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「要素を割り切らずに小型化してこそ、ソニーが存在する価値」

APS-Cミラーレス新機種投入について聞く

ソニーは8月29日、APS-Cミラーレスカメラ「α6600」「α6100」およびAPS-C用の交換レンズ「E 16-55mm F2.8 G」「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」を発表。フルサイズミラーレス市場を牽引する同社が改めてAPS-Cシステムへの意気込みを伝える内容となった。本稿では、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社の田中健二氏に詳しい話を聞いた。

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 デジタルイメージング本部 第1ビジネスユニット シニアゼネラルマネジャーの田中健二氏

APS-C機の市場動向

α6600

——今回、改めてAPS-C機をアピールした理由は何だったのでしょうか?

近ごろ海外市場で「ソニーはAPS-Cに興味がないのでは?」と言われていました。フルサイズ機に比べて、APS-C機の新機種は登場頻度が低いためです。そうした声に対して、「APS-Cならではの機動力で撮れるものがある」といったメリットなども踏まえ、ソニーはAPS-Cの領域を決して諦めていないということを明確にしたかったのです。

APS-Cは決して"フルサイズ機のサブ"ではなく、上下関係がない横並びの存在であると位置づけています。実際のユーザー数は、フルサイズ機よりAPS-C機のほうが多いです。

——α6600をAPS-C機のフラッグシップと位置づけたポイントはどこでしょう?

"フラッグシップ"という言葉からイメージするものは、人によって違ってきます。特にソニー製品のユーザーに多い思考かと思いますが、テクノロジーを大事に考える方には、より新しいデバイスを搭載した機種を使ってほしいと考えています。

α6500のユーザー動向をみると、静止画よりも動画記録に使われる方が多くいました。そのため、α6600はマイク端子に加えて新たにヘッドホン端子も用意しています。

α6600のインターフェース

静止画撮影はファインダーを覗き、動画撮影では背面モニターを見るといったように、静止画と動画では撮影時の集中の仕方が異なります。しかし、それぞれを同じカメラで撮りたいというニーズは多くあります。

地域ごとに見ると、アメリカや中国では動画撮影の需要が高いですが、それに比べると日本では静止画と動画のハイブリッドでカメラを活用される方は少ないです。

——動画市場においてαの動画機能が目指しているのは、どのような用途でしょうか? 例えば、冷却ファンを内蔵して記録時間無制限に取り組んだメーカーもあります。

とにかく多くの方に動画機能を使ってもらいたいと考えています。ファンを内蔵するというやり方もありますが、より多くの本体内スペースや電力が必要です。「小型」を美徳とするソニーのαとしては、それより操作性や機動力を重視しています。

しかしこれは妥協ではなく、その機種に求められている動画性能を実現するための判断です。ヘッドホン端子が欲しいという声に応えたり、小型ボディでもより長時間の撮影を可能とするZバッテリー(α9等で採用される大容量なもの)を採用するなど、小型化へのこだわりがあります。

α6600は使用バッテリーをNP-FZ100に変更。これに伴いグリップ部分が前方に長くなったため、ホールディング性の向上も謳う。

——カメラの本体サイズを大きくすることで操作性が高まる部分もあると思いますが、フルサイズ機であっても小型へのこだわりは同様ですか?

はい。大きくすればするほど、ソニーでなくても作れるカメラになると思っています。ソニーが存在する価値は、いろいろな要素を割り切らずに小型化して、最高レベルのものを実現するということです。これがソニーのありようなので、フルサイズ機であっても何であっても、小型であることは捨てません。

——最近のソニー製カメラでは「色再現性の向上」が謳われています。具体的にどのような変更なのでしょうか?

イメージセンサーのカラーフィルターや信号処理など、様々なノウハウが絡み合っている部分ですので、具体的には公表していません。

交換レンズについて

——これまで"One Mount"と聞くと、「一眼レフ用のAマウントはどこへ?」と思っていたのですが、Eマウントの多様性を表現した言葉だったのですね。

そうです。コンシューマー向けの民生用デジタルカメラと、「VENICE」のようなプロユースのシネマカメラが同じレンズマウントで繋がっているのは、Eマウントならではの特徴です。αレンズの描写を映像表現として取り入れたい場合も、マウントアダプター不要でシネマカメラに使えます。

——APS-C用レンズに求められる要件は、どのようなものですか?

望遠レンズについて、以前から要望がありました。しかし、それは必ず小型で、AFも静かであることが求められており、今回ようやく状況が整いました。それがE 70-350mm F4.5-6.3 G OSSです。

右がE 70-350mm F4.5-6.3 G OSS。左は同社APS-C用レンズで初のF2.8標準ズーム「E 16-55mm F2.8 G」。

Eマウントは"One Mount戦略"ですから、APS-Cカメラにフルサイズ用の小型レンズを組み合わせるという選択肢もあります。そのため、それでも満たしきれない部分をAPS-C用のレンズとして企画します。もちろん、作るからにはパフォーマンスを落とさないことを大事にしています。

——フルサイズとAPS-Cに上下関係がないということは、APS-C用のG Masterレンズが登場する可能性もありますか?

はい、あります。

——同じ鑑賞サイズに写真を出力した場合、フォーマットの小さなAPS-Cのほうが拡大率が高くなります。これに併せてAPS-Cレンズの性能基準を変えていたりはしますか?

いえ、フルサイズとAPS-Cは同じ基準で開発しています。

——今回のAPS-C新製品について、期待を聞かせてください。

APS-Cミラーレスが楽しいということを多くの方に知ってほしいです。多くの方に興味を持っていただき、楽しんでいただくことが、より新しいカメラの価値を生むと思います。「まず触ってほしい」というのが、私の切なる思いです。

新製品の発売に先駆け、ユーザーイベントを開催。ソニーストアで8月31日から先行展示を順次行っている。

本誌:鈴木誠