新製品レビュー
Canon RF24-70mm F2.8 L IS USM
ISの搭載で撮影範囲が拡大した定番の標準ズーム
2020年3月5日 16:00
RF24-70mm F2.8 L IS USMは、キヤノンの35mm判フルサイズミラーレスカメラEOS Rシステム用に2019年9月に登場した標準ズームレンズだ。ほぼ同じ焦点距離のレンズとしては、RF28-70mm F2 L USMとRF24-105mm F4 L IS USMがラインアップしている。本レンズは、RFマウント版の標準ズームレンズとして、これらのちょうど中間に位置づけられるレンズだといえるだろう。
汎用性の高い焦点距離とF値
ズーム全域でF2.8の明るさを利用できる汎用性の高さが魅力のレンズ。同じ焦点距離、F値のレンズにはEFマウントの「EF24-70mm F2.8L II USM」が2012年に発売されている。
RFマウント版では焦点距離とF値こそ同じだが、手ブレ補正機構が搭載された点で異なる。現状、本レンズを使用できるボディであるEOS RおよびEOS RPでは、ボディ内の手ぶれ補正機構が搭載されていないので、既存のEFマウント版をマウントアダプター経由で利用しているユーザーにとっても導入メリットの高いレンズに昇華されているといえるだろう。
もちろん、フレアやゴーストの発生を抑制するというASC(Air Sphere Coating)の採用など、最新設計レンズならではの描写性能への信頼や期待もある。
最短撮影距離も、EFマウント版の0.38mから、RFマウント版では0.21m(24mm時、24mm〜70mm時は0.38m)と、もう一歩寄れる仕様となっている。ISの搭載とともに、より撮影範囲や可能性を拡げてくれる点は、大いに歓迎できる進化点だ。
レンズ構成は非球面レンズ3枚を含む15群21枚。最小絞りはF22で、9枚羽根の円形絞りを採用している。
鏡筒は焦点距離に応じて伸縮する。最大繰り出し量は約25mmだ。
鏡筒にはロックスイッチが設けられている。収納時に不用意に繰り出さないようにワイド端24mmでロックできる仕様。
カメラを水平に構えた状態でのレンズ筐体左側。上段にAF/MFのフォーカス切替スイッチ、下段に手ブレ防止機構(IS)のON/OFF切替スイッチが備わっている。
レンズ筐体はマウント側からレンズ先端に向かって緩やかなカーブを描くようにして太くなる円筒形で、ホールディングしやすい構造だ。最大径×長さは、約88.5×125.7mm。重量は約900g。
レンズフード「EW-88E」を装着した状態。ロック機構つきでしっかりと装着できる。
さらにEOS Rボディーに縦位置での使用にも便利なバッテリーグリップ「BG-E22」を装着した、いわばフル装備の状態。
作例
縦位置カットはポートレート撮影以外では普段はあまり撮らないのだが、1日中カメラを持って被写体を探していると、向こうからやってくることがある(笑)。夕暮れ時のカットだが、画面に強い光が入ってくる状況でもゴーストやフレアの発生が少ない、逆光性能の高いコーティングだと実感する。
舗道の脇に植えられていたかわいい緑色の植物。中央辺りの小さな一葉にフォーカス。前ボケ、後ろボケともに柔らかなグラデーション描写を確認できる。
暗い高架下から明るい交差点までを絞り込んでパンフォーカス撮影。暗部から克明だ。青空に鮮やかな緑のペイントが映える昌平橋。昔はアーチが目立つランドマークだったが、時は流れて今では後ろに聳え立つ高層ビルが主役になっている。
御茶ノ水から秋葉原へと下る線路際の坂道で大きなボルトに合焦させて開放での玉ボケ具合を確認するが口径食が少なく自然な円形。
広角側24mmで暗い室内風景から明るい外光部までを網羅して撮影。高輝度で難しい撮影条件下でも周辺部までもしっかりと解像しているのがわかる描写。
桟の間毎に違うガラスが使われているのが面白い構成。部分的には昔ながらのガラスもあるみたい。暗部においても克明なディティール再現性。
望遠側でこちらも暗い部分から外光で明い部分までの条件でしたが、前後のやさしいボケを含んで優秀な描写だと実感。
大好きなモチーフのひとつ、土手の夕暮れ風景。散歩する人物と犬のシルエットの背景となる残照の色味を協調するためにマイナス露光にして手前の暗部は潰れても上下に二分割してみる。
24mmで絞りをF8にした。シャッタースピードは1/8秒だったが、手ぶれ補正機構(IS)の搭載により、絞り込んでもISO感度を少し上げるだけ(ISO 800)で手持ち撮影が可能となる事を実感。
午後の斜光線の中で煌めく鉄骨構造物のディティール描写が美しい。硬質な人工物であっても時折、生き物のように感じることがある。
スナップショットで咄嗟の撮影タイミングを逃さないためには、ワイドレンズを使用して、かつある程度深い被写界深度が得られるところまで絞り込んでおくという“王道”なアプローチは不可欠でもあるので、広角側が24mmまであるのは、嬉しいポイントである。
東京駅と近代的なビルが密集する丸の内界隈は、新旧の建築デザインが混在する面白い場所である。
ややワイド系の35mmの画角に密集した建造物を閉じ込めてみる。鉄とガラスとコンクリートで構成された都会のビル風景にも、ちょっとした光線の当たり方や影の出来様で物語りを感じる場合もある。
決して信心深いわけじゃないのに、街を歩いていて神社仏閣に出会うと必ずお詣りして写真を撮らせて頂くようになった。これは歳のせいでしょうか(笑)。
昔ながらの裸電球が店先に並んでいたので一番手前に合焦させて、奥には今風のライトも見える「電球祭り」に仕上げてみる(笑)。発光体の玉ボケも自然な表現。
日没後に月が顔を覗かせたので全体像が見えるまで待って撮影。低照度でも使える解像力があるのは流石だ。この近所には高度経済成長期の1960年代まで通称「オバケ煙突」があったことを思い出し、映画や資料映像でしか見たことのない往時に想いを巡らしてみた。
毎月通っている歯医者さんの最寄り駅から秋葉原まで歩く途中で気になっていたニワトリさんの壁画にピントを合わせて樽を前ボケに。自然体のボケ味。
ISの効果が大きく手助けしてくれているのだろう。シャッタースピード1/2秒でも、24mmを手持ちでブラさずに撮影できるのはのはありがたい。
停泊している船の横にあったドラム缶にフォーカスしようとカメラを覗いた瞬間。2羽のカモメがやってきて場所取り争いを始めてしまったのでちょっとブレてしまったけど彼らが主役になった(笑)。
撮影時期は2月の半ばほど。すぐそこまで春が来ているが、遅い午後の日射しはまだまだ鋭い。マイナス側へ切り詰めた露出でもシャドー部の中にトーンが残る感じがとっても好きだ。
まとめ
キヤノンRFマウントの標準ズームレンズは、先に発売されていた2本(RF28-70mm F2 L USMとRF24-105mm F4 L IS USM)があるが、本レンズはF2.8と、両レンズの中間に位置する開放F値を採用しており、同じく開放F値F2.8のRF15-35mm F2.8 L IS USMおよびRF70-200mm F2.8 L IS USMとならんで、いわゆる大三元ズームレンズを構成するレンズの内の1本だ。焦点距離も開放絞り値も王道中の王道とも言える、いわばフラッグシップズームレンズである。
最も汎用性の高い焦点距離ともいえる、広角24mmから中望遠70mmを押さえており、日常的な撮影においては、ほとんどのケースで人の目が自然に感じられる画角を包括している。
82mmのフィルター径で全長125.7mm、重量900gと、本体スペックだけを見ると“重量級のレンズ”といった印象が強いのだが、実際にボディに装着してみると、持ち歩きや撮影時のホールディング感覚では大きさや重量をあまり感じることがなく、ストレスになるようなことはなかった。誇張や贔屓目などではなく、使用してみての素直な感想だ。
今回は1/2秒という、超スローシャッターでの手持ち撮影も試みているが、それはIS(手ブレ防止機構)搭載の効果だけではなく、重量配分などのバランス、つまり数的なスペックだけではない人間工学的なことも関係しているのだろう。
今回の作例は主にスナップショットだったが、人物撮影もしてみた感じではポートレート撮影などで縦位置を多用するような場合にはバッテリーグリップ「BG-E22」を併用する方が、俄然安定度が増すことは間違いない。
数値的なモノでは測れないので、あくまでも筆者個人の感覚的な印象であるが、喜ばしいことに往年のEF時代のレンズと比較して耐逆光性能なども、かなりの改善が施されているように感じられる。
今回は大三元の中核である標準ズームであったが、残る2本のレンズも併せて使用してみたいと思わせてくれた。
フルサイズ・ミラーレスではライバル他社より出遅れた感が強かったキヤノンだが、欠けていたパズルを埋めながら、いっぽうでユニークな焦点距離のズームレンズを開発・発売するなど、ここへきて次々とキヤノンRFマウントレンズを拡大しつつある。今後のラインアップにも注目していきたい。