新製品レビュー
ニコン Z 8
「Z 9」の性能を受け継ぐ高機動モデル 画質&速度の実力を人物/スナップ/航空機でチェック
2023年6月5日 07:00
ニコンのミラーレスカメラフラッグシップモデル、Z 9の発売から約1年半。いわゆる縦位置グリップ(パワーバッテリーパック)が分離したようなスタイルのZ 8が登場した。
※この記事でテストした個体は試作段階のものです。実際の製品版とは異なる場合があります。
外観と操作レイアウト
基本的なデザインはZ 9を踏襲。ハイエンドクラスらしい重厚感のある趣だ。
しかしZ 8にはレリーズモードダイヤル(ドライブダイヤル)は持たず、上面のレリーズモードボタンで設定する。そのためZ 8の方がスッキリした印象だ。
バッテリー、メモリーカードを入れた重量は910g。Z 9は1,340gなので430gも軽い。手にすると高級機らしいガッチリした感触が伝わってくるが、やはり1kgを切る重量は軽く感じる。もちろんZ 7IIやZ 6IIほどコンパクトではないものの、小さめのカメラバッグにも収まり、機動力はとても高い。なおD850が約1,005gなので、D850ユーザーはZ 8を手にすると違和感のない重さかもしれない。
Z 9同等の高性能ファインダー
ファインダーもZ 9と同じ約369万ドットのOLED。倍率は0.8倍もあり、高精細で広い視野を持つ。優れた視認性のファインダーは快適な撮影に繋がり、ハイエンドクラス機らしい魅力だ。
バッテリーはD850と同じ「EN-15c」
Z 9とZ 8では、パワーバッテリーパックが一体型か分離型の違いだけでなく、使用するバッテリーも異なる。
Z 9は一眼レフのフラッグシップ機であるD6と互換性のあるEN-EL18dを使用。対するZ 8は、D850と互換性のあるEN-15cだ。それでいて連写はZ 8もZ 9と同じAF・AE追従で約20コマ/秒を達成。バッテリーが小さくなると連写速度が落ちそうだが、同じスペックなのは驚きだ。
ただ撮影可能コマ数は、やはりZ 9よりは少ない。Z 9ではパワーセーブONの場合、ファインダーのみの使用で約740コマ。Z 8は約340コマ。半分以下になってしまう。
とはいえ実写したところ、ファインダーもモニターも使用しながら約500コマ撮影してもまだ余裕があった。ミラーレスカメラとしては、かなりの省エネ機と言えるだろう。
記録メディアはCFexpress(Type B)とSDのダブルスロット
メモリーカードも、Z 9がD6と同じCFexpressカード(Type B)がダブルなのに対し、Z 8はD850と同じCFexpressカード(Type B)とSDカードのダブルスロットを採用している。こうして見るとZ 9はD6ユーザーをターゲットに、Z 8はD850ユーザーをターゲットにしている印象だ。
10bit HEIFに対応
Z 9の基本スペックを踏襲するZ 8だが、新たに追加された機能やブラッシュアップされたところもある。まずは10bitのHEIF(ヒーフ)形式に対応したことだ。
一般的な画像形式であるJPEGと比べ、階調を豊かに再現しながらファイルサイズを小さくできる。ただしHEIFの表示には、HDR対応のモニターが必要だ。
なお「HEIFは初めて聞いた」という人もいるかもしれないが、実は現在のiPhoneのカメラ機能で撮影した画像データはHEIFで保存されている。iPhoneユーザーなら、意識しなくてもHEIFは使用しているのだ。
被写体検出に飛行機が追加
また被写体検出に飛行機が追加された。これまでも乗り物はあったが、飛行機単体は初だ。しかも旅客機だけでなく軍用機にも対応している。
空港で飛行機にレンズを向けると、一瞬でフォーカスフレームがコクピット部分に表示された。動く機体を追っている最中に別の機体が画面内を横切っても、フォーカスが迷うことなく目的の機体を追い続けた。
飛行機検出に設定し、離陸する旅客機を撮影。Z 8はレンズを向けてシャッターボタンを半押しすると、すぐ飛行機に検出してピントを追い続けた。あとはタイミングを見ながらシャッターボタンを押すだけだ。
飛行機が3機重なっているシーン。Z 8の飛行機検出は、迷うことなく中央の飛行機のコクピットにフォーカスフレームを表示した
今回は試すことはできなかったが、ブルーインパルスのように、高速で複雑な動きをする複数の飛行機を狙うのに絶大な威力を発揮しそうだ。
ニコンZ システム初の美肌効果機能を搭載
さらに美肌効果機能が搭載された。人の顔を検出し、目やまつ毛、髪の毛などのシャープさは維持しながら、肌だけを滑らかに補正する。
強さは3段階。「滑らかに補正」と聞くと、肌が蝋人形のようにツルツルになるのを想像するかもしれないが、実際に試してみると最大効果の「強」でも自然な雰囲気を崩さずに、肌の細かな凹凸を滑らかにしている。
AWBが向上、人物印象調整機能も搭載
またZ 7IIやZ 6IIには搭載されている人物印象調整も可能。人物の色相(マゼンタ〜イエロー)と明るさ(明るい〜暗い)の2軸で調整できる。人物の仕上がりの印象を微調整するのに効果的だ。人物撮影時のAWBの性能も向上し、ポートレート撮影に一層強くなった。
ホワイトバランスの色温度調整もG-M(マゼンタ〜グリーン)だけでなくA-B(アンバー〜ブルー)も加えた2軸になり、撮影時から自分のイメージの色に追い込める。
ISO感度別のノイズレベル
ISO感度による画質の違い。主観にもよるが、ISO 6400までは常用域。ISO 12800から拡大すると高感度らしさを感じてくる。ISO 25600以降は拡張のHi0.3(ISO 32000)、Hi0.7(ISO 40000)、Hi1(ISO 51200),Hi2(ISO 102400)になる。拡大しなければHi1でも実用になるほど高感度に強い。
動画機能、8K HLGタイムラプス作成も
動画機能もZ 9の8K UHD 30pや12bit RAW動画内部記録を受け継ぎながら、8K HLD タイムラプス動画の生成も可能。Z 9より小型軽量で外部レコーダーの必要もないため、ジンバルを用いたアクティブな動画撮影にも有利だ。被写体検出の飛行機は動画にも対応し、動画で航空撮影を行い人にも注目だ。
そのほかの作例
離陸する旅客機を飛行機検出で撮影。上空に上がっても、ピントが抜けることなく正確にとらえた。
着陸して駐機スポットに到着した飛行機。コクピットを見るとパイロットが手を振っている。飛行機検出は、素早くコクピットにピントを合わせた。
離陸して飛び去る飛行機。画面の中でどんどん小さくなっていくが、飛行機検出は確実に追い続けた。またファインダーはブラックアウトしないのも快適な動体撮影に繋がっている。
4,571万画素は高精細で、建築中の建物にかけられたシートの質感もリアルに再現している。ハイエンドクラス機は動体撮影がメインのイメージが強いが、Z 8は風景、都市風景など細密な描写を狙った表現にもマッチする。
カラフルな扉と壁のタイル、そして郵便受け。Z 9より小型軽量で機動力が高いため、街のスナップも快適に撮影できた。
4軸チルト式の背面モニターを利用し、縦位置のローアングル撮影。タッチ操作はスムーズに行え、スピーディーにピントが合わせられた。
ご主人を待っている犬に遭遇。動物検出を使って犬の顔にピントを合わせた。Z 8はカメラを向けると犬をすぐ検出。ピントはカメラにまかせ、構図を決めることに集中できた。
前ボケを生かしてバラを狙う。高精細のファインダーはとても視認性が高く、作画を決定するのにとても使いやすい。
外の自然光と室内の光。Z 8のAWBは、見た目の印象を忠実に再現してくれた。
雲の隙間から差し込む西日が観覧車を照らす。機動力が高いZ 8は、撮りたいと思ったシーンにすぐ反応してくれる。
薄暗い室内で、ISO 6400に設定して手持ち撮影。4,500万画素オーバーの機種としては、高感度でもとても高い画質を持つ。また6.0段のボディ内手ブレ補正も持ち、暗所に強い。
逆光でのポートレート。Z 8の人物検出は、一瞬で目を検出する。またピントを合わせたい方の目も、マルチセレクターですぐ左右の切り替えができる。美肌効果は「標準」。
公園の遊具から顔を出してもらった。人物検出は、ピントが正確なのはもちろん、AWBはカラフルな周囲に惑わされることなく顔の色も自然に再現された。美肌効果は「標準」。
建物の隙間に差し込む光を生かしたポートレート。露出決定が難しい条件だが、露出補正することなく、Z 8任せで狙い通りの仕上がりになった。美肌効果は「標準」。
振り返った瞬間を狙った。Z 8の人物認識は一瞬で左目をとらえた。露出も適正になり、空気感のある表現ができた。美肌効果は「標準」。
まとめ
ニコン Z 8は、高画質と高機能、そして操作性と機動力が高い次元で融合している高級機だ。非常に機能が多いながら、iボタンで情報を呼び出し、タッチ操作ですぐ設定が変更できる。各ボタンやジョイスティック状のサブセレクターも操作しやすく、快適な撮影が楽しめた。
4,571万画素の高精細を持つ画質や豊富なAF機能、優れた高感度特性や高速連写など、評価の高いZ 9のスペックを踏襲しながら、小型で機動力の高いカメラに仕上がっている。
飛行機からポートレート、風景やネイチャーなど、被写体を選ばないオールマイティに活躍できるカメラだ。人物撮影時のAWBの性能も向上したので、ウェディングにもおすすめしたい。
さらにZ 8のキャッチコピーは「READY.ACTION.」。映画撮影の「よーい、スタート」の意味だ。それだけ動画ユーザーにとっても見逃せないスペックになっている。
モデル:深沢さえ(@fkzw_sae)