsの4:2:2 10bit Intra形式まで可能なので、本格的なカラーグレーディングを伴う作品の素材も撮れることになる。

4K、HDともIntra形式に対応
600Mbps記録時はV90以上のSDカードが必要

そのほか、人物のスキントーン再現に優れるピクチャープロファイル「S-Cinetone」の搭載や、カメラにLUTファイルを転送して適用できる「PPLUT」機能など、同社デジタルシネマカメラ「FX」シリーズに通じるスペックである。

ただ、記録メディア(SDカード)がシングルスロットだったり、冷却ファンを搭載していないのは異なる部分だ。

インターフェース部分は左側に集約。フタがしっかりしていて使いやすい
バッテリーはα7シリーズなどと同じNP-FZ100
FE 28-60mm F4-5.6を装着
FE 20mm F1.8 Gを装着
FE 20-70mm F4 Gを装着

手ブレ補正はかなり強力

マイイメージスタイルは、「おまかせオート」や「シーンセレクション」での撮影時に、画面のアイコンをタップすると背景のボケ具合、明るさ、色合いをスライダーで直感的にコントロールできる機能だ。4つのアイコンのうち、右側はクリエイティブルックの設定になる。

マイイメージスタイルの背景ぼかしの画面

AFは定評ある「リアルタイム認識AF」を搭載しており、人物や動物、乗り物などを認識できる。

認識対象の切り替え画面

作例のようにフォーカス位置の移動が素早く、瞳認識をしたままカメラを動かしたときのトラッキング性も問題無かった。

瞳AFのテスト。FE 20-70mm F4 G(70mm)

手ブレ補正は光学式5軸ボディ内手ブレ補正機能を搭載。5段分の補正効果を謳っている。

今回、これまでの「アクティブモード」に加えてさらに補正効果を30%アップしたという「ダイナミックアクティブモード」を新搭載している。

実際に、歩きながらの手持ち撮影でもかなり揺れを吸収できていた。ただし、強力な補正と引き換えに画角は結構狭くなってしまうので、動きながらでなければ下位のモードを使うのも手だ。

手ブレ補正の切り換え画面
手ブレ補正のテスト。FE 20-70mm F4 G(20mm)

映画風に撮れる「シネマティックVlog設定」

シネマティックVlog設定は、本機の大きな注目点といっていい新機能だ。面倒なカメラ設定や後編集をすることなく映画のワンシーンのように映すことができる。

具体的には、アスペクト比がシネマスコープの2.35:1に、フレームレートが映画と同じ24pにそれぞれ固定される。これだけでもだいぶ映画の雰囲気は出るが、さらに「ルック」と「ムード」の設定もできる。

ルックはS-Cinetone、CLEAN、CHIC、FRESH、MONOから選べる。また、ムードはAUTO、GOLD、OCEAN、FORESTから選べ、組み合わせて色々な絵作りができる。

今回はルックはS-Cinetone、ムードをGOLD、OCEAN、FORESTに切り換えて撮影してみた。OCEANで青みがかったり、FORESTでグリーンがかったりするので面白い。

シネマティックVlog設定の設定画面

また、シネマティックVlogはスロー撮影とも相性がいい。本体上部のスイッチを「S&Q」にするとスロー撮影ができる。ここでは60pで撮影して、24pで記録する「2.5倍スロー」も試した(3カット目)。

シネマティックVlog設定による撮影

自撮りでは20mmクラスのレンズがおすすめ

モデルに自撮りを試してもらった。シネマティックVlogにして、手持ちなので手ブレ補正はアクティブモードにしている。キットレンズ(FE 28-60mm F4-5.6)の広角端である28mmでは、背景も入れ込むには画角的に足りないであろう。

自撮りの様子
自撮りのテスト

28mmは広角レンズではあるが、動画の場合は16:9や2.35:1(シネマティックVlog設定のとき)になるので画角が狭くなり、アクティブモード以上の手ブレ補正設定でも画角が狭くなる。さらにキットレンズは非対応だが、ブリージング補正(フォーカス移動の際に画角の変動を抑える機能)をONにするとまた画角は狭くなってしまう。

このように動画撮影では画角が狭くなる要因が重なるので、自撮りをしたり広い画角で撮りたいなら、キットレンズではなく広角端20mm程度のレンズは使いたいというのが正直な印象だ。

さて、自撮りの動画では同梱の風防を付けた内蔵マイクで音声を拾っているが、なかなかきれいに収録できていると思う。本機は3カプセルマイク採用で、指向性がオート、前方、全方位、後方から切り換えられる。今回はオートを使用している。

マイク指向性の切り換え画面

AI技術による自動クロップ機能も充実

リアルタイムでクロップして人物が画面の中央に収まるようにする「フレーミング補正」機能も新たに搭載したものだ。例えば、歩きながら手持ちで人物を撮影すると人物を中央に保つのが難しいが、この機能がサポートしてくれるという具合だ。設定によっては、中央以外に人物を配置することもできる。

フレーミング補正の設定画面。FE 20-70mm F4 G(50mm)
フレーミング補正のテスト

加えて、画面内で人物のいる部分を追跡して自動的に切り出す「オートフレーミング」という機能もある。こちらはカメラを三脚で固定しておいても、あたかもカメラマンがフォローしているかように撮影できる。作例の録画中、カメラには全く触れていない。

オートフレーミングの設定画面
オートフレーミングのテスト。FE 20mm F1.8 G

LUTを転送して独自のルックに

PPLUTは、同社のシネマカメラから引き継いだ機能だ。S-Log収録に対応するLUTファイルをカメラに転送して登録しておくと、あたかもピクチャープロファイルを設定するようにLUTを適用したルックで撮影できる。

LUTファイルは17点または33点の「.cube」形式に対応しており、インターネット公開されているものもある。また、一部のPCソフトではLUTファイルを自作することも可能。例えばBlackmagic Designの「DaVinci Resolve」なら無償版でもLUTファイルの作成ができる。

今回はDaVinci Resolveを使って、即席でブリーチバイパス風のLUT(BB.cube)を作ってカメラに登録してみた。

DaVinci ResolveでLUTを作った際のノード構成
PPLUTとして登録したところ
PPLUTのテスト

一度LUTを登録してしまえば、後編集無しで独自のルックの映像を残せる。カメラに最初から入っている各種の設定とは異なるルックを作って遊ぶのもまた楽しそうだ。

写真撮影を試す

写真撮影時は、カメラ上面のスイッチで静止画のモードに切り換えて使用する。静止画と動画は各種設定を独立にすることができ、絞り、シャッタースピード、ISO感度、露出補正、測光モード、ホワイトバランス、ピクチャープロファイル、フォーカスモードの設定を引き継ぐかどうかを切り換えられる。

静止画はα7シリーズの感覚で撮影でき、画素数が1,200万画素ではあるが、画質自体は申し分ないものだ。

フォーカスは、瞳AFを使ってピントをほぼ外さすに撮ることができた。今回は「美肌効果」の機能をデフォルトの「中」にしているが、自然な感じで肌が滑らかになりポートレートには使いやすいと感じた。今回、美肌効果は動画でも同様に有効にしている。

ZV-E1/FE 20mm F1.8 G/マニュアル露出(1/100秒・F1.8)/ISO 100
ZV-E1/FE 20-70mm F4 G/70mm/マニュアル露出(1/100秒・F4.0)/ISO 400
ZV-E1/FE 20-70mm F4 G/20mm/マニュアル露出(1/30秒・F11.0)/ISO 80/ストロボ使用

なお見ての通り本機はファインダーレスなのに加えて、メカシャッターが非搭載なので、ストロボ同調速度が最速で1/30秒という部分には注意したい。

「セレブカム」であり「ミニシネマカメラ」だ

Vlog撮影向けというカメラは各社がリリースしているが、小型ボディにフルサイズセンサーを積んた日常使いのムービーカメラとしてはかなりの完成度になっていると感じる。Vlog向けで30万円オーバーはなかなかの値段で、「セレブカム」とでも名付けたくなるような新しい商品性を感じた。

Vlogもそうだが、動画をやり始めると「あれもやりたい、これもやりたい」と映像表現上の欲求はどんどん出てくる。そうしたときにポテンシャルの高い本機ならマニュアル撮影やS-Log収録、交換レンズの活用、後編集などを駆使してハイレベルな映像を作ることができると思う。

「α7C」よりも小さいボディに半ばプロ用動画カメラを組み合わせた様なZV-E1は、「ミニシネマカメラ」という雰囲気も持ち合わせる。高価だが、ユーザーの上達に合わせたステップアップに対応できるのは頼もしいところだ。

モデル:蒼透子

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。