新製品レビュー
FUJIFILM X100V(前編:外観・実写)
新レンズの描写と刷新されたボディの使用感を検証
2020年2月26日 15:00
Xシリーズの始祖でもあるX100シリーズ。2011年3月の登場から9年の時を経て、5世代目となるX100Vが登場した。栄枯盛衰の移ろいが早いデジタル機器にあって、“単焦点レンズ固定式のデジタルカメラ”というエンスージアズムなモデルが5世代も続いたという事実は、それだけファンを熱狂に包み、心をしっかりと掴んだということの裏返しだろう。”便利で高性能なだけが最適解ではない”というのは、趣味や嗜好の世界では当たり前に思われるかも知れないが、そこでビジネスしようと思うと大きな覚悟が要ることは想像に難くない。
撮像センサーと映像エンジンをX100Fから刷新。X-Pro3やX-T3等に搭載されている最新世代のX-TransCMOS 4と画像処理エンジンX-Processor 4を組み合わせ、センサー側の解像性能向上に併せてレンズも一新。レンズは従来機と同一スペックながら新設計のものが採用されている。
背面モニターがチルト化されたことは、趣味の「深み」の世界では必ずしも歓迎される訳ではないが、個人的には好印象。と、簡単に主要な変更点を挙げただけでも今まで以上に大掛かりな変更が施されていることが分かる。
今回は前・後編の2回にわけてX100Vのレビューをお伝えする。前編となる今回は、外観や操作性の簡単なチェックとスナップ撮影による実写でのレビューについてお伝えしていく。次回(後編)では、従来機X100Fとの違いについて、比較や使い分けを中心にお伝えする予定だ。
外観と操作性
パッと見でX100シリーズと分かるデザインが踏襲されていて安心感がある。観察してみるとボディの質感は従来機より高まっていて、角部がより鋭角に仕上がっていてシャープな印象を強めている。遠まきにはハッキリと違いが分からない部分なのに、それでも佇まいが上品、というか少し高級に感じられるからデザインや仕上げが与える影響力とは面白い。
X100シリーズの象徴でもあるOVFとEVFが切り替え可能なハイブリッドビューファインダーの配置はいつもの位置にある。違いは接眼光学系とEVFパネルが刷新されたことだ。
切り替えは、X-Pro3と同じようにEVF時にマスクがせり上がる仕組み。X-Pro3のレビュー時にも言及したことだけれど、ひと目で「EVFモードだ!」と分かるのが言葉にならない感情を呼び寄せる。倍率や視野率などのスペックもX-Pro3と同等になった。
フィルター装着によって防塵防滴仕様へとスペックアップするのが興味深いが、今回は機材の都合でフィルターは無し。ボディ上面は、ファインダー側にあった勾配がなくなりフラットに。
ボディ背面は、X-Pro3などと同様に背面からの十字ボタンがなくなり、シンプルで美しいイメージを手に入れている。物理ボタンが少なくなった分、背面モニターはタッチ操作(タッチファンクション)に対応。これにより失われたボタンの割当を埋め合わせることができるが、個人的には撮影機能は物理ボタンの方が嬉しい。というのも、左手でタッチファンクション操作するとアイセンサーが反応してしまうのだ。慣れるまでの辛抱かもしれないけれど、もう少し操作系デザインと制御を洗練させて欲しい。
背面右側に稜線が描かれたことで親指の指掛かりが向上したことは歓迎したい点だ。本音を言えばゴムシボの素材がまだ滑りやすいので、もうひと工夫欲しいところだけれど、そうしてしまうと野暮ったくなりそうでもあるし、バッグへの収納性を考えると、このあたりが落とし所なのかもしれない。グリップ時にストラップを併用する人にはあまり関係ないかもしれないが、片手で直にグリップして撮るシーンでは新旧で安心感に大きな違いがある。
チルト可能になった背面モニターは、下方向への操作がX-H1やX-T3などと比べると少し操作しづらい。チルト式モニターの採用はハードコアなファンには賛否あるように思うが、筆者的には諸手を挙げて歓迎したい部分。
細部を観察してみると、前後ダイヤルのローレットパターンが変わり、操作感が良くなった。特に前ダイヤルの押下感が良くなっているし、後ダイヤルは台形になり操作感が大いに良くなった。
露出補正ダイヤルの操作トルクは若干軽くなったものの、節度があり好印象。上質な操作感で嬉しい改善だ。一方でシャッターダイヤルは操作感が「重い」ではなく「硬い」になった。誤操作を防ぐ為だろうか? 積極的に操作しようと思うと少し気になる部分だ。
電源スイッチもON→OFF操作がしやすくなっている。コマメに電源をOFFする人には嬉しい改善点。というか、X100Fの電源スイッチはOFFにすることがあまり考慮されていないようにも感じる。
絞りリングは個体差かベータ機の為か、操作時に若干のスレ感があった。製品版ではどうだろうか?
どうでも良いことかも知れないが、レンズキャップは似ているようで別物。X100Vに従来機のものを嵌めようにも、径が合わず乗っかるだけで装着は不可だった。併用したい人は要注意だ。
USB Type-C経由でバッテリーの充電が可能となっている。また、省エネ性能が向上したことで撮影可能枚数は約350枚(X100Fは約270枚)へとアップしている。
機能
[1]AFの良し悪し
「おお!」と感心したのと「うーん……」が同居している印象なのが、AFだ。
AFの枠を小さくして画面奥のパイロンにAFを重ねてみたところ、ガチピンだった。撮影時は「多分狙い通りにはピントが来ない」と正直に言えば思っていたのだけれど、良い意味で期待を裏切る結果に。最短撮影距離について触れた作例でもAF-Cについて軽くお伝えしているが、AF-Cの追従性も大きく向上している。
進化したAFに好印象を抱く一方で、こうしたフラットで繰り返しパターン成分の多いシーンは相変わらず苦手なようだ。これはこれで雰囲気が良いけれど、トタニスト(トタンや波板好き)は慎重に撮影するか、念のため保険で複数枚撮影しておく必要がありそう。
[2]明瞭度の比較
明瞭度の効果をデフォルト(ゼロ)と+5、-5で試してみた。フィルムシミュレーションはProvia(Std)だ。
デフォルトでもかなりメリハリというかキレの良い描写。効果最大となる+5でもやりすぎ感が少なくリンギングが生じるなどの破綻している部分がない。が、流石にかなり硬調だ。
気になったのは明瞭度設定をデフォルトの0以外に設定すると、単写での書き込み時に1.5秒程度の「待ち」が発生すること。ドライブモードを連写(CH/CL)にすれば回避できるが……。以下の作例はいずれも絞り優先モードで、絞りをF2.0にしている。シャッタースピードは1/320秒、露出補正はなしで、ISO感度はISO 160としている。
作例
まず試してみたのが描写のチェックだ。球面収差による柔らかな描写を特徴としていた、従来機ユーザーであればお馴染みでもあるX100シリーズならではの描写だが、5世代目の進化したレンズで、それがどう変わったのかを見た。
最短撮影距離付近で、絞りを開放のF2にした時の描写は、僅かに柔らかさを感じさせるものとなっている。23mm(35mm判換算35mm相当の画角となる)F2のレンズとは思えないほど豊かなボケになる。
絞りをF3.6に少し絞ってみると、驚くほどシャープになる。クラシカルな従来機の描写も個人的には大好きだが、最短撮影距離付近での撮影では、多少の工夫や心づもりが必要だった。
筆者のように、そこに「使いこなし甲斐」という面白さを見出す人には良いだろうけれど、それでも本機のパリッとした描写を目の当たりにすると、心が揺さぶられるものがある。X100Vの最短撮影距離はスペック上10cmとなっているが、これを手軽にいかす事ができるのは爽快感がある。下のカットは風に揺れるシーンだったが、AF-Cの追従が良く撮影は快適だった。
撮影距離70cm程度で、絞りF2.8という条件で撮影してみたが、画面の隅々まで均質でハイレベルな描写であることがわかる。「味」という意味では薄味になり若干の寂しさはあるけれど、立体感や質感描写が優れていて好印象。兎に角気持ちの良い端正な写りだ。
中景シーンでのキレはこんな具合。開放にしたつもりだったが少しズレていたようでF2.2に。70cmのモノクロシーンの時にも感じたことだが、Xマウント用の交換レンズ「XF23mmF2 R WR」よりもずっと好きな描写。最新レンズらしさがあるけれど、優等生過ぎて無味乾燥というワケでもない感じ。
被写体との距離が2m程度で、絞り値をF4にすると、ご覧の通りの描写となる。新レンズが得意とする撮影距離に感じる。平面的な被写体でもベタッとせず立体的に再現できている。
光源を直接入れこむような構図でも逆光耐性は基本的に十分。少しだけフレアが出ているが、個人的な好みを言えばもう一声、フレアが出て欲しいくらいだ。あまりクリアに写るのも、カメラ自体のデザインから受ける印象とマッチせず興醒めだろうから、丁度良い“躾”だろう。
ちなみにだが、このカットでは内蔵のNDフィルターは適用していない。NDフィルターを適用するとフレアの程度が増える。これについては次回に。
今回の実写でワーストはこのカット。ハレ切り出来ない角度に光源を配置する構図で意図的に撮影したもの。かなり意地悪にやってもこの程度だし、フレア・ゴーストが出ていると写真らしい印象があり個人的には微笑ましく思うが、どうだろうか?
少しクラシカルな味が出るし、フィルムシミュレーション「クラシックネガ」などと組み合わせればアナログテイストになり、まるで銀塩カメラに当時の高性能レンズを組み合わせたような雰囲気の写真になる。
周辺部にフリンジの出やすいシーンで、フリンジが出やすいように少し奥目にピントを合わせて撮影してみたが、かなり優秀な結果に。従来機との違いを実感する部分のひとつ。
点光源のボケ方についても確認してみた。ご覧の通り、ワリと素直。ワイドレンズとしては上々だろう。
ザワザワしやすい背景を選んでみたが、こちらも悪くない。
X-Pro3の時にすっかりハマってしまったのが、グレイン・エフェクト強度:小+粒度:大の組み合わせ。これが楽しめるだけでもX100Vに魅力を感じてしまっている、というのは嘘偽りのない気持ちだ。フィルムシミュレーション「ACROS」と組み合わせても良いし、同「クラシックネガ」と組み合わせると「あれ? フィルム??」という再現になり、自己満足度がかなり高くなる。
アウトフォーカス部の粒状感がタマラナイ。粒度があることで見た目のシャープネスは若干損なわれるが、それがなんだか良いのだ。
水色(すいしょく)の表現が筆者のお気に入り。X100FやX-T2世代のカメラと比べて、良いように思う。
くすんだ色の表現が上手い。
最短撮影距離10cmがとても楽しい。いわゆる“コンデジ”だけに許された画質と撮影自由度のバランスがある。
エッジのキレが良いので、建築などのシーンではよりダイナミックに写るように思う。
落ち葉などの描写はとても気持ち良い。GRシリーズよりも湿度を感じさせる再現性に感じた。
前編まとめ
X100Vを使ってみて、今まで以上に撮影が快適だと感じられたことと描写の刷新、バッテリーの持ちが良くなったこと、以上3つの驚きがあった。
ひとつめに挙げた「快適性」については、グリップ・AF・操作性の3種類の性能がもたらす撮影時の快適性を指している。
これがグッと向上した。いずれも前述しているが、特にAF性能の進化は撮影時の快適性に大きく貢献している。例えば迷いやハズレがグッと減っていて撮影リズムを害されないので集中が途切れない。細かい事を言えばAF駆動時の音質も低音方向にシフトして耳障りじゃなくなっていることも地味だけど良かった。
グリップの違いや操作性の違いついては、従来機のX100Fも同時に持ち出していたこともあって、違いを実感しやすかったということの影響が大きいように思う。仮に従来機を知らなくても見た目から想像するよりもずっと普通な感じで撮影でき、特別な儀式や技術を必要としないフレンドリーさと外観から受ける印象を裏切る高性能に驚くハズだ。
スペックや光学系が進化したファインダーについては、たしかに覗きやすさや覗き心地は良くなっていて、精細感や特にカラー表示の再現性が良くなったことが素晴らしい。が、モノクロ表示時は青みが強く、背面モニター表示や撮影画像との乖離が大きくなるのはややマイナスポイント。それよりもチルト式モニターの利便性に対する印象が強く、結果的にVFの印象は記憶にあまり残らず、操作性には加味しなかった。積極的にMFする人にはまた違った印象があるかも知れない。
ふたつめは、レンズの刷新とX-Pro3と同じフィルムシミュレーションを得たこと。欲を言えば発表されたばかりのX-T4と同じ「エテルナ・ブリーチバイパス」についても搭載して欲しかったという気持ちは否めないが、グレインエフェクト:粒度とクラシックネガが搭載されていることは、とても素敵だ。
レンズについては、とにかくクリアでパリッとしたモダンな描写。かと言って性能一直線というワケでもないようで、質感描写が良いので「ドライ」という印象でもない。もちろんフィルムシミュレーションや明瞭度などの各種設定を調整すれば、ドライな表現もできそうなので、絶妙なバランスだと思った次第。従来機の描写のファンには賛否あるかも知れない。
コンパクトと言って良いのか微妙だけど、シグマDP / dpシリーズのコンパクトデジタルカメラや、リコーGRシリーズ(こちらはコンパクト)などの“パリッとしたモダンな写り勢”に対して、X100シリーズについても多少のモダナイズが必要だと感じたのだろうと邪推してしまうが、真実はどうだろう?
3つめはバッテリーの持ち。背面モニターとEVFとOVF(右下に小窓あり)をおおよそ5:3:2の割合で、特に省エネに配慮せず単写のみというやり方で何日か撮影してみたが、400ショットは問題なくクリアできそうだった。
控えめに見積もってもX100Fより15%程度以上はバッテリーの消費は改善されている様子。散歩程度でも予備バッテリーをひとつポケットに忍ばせるかどうか、X100Fでは迷うことがあるが、X100Vなら「ま、いっか」と、これだけを手に身軽な状態でお出かけする機会が増えそうだ。
後編ではX100Fとの比較撮影を交えた印象を紹介したい。