新製品レビュー
Canon EOS-1D X Mark III(ライブビューAF編)
一眼レフだと忘れるほどの精度と感触 鉄道・自転車・馬で徹底検証
2020年8月14日 12:00
EOS-1D X Mark IIIのレビュー、3回目はライブビュー時のAFに主眼を置いてお届けする。合焦させたい被写体にAF測距点が自在に動いて追尾する「自動選択AF(+人物優先)」に設定し、鉄道車両、自転車競技者、馬と各動体へのAF反応を確かめた。
第1回:Canon EOS-1D X Mark III(スポーツ編)
第2回:Canon EOS-1D X Mark III(航空機編)
ライブビュー撮影でミラーレス機と同等の自由度は得られるのか
EOS-1D X Mark IIIのライブビューモードはメカシャッター、電子シャッター、電子先幕シャッターの3つのシャッター方式が選べ、それぞれで到達する最高20コマ/秒の連写時でも、AE・AF追随が可能だ。ファインダー撮影時の16コマ/秒よりも25%アップの連写速度でAF追随があれば、たとえ背面モニターを見ながらの撮影であっても大きな利点になる。
ライブビュー時のAFは撮像素子から位相差情報を得る、いわゆる“像面位相差AF”という、現在のミラーレスカメラに広く普及してきた方式を用いる。中でもキヤノンは全画素が撮像と位相差検出の機能を兼ね備える「デュアルピクセルCMOS AF」というシステムを採用しており、EOS Rなどのミラーレスカメラとも同じ方式だ。
撮像面のAF測距点の数と範囲は、ファインダー撮影時のそれと比べて大きく上回る。ファインダー撮影時のAFと比べてみても精度の高い形状判別が行われており、人物の顔や瞳、形、模様を認識し、範囲の広い測距エリアをいかした追尾AFが得られる。ピント位置に囚われなくなるため、被写体の配置を自在にコントロールできるメリットがある。
そこで、今回はライブビュー時のAFで被写体を追尾するモード「自動選択AF(+人物優先)」を使用して、本機のライブビュー撮影が、昨今のミラーレスカメラ並みのAF挙動や精度、トラッキング性能をもちあわせているのかを検証していった。
シーン1:鉄道
まずは東京郊外を走る単線・JR八高線の車両を線路横で撮影した。EF400mm F2.8L IS III USMを三脚に据えて画角を固定し、シャッターはメカシャッターに設定。他の設定は以下のようにしている。
【露出】
・絞り:F3.2で固定→絞った際の合焦域に紛れないようにするために被写界深度を浅くする
・SS:1/1,600秒で固定→アングルを固定して車両の動きを止めるため
・ISO:オート→環境輝度、被写体への反射光変化に対応するため
【AF】
・測距点:自動選択AF→測距開始点は車両が現われる箇所に配置。AIサーボAFで合焦を確認してからシャッターレリースを開始
【連写速度】
・20コマ/秒
車両が画面内に現れてから測距を開始させている。あらかじめ無限遠付近に置いていた焦点からのフォーカス駆動としているため、合焦までのロスタイムはほとんどない。RAW+JPEG(L10)記録のため、165カットで連写は一旦止まってしまい、すぐに撮影を再開したものの書き込みに時間がかかり、連写速度は20コマ/秒に届かなかった。これは使用したカードの書き込み性能に依存するためやむをえない点だろう。
これら165カットの撮影画像をキヤノンのRAW現像ソフトDigital Photo Professional 4(以下DPP4)で、測距点を示す設定で表示させて撮影時の測距点枠が撮影画像の上に重なる状態の画面をスクリーンショットとして保存。これを連写時の順番で繋ぎ合わせてトラッキングの様子を再現した。以降のシーンでも、同様に測距点の動きを擬似的に再現した動画を掲出しているので、作例カットとあわせてご覧いただきたい。
先頭車両前面をAFで捉えると、赤い測距枠がひとつ表れ、キハ110系の運転台窓枠周りの黒と白との境を追っている。平面的には左寄りの位置から右端まで測距点がシームレスに動いたことになる。カメラから遠く陽炎の影響がある地点だが、赤い合焦枠のある車体前面や文字記号に締りがなく、やや後方の車体側面の窓枠形状にシャープさがあるため、後ピンと見られる。
後ピンカットの直後のカット。赤い合焦枠が示すエリアへの合焦が認められる。記号やロゴマークの記述に僅かな滲みが見られるが、これも遠景のための陽炎だと思われる。
車両が少し近づき、レールライン、車両の位置、背景の収まりなど、連写中で最もバランスが取れたカット。合焦があり、陽炎の影響も減った解像の良い状況だ。
各カットそれぞれの合焦状態は、概ねどのカットでも及第点としていい。ただ、前半は200m以上先の遠景であり、陽炎の影響があるためにやや解像不足を感じる。途中、僅かに後ピンと判定できる1カットが見られるものの、全165カット中で明らかなアウトフォーカスがこの1カットだけであれば、許せる範囲だ。
シーン2:モノレール
次に5.5KのRAW動画と撮り比べた際のライブビュー撮影の静止画をご覧いただく。撮影はメカシャッターを用いている。組み合わせているレンズはEF200-400mm F4L IS USMエクステンダー 1.4×だ。ビデオ雲台を装着した三脚も使用している。ほかの条件は以下のとおり。
【露出】
・絞り:F5.6で固定→絞った際の合焦域に紛れないようにするために被写界深度を浅く
・SS:1/2000秒 で固定→このアングルで車両の動きを止めるため
・ISO:400で固定→車両からの反射光の強弱による露出のバラつきを抑えるため
【焦点距離】
・内蔵エクステンダーを入れた560mmで固定
【AF】
・測距点:自動選択AF →測距開始点は車両が現われる箇所に配置。AIサーボAFで合焦を確認してからシャッターレリースを開始
【連写速度】
・20コマ/秒
東京モノレールの先頭車両が画面上に差しかかる位置に「自動選択AF」の測距開始点を置き、先頭車両が重なったところでAFを開始した。カメラのパンニング(横方向への振り)も同時にスタートさせ、安定したところで連写を開始している。ここでもAFスタートから合焦までの挙動に、もたつきや迷いはない。連写中のズーミング操作は行なっていない。
測距点表示の状況を動画で確かめると、初めの数カットではひとつの赤い測距枠があらわれ、正面下部で車両側面のコントラストが高くなる部分を模様として捉えている。その後は画面全体の測距点表示となり、合焦を示す複数ポイントが赤枠で示されている。
形状認識で追っている最中は、大きめの赤枠がひとつ表示された状態で、後の全体表示では形状認識はないものの、被写体を追っている合焦部を赤枠で示しているようだ。
AF追随は測距開始時点から安定していたが、私自身のパンニングの安定を待って切った1カット目。鉄道でいうスカート部の形状を識別している様子で、そこに赤枠が一つ現れている。
スカート部の形状認識(17カット分)から変化し、合焦のある部分が複数の点で示されるようになってからの20カット目。合焦枠表示は変化しながら合焦状態を維持している。
動画を組んだ際の最終カット。複数の測距枠がある中で、ひとつだけが赤く表示された。光線の当たる緑の塗装部分を捉えていたものと思われる。
個別のスチール画像を仔細に見ると、ほぼすべての画像で合焦が得られていることが確認できた。八高線のキハ110系も、モノレール10000系もおよそ等速で近づいていること、超望遠レンズの圧縮効果でフォーカス調整レンズの移動量(繰り出し量)が少しずつであること、アングルも手伝い構造物の形状変化がほとんどないこと、これらの理由からAF追随に有利な面もあった。
シーン3:自転車競技1
ライブビュー時の「自動選択AF(+人物優先)」は人物の顔や頭部、瞳認識によるAFが可能だ。スポーツ競技の撮影で顔や頭部認識をさせるべく競技自転車の走行シーンを撮影した。実際の競技中を模すような撮影を行うため、法政大学自転車競技部に協力を仰ぎ、トレーニングの現場にお邪魔した。
「自動選択AF(+人物優先)」に設定し、向かってくるロードレーサー4人のグループに対して、カメラが複数の人物をどう捉え、どのように追っていくかを試した。比較的近接するレーサーを捉えるために、レンズはEF70-200mm F2.8L IS III USMを選択した。
【露出】
・絞り:F9で固定→周辺部の解像を良好にさせるため
・SS:1/2,000秒 で固定→このアングルで選手と自転車の動きを止めるため
・ISO:4000で固定→AEでの露出のバラつきを抑えるため
【焦点距離】
・200mmで固定
【AF】
・測距点:自動選択AF→測距開始点を画面右よりの任意の位置に設定し選手を捉える。AIサーボAFで合焦を確認してからシャッターレリースを開始
画面右寄りに設定した測距開始点で先頭選手の上半身を捉える。合焦までの迷いはみられなかった。測距枠表示を確認すると、合焦直後は先頭選手のオレンジのヘルメット、ジャージの色要素を拾っているようで、やや広めの範囲が赤枠で示されている。その後は引き続き、最至近の人物である先頭選手のヘルメット付近を認識して追った。
ヘルメットの形状を“頭部”として認識したか、単にオレンジの模様を追ったかは判らないが、常にこの結果を引き出せるのであれば、十分なAF追随性能を有していると判断できる。合焦精度を確認しても赤枠表示通りの合焦がある。
次のカットは合焦後の1枚目だ。先頭選手の上半身を大きめの範囲で捉えている。2番手選手に太陽光が当たり、白いヘルメットはAFの判断材料であるコントラストが強い状態となっているが、特に影響はないようだ。
合焦対象が先頭選手の頭部に絞られた。丸形状を頭部として認識するのか、ヘルメットの模様自体を認識しているかはわからないが、先頭選手への思い通りの赤枠表示に安堵した。
引き続き先頭選手の頭に赤枠が出てAF追随がなされる。画角内で4人の配置バランスを持たせた1枚。ファインダー撮影のAFでは、この位置の先頭選手の顔への合焦は無理だろう。
先頭選手が画面内に収まる最後のカット。ここまでの全55カットで、先頭選手から合焦対象を外したカットはなく、実際の合焦もほぼ全てのカットで認められる。
この通過回では、まず先頭選手に合焦させ、その後“どう追随するか”を試したが、実際の自転車レースでは概ね先頭選手に合焦させことが多いため、望ましい結果といえる。
目的の選手が個別に存在し、先頭ではなく2番手や3番手に位置している場合などでは、任意の測距点を決めて固定し、画面内トラッキングをさせない(追わせない)方が良策かもしれない。だが、測距点固定のAFは目的選手への確実な合焦は期待できるものの、画面内での人物配置は自在にはならないデメリットがある。
シーン4:自転車競技2
シーン:3の自転車競技1で、先頭選手への合焦・追随した結果を掲載したが、この通過シーンでは結果的に3番手選手を追った場面を見ていただく。
【露出】
・絞り:F5.6で固定→周辺部の解像を良好にさせるため
・SS:1/2,000秒で固定→このアングルで選手と自転車の動きが止めるため
・ISO:1600で固定→AEでの露出のバラつきを抑えるため
【焦点距離】
・200mmで固定
【AF】
・測距点:自動選択AF→測距開始点を画面右よりの任意の位置に設定し選手を捉える。AIサーボAFで合焦を確認してからシャッターレリースを開始
1番手選手を追い続けた通過回と同様、同じ隊形で近づく4人グループに対し、序盤こそはオレンジ色一帯の部分を広めに認識するAF傾向を見せる。しかし、隊列が近づき、画面内で選手が左右に広がり始めると、先頭選手ではなく後方選手にフォーカスエリアを絞り、そのまま3番手選手を追った。
連写1カット目。先頭選手に測距開始点を合わせるが、背後にも続くオレンジ一帯を認識。この時点で測距開始点に合わせた先頭選手の顔にのみ合焦対象を絞って欲しいところだ。
画面上、左右に広がる選手に対し測距が3番手選手に絞られ、頭部を赤枠が追う。先頭選手の右側への移動が速く、大きいためか、3番手選手に赤枠が置いて行かれたようにも見える。
引き続き赤枠は3番手選手に重なって頭部を追うものの、合焦自体は4番手選手にあり、フォーカシング動作自体が置いて行かれた。やや不安定な一瞬を捉えた結果だろう。
3番手選手に重なる赤枠の通りの合焦が戻り、画面全体で見ると4人の位置がバランスよく収まった。3番手選手への合焦は予期していなかったが、「自動選択」とすれば妥当だろう。
スチール画像で合焦結果を確かめると、赤枠は3番手選手のヘルメットを追うものの、実際には4番手選手に焦点が合っているカットも見られた。赤枠で囲まれていない選手への合焦はいただけないが、「自動選択AF」の人物認識であれば、先頭選手への合焦を目論んでいても、3人目を追う妥当性はある。だが、先頭選手への合焦を少なからず望んでいるのならば裏目に出たことになる。「自動選択AF(+人物優先)」でも最至近の人物を追うような特定させるオプション設定を望むところだ。
シーン5:自転車競技3
この通過でも「自動選択AF(+人物優先)」を利用。2番手選手を撮影目的に合焦対象を絞り、合焦とAF追随にこだわっている。
【露出】
・絞り:F5.6で固定→周辺部の解像を良好にさせるため
・SS:1/2,000秒で固定→このアングルで選手と自転車の動きを止めるため
・ISO:4000で固定→AEでの露出のバラつきを抑えるため
【焦点距離】
・200mmで固定
【AF】
・測距点:自動選択AF →測距開始点を画面右よりの任意の位置に設定し選手を捉える。AIサーボAFで合焦を確認してからシャッターレリースを開始
まだカメラから遠くにいるグループを背面モニターで追うが、前項目のように合焦が先頭選手に対して必ず行われるという確証はなく、「自動選択AF」時の法則性が掴めていなかったため、親指AFによるフォーカス駆動の開始を、2番手選手が現れた段階で行い、追随させた。
撮影画像は無いが迫る4人が遠目の地点では、一列状の隊形で先頭選手だけが見えている。4人が近づき、相対的に左右へ広がると2番手以降の選手が見え始め、AF-ONと連写を開始。
2番手選手の頭部を赤枠で捉えると、連写中は外さずに追い続けた。実際の合焦も確かにあり、合焦が欲しい対象が他の類似対象から離れたタイミングを見計らった結果と思われる。
2番手選手を連写し続け、合焦維持が認められる最後のカット。以降は選手までの距離が5〜3mとなり、繰り出し量が増えてAF追随には苦手な領域となったためか合焦には至らなかった。
意図しない部分への合焦を避け、2番手選手を確実に捉えるための方法だが、2番手選手が見えてからのAF-ON、そして合焦に至るまでのスピード(時間)は、ここでも不満はなかった。
シーン6:馬
乗馬クラブにお邪魔した際に、馬の調教シーンを撮影させてもらった。調教師が柵で囲われたフィールドの真ん中に立ち、競走馬だった「スリージェット」号(7才・せん馬)を調馬索で操って円状に走らせているシーンだ。
【露出】
・絞り:F2.8〜F3.5
・SS:1/2,500秒で固定→馬の動きを止めるため(しかし、若干の被写体ブレがあり)
・ISO:200ベースでオート→開放絞り値よりも高EV値が必要な際に備えるため
【焦点距離】
・200mmで固定
【AF】
・測距点:自動選択AF →測距開始点を馬の頭部が来る画面上部の任意の位置に置く。AIサーボAFで合焦を確認してからシャッターレリースを開始
レンズはEF70-200mm F2.8L IS III USMを使用。あらかじめ頭が来る位置に測距開始点を置き、馬の頭部近辺にフォーカシングを試みている。これまでの鉄道車両にある幾何学模様や、人の特徴となる顔や頭部といったわかりやすい形状でないためか、測距エリア全点が表示され、うち合焦する複数ポイントが赤枠表示になっている。
合焦結果の詳細を確かめるべく静止画像を見ると、概ね馬の頭部を捉えてはいるが、目や鼻といったピンポイントを追ってはいない。鼻の先から耳までの長い頭を持つ馬に対して、「自動選択AF」は頭部のどこかには合う、という大雑把な結果だ。
地面以外で最至近となる鼻に合焦している。平面を滑らかに向かってくる被写体に比べ、上下動があるため追随は厳しいが、そんな時こそ形状認識を経た自動選択で追って欲しい。
鼻根から耳にかけ合焦を示す赤枠が重なるが、実際の合焦は毛並の具合から前脚の付け根、肩付近にある。急な速度変化があったわけではないので、赤枠に合焦がないのは残念だ。
鼻根付近に合焦が戻り、馬の表情が明確に判る。画面際に迫る箇所での合焦を見ると、光学ファインダー機の性能では得られないAF領域が今後は主戦場になっていくと痛感する。
ところどころで赤枠で示されない胴体に合焦するカットも見られる。測距点説明の動画からも、スチール画像の合焦結果からも、馬の身体を「自動選択AF」で認識とさせるには苦手な被写体と思われる。任意の固定測距エリアを選び、合焦が欲しい部分にその測距点を重ねるファインダー撮影時と同等の従来方法が得策だろう。
5.5K RAW動画からの切り出し静止画
搭載された数ある動画記録モードの中でも特筆すべきは5.5KのRAW動画だ。「動画」であることは違いないが、僅かな時間、撮影してDPP4で静止画の抜き出しを行ったところ、これは静止画のためにあるモードだと思えたのだ。AF追従は30フレーム/秒以下に設定する必要はあるが、フォーカス固定なら60フレーム/秒による記録もできる。この回は動体へのフォーカシングを見るために25フレーム/秒で試した。
【露出】
・絞り:F5.6で固定 →絞った際の合焦域に紛れないようにするために被写界深度を浅く
・SS:1/2,000秒で固定→このアングルで車両の動きを止めるため
・ISO:400で固定→車両からの反射光の強弱による露出のバラつきを抑えるため
【焦点距離】
・内蔵エクステンダーを入れた560mmで固定
シーン2でご覧いただいた、ライブビューの静止画20コマ/秒で撮影したモノレールの走行シーンを、露出条件などを同じにして5.5KのRAW動画で撮影。この動画から静止画として抜き出したカットと、静止画としてライブビューで撮影したカットを並べる。
5.5Kの動画は、センサーの記録画素数の長辺5,472ピクセルをそのまま生かし、短辺は2,886ピクセル(スチール時Lサイズは3,648ピクセル)で構成する17:9の横長だ。切り出し静止画もこの解像度が維持される約15.8メガピクセルである。
双方の画像を見比べていただくとわかるのだが、各部の描写に差はほとんど感じられず、アスペクト比さえ合わせれば、元はどちらかなのかわからない、と言っても過言ではないほどの画質が得られている。
ちなみに掲出しているRAW動画から切り出し画像は、調整等は施していない。1フレームごとの画に、静止画として撮影した画像と同等の精細感があり、何もしなくても十分に比較対象になり得たからだ。
動画モードでの撮影は、AFなどの制御面で、これまでお伝えした静止画ライブビュー時とはメニュー項目も異なるし、挙動も異なっている。撮影時にその違いを考慮することにはなるが、DPP4での静止画切り出しを行うと、実に使いやすく、“静止画撮影のためのRAW動画”を用意したのだと自然に捉えられる。静止画撮影ではコマ間に埋もれてしまう一瞬を狙い撃ちするような動画からの切り出しは、RAWからの画像調整を加えることで俄然完成度を高めることができる。動画と静止画を一体化させる撮影手法の確立を、キヤノンは成したのだ。
この5.5KのRAW動画撮影ではプログレードデジタルのCFexpressゴールド128GBカード(旧版)を使用したが、同社では非対応としている通り、数秒で書き込みは止まった。RAW動画撮影時はカードの最低書き込み速度に留意する必要がある。今回はあえてゴールド128GBカードを使用してみたが、コバルトを使用していれば違った結果となっただろう。静止画撮影時の連写記録枚数からしても、書き込み能力、安定度はコバルトが上である。
また、記録した動画の再生にはDPP4(Windows版はバージョン4.12.10.2から)が対応している。しかし、PCに求められる処理性能はひじょうに高くなっており(WindowsであればCPUはintel Xeonプロセッサーを2基以上搭載することや、GPUにはNVIDIA GeForce RTX 2080を搭載することが、それぞれ推奨されている)、最低でも4K動画を滞りなく編集できるPCスペックが必要となるようだ。
ただし、RAW動画ファイルから静止画を抜き出すだけなら、そこまでのスペックは必要ない。筆者が執筆時に使っている、インテルの第5世代Core i7を積んだPCでも問題なく作業を進めることができた。
まとめ
ライブビュー撮影による20コマ/秒の連写、そしてAF性能についてはご覧いただいた通り、一眼レフカメラであることを忘れさせるほどの感触と、高い精度が得られる。もちろん、他社ミラーレス機の細かい動体追従や、被写体認識を経験した身としては、それぞれで向上の余地を感じるため、今後のファームウェアアップデートを含めた進歩に期待するところもあるが、レスポンス自体は他社のミラーレス機に匹敵する潜在能力が備わっていると感じた。
センサーによる被写体認識とAF追従は、ボディとレンズ間の通信プロトコルから、従来レンズを使う一眼レフシステムにはややハードルが高いのでは、と考えていたが、EFマウントシステムでここまでの結果が出せたことは、シェアトップを走るキヤノンの意地を垣間見た感がある。
ファインダー撮影とライブビュー撮影双方の同時進化を果たした、キヤノンの技術力とそれを具現化し得る力には、ただ感心するほかないが、このカメラの存在感を高めるのは、最終的にはライブビュー撮影の延長にある動画撮影機能にあると思えた。「5.5KのRAW動画」のことだ。
幅広い画像調整ができるRAWデータからの切り出しは、“動画からの静止画カットの切り出し”をプロシューマーの領域からみても、実用的な水準にあると判断できるものとなっている。近い将来、従来の静止画撮影と並んで動画切り出しの方法が普遍化するだろうとは考えていたが、本機がその端緒を切り開いたといえよう。
1987年、「EOS」シリーズでAFシステムを発進させたキヤノンは翌々年の1989年に「EOS-1」を登場させ、プロに向けてもAFによる撮影合理化を提示した。AF化した一眼レフカメラが市場で広がる中、熟練を要していた「一眼レフカメラ+望遠レンズ」の組み合わせが、そのAFによって身近なものになり、動き物を追う現場では新たなプロカメラマンの誕生を後押する結果にもなった。マニュアルフォーカス時代からのプロカメラマンたちは、新たに出現したEOSを使うカメラマンを「EOSカメラマン」と呼び、AFに頼らないと撮影できないカメラマンという意味で冷やかしていたものだった。
それからおよそ30年。デジタル化を過ごした「EOS-1」シリーズは数々の発展を経て、かつてAFによる撮影を揶揄していたプロ層も取り込み、スポーツ・報道分野での撮影業務を支える存在となっている。
そして、今回の「EOS-1」のモデルチェンジで、キヤノンは動画からの静止画撮影という切り口を明確に提示した。こうした撮影手法の多様化で、撮影者は新たなボキャブラリーを獲得し、表現の幅が広げられる。この「EOS-1D X Mark III」は、ファインダーを覗いて撮影するスチールカメラとして進化しながら、その枠組を自ら超越できるパフォーマンスを持つカメラでもある。
キヤノンは映像撮影へ向けた合理化を一層進めていくことだろう。新型コロナウィルスの感染拡大を背景にスポーツを含めたイベントは軒並み無観客での開催となっていたり、開催そのものが中止になっている状況にある。活躍の場が中々得られない状況が続いているが、将来の「EOSカメラマン」がどのような姿になるのか、楽しみだ。