イベントレポート

キヤノンEOS-1D X Mark III撮影体験会レポート

自動認識AFの精度・強化された連写性能を重点チェック

EOS-1D X Mark IIIの発売を目前に控えた2月上旬、キヤノンマーケティングジャパン株式会社は、同カメラを用いた撮影体験会をメディアおよび写真家向けに開催した。被写体はキヤノン株式会社が擁する「キヤノンイーグルス」(ジャパンラグビー トップリーグに参戦しているチーム)だ。この練習風景を前に、EOS-1D X Mark IIIの撮影性能を、日々スポーツなどの現場で動体を追いかけているカメラマンに体感してもらおう、というのが今回の体験会の趣旨であった。

撮影会にはスポーツ、モータースポーツ、鉄道の各写真家団体に加入するカメラマンが参加。筆者もその一員としてお邪魔した。ごく短時間での試用であったが、ここで得た感触をファーストインプレッションとしてお届けしたい。

なお試したボディは発売前の個体であり、限られた時間内での試用であることを、あらかじめご承知置きいただきたい。

まずキヤノンの推奨設定でトライ

東京郊外、町田市の練習グラウンドに招かれた参加者は、控室で新機種の特徴や従来機EOS-1D X Mark IIとの違い、キヤノンが推奨する撮影設定について、一通り説明を受けた。会場にはかなりの数のEOS-1D X Mark IIIが用意されており、参加者それぞれに1台が貸し出された。設定を終えた参加者は、希望するEFマウントの白レンズを装着しフィールドへ向かった。

選手達を待つこと約30分、西陽がグラウンドを囲む雑木林の向こう側に隠れはじめた頃、トレーニングウエア姿の選手達が姿を見せた。厳しい状況での撮影が求められることの多いスポーツ・報道系に向けたカメラのテスト環境としては、相応しい時間帯になった。

事前のプレゼンテーションで強調され、確認したかった機能・性能は、以下のとおりだ。

[1]光学ファインダー撮影によるAF/AE追随の秒16コマ連写(EOS-1D X Mark IIは約14コマ/秒)
[2]ライブビュー撮影によるAF/AE追随の連写速度は、約20コマ/秒(電子・メカシャッターが選べる。EOS-1D X Mark IIはメカシャッターのみAF/AE追随しない約16コマ/秒)
[3]iTR AF Xによる顔認識AF(ファインダー時は顔と頭部、ライブビュー時は顔と頭部に加えて瞳)、EOS-1D X Mark II比での精度向上
[4]AFキャッチ速度と精度(特にメーカー側からのアナウンスはなく個人的興味)
[5]高感度時のノイズ低減(EOS-1D X Mark II比で約1段分向上)
[6]AF-ONボタンに埋め込まれたスマートコントローラーによるAF測距点の移動操作

キヤノン推奨の撮影設定は以下の通り。

・連続撮影:16コマ/秒
・測距点:自動選択AF
・AF追随のAIサーボAF特性:Case AUTO

この推奨設定について、キヤノンは「まずはこれを試して欲しい」と、その撮影性能にかなりの自信を示していた。その内容は、測距点の選択も自動選択AFとすることで、シャッターボタンを押している間は、顔があればそれを認識してAFし、続いてAF追随を行い、前を横切るものに対しても特に心配することはない、とかなりカメラ側の捕捉性能に頼った設定だ。

これまで測距点1点や領域拡大の複数点を使い、画面内の被写体配置に気を配っていたユーザーに対して、フレーミングの自由度を広げる可能性に満ちている。同社が自信を持つ提案を受け、それらを試すべく設定入力を行った。

「連続撮影速度」の項目内「高速連続撮影」はデフォルトで最速の16コマ/秒に設定されている
「AIサーボAF特性」は選んだAF測距点に重なる被写体が、どう動くかによってCaseを変える。EOS-1D X Mark IIIからは1〜4の他、総合的に判断して最適化する「AUTO」が加わった
AF測距点、モード選択の内の「自動選択AF」を選ぶ。デフォルトではこの範囲内にある顔などを認識して合わせることになるが、別項目にある「サーボAF開始測距点」をONにすることで、AF開始時の任意の一点を決めることができきる

iTR AF Xによる顔認識AFの精度向上

EOS-1D X Mark IIIでは、ファインダー撮影時に顔と頭部、ライブビュー時は顔と頭部に加えて瞳AFが有効となる。

「iTR AF」はEOS-1D X Mark IIでも“顔優先”として搭載していた機能だが、EOS-1D X Mark IIIでは「iTR AF X」と、さらに磨きをかけたて進化したという。この機能は、測距エリア選択を「ラージゾーンAF」「自動選択AF」などのように広範囲に設定した場合に、ファインダー撮影時の位相差AFでも、ライブビューの像面位相差AFでも顔を検出するというもの。性能強化されたポイントはいま挙げたとおりだ。

Mark II比での具体的な差は、やはり検証できていないため明言はできないが、撮影中に選手の顔がある程度の大きさになると合焦していることを示す複数測距点が点灯し、さらに撮影した画像を純正ソフト「DPP(Digital Photo Professional)」で「AFフレーム」表示をさせると、選手の顔を認識し追随していることが、あらためて確認できた。このカットは、残念ながらキヤノンの意向により肖像権の関係で掲載はできないが、あまり使ったことのなかった「ゾーンAF」「自動選択AF」を積極的に使ってみようと思える結果だった。

「自動選択AF」に設定した場合、「サーボAF開始測距点」を設定することで、事前に任意のエリア1点を選ぶことができる。まずはそこに撮りたい選手の顔を重ねることでAF追随させる方法が良さそうな感触だった。

ファインダー撮影時に測距点を「自動選択AF」として、ボールを持つプロップの舟木頌介選手の顔に「サーボAF開始測距点」で設定した測距点を重ね、その後連写。舟木選手の顔とその付近に追随させている。以降の連写カットは、すべてHEIFで撮影し、DPP経由でJPEGにストレート変換している。

キヤノンEOS-1D X Mark III / EF600mm F4L IS III USM / シャッター優先AE(1/1,000秒・F4.5・±0EV) / ISO 6400
測距点の位置
連写カット

連写:ファインダー

前モデルとの比較撮影は行えなかったため、定量的な結果をお伝えすることはできないが、EOS-1D X Mark IIIの連写性能は、“またも2コマ分速くなった”と感心すると同時に、ミラーショックが低減されていることや、連写中に見えるファインダー像の安定度の向上が感じられた。

次の連写カットは、フランカーのコーバス・ファンダイク選手がボールを抱えてゴールラインを目指すシーン。スクラムハーフの松山光秀選手がボールを奪うべく、腕を絡ませた。ファンダイク選手は体勢を崩しながらも前進する。一連の動きを「自動選択AF」設定として連写した。

キヤノンEOS-1D X Mark III / EF600mm F4L IS III USM / シャッター優先AE(1/1,000秒・F4.5・±0EV) / ISO 6400

測距点をカメラに任せ、構図のみを気にしながらシャッターボタンと、AF-ONボタンを押し続ける。ファンダイク選手の顔は、ファインダー撮影時の測距点からはみでたが、カメラはユニフォームを認識し追い続けた。

「自動選択AF」が選ぶ、ファインダースクリーンに映し出される測距点の各々を示す赤フレームが、実線で囲う四角から、ドットで構成する線の四角となったことに気づく。精細さはあるものの輝度も控えめな感じで、Mark IIに比べてやや目立たない。これまでにも逆光時は見づらさがあったが、赤いユニフォームやハイライトに溶けてしまう場面もあった。

測距点の位置
連写カット

EOS-1D X Mark IIの時に感じられた、連写時の“バタバタ”、というよりも“ブルブルブル”といった手を伝ってくる小刻みなトルク感を伴う感触が、EOS-1D X Mark IIIでは減った気がする。もっとも、ミラーレスカメラに慣れた昨今の感覚かもしれないが。

ただ、1カットあたりのミラーアップ(ブラックアウト)時間は確実に減ったようで、連写時を含め、ファインダーごしの被写体像はとても見やすい。いずれも、コマ速アップのためのメカ全面刷新が奏功しているのだろう。

初代EOS-1D Xでは連写中の隙間時間に見えるファインダー像はバタつき、合焦に関わらずアウトフォーカスに見えていたので、ミラー駆動はMark II、Mark IIIと、代を重ねるごとに着実に進歩を遂げている印象だ。光学ファインダー機に欠かせないメカ機構のブラッシュアップが体感できたことは、ミラーレスに慣れた目にも手にも、気持ち良い撮影感だった。

連写:ライブビュー

EOS-1D X Mark IIIのポイントのひとつでもあるライブビュー撮影性能を確かめた。メカシャッターでも、最高約20コマ/秒が公称速度だ。

ライブビュー撮影時の「シャッター方式」を「メカシャッター」「電子先幕」「電子シャッター」から選ぶ。「電子シャッター」は無音でブラックアウトをほぼ感じない撮影が可能だが、ローリングシャッターによる歪みが出るほか、連写設定では高速設定のみとなる

組み合わせたレンズは、EF400mm F2.8L IS III USMとEF600mm F4L IS III USM。手持ちでも一脚使用でも、400mm以上の画角で動く被写体のフォローは難しく、十分な使いこなしは出来ていないが、追うことが出来ていれば、全コマとはいかないものの顔認識AFが作動して、被写体への追随を見せてくれた。

被写体像の表示は、電子シャッター時ではほぼブラックアウトフリーだと言え、メカシャッター時でも、撮影画像を上手く挿入し、被写体フォローの邪魔になるような画像遮断をほとんど感じさせないところに驚かされた。

ライブビュー時の一枚。ライブビューでも測距点を「自動選択AF」とした。ボールを奪いに行く緑のビブスを着たフッカーの朴成浩選手にフォーカスが合う。本来はボールを持つコーバス・ファンダイク選手の顔に来てほしかった……。

キヤノンEOS-1D X Mark III / EF400mm F2.8L IS III USM / シャッター優先AE(1/1,000秒・F3.2・+1/3EV) / ISO 5000
測距点の位置

次回、詳細を確認する機会があれば、ライブビューで被写体を追う際の体勢を考えて臨んでみたい。

無論、動体を望遠画角かつ背面モニター主体で追う場面がどれほどあるのか、という考えもあるだろうが……。今回の試用では、せっかく実装された魅力的な機能なのだから、それを使い易くする補助具——例えば確実に装着・固定できるルーペ付きの背面モニターフードなどがあると、さらに便利に使えるのに、と感じた。

また、この一連のライブビュー撮影時だが、ファインダー撮影時のAF関連の設定は引き継がず、別の設定があることに注意したい。ファインダー撮影のAFモードが「AIサーボ」だったとしても、ライブビュー撮影時のAFモードはそれに依存せず、工場出荷時のままなら「ワンショット」で動作し、測距点選択も同調しない。

試用を通じて気づいたこと

ごく限られた時間での試用だったが、AFキャッチの速度など、気づいたことをいくつかピックアップしてお伝えしたい。

AFキャッチ

十分に速いと思っていたEOSのAF初動だが、ソニーα9、α9 IIの食いつきの速さを知ると、どうしてもその差を感じてしまう。だが、光学ファインダーを覗いて改めてメリットだと感じるところは、AFで合焦しているかどうかがEVFよりも判りやすいこと。ミラー動作があったとしても、時にそんなメリットを享受したいと思うことがある。

例えば、AF初動速度の差を埋めてくれるようなAFキャッチがあれば、それもMark IIIに触手が伸びるひとつの理由となる。光学ファインダーの見え具合とともに、AFのキャッチ自体には変わらずの確実性はあった。

高感度

高感度撮影時のノイズについて、説明会ではMark II比で一段分抑えられているとのこと。これも比較撮影を行っていないため確認はできていないが、今回撮影したISO 6400以上の画像を見ても特段の不満は抱かない。

キッチリ合焦し、まったくブレのない画に対しては驚くほどの解像感を見せるキヤノンの画づくりを前にして、ブレを防ぐためにノイズは気にせず感度を上げてしまおう、と思わせてくれる。画素数を抑えセンサーと新たな画像処理回路との組み合わせで実現したものと考えられるが、その一方で、もう少しの画素数アップ(例えば350dpiでA3をカバーできる24MP)があって欲しかったとも思う。

スマートコントローラー

マルチコントローラーのように物理的に動かすわけではなく、ボタン表面を撫でることで測距点を移動させるスマートコントローラー。AF-ONボタンから親指を離さずに測距点を動かすことが理想で、AF-ONボタンの位置に測距点移動レバー・ダイヤル・スイッチ等を同居させることを前々から望んでいた筆者にとって、触れることを楽しみにしていたこの機構であったが、ノートPCのトラックポイントのようには使いこなすことは出来ず、撫でるような操作には慣れが必要だと感じた。

[2020年2月20日修正]スマートコントローラーに関する説明で他選択系割り当ても可、としておりましたが、正しくは割り当て不可でした。お詫びして訂正いたします。

指の動きに対して感度(移動スピード)を変えることも出来るが、シャッターボタン以外のボタンやダイヤルの操作部材は押し込みやクリック感という確実性があるだけに、ここだけ「撫でる」入力であることには、適度なアドレナリンが出ている撮影現場で、そもそも慣れることが出来るのか……、との印象だ。

「操作ボタンカスタマイズ」でスマートコントローラーをAFフレームのコントローラーとして使う設定にする。デフォルトでは設定されていない。

感想としてのまとめ

“全部載せ”スペックのモンスターぶりが、発表時から気になっていたが、実機に触れたことでキヤノンの本気度が見えた撮影会だった。試した機能の中でもAF/AE追随20コマ/秒のライブビュー撮影の出来が、実用レベルにまでに熟していたことに、一番うなずけた。

背面モニターを使った望遠画角でのライブビュー撮影は、特有の難しさがあるが、「光学ファインダー中心、時々ミラーレス」という“準ハイブリッド機”とでも呼んで良いレベルに近づいている。AF追随や自動検知の完成度はまだ上げる必要はあるものの、その本気度とセンサーの出来から、今後予定されているであろうミラーレスカメラのEOS Rシステム版の高速連写機も楽しみになった。

どんな場面でもこれ一台に任せられる、とするには画素数据え置きが残念だが、それ以外の角度から様々なスペックアップを図り、それぞれをキッチリと仕上げてきたことにサイクルの4年を上手く使い、この年に備えたのだと感じる。

フラッグシップカメラ開発に持てる技術を投入し、チャレンジングな姿を見ると、その先を感じさせるカメラにも思える。そして、使う写真家に、その瞬間をちゃんと撮れよ!、とカメラが鼓舞するようだ。

2020年、自身のボキャブラリーもEFレンズもいかせる生粋のEOSユーザーの出番だ。

井上六郎

(いのうえろくろう)1971年東京生まれ。写真家アシスタント、出版社のカメラマンを経てフリーランスに。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。「今すぐ使えるかんたん 飛行機撮影ハンドブック」を技術評論社より刊行中。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。