新製品レビュー
FUJIFILM X-Pro3(実写編)
X-Pro2ユーザーが新機能を徹底検証
2019年11月27日 07:00
一眼レフスタイルのX-T3などと同じ撮像素子と画像処理エンジンを組み合わせたほか、アルゴリズムの改良によって、クラシカルな外観にも関わらずXシリーズで最もAF性能の凄い奴に名乗りを上げた「FUJIFILM X-Pro3」。
新しいフィルムシミュレーションの追加やグレイン・エフェクトに追加されたパラメータ「粒度」などによる表現力のさらなる強化、チタン外装や刷新したアドバンスドハイブリッドビューファインダーなどから感じられる開発陣の想いなど、妥協の少ないカメラだというファーストインプレッションは外観・機能編でもお伝えしたとおり。
その一方でX-Pro3のアイデンティティのひとつでもある、背面モニターが見えない状態が基本となる「Hidden LCD」という仕様は、実用性よりも趣味性を高めていることが想像に難くない。
ここで生じるのが「X-Pro3の"Pro"ってどんな意味なの?」という疑問だ。
Proという響きには、プロの使う道具として実用性と効率化を追求しているのだというメーカー側の自負や、プロが使うのだからあらゆる事態に対応できるのだろうというユーザー側の期待があると思う。
例えばX-Pro2は、X-Trans CMOS 3とX-Processor Proの組み合わせに、ジョイスティックタイプのAFセレクターを持つ初めてのXシリーズ機、つまりXシリーズで最先端を行くカメラであったので「なるほど、これはPro機なのだ」という納得があった。初代についてもレンズ交換式となるXシリーズの初号機として気合いの入ったカメラであることが感じられ、Xシリーズの将来に対する期待もうまれたので、やはりProを冠することに疑問はあまりなかった。
X-Pro3も確かに「具」の部分といえる撮像素子と画像処理エンジンはX-T3やX-T30と同等の最新世代「X-Trans CMOS 4」と「X-Processor 4」に刷新されているので、撮影性能はX-T3などと同等以上の高いポテンシャルがあり、チタン外装やマグネシウム合金製のボディなどタフネス性に申し分ないところなどを評価すれば「Pro」を冠するのは相応しいと感じる。けれど、「Hidden LCD」には効率化の文字が見当たらない。
強いて言えば、物理的に「除去した」のではなく「隠匿した」ところに、若干の良心の呵責というか、帳尻合わせのようなものを感じるけれど。
でも一般的にプロの道具といえば実用性と効率化を追求したものであるハズだ。実写してみてその疑問が解消されるのか?試してみたい。
新しい表現について
グレイン・エフェクト 新パラメーター「粒度」
X-Pro2で初めて搭載されたグレイン・エフェクト。簡単に言えば高感度ノイズのような「粒状」を画像に加味する機能だ。粒状って何?というのは当然の疑問だと思うので説明したい。
まずはフィルムの話から。フィルムには感光剤として塩化銀などのハロゲン化銀が塗布されていて、このハロゲン化銀に光が当たることで分解され、銀が生成される。光が強く当たったところは銀の生成が進んで黒く見え、光のあまり当たってないところは銀が少なく白く素抜けて見える。現像処理などの後工程については説明を省くけれど、こうして得られた画像は明暗の反転したネガ像になる。ネガフィルムの「ネガ」はここが語源だ。ネガ像をこれを同じくハロゲン化銀を塗布した印画紙に投影するとポジ、つまり明暗が反転していない画像になる。
粒状は高感度のフィルムを使用したり、高温で現像するなどして銀粒子がカタマリになった状態や、引き伸ばしで拡大してプリントした際などにツブツブとして確認できるもの。デジタルでは「ノイズ」と言えば想像しやすいだろう。
このノイズ成分は画質のスムースネスという観点ではマイナスだけれど、あまりにスムース過ぎる階調というのもまた問題がある。スムース過ぎる階調を眼にした場合、人間の視覚は正しく認識できず、トーンジャンプした状態に見えてしまうのだ。この点を補うのがノイズ成分で、少し荒れた状態のほうがトーンの連続性を補完してくれるという現象がある。
また粒子感は"荒々しさ"といった表現に用いることもできる。「アバタもエクボ」という言葉がある通り、使い方によって写真をより印象的に仕上げられる。
富士フイルムのグレイン・エフェクトはフィルムの粒状感を画像毎にシミュレートしていて、単純にノイズを重ねているだけではないというこだわり派だ。この感じが好みだったので、筆者はX-Pro2の登場以後からグレイン・エフェクトを適用した状態で使い続けている。
そのグレイン・エフェクトに、X-Pro3ではついに新たなパラメータが追加された。作例ではフィルムシミュレーション「ACROS」で撮影したカットに対し、ボディ内RAW現像でグレイン・エフェクトのパラメーターを変化させている。
共通データ:XF35mmF2R WR 1/4,000秒 F3.6 ISO 320 AWB DR200% フィルムシミュレーション:ACROS+R H-Tn:+2 S-Tn:+2
結論から言えば、粒度が小の場合は今までのグレイン・エフェクトと同等もしくは同程度のシャープな粒状性となっている。粒度を大にすると、まるで銀塩フィルムのような粒状がシミュレートされていて筆者は思わずディスプレイに向かって身を乗り出してしまった。
前述の通り、Xシリーズのグレイン・エフェクトは他社のように単純にそれっぽいノイズを乗せたり、ランダム生成したノイズをオーバーレイしている訳ではなく、以前から(X-Pro2以降)フィルムの粒状性に近づけるべく大掛かりな粒状性の演算を毎回しているので、例えばシャドーがノイズで浮いたりするような無粋な振る舞いをしないのだけれど、X-Pro3ではさらにその表現が深まっている。
比較してみると、粒度「小」はデジタル感のあるシャープな粒状性で階調の連続性を補うのに貢献しており、粒度「大」ではさらにフィルムライクな表現を手に入れている。
観察してみると粒度「大」では粒状性によってエッジのシャープネスが若干下がっているように見える。また、大きくコントラストが変化している境目の部分のシャープネスにはあまり変化がないように見える。実際にフィルムでもコントラスト変化の大きなところは「エッジ効果」と言ってハイライトとシャドーで現像の進行具合に差が生じてエッジ部が強調され、見かけ上シャープに見えることが知られている。ひょっとするとこのパラメーターには、そういった要素をシミュレートするための閾値があるのかもしれない。
黒白のカットは、拡大するとデジタル感が希薄で「え?フィルム?」とさえ思わせる再現性。カラーのカットについても粒度が効いていて、色味以外はフィルム味だ。Photoshopのプラグインでフィルムの粒状をオーバーレイするものも発売されていて、そちらではたくさんの種類が用意されているけれど、それと比べてもX-Pro3の表現は魅力的に見える。
ローキーに撮影すれば、このように墨っぽい表現もできる。さらにモノクロ調整から進化した「モノクロームカラー」のパラメーターもあるので、コダワリ派の人であれば自分だけの再現性を手に入れるための研究時間を捻出することになるだろう。
新フィルムシミュレーション:クラシックネガ
新しいフィルムシミュレーションとして追加されたのが「クラシックネガ」だ。富士フイルムのメインとなるカラーネガ「フジカラーSUPERIA100」を再現しているようで、やや硬調で低彩度とのこと。
共通設定:AWB DR100% フィルムシミュレーション:クラシックネガ カラークロームエフェクト:強 カラークロームブルー:強
どことなく懐かしい色合いというか、記憶の中にあるカラーネガによるプリントのような再現性でノスタルジーを誘う。更に描写の異なるレンズを使うか、MFでの微妙なピント深度の使い方をマスターすれば、深い表現が可能になるのかもしれない。また、WBをデーライトや電球に固定し、グレイン・エフェクトや彩度を微調整するなどして、まるでフィルムカメラのようにX-Pro3を使うというのも面白そうだ。
余計な話なのだけれど、筆者は残念ながらスーペリア100を意図的に使った記憶がなく、よく使用していたISO 100のカラーネガといえば、フジの業務用カラーフィルムISO100かアグファのULTRA100程度。それも10年以上前の話なので、もっとネガカラーに精通した人であれば筆者のレビューとは違う見解があるに違いない。
カラークロームブルー
X-T3やGFXシリーズで既に実装されているカラークロームエフェクトの派生版として、青い被写体のコントラストを調整して青の濃度を高める機能であるカラークロームブルーが追加された。ちなみにカラークロームエフェクトは赤・黄色・新緑のような緑色をターゲットにしているという。
分かりやすく空を撮影してみたが、ご覧の通りカラークロームブルーを適用すると青空のコントラストと青の濃度深まっている。青だけに適用されるのでC-PLフィルターのように青空のコントラストを上げたいけれど、他の部分への影響は避けたいというようなシーンや、青色成分を持つ被写体でより印象的に仕上げたい場合などに使い勝手が良さそうだ。
共通データ:XF16mmF1.4R LM WR 1/480秒 F5.6 ISO 160 AWB DR100% フィルムシミュレーション:STD(PROVIA)
HDR
いわゆるアートフィルター系のHDRとは異なり、言葉通りのハイダイナミックレンジが得られる機能。記録モードがJPEG+RAW時はコマ速が4コマ/秒程度の連写速度だが、JPEG記録のみであれば8コマ/秒程度の高速連写で3ショットされ、画像が生成される。
興味深いのは手持ちでも殆どのシーンで問題がなかったこと。ズレ分を許容するためか、HDRモードでは画角は若干狭くなる。
DR100とDR400%、HDR200〜800%、最も効果の大きなHDR-PLUSで比較したので見ていただきたい。
フィルムシミュレーションSTDとの組み合わせではどのモードでも著しく画像調整したような印象は無く、HDRでは200〜800%ではハイライトの階調性が徐々に良くなっている。HDR-PLUSではシャドー側の階調が大きく持ち上がっているけれど、肉眼に近い再現性で自然と感じる範疇には収まっている。
共通データ:XF10-24mmF4R OIS WR フィルムシミュレーション:STD(PROVIA)
ちなみに試しにACROSでもDR100%とHDR-PLUSで比較撮影してみたところ、HDR-PLUSではまるでゾーンシステムを適用したプリントのような仕上がりになった。
共通データ:XF35mmF2R WR フィルムシミュレーション:ACROS
実用性
AF
実写してみて最も感心したのはAFの快適さ。夜間に樹木を撮影しても苦もなくAFできたので驚かされた。あまりにもスムースに撮影できたので、撮影後に「あれ?何で今のシーンでAF合焦できたのだろう?」とふと疑問に思って、初めてその実力の高さに気付かされた次第だ。
またAF精度そのものも向上しているように感じる。野草などの小さなものに対して繰り返しAFしてみたが安定して高い精度でAFできていた。X-Pro2のピント精度に大きな不満があったわけではないけれど「念のため」と思って撮影していた余分なコマが実写2日目からはグッと減った。
ガラス越しの被写体についても迷うシーンが減り、殆どのシーンで1発でスッと合焦でき、快適だった。
バッテリーの消費
バッテリーの消費についても参考までに紹介したい。EVFのみで100%からLowBattまで、連写をせずこまめに電源をOFFしながらスナップ撮影した際の撮影枚数は310コマ。背面モニターのみでは392コマ。OVFとEVFを半々の割合で撮影した場合では356コマだった。連写を多用するなら500ショット程度は撮影できそうだけれど、単写でのスナップ撮影なら300コマを目安にすると良さそうだ。
筆者の使い方ではX-Pro2もその程度かもう少し悪いくらいなので、少なくとも同等以上。体感ではちょっと省エネになっているように感じた。
まとめ&実写
X-Pro2ユーザーの筆者がX-Pro3を使ってみて、デバイス面ではAFの進化とEVFの表示クオリティが著しく改善されたことはとても快適に感じ、より一層撮影が楽しくなった。やはりAFが快適だと撮影時のイライラは非常に少なくて済む。またEVFの改善はMF時の快適性にもてきめんに効いている。このEVFであれば、MFを駆使した撮影を普段から楽しみたくなると思わせるデキだ。
Hidden LCDは「ここぞ!」というシーンで精密に撮影したい場合にはちょっと不便に思うことが何度かあった。だけど、「曖昧だって良いじゃないか」と肩の力を抜いてみると、周囲の流れを阻害せずにパッと撮影できることが、ことのほか快適に感じられた。「撮影」という行為によって、場合によってはどれだけ自分が周囲を隔絶していたのか?と改めて客観的に認識することができた。これはポジティブに言えば「画面や撮影への集中」であるけれど、ネガティブな見方をすれば「自分勝手な振る舞い」とも受け取れる。
「便利さ」とは時にワガママさを増長するのかもしれない。足の運びを制限することで所作に奥ゆかしさを持たせる和服のように、撮影の所作を教えてくれるカメラとして、メーカー側の美意識のようなものを感じることができるけれど、ここに共感できるかどうかがX-Pro3の評価を分けそうだ。
最後までよく分からなかったのは、機種名に冠されている「Pro」について。外観・機能編で「X-T3のセンサーとエンジン、タッチパネル化したLCDを持つX-Pro2の正常進化版を待っていたという人も多いのではないだろうか」と述べたが、仮に本機がそのような正常進化版として登場していたのなら「Pro」の名称に疑問を感じなかっただろう。
やはり実用の道具として本機を使うなら正直に不便なので「Pro」の名称は形骸化していると感じるし、「これはX-Proシリーズの”終わりの始まり”なのだ」と斜に構えてしまう自分がいた。まぁProの概念については色々あると思うので、明日になればまた違う意見が芽生えているかも知れないけれど。
X-Pro3とX-Pro2を交互に使い比べてみても、背面モニターの"見える"X-Pro2にホッとするシーンが何度もあったし、倍率の変えられるOVFにも「やっぱり良いな」と感じるシーンがあり、X-Pro3が登場してもX-Pro2に「enough」ではなく「Nice」と感じられるのはユーザーとして嬉しいところ。もちろん厳密には性能的に敵わないところがあるし、一度カメラに慣れてしまえばX-Pro3ばかり手にしていたことは否定しないけれど、それでもX-Pro2を「良いじゃん、良いじゃん!」と感じられたことは、相次ぐ新製品に触れ、従来機の陳腐化を頻繁に感じる機会の多い筆者にとっては新鮮な体験だった。唯一無二の製品とはこういうものを指すのだろう。
富士フイルムの良いところは、APS-Cであることのメリットを最大限に活かし、体力的にもお財布的にも撮影が楽しいと感じられる範囲にカメラとレンズの価格が収まっているところ。人は「良い」と「欲しい」が別物だし、さらに実際に手が届くかどうかという現実的な問題も絡まってくるものだ。富士フイルムのカメラのように、手が届くところに「欲しい」ものが用意されていることを嬉しく思う……んだけど、何年か使ってみるとボディもレンズも「使い込んだ」という感じではなく、ちょっと「草臥れた」感じになってしまうのは気になるところだ。