インタビュー

キヤノンのハンディー超望遠レンズ「RF600mm/800mm F11 IS STM」誕生ストーリー

担当者が語る、美しき割り切りに込められた思いと工夫

キヤノンがミラーレスカメラ「EOS R5」と同じく7月30日に発売した交換レンズ「RF600mm F11 IS STM」「RF800mm F11 IS STM」に関するインタビューをお届けする。

どちらも10万円前後・1kg前後という超望遠レンズらしからぬパッケージングが話題となった製品。一貫した小型軽量と低価格の追求について、誕生までの工夫や苦労を聞いた。

左からICB事業統括部門 主幹 レンズ商品企画担当の家塚賢吾氏
ICB光学統括部門 ICB光学開発センター 主任研究員 メカ・設計担当の井上勝啓氏
総合デザインセンター デザイン担当の稲積めぐみ氏

商品企画の背景について

——発売後の反響はいかがですか?

家塚: 野鳥撮影を行うプロの方から、軽くて手頃な点でユーザーに勧められる製品であるとの声をいただいています。主にスナップを撮影するプロの方からは、600mmという超望遠でスナップを撮れたのが面白かったとの声がありました。

スポーツ撮影の多くのプロの方からは「RFマウントの本格的な大口径超望遠レンズを待っている」との声が引き続き多くありますが、モータースポーツ撮影のプロの方で、この600mm/800mm F11で撮ってみようかな?と実際に買っていただいた方がいらっしゃいます。

インターネット上での声を拝見していますと、「このレンズの軽さは何事だ?」と思って買ってみたという方や、手持ち撮影による野鳥の動画をアップされている方もいらっしゃいます。評判も良く、皆さまに刺激を与えられているなと感じています。

RF800mm F11 IS STMをEOS R5に装着

——同時発表のEOS R5は入荷が「3か月待ち」という噂も耳にしました(9月初旬時点)。近年、これほどのバックオーダーとなった製品は他にありますか?

家塚: EOS R5は相当なバックオーダーで、お客様にお待ちいただいておりご迷惑をおかけしている状況です。これほどの例は今までに思い当たらないほどです。2年前に発売した「RF28-70mm F2 L USM」や昨年発売した「RF85mm F1.2 L USM DS」といった、どちらかというとマニアックなレンズは最初に注文が集中しましたが、それでもEOS R5には敵いません。

開放F2通しのフルサイズ標準ズーム「RF28-70mm F2 L USM」(2018年にEOS Rと同時発表)

当初は、価格を抑えたEOS R6の注文がもっと多いと考えていたのですが、実際のところ、EOS R5の人気が予想以上に高く、その数量は想定をはるかに超えてきました。600mm/800mm F11の2本も好評をいただき嬉しい反面、まだお待ちいただく状況が続き、申し訳ない気持ちです。

——このように割り切ったコンセプトの交換レンズは、カメラメーカー純正としては珍しいと思います。企画のきっかけは何でしょうか?

家塚: EOS Rシステムだから実現できるスペックや、新しいユーザー体験による楽しみを作りたかったのです。

その中で、超望遠レンズの「重く・大きく・高価」という3つの壁を打破できないかと考えました。キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFは暗所でもAFに強いため、F値の大きい超望遠レンズも成り立つのでは?という着想です。

振り返ると、キヤノンで最初の一眼レフカメラシステムであるRマウント(1959年〜)にも、今回の600mm/800mm F11のような"細長い"超望遠レンズがありました。光学系は望遠鏡のようなシンプルなもので、フォーカシングはベローズで、重量は2kgほどと軽いものです。

F値が大きい代わりに軽量な超望遠レンズがあった。

当時はフィルムの感度的にも厳しかったはずですが、超望遠レンズが何機種も用意されました。各社がそれまでのレンジファインダーカメラから一眼レフカメラに目を向けた時に、キヤノンは"一眼レフだからこそ"という部分で超望遠撮影の可能性を模索したことが伺えます。一眼レフカメラでは、レンジファインダーカメラに対するピント精度やファインダー視野率での優位性から、マクロ撮影に注目したメーカーもありましたが、キヤノンには望遠レンズの充実という歴史がありました。

今回のレンズでは、DOレンズや沈胴機構を取り入れることで全長を短くして、カメラバッグやザックに入れやすいサイズとし、さらにコストも抑えることで、超望遠レンズを身近なものに変えられるかもしれないと考えました。

——F11というスペックはどのように決まりましたか?

家塚: EOS Rシステムでは開放F22までの測距を実現できることから、2倍エクステンダーの装着を考慮して、レンズ単体でのF値はF11と考えました。F8ではレンズが太くなりますし、F16では2倍エクステンダー装着時にF22を超えてしまいます。「F11なら絞りユニットをなくしては?」というアイデアもこの頃に浮かんだものです。

超望遠での流し撮りを考えれば、F11から更に絞ってシャッタースピードを遅くしたいというニーズもあることは理解していましたが、超望遠では被写界深度のコントロールの重要性が低いこと、低コスト化、軽量化に繋がることから絞りユニットは搭載しませんでした。

——これまで、こうしたレンズを商品化する上でハードルとなっていた要素は何ですか?

家塚: 一眼レフカメラの時代にも、400mmを超える超望遠の世界を何とか身近にできないかと考えました。今回と同じようにF値を大きくすることなどを検討しましたが、うまくいきませんでした。F値を大きくすると、画面中心しかAFができない。一眼レフではファインダーも暗くなり、使い勝手に懸念があるため、諦めました。

——企画にあたり、どのような撮影シーンを想定しましたか?

家塚: 野鳥、野生動物、飛行機、月を入れた風景、夕陽を入れた風景、といったシーンです。600mmまでのズームレンズも検討しましたが、重さが2kgぐらいになりますし、とにかく"超望遠を手軽に、身近に"というコンセプトに従い、一日中持っていても苦にならない重量を目指しました。600mm/800mm F11はどちらも1kg前後にまとまっています。

RF600mm F11 STM / RF800mm F11 STM 紹介動画【キヤノン公式】

——600mmと800mmという焦点距離はどこから決まりましたか? また、この2本を揃えた理由は何でしょう。

家塚: 野鳥撮影の分野では、600mmが標準レンズと言われています。そのジャンルの方々に満足していただくためにまず600mmは用意しようと思いました。

もう1本と考えたときに、人気が高く馴染み深い焦点距離である400mmという案もあったのですが、400mmはズームレンズにも含まれる焦点域ですし、従来のAPS-C機でも55-250mmを使っていれば馴染みのある画角でした。そこで、これまでになかった領域で新しい写真や動画を撮っていただきたいと考え、800mmを選びました。

——キヤノンが新製品を投入する際、「撮影領域の拡大」という言葉をよく聞きます。今回の企画はどのようなバックボーンから誕生しましたか?

家塚: 超望遠レンズを身近にしたいというのが今回のテーマです。よくキヤノン製品の歴史上で名前が挙がるキヤノネット(1961年。手頃な価格で話題となったレンズ一体型カメラ)では、誰もが正しい露出で撮れるカメラを手頃な価格で提供することを実現しました。とにかく機材を購入できないと写真は撮れません。そこで今回は、超望遠の写真を撮りたい方々の手元に、600mmや800mmというスペックを低価格に抑えてお届けしようと思ったのです。

近年では、APS-C一眼レフカメラ用の低価格広角ズーム「EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM」という例があります。それまで広角ズームレンズといえばハイアマチュア向けの高価で高性能な製品が常識となっており、EOS Kissクラスと組み合わせるには手を出しづらかった領域ですが、その考えを変えて、プラスチックのモールド非球面レンズを使うなどして低価格を実現しました。

APS-C一眼レフ用の広角ズーム「EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM」(2014年)

気軽に持ち出してもらうためのデザイン

——600mm/800mm F11の鏡筒デザインは、どのように作り上げましたか?

稲積: まず商品企画部門から、とても魅力的な商品コンセプトが届きました。まだ外観のイメージも何もありませんでしたが、私自身も日頃からカメラを楽しんでいる一人のユーザーとしてもワクワクするスペックだったため、そのワクワク感をレンズのデザインに表現できないかと考えました。手頃で買いやすい製品なので、買ってくださった方々が部屋にしまい込まず、気軽に外に持ち出してほしいというメッセージを込めています。

RF600mm F11 IS STM、RF800mm F11 IS STM

例えば先端部分に施した革シボは、手が触れる部分として、カメラのグリップと同様の存在であると考えました。ここに革シボを配置したデザインのレンズは現在ほかになかったので、軽量なレンズの新しい世界観を作りたいと思い、シボのパターンの深さなど、いろいろと試してみました。

このレンズは手持ち撮影を主として考えているため、先端部分は指掛かりになるような形状も意識しています。同時に、アウトドアテイストのような道具感も狙いました。成り立ち自体も"スペックありき"の尖った商品ですから、これまでのレンズであれば「カメラとの一体感」「美しくまとめる」といった部分が強かったところ、このレンズには「レンズでも主張する」という個性があります。

先端部は、革シボだけでなく指掛かりにもなるような形状が施されている。
革シボがない場合の800mm先端部。完成型を見た後では、どこかのっぺりとした印象。
600mmの革シボあり/なしの例。
革シボのサンプル。下が素材の状態で、上は塗装後。これにより、カメラのグリップにも通じるしっとりとした感触が得られる。
スイッチパネル部。道具感を醸す形状に仕上げた。

家塚: このレンズではRFレンズの特徴であるコントロールリングを、通常のブラックではなくシルバーにしました。コントロールリングの位置が視覚的にもわかりやすくなっています。

コントロールリングの比較。右が試作したブラック。左が製品版のシルバー。比較的大柄な鏡筒の中で、シンプルなアクセントになっている。

——コストの観点で、デザイン的に苦労した部分はありましたか?

井上: 外装から内部のパーツまで、ほとんどの部品に樹脂を採用しています。樹脂部品はシミュレーションにより強度確認を行い、金属部品は必要最低限の箇所にとどめています。これにより、徹底的な低価格化と軽量化を達成しています。成型品ゆえの形状的な制約を受ける部分もあり、メカ設計とデザイナーの連携で解決していきました。

——沈胴機構など、操作性で工夫した部分はありますか?

井上: お客様が手軽に持ち運びできるよう、レンズ自体を大きくせず、普及価格帯で今回の沈胴機構を実現することは、キヤノンとして全く新しい挑戦で、操作の感触や構造をどのように成り立たせるか非常に悩みました。70mmという長い沈胴ストロークを有する本製品の沈胴機構を成り立たせるために、このレンズには大きくて長い成型部品が多く含まれています。他のレンズにはない特徴です。

これには様々な面で難しさがありますが、部品精度の追い込みはもちろん、連結方法や組立工程の簡素化など、台湾の工場とコミュニケーションを取りながら設計の初期段階から一丸となって取り組んできました。また、メカ設計のアイデアを高い精度で実現するために、部分的に機能試作品を活用して試行錯誤もしました。お手頃な価格であっても、操作性の品位にもこだわりたかったのです。

こうした制約がある中での構造設計には、部署内でコンペを実施して、多くのアイデアを出した上で、若手もベテランも関係なく良し悪しを議論しました。最終的に採用した沈胴機構は、チームの中でも一番の若手が考えた案でした。

とにかくゼロベースでベンチマークがない機構の設計だったため、3Dプリンターなどで実際に形を作ってみて、沈胴という機構が操作のアクションとしてよいかどうかなど、とにかく自分で体感してみることで、お客様にとっての使いやすさを追求しました。

3Dプリンターで作られた実寸モデル。
沈胴させる際、赤枠部分に指を挟んだら痛いはずという意見が出た。
その意見を受けて、製品版では指を挟みにくいよう断面形状を斜めにした。
こちらは試作品のひとつ。沈胴機構をボタンロック式とする案もあった。

細かな仕様についてQ&A

——この2本のレンズはなぜ"白レンズ"ではないのですか? 熱の影響は受けませんか?

家塚: 白と黒のどちらも選択肢としてはありました。白い塗装は、そもそも1970年代に、炎天下で野球を超望遠レンズで撮影する際に、レンズ鏡筒内の極端な温度上昇により性能が劣化することを危惧して施したものです。以来、時を経て"白レンズ=キヤノン"というイメージになりました。

実際のところ、屋外で三脚に固定して炎天下で長時間の撮影を行うようなシーンでは白の遮熱塗装にメリットがあると思います。しかし今回の600mm/800mm F11は手持ちで気軽に使っていただきたいレンズですので、あえて一般的なレンズと同じ黒系の色にしました。これなら街中でも「プロっぽいな」と目立つことがありません。

——本レンズは光学上の特性によるメリット・デメリットを明示した製品ですが、"DOレンズによる色つきのフレア"とはどのようなものですか?

家塚: 画面内に入ってくる、かなり高輝度な光がある場合、その周りに色が付きます。この例は鉄道車両のヘッドライトですが、野鳥であれば川面のきらめきなどに、よく見れば発生しているというイメージです。とにかく手軽に、というコンセプトのために割り切った部分です。

"DOレンズによる色つきのフレア"の例(矢印で示した部分)。明るいヘッドライトの周りに色つきが見える。

——DOレンズ採用ですが、昔ながらの緑ハチマキは付かないのですね。

家塚: 緑のラインは、1960年代に蛍石レンズの採用が最初です。1970年代には研削非球面レンズを採用した広角レンズでは、金のラインもありました。緑ラインも金ラインもやがて"Lレンズ"として赤のラインに統一されます。

初めてDOレンズを採用した時にも、蛍石のような革新的な光学素子として緑のラインを入れました。しかしDOレンズも今では一般的な技術になってきたので、EOS Rという新システムになったことを機に、特別な意匠や名前を付けないことにしました。

——発表時点から、手軽さを売りにしたレンズゆえのデメリットも伝えていました。超望遠撮影シーンの中でも「これには向かないだろうな」と想定している条件はありますか?

家塚: F値が大きいので、暗いシーンです。既存の大口径超望遠レンズのように高速シャッターが切れないため、確かに室内スポーツで激しく動く様子などを撮影することは難しいですが、EVFのためファインダーは明るく、AFも十分に動作するので、F値が大きくても一眼レフの時代ほどの不便さはなくなりました。

具体的には曇り空の、EV12か11ぐらいの環境でも撮れることをイメージしています。今の時代は感度を上げられますから、暗いからといって撮影を諦めずに済みます。ISO 1600まで上げても画質的に許容できる状況であれば、曇り空でも1/250秒は切れます。

——超望遠ということで、反射望遠型は検討の中にありましたか?

家塚: 個人的に反射望遠型のレンズを集めているのですが、いつか作りたいなと思っていました。今回も当初は検討したのですが、全長は短くなるのものの、800mm F11のスペックでも現在より鏡筒が太くなります。これでは持ち運びにくく商品コンセプトの"超望遠撮影を身近に"に合わないため、検討の早い段階で反射望遠型の案はやめました。実現するとなれば、もちろんAFで考えていました。

——本レンズをEOS RやEOS RPに装着した場合の使い勝手はどうですか?

井上: もちろんEOS R5、EOS R6のほうが全体としてのAF性能は上ですが、EOS R、EOS RPでもカメラを最新ファームウェアにアップデートすることで、本レンズについても高速高精度なAFが可能になります。その際、画面内の横40%×縦60%というAF可能エリアはR5、R6と同様です。さらにRFレンズ専用のエクステンダーEXTENDER RF1.4×/EXTENDER RF2×を装着した場合でも、AFが可能になります。

——協調ISには非対応とのことで、難しさはどこにありますか?

井上: ボディ内手ブレ補正において、広角系のレンズと比べて望遠系のレンズでは、イメージセンサーが動いても補正できる量がわずかで、補正効果が出にくいです。そのため、本製品の開発時点では、協調制御への対応を見送りました。一方で、レンズ単体としてはCIPA基準において600mmは5段、800mmは4段の手ブレ補正効果を実現しているので、軽量化も相まって手持ちで超望遠を楽しむことができます。

——手ブレ補正以外に、カメラ側での補正は活用していますか?

井上: 他のRFレンズと同様、歪曲収差、周辺光量、倍率色収差の補正に対応しています。デジタルレンズオプティマイザ(DLO)も使えます。

——光学設計の観点で、600mmと800mmで大きな違いはありますか?

井上: 大きな違いはありませんが、800mmでは、収差補正のために600mmよりレンズを1枚多くしています。今回の600mmと800mmは2機種を同時に開発することで、合理的な光学設計をしています。内部の光学系は5つのユニットにそれぞれ分かれていますが、3群〜5群は光軸方向の配置まで全く同じにして、機構や外装も含めた使用部材を共通化しているのです。これも低価格化の実現に寄与しています。

RF600mm F11 IS STMのレンズ構成図
RF800mm F11 IS STMのレンズ構成図

——同様のレンズで、もっと焦点距離の長い/短いものも作れますか? また、三脚座を用意する予定はありますか?

家塚: 1000mmまでいくと、F値がもっと大きくなってしまうので、800mm F11が良いバランスです。エクステンダーを付けて1600mmでAFができるため、800mmより伸ばすことは考えませんでした。

三脚座は、レボルビング機構のない簡易なものを備えています。回転機構、着脱式、後付けできないか?といった案もありましたが、いずれもレンズが太くなり、重くなります。手持ちを基本に想定したレンズとして、割り切りました。

最後に

井上: 今回のレンズに使っている新しいDOレンズについて、ぜひ伝えたいです。"DO屋さん"の情熱を代弁させてください。

前機種(EF400mm F4 DO IS II USM)のDOレンズは、高価な価格帯の製品でした。しかし、今回は普及価格帯での提供が大前提にあるため、新規の樹脂材料、格子形状、生産設備、生産プロセスなど、全てをゼロベースから見直すことで大幅な低価格化を実現しました。この、"安くDOレンズを作る技術を確立する"ことのハードルがとても高かったのです。

限られた開発期間の中で、材料や生産プロセスで多くの課題が見えてきて、DOレンズ設計、生産技術開発、量産工場の担当者がひとつのチームとなり、最後の最後まで苦しみましたが、ひとつひとつ課題の分析と対策を重ねることで安くDOを作る技術を確立し、今回の製品が量産できています。今までDOを搭載した製品を複数機種開発してきたキヤノンだからこその技術を結集させた取り組みでした。

600mm/800mm F11が採用する新開発のDOレンズ。ある角度から覗くと、このように回折格子のパターンが見える。レンズの前玉方向からでも観察可能。

稲積: 低価格・軽量・小型とインパクトの強い製品ですが、デザイン自体も、目に付きやすい変化以外にもいろいろとこだわりを持って、今回の製品に仕上げました。この記事を通じて、それを深く知っていただけたら嬉しいです。質感、ディテールの凹凸、ネジの仕上げ、黒い外観の中にもテクスチャーやツヤ感の異なる様々な黒が混ざっていて、こだわり十分なので、眺めてもワクワクしていただけたらと思います。

スイッチパネル部のネジ。周辺の質感に合わせてツヤありとした。
沈胴機構のロックリング部には、これも周辺の質感に合わせたマット仕上げのネジを採用。
珍しいパターンの試作スイッチ。
フォーカスリングのローレット形状も、冒険的なサンプルがあった。

家塚: 私の少年時代の話で恐縮です。当時野鳥の小鷺(コサギ)の写真が撮りたかったのですが、超望遠レンズは高くて買えませんでした。焦点距離400mmのクローズアップレンズなどで望遠レンズを工作してみたものの、きれいに写らず、「なんでこんなに写らないんだろう」と当時野鳥の撮影は夢に終わりました。

「超望遠レンズが購入できない」「大きく重く持ち運べない」という理由で、撮りたいものや撮りたい表現を諦めている人がたくさんいるということはわかっていました。EOS Rシステムで、ようやく夢の超望遠の世界を身近にすることができたと思います。これまで撮れなかったものの撮影、撮りたかった表現を、この600mm/800mm F11のレンズを使って楽しんでいただきたいです。

本誌:鈴木誠