インタビュー

SIGMAに直撃 フルサイズFoveon開発やLマウントの未来を聞く

CP+2021 ONLINEをふりかえって

35mm判フルサイズFoveon(Foveon X3ダイレクトイメージセンサー)の開発を白紙に戻したシグマ。CP+2021 ONLINE開催の直前に報じられたこのニュースは、同センサーや同社カメラ製品ファンに大きな波紋をひろげることとなった。そして迎えたCP+2021 ONLINE。同社は「シグバラ」と題したコンテンツを配信。ユーザーからの質問に応えるかたちで、同センサー開発を白紙に戻した経緯や、これからについて説明した。ここでは、配信内容の反響などを含みながら、CP+2021 ONLINE中で同社が発信したメッセージについて、またLマウントのこれからについても深掘りしながら聞いていった。

シグバラについて(回答:シグマ広報部)

――今回のCP+2021 ONLINEは、配信オンリーでの開催となりました。配信時の反響についてお聞かせください。

事前収録・一方向配信のコンテンツが中心だった弊社プログラムのなかで、ライブ配信・ユーザー参加型の企画ということでご期待をいただいていたようです。リアルタイムでご参加いただけるよう、当社としては初の試みとしてZoomウェビナーでの開催(視聴のみの方はYouTube経由)としました。

開始直後は「様子見」で発言を控えている方も多かったようですが、すぐにうちとけてご発言いただけるようになりました。発言ありの参加はZoom、視聴専門はYouTubeと分けたことで、両方ともちょうどよいバランスで催行できました。

――社長に直接質問できる試み、という点も独特の企画でした。
例年のCP+では、弊社ブースのステージプログラムで、社長自ら新製品や近況アップデートを行ってきましたが、2年続けてリアル開催がなくなったことから、どんなことができるかを考えていました。また、1年前に開催した当社独自イベント「fpフェス」のようにアットホームながら盛況だった、ユーザーの皆さまにも参加してもらえる発表の場をオンライン上でもつくれないか、ということも企画の背景となっています。

fpフェス 2020春(2020年2月8日開催)の様子

開催のちょうど1週間前となる2月19日(金)にX3センサー開発に関するアナウンスをさせていただいた直後でしたので、この機会に双方向のコミュニケーションができればと考えた次第です。

――社内での反響や手応えについてはいかがでしたか?
新製品発表とCP+が重なったことで、あわただしく準備をしなければならなかったのですが、社内関係各位(特にエンジニアや営業)からも快く協力をえられ、なんとか実現できました。初めて尽くしのことも多く、不慣れで手際が悪い面も多々ありましたが、さまざまな部署が協力して取り組めたので、今後に向けても貴重な経験となりました。

――特に多かった質問にはどのようなものがありましたたか?
事前に募集した質問・要望には「Lマウントのsd Quattro / sd Quattro Hはつくれないか?(ぜひつくってほしい)」というお声が複数ありました。

参考:SIGMA sd Quattro H(APS-Hサイズ相当〈26.7×17.9mm〉のFoveon X3ダイレクトイメージセンサーを搭載したミラーレスカメラ。発売は2016年12月20日)

――ズバリ、そのご回答とは?
弊社の広報ブログ「SIGMA広報部」のリポート記事にも採録しております通り、既存カメラのLマウント化といっても単純なマウント変更では済まず、現実には新製品開発と同等の大きな話になってきます。当社といたしましても、せっかく新たなカメラをご提案するのであれば、新しい時代に即した新製品としてお届けしたいという考えがあり、現時点ではマウントを変更しただけの製品化は計画していませんと、お答えさせていただきました。

同社にとってLマウント採用カメラの初号機にあたる「SIGMA fp」。35mm判フルサイズセンサー搭載ながら、ボディ外寸112.6×69.9×45.3mm、重量422g(バッテリー、SDカード含む)のポケットサイズを実現。発売は2020年10月

改めまして、畳家からの詳しい説明を交えてお伝えさせていただきます。

技術的な話になってしまうのですが、sd Quattro Hなどで使われている画像処理エンジン、そしてFoveon X3センサーがつくる特殊な画像の読込を処理するためのFPGAなどを考えると、今使われているものは技術としては古くなってしまっています。それをファームウェアも含めて作り直すには、山木が言う通り、完全に一機種分ゼロから作るのと同じくらいの開発負荷がかかってしまうという背景があります。

では、SIGMA fpの画処理エンジンは使えないのかと思われるかもしれませんが、fpはべイヤーセンサーに特化した画処理エンジンを使っているので、そのままFoveon X3という特殊なセンサーの読込には対応させられないんです。ということから、残念ながら今は対応できないという状況です。

X3センサー開発の行方は?

――配信中ではX3センサー開発に関する続報もありましたね。お話いただける範囲であらためてお聞かせいただけますか?

先ほどのご回答同様、現時点では広報ブログ中でお伝えしているリポート記事の内容が全てとなります。弊社CEO・山木および商品企画部のカメラ開発担当者・畳家からのご説明をなるべく端折らずに文章化しておりますので、以下、リポート記事と同内容となりますが、これでお答えに代えさせてください。

開発段階の35mm判フルサイズのFoveonセンサーを手にする山木和人氏(株式会社シグマ代表取締役社長)。fpフェス 2020春より

山木 :2/19(金)にも「センサー開発プロジェクトの状況について」ということでご報告させていただきましたが、予定していたカメラボディについては一旦すべて白紙に戻し、センサー技術の研究開発からしっかりやろうと取り組んでいるところです。

いまは高画素のべイヤーセンサーや他のセンサーも発展しているので、もちろんX3センサーの特長を活かしたものになりますが、現代的に意味のあるものを模索しなければならないということで、いま一生懸命、本社中心、シグマ主導で研究開発しているところです。

まだカメラボディの開発も始まっていないですし、すぐにカメラが発売できる状況ではありませんが、皆様のご期待は十分理解しておりますので、エンジニアとともに引き続き頑張ってまいります。

もう少し詳細な状況については、畳家からもフォローしてもらいます。

畳家 :私からは、やや技術的な面での補足をさせていただきます。2/19の開発状況のアナウンスからこの間、皆さまがSNSなどで話題にされている内容もずっとチェックしてきました。2020年2月から今回のご報告までの間に状況が後退したり、初期段階に戻ってしまっているとお考えの方もいらっしゃるようですが、この間、センサー開発という点については状況は何も変わっておりません。ただ、生産予定だった会社との契約問題などがクリアーになりましたので改めて報告させて頂きました。

今回のアナウンスにおいては「今後の開発を日本・本社主導で行う」という点は新しい話になりますので、この点について補足させていただきます。

イメージセンサー開発というのはもちろんシリコンウェハー内に構成する画素構造が重要であることは間違いないのですが、それ以外にもノイズの要因とならないような電源回路設計や、フォトダイオード内に溜めたアナログの電荷をデジタル信号に変換するA/Dコンバーターの構造も非常に重要な要素なのです。

北米で開発をしている状況では特徴のある画素構造は実現できても、電源回路やA/Dコンバーター設計に関してはそれほど優位性のあるものができないことが分かりましたので、開発の主導を日本に移し、本社開発主導で完全に新規で3層構造センサーの研究に取り掛かっているところです。

今回のアナウンスは、こうした方針がようやくまとまったことからご報告したという次第です。

そのようなわけで、現状としては先ほどの山木の話と同じなのですが、センサー開発に目処がつかないかぎり、それを搭載するボディの開発ステージに進めませんので、いまはまずセンサーの開発段階にリセットさせていただいた状況であることをご理解いただければと思います。

この間、時間だけ経ってしまった感があり皆さまに対して申し訳ないという気持ちを我々開発チームも抱いておりますが、やるからには、ちゃんと良い性能、良いパフォーマンスを発揮できるセンサーを出さないといけないという強い気持ちを持っておりますので、もうしばらくお時間をいただき、しっかり研究開発をさせていただければありがたいところです。

「CP+2021オンライン特別企画『シグバラ』リポート(3)SIGMAの中の人が答える『#知りたいSIGMA』質問タイム」より

「Lマウントアライアンスの今とこれから」によせて(回答:商品企画Lマウント担当)

――2018年のフォトキナでLマウントアライアンスの結成が宣言されてからおよそ2年が過ぎました。当時考えていたこと、いま考えていることを、あらためてお聞かせください。

当時は、個性豊かなこの3社(ライカ、パナソニック、シグマ)ならお客様に幅広いバリエーションのLマウント製品が提供できる、と考えておりました。現在は予想以上の速さでシステム(カメラ・レンズ・アクセサリー)が揃いつつあると考えています。

Lマウントアライアンスが発表された時の様子(「【フォトキナ】インタビュー:「Lマウントアライアンス」の経緯と今後」より)

――貴社が考えるLマウントのメリット・魅力とは?
まず、Lマウントのメリットからご説明します。堅固な4本爪のバヨネット。ちょうど良いマウント径。フルサイズ対応。豊富なマウントアダプター。これらの要素が大きな特徴だと考えています。

次にアライアンスのメリットですが、3社ともカメラとレンズを作っていること。3社で1つのマウントを進化・発展させていくことができること。これら2点がお答えになると思います。

最後にLマウントの魅力ですが、まず製品バリエーションの豊富さ、ニュースの多さが挙げられます。例えばライカSL2ユーザーには、パナソニックの新製品もSIGMAのファームアップも、すべて自分のカメラに関わるニュースとなりえます。

――ニュースといえば、Iシリーズの展開が急ピッチで進んでいる印象です。一方でミラーレス専用設計になったArtラインレンズの続編を望む声も多いと思います。今貴社に寄せられているユーザーからの反響や要望にはどのようなものがありますか?

ご指摘の通りお客様からのご要望は多いですが、既存の一眼レフカメラ用のような、大きくて重いレンズの要望は少ないように思えます。大口径でコンパクト、そして高性能で動画対応、というのは非常にハードルが高いですが、そうした流れに即しながら、Artラインの製品を増やしていきたいと思います。

――現在、同アライアンスは貴社含め3社で構成されています。マイクロフォーサーズマウントのように、今後参加社が増えていくことはあり得るのでしょうか。
ライセンサー(=Leica)次第ではありますが、増えていく可能性はあると思っており、各社のレンズラインアップが増えてきたこともその追い風になると思います。

――配信映像「Lマウントアライアンスの今とこれから」について、感想をお聞かせください。

配信映像では3社のチームワークのようなものが伝わると嬉しいです。3社ともある意味ライバルですが、とても仲が良く、このような3社によるパネルディスカッションは何度も(回答者が参加したものでも4回目)行われておりますし、各社のイベントにも参加させて頂くことが多いです。

SIGMA CP+ 2021 Online 特別企画|Lマウントアライアンスの今とこれから

――SIGMAのスタンスとして「クレイジーなことをしなきゃ」という発言がありました。もう少し掘り下げてお聞かせいただけますか?

「売れる製品」ばかり開発していてはシステムは揃いませんし、お客様にも飽きられてしまいます。今後はお客様があっと驚くような製品や、専門的な製品も開発していきたいと思っています。

SIGMAは組織がシンプルなこともあり、技術者や企画者が「これを作ろう!」というと比較的製品化できることが多いです。クレイジー&サプライズな製品が出しやすい会社だと思います。

――Lマウントを世界の標準マウントにしていきたいというご発言もありました。貴社の評価するLマウントのメリットや、実際に製品ラインアップを拡充していく中で、あらためて気づいたポイントなどがありましたらお聞かせください。

Lマウントのメリットにつきましては、先ほどご説明したとおりの内容となります。それぞれに個性的な3社がひとつのマウントを磨き、進化させる、というのは、ある意味「奇跡」といえることかもしれません。

そしてこの3社が作るシステムなら、きっとお客様のメリットを最大化させることができると信じています。誕生からようやく2年目となったアライアンスです。これからも長い目で見守って頂ければと思います。

また配信の中でもお話させて頂いた通り、「Lマウントを世界標準マウントにしたい」というのが夢です。おおよそ1930~1960年くらいのあいだ、ライカのスクリューマウントは事実上世界の標準マウントでした。このLマウントもそれに近づけていけたら嬉しいです。

社食も話題に

――社食に関する話題もありました。
山木のオススメは定食ですが、カレーと麺類のメニューも人気なので、紹介させていただきます。

日替わり定食。納豆など小鉢はオプションで選べます
本日の麺類(そば)、炊き込みご飯となめこおろしを添えて。会津はそば粉の生産も盛んな地域です
メニューの中でも人気の高いカレーライス。デザートはお好みで

配信をふりかえって(回答:イベント運営担当)

――特に反響の大きかったコンテンツは何でしたか?

いずれのコンテンツもたくさんの方にご視聴いただけましたが、特にシグマ本社よりライブ配信しましたプロダクトセミナーは、アーカイブ後も多くの方にご視聴いただいています。また、「CP+2021 ONLINE公式チャネル」で公開した弊社商品企画部門の責任者によるプレゼンテーションも、木曜日の日中での配信だったにも関わらず、大変多くの方にご視聴いただけました。

SIGMA CP+ 商品企画部長が語る|SIGMAのミラーレスレンズ開発
SIGMA CP+ 商品企画マネージャーが語る|SIGMA fp, Iシリーズレンズが誕生した背景

――配信をふりかえってみて、今だからお話いただけることをざっくばらんにお願いします。苦労した点や、まだ見てない人に向けてのメッセージなどもありましたらお願いします。

「シグバラ」については、Zoomウェビナーを使用しての配信を初めて行った事もあり、スムーズな進行や通信環境など、配信のオペレーション自体がうまくいくかやや心配でしたが、拙いながらもお客様との交流という目的を果たせ、まずは安堵しております。

配信担当者としては、2月25日(木)の夜にプロダクトセミナーを2本連続でライブ配信する企画をたてましたが、1本目から2本目にスムーズにつなげることができるか、非常にハラハラしておりました。山口規子さん、鹿野貴司さんにもご協力いただき何とかやり遂げることができました。

プログラムの詳細は、「SIGMA CP+ 2021オンラインブース」にまとめておりますので、まだご覧いただけていないプログラムをチェックする際に役立ててください。

プロダクトセミナー 85mm F1.4 DG DN|Art編|山口規子氏
プロダクトセミナー 新製品SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary 編|鹿野貴司氏

――スタッフ皆さんからのご感想はいかがでしょう。
2020年に入り、コロナ禍への対応もあって、新製品発表や毎週金曜日のミニイベントなど、自社独自のオンライン配信企画にもチャレンジしてきました。手さぐりではありましたが、新製品をひとつずつ丁寧に紹介したり、ささやかなテーマで交流できる良さに気づくことができました。

一方で、どうしても視聴いただいているユーザーの皆様からの質問や反応にリアルタイムでお応えするのが難しく一方向の発信になりがちでしたので、ライブ&双方向の企画に挑戦してみました。

不慣れなため、覚束ない部分も多々ありましたが、経験して初めてわかったことも多々ありますので、今後の企画に活かしていきたいと考えております。また、小規模でもこうした企画はもっと増やしていきたいと考えております。

note上で情報を配信

35mm判フルサイズFoveonセンサーのその後を中心に、CP+2021 ONLINEで報じられた内容を追っていった。この他にもIシリーズや28-70mm F2.8 DG DN|Contemporaryなど、意欲的な製品であったり、定番の焦点距離を同社らしくアレンジした製品についてなど、多彩なプログラムも配信された。現在はアーカイブ映像も併行して配信されているが、同社はnote上でも、様々な情報を発信している。

以下、CP+2021 ONLINE関連コンテンツを抜粋した。あわせて読み込んでいくと、配信をより楽しむことができそうだ。

「シグバラ」リポート

・第1回:28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary編
https://note.com/sigma_japan/n/n5309b82c5464

・第2回:プレミアムコンパクトプライム「Iシリーズ」誕生秘話
https://note.com/sigma_japan/n/n6c5c72f01f1d

・第3回:SIGMAの中の人が答える「#知りたいSIGMA」質問タイム
https://note.com/sigma_japan/n/nc46a81f373df

本誌:宮澤孝周