新製品レビュー

Irix Dragonfly 45mm F1.4

長らく待ちわびた“明るい45mm” 独自の世界観を醸すスイスデザイン

Irixはスイスで企画され、韓国で生産されている新興のレンズブランドだ。本レンズも含め、ラインナップされている焦点距離は11mm、15mm、45mm、150mmの4種類だ。それがフォトレンズとシネレンズとして、それぞれ用意されている。さらにフォトレンズでは、11mmと15mmのレンズに鏡筒外装が総金属製か樹脂仕上げかの違いで2種類のライン(金属製のものはBlackstone、樹脂製のものはFirefly)が存在し、フォト・シネマをあわせると総計10本のラインナップとなっている。今回レビューでとりあげる45mm F1.4は、鏡筒外装を樹脂仕上げとした製品のみのラインナップで、「Dragonfly」の愛称が付けられている。非球面レンズを4枚も使った贅沢な光学設計から想像される高い描写力と45mmの焦点距離で開放絞り値がF1.4という、類例をみないスペックが大きな魅力の一本だ。35mm判フルサイズ対応で、対角線画角は51.4度である。

独自の世界観を醸し出すデザイン

樹脂外装といっても、樹脂部分はフォーカスリングのみであり、内部構造も含めて、ほとんどの部分が金属製である。とはいえ、フォーカスリングは単にゴムをはめたものではなく、リング全体が樹脂で成形されたものだ。

そのほか外観上の特徴は、大きくみやすい文字や指のかかる突起、フォーカスロックリングだ。フォーカスロックの機構はレンズ前端のリングを回転させるだけのシンプルな操作で、スナップでピントを固定しておきたい時、星景写真で正確にピントを合わせて固定しておきたい時などに役立つ、実用的な機構だ。

用意されているマウントは、ニコンF、キヤノンEF、ペンタックスKの3種類。絞りは電磁絞りとなっており、絞りリングは存在しない。ニコンマウントの場合、マウントアダプターFTZを介してZシリーズに取り付けたところ、絞りが正常に動作しなかったことを付記しておく。ファームウェアのアップデートにより、今後改善される可能性は高いと思われる。

付属品はセミハードケース、花形フード、リアキャップ、フロントキャップの4点であるが、それぞれが独自の意匠となっており、レンズ本体の外装デザインとともにブランドの世界観を感じさせるものとなっている。

大きめのボディと好マッチングなサイズ・重量

本レンズの重さはニコンFマウントの場合で905gと、かなり重量級だ。レンズ全長は短かく、ニコンD850との組み合わせでは、重さが凝縮される印象でバランスは良い。樹脂製のフォーカスリング突起への指がかりもよく、またグリップも良いことが、持ちやすさやバランスの良さを感じさせるのだろう。本レンズに組み合わせるボディは、比較的大きめのボディである方がバランスは良いはずだ。

本レンズの対角線画角はほぼ50度であるが、カメラを構える前にイメージした画角とカメラを構えてファインダーを覗いた時の画角が素直に一致する印象で、バランスの良さと共に好印象であった。

こうした使い勝手の良さと前述したアクセサリー類、そしてレンズ本体のデザインは、十分に持つ喜びを感じさせてくれるものだ。この1本を手にすると他のラインナップも欲しくなってしまうに違いない。

一方で、ヘリコイドの動きはいまひとつだ。防滴・防塵を優先した構造によるものか、製造上の理由によるものかは定かではないが、動きは渋く、スムーズとは言い難い。今後、改善を望みたい点である。

周辺光量落ち

さっそく本レンズの描写をみていきたい。まずは周辺光量落ちから確認する。

本レンズは最小絞りがF22となっており、大口径単焦点レンズとしては珍しい仕様となっている。ただし、F22の画像は1段ほどオーバー露光となっている。撮影は絞り優先オートで行ったが、撮影データでは、F16時に比べてF22の時は1段遅いシャッター速度となっている。そのため、今回使用したレンズに限った話であるが、実際にはF22まで絞り込まれていないことになる。個体による不具合と思われるので、以降F16までの比較とする。

F1.4
Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F1.4・1/6,400秒・-0.3EV) / ISO 40 / WB:AUTO
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

まず、開放時の周辺光量落ちは大きめで、画像最周辺部ではおよそ2段ほど落ち込んでいる。しかしながら、中心からの落ち方は実に滑らかでドラマチックだ。光量落ちの大きさから開口効率は特段に高い方とは思えないが、滑らかな落ち方は作画の上では非常に優位である。

通常RAW現像時には視線誘導の効果をもたらすため、周辺光量を暗くする方向で調整するが、その落ち方を滑らかにする作業も発生する。本レンズのような滑らかな落ち方であれば、一手間省くこともできて良い。

また、これは全画面をフラットに補正したい時にも優位な特性だと言える。絞り別の描写をみた一覧でもわかるように、完全に周辺光量落ちがなくなるのはF5.6からと判断できるが、途中F2~F4それぞれにあっても、光量の落ち方は滑らかなものだ。

解像性能

近年の大口径単焦点レンズの例に漏れず、絞り開放から高い解像性能を示し、F2.8で大きく改善して、F4、F5.6でピークとなる。F8まで絞りこむと全画面で均質となるが、F5.6よりも解像感は減少する。さらに絞ると小絞りボケにより、被写界深度が深くなるとともに解像感は減少する。

特筆すべきは色収差の少ないこと、非点収差、コマ収差など周辺画像に関わる収差が少ないことから、F1.4の絞り開放であっても、画面全体の均質性がよく、不快な像の流れを感じることはない。絞り開放での像は甘いながらも芯がある印象で、単独で画像をみる場合、シャープさと柔らかさが同居するような心地よい結像である。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 /絞り優先AE(F1.4・1/4,000秒・-2.3EV) / ISO 64 / WB:AUTO
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

逆光

本レンズには「neutrino coating」という呼称の低反射コーティングが採用されており、最新の日本製レンズと同様に逆光時であってもフレアが少なく、シャドウの描写もしっかりしている。一方、ゴーストについては少しばかり特徴がある。

どのようなレンズであっても必ずゴーストは発生しているということを念頭に、通常は絞りを開ければ開けるほど、ゴーストつまり光源の反射像は大きく広がって目立ちにくくなり、拡散してフレアとして作用する。逆に絞れば絞るほどゴーストは小さく明るくなって目立つようになる。しかし、本レンズではどの絞り値でも目立つゴーストが発生する。これは本レンズがはっきりと発散系と収束系に分けた設計であるため、それぞれの群でゴーストが発生しているためだと思われる。

しかしながら、この特徴が欠点であるとは言い難い。なぜなら、ゴーストを発生させるための工夫をしたり、画像処理や合成でゴーストを加える処理がなされることも多いのが、表現としての実際だからだ。近年の高性能レンズではズームレンズも含めて、ゴーストの発生はほとんどないと言っていい状況にある。こうした現在の水準に鑑みて、本レンズで発生するゴーストは、本レンズを企画したチームからのメッセージ、あるいは世界観であると筆者は判断する次第だ。なぜならゴーストには視線を誘導する側面もあり、それを絞りを開け、ボケと共に作画に生かすことができるからだ。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F2.8・1/640秒・-1.3EV) / ISO 64 / WB:AUTO
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

絞り開放

絞り開放での描写を見るために、解像性能をみた作例よりも近い距離とした。以下の作例2点は、ともにおよそ80cmほどの距離から撮影している。解像性能の項でも述べたとおり、芯がありながら柔らかい印象の描写で、高周波のコントラストが非常に高く、低周波がやや落ちることを示しているMTF(メーカーHPで公表)を非常にイメージしやすい描写と言える。

ボケは作例1で見るように、立ち上がりは急激で、ピント位置直後から急激にボケてゆく。また、被写体位置が近いせいもあるが、直後から大きなボケとなるので、さらに距離が離れた後方でもボケが大きくなる印象ではなく、ボケ量から距離の変化を感じられるタイプではない。後ろボケは柔らかく良い描写であるが、前ボケはややざわついている。ピントがあったアスファルト面を水平に見ると、像面湾曲も少なく、画面周辺でも中心部と遜色ない解像性能を維持していることがわかる。

絞り開放・作例1
Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F1.4・1/4,000秒・-0.7EV) / ISO 64 / WB:AUTO

次の作例2では、作例1のように連続した面がなく、距離の変化の少ない例である。ボケの急激な立ち上がりは感じられないが、10cm程度しか違わない葉の部分が大きくボケているので、まるで水に浮いているかのような描写で美しい。

作例1は直射日光を浴びた強い光、作例2では日陰で光が回った状況であるが、双方とも被写体エッジやボケに色づきがなく、色収差がよく補正されていることがわかる。

絞り開放・作例2
Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 /絞り優先AE(F1.4・1/1,600秒・-1.0EV) / ISO 100 / WB:AUTO

後ろボケ(その1)

次に絞り値の違いによる後ろボケの変化を見てゆく。雑草が生い茂った場所で連続した被写体としてとらえた。ピントを合わせたのは、およそ3m先である。

絞り開放では前項と同様に、前後ともボケは急激な立ち上がりを示しており、ボケ量と距離感は一致しない。ところがF2.8まで絞ると、ボケの立ち上がりが穏やかになり、ピント面から徐々に距離に応じてボケ量が大きくなってゆく印象となる。F2ではその中間だ。

どのようなレンズであっても絞れば被写界深度が深くなることによってこのような変化が生まれるが、本レンズではF5.6くらいまではっきりと、そして絞りの変化に対してリニアに描写が変化してゆくことが特徴だ。F11以降はパンフォーカスとしての描写だ。ボケを生かした作画をするには、F1.4からF2.8でのボケの変化を意識しておくと良い。F2.8でもボケを活かした作画をするのに十分なボケ量がある。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・-0.7EV) / ISO 100 / WB:AUTO
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

後ろボケ(その2)

ここでは木漏れ日、光源ボケの絞りによる変化を見てゆく。ピントを合わせたのはおよそ70cm。拡大しているのは右上の部分だ。F1.4では当然レモン型。F2ではレモンの上下をカットしたような楕円となるが、比較的素直な形と言える。F2.8でほんの少し欠けはあるものの、ほぼ円形。F4では画面最周辺まで円形となる。いわゆる玉ボケはF2.8でも十分楽しめるだろう。ここまでの変化は大口径単焦点レンズとして一般的なものである。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F2.8・1/400秒・-1.3EV) / ISO 64 / WB:AUTO
F1.4
F2
F2.8
F4

次にボケの質に注目するが、「質」とは、ボケがリング状になってしまう、いわゆる輪線ボケとなっているかどうかだ。

結論が先となるが、本レンズではどの絞り値でも輪線ボケを感じることは、ほとんどない。絞り開放時は綺麗なボケであっても、絞ると輪線ボケとなるレンズが多いが、本レンズではF8以降で若干輪線ボケが見られるものの、ボケ自体は小さくなっており目立たないためだ。輪線ボケは、ボケがざわつく元となるほか、線状の被写体では二線ボケとして見えることになり、いずれの場合も、目立つ場合はレンズの描写にとって好ましいものではない。

F5.6
F8
F11
F16

最短撮影距離

本レンズの最短撮影距離は40cmであるが、最短撮影距離でも解像性能は高く、かつ素直なボケを示している。絞りによる変化は、ここまで見てきた70cm前後、3m前後と変わらず、F1.4で急激にボケが立ち上がり、F2.8以降で落ち着きのある、距離に応じたボケとなる。

また、どの絞り値でも後ろボケがざわつくことはない。前ボケはやや輪線傾向があり、F2.8まではややざわついている。解像感はF1.4、F2ではやや甘さを感じるものの、全般的に解像性能は高く、非常に使いやすい描写である。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F2.8・1/320秒・-0.7EV) / ISO 64 / WB:AUTO
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

適度に絞った描写

適度に絞った描写の例としてF8を選択した。ピントを合わせているのはおよそ10m先だ。F8では、神社建物手前から奥まで十分に被写界深度に収まっており、全面に渡ってシャープな描写となる。前ボケとして木の枝を配しているが、距離はカメラから1mほど。輪線を感じることなく滑らかで柔らかいボケとなった。

本レンズではある程度絞った方が前ボケがざわつくことがない傾向だ。また、ハイライト部分のエッジに色づきもなく、倍率の色収差もよく抑えこまれていることがわかる。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F8・1/13秒・-2.0EV) / ISO 100 / WB:AUTO

点像再現

星、つまり点光源では画面中心から最周辺に至るまでの収差の変化を見て取れる。作例では夏を代表する星座、さそり座の主要部分を撮影した。

梅雨空の最中、薄雲がありあまり露光を長くできず、やや暗く見えにくい画像であることはご容赦願いたい。また、日周運動により星は動いてゆくので、赤道儀(ケンコー「スカイメモT」)を用いて追尾撮影とした。画像を拡大したのは左上である。

結果、本レンズの最周辺での点像再現性は非常に良いものであり、F1.4であってもほぼ点像に見える。強く拡大するとコマ収差による流れと非点収差も混じったヒゲ状の伸びが確認できるが、F2.8でほぼ解消する。実用上はF2で十分に満足できる描写となるはずだ。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / マニュアル露出(F1.4・8秒・-1.7EV) / ISO 400 / WB:AUTO
F1.4
F2
F2.8
F4

フリー作例

強い日差しが夏の色合いを作っている。前ボケに門扉を配することで人の生活感を取り込んだ。F1.4としたので前ボケは大きく柔らかい。細やかなディテールがある、つまり高周波の被写体の時前ボケでは、ざわつきを感じやすいが低周波の被写体では柔らかく素直だ。また、F1.4の時には周辺減光が大きくなる。この作例のような絵作りでは日差しをより明るく表現することにつながり良い効果になっている。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F1.4・1/2,000秒・-0.7EV) / ISO 64 / WB:AUTO

薄雲が多いものの大きな積雲が連なり、梅雨の中休みとなった1日、これから来る盛夏を感じさせる空模様だ。絞りをF2.8にしてピントをカーブミラーに合わせ、背景をボカした。絞り開放での解像性能の高さを求めたレンズでは少し絞ると背景に二線ボケ傾向が出ることがあるが、本レンズのボケは二線ボケ傾向もなく素直なボケである。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F2.8・1/8,000秒・-2.3EV) / ISO 31 / WB:AUTO

最短撮影距離で白い花を撮る。ここでは背景も描写するため、F16とした。大きく絞り込んでも電線、電信柱に二線ボケ傾向は感じられず、人の生活の匂いを取り込むことができた。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F16・1/40秒・±0EV) / ISO 40 / WB:AUTO

雲が厚くなり、薄暗くなった小道の脇で紫陽花の花が浮き上がって見えた。小道の続く感じを表現するため、F4とした。本レンズではF2.8よりも絞ると、ボケの立ち上がりが穏やかになり距離に応じたボケ感となる。連続して距離が変わってゆく様を穏やかに表現できるのだ。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F4・1/40秒・-0.7EV) / ISO 100 / WB:AUTO

日没直後、見事な夕映となった。少し人慣れした野良猫に近づいてみる。本レンズはマニュアルフォーカスであるが、解像性能の高さから、ピントの山が掴みやすい。歩留まりよく良好なピントを得た。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F2.8・1/40秒・-1.7EV) / ISO 800 / WB:AUTO

夕映の赤と紫陽花の青の対比が目についた。F2とすると適度な周辺減光により中央に視線が誘導される。中心付近に主要被写体を置く絵作りに好都合だ。またF2ではシャープさと大きなボケが同居し、このような夕暮れで逆光となりコントラストの低い条件下でもシャープな描写だ。

Nikon D850 / Irix Dragonfly 45mm F1.4 / 絞り優先AE(F1.4・1/250秒・-4.0EV) / ISO 400 / WB:AUTO

まとめ

Irix Dragonfly 45mm F1.4を一言で表現すれば、「強い世界観を持ったレンズ」となる。高い光学性能を前提に、どのように写真を撮るべきかを示唆してくれるようなレンズである。本レンズの描写を言葉にしてしまうと高い解像性能、素直で柔らかなボケなど、他の高性能レンズと変わらない言葉の羅列になってしまう。しかし、本レンズは企画の段階から、「このようなシーンではこのような描写が欲しい」といった例を数多く練り込み、精査したのであろう。そのこと自体はどのような工業製品でも行われていることだが、恐らくは「精査」がみんなの意見の集約ではなく、強い一つの意見を元にした集約であるのだろうと想像する。また「精査」したのも設計者ではなく、豊かな経験を持った写真家なのだろう。

そもそも45mmという焦点距離を選択すること自体が一つの意見であり、世界観を示す一端である。どのようなフォーマットであっても対角線画角50度前後を標準的な画角としており、これを標準レンズと呼んでいる。フルサイズで緩やかに捉えるならば、40mmから60mm程度が、これに相当する焦点距離ということになるが、どの焦点距離が標準レンズとして好ましい画角になっているかは、撮影者の好みや経験に左右されるため、一概に断じられるものではない。

しかしながら、画角50度、焦点距離45mmを好ましいとする撮影者が多く存在することもまた事実であり、筆者も長らく明るい45mmを待ちわびていた一人である。35mm判における焦点距離50mmの対角線画角は約47度であって、焦点距離45mmとの差は3度でしかない。だが、その3度の差が、実際に写る画角とカメラを覗かずに意識した画角と心地よく一致するのである。あくまでそれは好みと経験であり、他の焦点距離を否定するものではない。たくさんの焦点距離を使ってみたら45mmが欲しくなった、という解釈でも構わない。

いずれにせよ、長らく市場に存在しなかった45mm F1.4という大口径と称しうるスペックそのものが、本レンズの個性なのだ。現行製品に目を向けてみても、45mmでかつ35mm判フルサイズに対応するレンズには、シグマの45mm F2.8(ソニーE、ライカL)やタムロン45mm F1.8(キヤノンEF、ニコンF)が認められる程度だろう。これらのレンズを顧みても、F1.4という明るさは無二のものであろう。

そして、外観デザイン、独自なデザインの付属品も含めて、プロダクトとしての世界観を作り上げているのだ。もしそうした世界観を好ましいと感じるならば、全てのラインナップを揃えたくなる衝動に駆られてしまうことだろう。

茂手木秀行

茂手木秀行(もてぎひでゆき):1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マガジンハウス入社。24年間フォトグラファーとして雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」を経て2010年フリーランス。