新製品レビュー

FUJIFILM X100V(後編:X100Fと比較検証)

間口をひろげる第2世代レンズ X100Fとの使い分けを探る

X100シリーズは2011年の登場から、おおよそ2年スパンで刷新されている。今回はX-Pro3やX-T3、X-T30などと同じ最新世代のX-TransCMOS 4とX-Processor 4を搭載。さらにレンズの刷新やチルト液晶の採用など、これまでのバージョンアップと比べて変更点が多い印象だ。前編では主に単体使用でのレビューとなったが、後編では従来機のX100Fとの実写比較を行い、その性格の違いについて焦点を当ててみたい。

レンズの比較:最短撮影距離付近

被写体との距離はレンズ先端から約25cm。手前にある葉の付け根にAFした。ピントを固定して絞り値を変えて撮影している。

ネタバレになってしまうが、描写特性の違いが最も顕著なのが、最短撮影距離付近での描写だ。

X100Fはまるでソフトレンズのようなフォギーな描写。さらに接写すれば、もっとソフトになる。絞り込みによって徐々に霞が晴れ、クリアになっていく様子が面白い。撮影距離や絞り値によって描写特性の変化量が大きく、使いこなし甲斐があるクラシックレンズのような特性を持っている。

X100Vも撮影距離が30cmを切る辺りから僅かに滲み始めるが、それでも非常にクリア。絞り込みによる描写変化が少ないので「最近の高性能なレンズ」という感じ。

X100V
F2.0
F2.8
F4.0
F5.6
X100F
F2.0
F2.8
F4.0
F5.6

レンズの比較:中距離

画面中心部にMFでピントを合わせ、かつピントを固定して絞り値を変えて撮影した。どちらのカメラも絞り込みによって奥方向に多少ピントシフトしているように見えるが、実使用では像面でAFさせるだろうから特に問題にはならないと思われる。

撮影距離は4〜5mだ。やはりX100Vの方が収差が少なくクリア。ボケ方についてもこういった背景成分の場合は、X100FよりX100Vの方が筆者には好ましく感じ、X100Fは画面中心から離れるほどボケ味が少しザワザワしているように見える。

X100V
F2.0
F2.8
F4.0
F5.6
X100F
F2.0
F2.8
F4.0
F5.6

レンズの比較:遠距離

被写体との距離はおおよそ25m。画像中央からやや上部の長細い窓の角辺りにAFさせ、各絞り値ごとに5ショットしている。

余談になるが新型の方が遠景でのAFの止め精度というか安定性が良く、対してX100Fは微妙にピントを外したコマがいくつかあった。

並べて比較してみると、歪曲の具合が若干違っていて、X100Vの方が真っ直ぐ、X100Fは広角レンズらしい樽型の歪曲をレンズ光学設計で頑張って補正した感がある。X100Fについても優秀な結果だ。

開放F2.0からF4.0までなら、X100Vの方がクリアでシャープ。F4.0より絞り込めば基本的に同レベルで、少々画面を睨みつけたくらいでは違いが正直分からない。ごく周辺部の描写でこそX100Vが新しいだけあってより均質だが、X100Fのレンズもなかなかにシャープだ。

F2.0(左がX100V、右がX100F)
F2.8(左がX100V、右がX100F)
F4.0(左がX100V、右がX100F)
F5.6(左がX100V、右がX100F)

逆光特性

逆光シーンでNDフィルターの有り無しでの描写の違いを撮り比べてみた。

光源の位置やシーンによってフレアの出やすさは色々あるので、あくまでも参考程度と考えていただきたいが、何シーンか撮影してみた感じはX100Vの方が逆光耐性が高く、フレア発生時もよりクリアな印象。だけど、フレア・ゴーストの出方はX100Fのほうが好み。F16まで絞るとマイクロレンズの反射と思しき模様が発生している。

F2.0(左がX100V、右がX100F。上:NDなし、下:NDあり)
F2.8(左がX100V、右がX100F。上:NDなし、下:NDあり)
F4.0(左がX100V、右がX100F。上:NDなし、下:NDあり)
F5.6(左がX100V、右がX100F。上:NDなし、下:NDあり)
F16(左がX100V、右がX100F。上:NDなし、下:NDあり)

両機の使い分けをどう考えるか:X100Fの描写

絞り開放でこのくらいの撮影距離だとまるでオールドレンズのような味わいがある。「癖」と捉えるか「味わい」と捉えるかは個人次第だが、どちらにしろこのカメラで修練を積めば色々なレンズの扱いが上手くなりそうだ。

FUJIFILM X100F / 絞り優先AE(F2.0・1/1,800秒・+3.0EV) / ISO 400

球面収差を活かした撮り方を意識してみた。この撮影距離ではベール掛かった滲みのある写りとボケの感じがとても美しい。こうした味わいはX100Vでは失われた部分なので、カメラ選びは難しくも面白くもある。

FUJIFILM X100F / 絞り優先AE(F2.0・1/340秒・+1.3EV) / ISO 400

収差は「好ましくないもの」という印象があるが、一部の収差についてはモノクロとの相性が良いと感じている。というのも、カラー写真だと「色ズレ」として見えてしまうがモノクロなら「滲み」として見えることが多いからだ。

FUJIFILM X100F / 絞り優先AE(F2.2・1/170秒・-1.0EV) / ISO 200

富士フイルムらしいモノクロ表現の“旨さ”と相まって、浮き上がるような描写が美しい。暗室作業で現像液に浸した印画紙から潜像が浮き上がってきた時のような感動がある。1,000ショットほど撮影してみて撮影距離2m以内、F2.8という条件が、X100Fが最も得意な撮影領域のように感じた。

FUJIFILM X100F / 絞り優先AE(F2.8・1/210秒・-1.3EV) / ISO 200

両機の使い分けをどう考えるか:X100Vの描写

クリアでシャープな描写なので人工物やメリハリのある被写体を撮りたくなった。どちらかと言えばX100シリーズを使っているというよりGRシリーズを使った時のような気持ちになる。

FUJIFILM X100V / プログラムAE(F5.6・1/640秒・+0.3EV) / ISO 160
FUJIFILM X100V / プログラムAE(F4.5・1/340秒・-0.3EV) / ISO 160

クリアで抜けの良い、言わば余計な味つけのないストレートな写りなので建築物との相性が良いと思った。ノスタルジーな方向に印象が誘導され難いので記録的な撮り方に良いのかも知れない。

FUJIFILM X100V / プログラムAE(F4.5・1/240秒・-0.3EV) / ISO 160

光学的に頑張っているのか、処理との合わせ技かについては不明だが、どちらにしろ歪曲がないのでこうした撮り方をした時にキレの良さが気持ちいい。平面的なものを撮ってもなかなか立体的に写ると思う。

FUJIFILM X100V / プログラムAE(F5.6・1/420秒・-1.0EV) / ISO 160

あえて手前の葉ではなく、一枚後ろにピントを合わせてみると、シャープなんだけどフィルムっぽい曖昧さを含んだような表現もできるようだ。

FUJIFILM X100V / プログラムAE(F2.5・1/110秒・-1.0EV) / ISO 160

まとめ

新旧を同時に使ってみると、前後ダイヤルの操作性改善やグリップ性の向上などによって、X100Vはより撮影者との距離が近づいたように感じた。背面の十字キーを廃したこともグリップ性の向上に一役買っていて、X100Vにある程度慣れてしまうと、X100Fでは十字キーが指に当たることが気になって仕方なくなるという場面が、実は何度かあった。その一方で十字キーに割り当てた機能を無意識に指が探してしまうことも何度もあったので、筆者はワガママなユーザーなのだろう。

チルト液晶については、やはり貢献度は非常に大きい。が、不思議とX100Fに持ち替えると「無きゃ無いで別に良いか」と、おおらかな気持ちになったのはカメラの持つ性格が影響しているように思う。

操作デザインに変更があったISOダイヤルについては、あまりピンと来ず従来機の仕様の方が好きだった。慣れの問題だと思う。

AF性能の違いは、「どんな被写体を普段相手にしているか?」によって、感じ方が人それぞれ違うと思う。筆者はミラーレス機が苦手な背景が抜けたシーンや、小さな花や草木、ガラスの反射などをよく被写体に選ぶので、AF性能の改善をとても明瞭に感じられた。例えば筆者が普段メインで使っているX-H1よりもAF性能は快適だし、風に揺れる花などでも、まるでX-T3やX-Pro3のAF-Cがスコスコ合焦するような軽快な動作で、正直悔しい思いもした。

新しくなったレンズの描写については賛否あるように思う。レンズの性能が全方位に高性能になったからと言って、X100シリーズのように趣味性の高いカメラでは、必ずしもそれが楽しさに直結する訳ではないので、難しい判断があったと思われる。

X100Vの画像を見た後でも、特徴的なX100Fの画像を“観る”のはとても楽しい時間だった。大袈裟でもヨイショするワケでもなく、どっちの描写もアリだ。初めてX100シリーズに触れるユーザーであっても、従来機を新鮮に感じるだろうし、新型にも「凄い!」と感心することだろう。ユーザーに対して、より間口が広く高性能なのは新型だが、従来機にはX100シリーズが築いてきた妙味のようなものがある。

X100Vの魅力は上記したこと以外にもX-Pro3と同じ画づくり、つまりグレイン・エフェクトに追加された「粒度」やカラークロームブルー、モノクロームカラー、フィルムシミュレーション「クラシックネガ」がある。

今回の試用期間中は、クラシックネガと粒度:大の組み合わせや、ACROSと粒度:大の組み合わせを存分に楽しみ、ほとんどのカットをこのどちらかで撮影していた。

好みの話をすれば、X-Pro3よりもお気に入り度の高いカメラだったし、Hidden LCDの採用は、X100Vにこそ相応しいのでは?と思ったりもした。

従来レンズとこれらの画づくりの組み合わせはどんな世界があるのだろう?と、ふと妄想する瞬間は1度や2度ではなかったので、ひどく個人的な想いを述べるなら、X100VではI型のレンズとII型のレンズを選択できれば良いのに、という気持ちがハッキリとある。というか、“XF23mmF2R Classic”などという銘で交換レンズとして従来レンズが発売されれば、このモヤモヤとした気持ちは全て解決しそうでもある。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。