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ソニーα7シリーズの違いを見てみよう(2020年春)

"フルサイズα"の主力4モデルを比較・分析

ソニーのフルサイズαは2013年11月発売のα7(これがいまだに現行だったりするが)にはじまり、順当に代を重ねて現在は4世代目が登場している。

第2世代ではボディ内手ブレ補正が搭載され、第3世代では大容量の新型バッテリーの採用や連写スピードの向上、瞳AFなどの機能強化がはかられ、第4世代ではグリップの大型化や操作部の形状変更といったブラッシュアップが盛り込まれるといった進化をたどっている。

シリーズとしてはいわゆる無印のα7、高解像度のα7R、高感度仕様のα7Sの3タイプの「7」に、2017年5月には高速連写のα9も加わった。そのうち、α7Sはどういう事情かはわからないが、「II」のまま取り残されたかっこうとなっている。

本稿では第3世代以降の主力4モデルの違いを見ていくことにする。

α9 II

α9 II(ILCE-9M2)

事実上、ソニーのフラッグシップ機とも言えそうな高速連写モデル。名称としては「II」だが、先代のα9がα7R IIIベースとも言えることから第4世代に分類できる。

発売は2019年11月。大手量販店における発売当初の実売価格は税込59万9,500円(ボディ単体)で、現在も相場を維持している。なお、この価格は国内メーカーのフルサイズミラーレスカメラではパナソニックのLUMIX S1H(動画向けモデル)に次いで高価だ。

外見は左手側肩に2段式のダイヤル(ドライブモードとフォーカスモード)を備えたα9の特徴を受け継ぎつつ、2か月前に発売されたα7R IVに盛り込まれた要素も加わっている。

α9 IIの上面

撮像センサーはメモリーを内蔵した積層型のExmor RS CMOSセンサーで、有効画素数はα9と同じく2,420万画素。ローパスフィルターを使用するタイプ。常用ISO感度の上限はISO 51200、拡張感度はISO 204800まで設定できる。

なお、α9はボディ内手ブレ補正の効果がシャッタースピード5.0段分だったのが、本機では5.5段に向上。α7R IVなどと同等となった。

EVFは0.5形の有機ELパネルを使用。解像度は約369万ドットでフレームレートは標準(60fps)または高速(120fps)が選択できる。

AFは位相差検出693点、コントラスト検出425点を組み合わせたファストハイブリッドAFで、α9(コントラスト検出が25点だった)に比べて低照度環境下でのピント精度の面で有利になっているようだ。

連写最高速は電子シャッター時で約20コマ/秒。動体歪みを抑えたアンチディストーションシャッター、動く被写体を追いやすいブラックアウトフリーとしている。この部分はα9シリーズの最大のアドバンテージであり、最大60回/秒のAF演算やExmor RSセンサーの高速性も相まって、きわめて高い動体追従能力を誇る。

連写可能な枚数は、JPEG(Lサイズ・エクストラファイン〜スタンダード)で361枚、RAW(圧縮)で239枚、RAW(圧縮)+JPEGで226枚。これもほかのαシリーズを圧倒する数字となっている。

α9からの改善点のひとつにメカシャッターでの連写スピードの向上があげられる。α9ではメカシャッター時は最高約5コマ/秒と平凡でフリッカーレス撮影機能もなかった。それが本機ではα7R IVなどと同じ最高約10コマ/秒になり、さらに先ごろ公開されたファームウェアVer.2.00ではより高い周波数で明滅するLED照明などにも対応可能な高周波フリッカーレス機能も加わった。

また、電子シャッター時に最高1/32,000秒の高速シャッターが利用できるのもα9シリーズだけのスペック。ただし、使用可能な撮影モードがS(シャッター優先)とM(マニュアル露出)に限定され、かつ1/16,000秒と1/32,000秒の中間速は選択できないといった制約がある。A(絞り優先)およびP(プログラム)時は1/16,000秒までとなる。

メディアスロットはUHS-II対応のデュアルSD仕様でメモリースティックデュオには非対応となった。なお、カメラの背面側から見てカードを裏向け(端子のある側を見る状態)で装填する。上側がスロット1で下側がスロット2となり、混乱の要因がひとつ減った。

左手側側面の端子カバー内には、ほかのαシリーズにはない有線LAN端子(1000BASE-T)を備えているのも特徴的だ。また、Wi-Fi機能もより高速な転送が可能な5GHz帯を利用できるなど、ネットワーク関連の機能強化もはかられている。

そのほか、ファームウェアVer.2.00で、電源オフ時にシャッターを閉じる機能や、顔/瞳優先のオンオフをカスタムキーに設定できる機能なども追加されているが、現時点ではこれらは本機のみの機能となっている。

α7R IV

α7R IV(ILCE-7RM4)

高解像度仕様のα7Rシリーズ最新作。最初の第4世代モデルとして登場した。発売は2019年9月で大手量販店における発売当初の実売価格は税込43万920円(ボディ単体)。現在は43万8,900円となっているが、これは消費税が上がっているため。税別価格は39万9,000円で変わっていない。

撮像センサーは有効6,100万画素のExmor R CMOSセンサー。裏面照射型で解像感の面で有利なローパスフィルターレス仕様としている。フルサイズ以下の一眼レフカメラ、ミラーレスカメラでは最多画素数となる。

先代のα7R IIIは有効4,240万画素(裏面照射型、ローパスフィルターレス)。画素ピッチはα7R IIIの約4.52μmからα7R IVは約3.76μm(いずれも計算上の数値)に縮小している。一方、ISO感度の範囲は常用ISO 32000、拡張ISO 102400を維持している。

ボディ内手ブレ補正は先代と同じく5.5段分の効果を持つ。EVFは表示パネルが約369万ドットから576万ドットに向上。トップクラスの解像度となった。

AFは位相差検出が先代の399点から567点に増加(コントラスト検出は425点で同じ)。位相差AFのカバーエリアが上下方向に広がった。「フォーカス優先」モード時は周囲の明るさに応じてAF-Cモードで開放測距が可能。暗いシーンで絞り込んで撮影する際のAFのレスポンスやピント精度の向上が期待できる。

フォーカスエリアの枠色が白または赤から選べるようになったのが見どころのひとつ。第3世代まではシーンによってはまった見えなくなるグレーの枠だったのが、格段に見やすくなった。この改良が第3世代以前のカメラにも加えられることを待ち望んでいるユーザーも多いと思う。

連写最高速はメカ、電子シャッターともに最高約10コマ/秒。連写可能な枚数はJPEG、RAW(圧縮)、RAW(圧縮)+JPEGで68枚。α9シリーズに比べればスピードは半分でしかないが、動きの速い被写体をメインのターゲットにしているのでなければ十分なスペックと言える。

基本的なデザインは従来機から継承しつつ、ホールド性や操作性の向上がはかられているのも第4世代の特徴だ。

グリップを高さ方向に伸ばし、前ダイヤルを後傾させるなどによって小指あまりを軽減。シャッターボタンも右手側に傾斜させることでより握りやすくしている。後ダイヤルも上面に露出する形となったほか、露出補正ダイヤルにロックボタンが新設された(ボタンのトグルでロックの有無を選択できる)。

α7R IVの上面

また、AF-ONボタンの大型化やカスタムキー(ボタン)などの突出量の増加、ジョイスティック面積の増加などのおかげでずいぶん操作しやすくなった。

こうした操作系の改善はα9 IIにも盛り込まれている。対応メモリーカードからメモリースティックデュオが消えたこと、両スロットともにUHS-II対応化したことなどもα9 IIと共通だ。

そのほか、任意のタイミングでホワイトバランスを固定できるオートホワイトバランスロック機能や、カスタムホワイトバランス取得時の取り込み枠が移動可能になったなど、細かな改良も加えられている。

なお、本機の最新ファームウェアはVer.1.10(2019年12月公開)で、マイメニューにカスタマイズした設定の保存・読み込みに対応や外部フラッシュ設定機能の追加などが行なわれている。

α9 IIのファームウェアVer.2.00で実装された電源オフ時にシャッターを閉じる機能なども、いずれはファームウェアアップデートで盛り込まれるものと思われる

α7R III

α7R III(ILCE-7RM3)

α7R IVのひとつ前の第3世代の高解像度モデル。発売は2017年11月。最新ファームウェアはVer.3.10(2019年12月公開)となっている。大手量販店の実売価格は税込35万9,230円(ボディ単体)。発売当初は税込39万9,470円(消費税は8%だった)だった。現時点でのα7R IVとの価格差は約8万円となる。

α7R IVとの違いのひとつは、撮像センサーの有効画素数が4,240万画素である点だ。裏面照射型のExmor Rでローパスフィルターレス仕様なのは同じ。実画像のサイズで見ると、幅で1,552ピクセル、高さで1,032ピクセルの違いとなる。

このクラスのカメラではRAWやRAW+JPEGで撮るユーザーも多いだろう。1画像あたりのファイルサイズは、14bitの圧縮RAWで約45.7MB、JPEGはLサイズ、エクストラファインで約29.8MB。合わせて約75.5MBにもなる。

これがα7R IVだとRAWが約65.3MB、JPEGが約47.4MBで約112.7MBにもなる。手持ちのSDカードの総容量やPCのパワー、ストレージ容量なども心配になるレベルとなる。このあたりの数字も機種選びの際には注意すべき点だろう。

ボディ内手ブレ補正の効果はα7R IVと同じく5.5段分。ISO感度の設定範囲も常用ISO 32000、拡張ISO 102400。感度に関してはより画素数の少ないα9 IIやα7 IIIのほうが有利となるが、スペック的にはあまり大きな違いではない。

位相差AFのカバーエリアはα7R IVよりも見劣りする部分。399点がカバーする範囲は縦68×横68%で、フォーカスエリアがフレキシブルスポット:Sのときの端の測距点はコントラスト検出のみとなる。

α7R IVは縦99.7×横74.0%カバーで567点に広く、かつ高密度になっている。実用上はそれほど気にならなさそうにも思うが、スペックとしては違いがある。

ファームウェアVer.3.00以降においてシャッターボタン半押しによるリアルタイム瞳AFが可能となった。犬や猫をはじめとする動物の目にも対応。ペットや野生動物を撮影する機会が多い人にとっては見逃せない目玉機能となった。

その一方、フォーカスエリアの表示枠線は見づらいまま放置されている。第4世代では白または赤が選べるのに対して、第3世代はグレーのため、暗いシーンなどでの視認性の低さは残念な点だ。

連写最高速はメカ、電子シャッターともに10コマ/秒。α7R IVのほうがバッファメモリー容量を増やしているが、データ量がずいぶん違うこともあって、連続で撮れる枚数はJPEG、RAW(圧縮)、RAW(圧縮)+JPEGともに76枚とα7R IVより少し多い。

ただし、記録メディアはスロット1(下側)がUHS-II対応、スロット2(上側)がUHS-I対応となるため、両者に同じデータを保存するバックアップ記録では書き込み時間が遅くなる点には注意が必要だ。

基本的な外観デザインは従来から継承したもので、代を追うごとに徐々に改良されている。とは言え、第4世代との差は小さくない。店頭などでチェックする際はグリップの握りやすさや前後ダイヤルや露出補正ダイヤルのまわしやすさ、ジョイスティックや各部のボタンの押しやすさなどを比較してみるべきだろう。

α7R IIIの上面

すでにα7R IIIを使っている人にとって、α7R IVに買い替える必要性はそれほどなさそうに思える一方、新規での購入を検討している人にとっては実売価格の約8万円の差と機能や性能の差をどう受け止めるかが悩みどころと言える。

α7 III

α7 III(ILCE-7M3)

おそらくフルサイズαでもっとも人気が高いのが本機。いわゆる無印シリーズの第3世代モデルで、発売は2018年3月。大手量販店の実売価格は税込24万7,670円。発売当初(消費税は8%)は24万8,270円で、ほとんど変わっていない。これも人気の高さをあらわしている。

撮像センサーは有効2,420万画素。ローパスフィルターを使用する裏面照射型。ISO感度の設定範囲は常用で最高ISO 51200、拡張でISO 204800となる。先代のα7 IIは画素数はほぼ同じだが、表面照射型だったこともあって、上限がISO 25600(常用、拡張とも)という違いがある。

ボディ内手ブレ補正の効果は先代の4.5段から5.0段にアップしている。それでもα7R IIIや第4世代の5.5段にはおよばない。

AFは位相差検出693点、コントラスト検出425点のファストハイブリッド。画面の約93%をカバーする。この点についてはα7R III、IVに対して優位な点だ。

連写最高速はメカ、電子シャッターともに最高約10コマ/秒。α7 IIの最高約5コマ/秒から一気に倍速にアップした。連続で撮れる枚数はJPEG(Lサイズ、エクストラファイン)では163枚とα7Rシリーズと大差があるが、RAW(圧縮)時は89枚、RAW(圧縮)+JPEG時は79枚まで減る。

EVFのスペックはやや見劣りする部分。ファインダー光学系はα7R IIIや第4世代と共通の光学系を採用するが、表示デバイスの解像度は約236万ドット。α7R IIIとα9 IIは約369万ドット、α7R IVは576万ドットと大きく違う。

また、ファインダーの表示フレームレートもほかは60fpsと120fpsの選択が可能なのに対して、本機は選択不可となっている。

液晶モニターも本機のみ約92万ドット(ほかは144万ドット)というふうに細かい部分で差別化されている。

α7 IIIの上面

外観はα7R IIIとほぼ同じで、基本的な操作系、記録メディアなどの部分も共通。第3世代同士や、第4世代同士で併用する場合はいいが、世代違いの機種を併用する際にはスロットカバーの開閉方法、スロットの上下関係が異なるので特に注意が必要だろう。

α7R III同様、ファームウェアVer.3.00(2019年4月公開)でリアルタイム瞳AF(動物にも対応)やインターバル撮影機能の追加など、最新のVer.3.10(2019年12月公開)で外部フラッシュ設定機能の追加が行なわれている。

なお2020年4月現在、巷ではα7 IVの登場がそう遠くないとうわさされている。本機の購入を検討する場合、ニューモデルを待つかどうかも含めて考える必要があるだろう。

比較表

機種名α9 IIα7R IVα7R IIIα7 III
発売年月2019年11月2019年9月2017年11月2018年3月
発売当初価格(税込)59万9,500円(10%)43万920円(8%)39万9,470円(8%)24万7,670円(8%)
撮像センサーExmor RSExmor RExmor RExmor R
有効画素数2,420万画素6,100万画素4,240万画素2,420万画素
ローパスレス
手ブレ補正5軸・5.5段5軸・5.5段5軸・5.5段5軸・5.0段
常用ISO感度ISO 100〜51200ISO 100〜32000ISO 100〜32000ISO 100〜51200
拡張ISO感度ISO 50〜204800ISO 50〜102400ISO 50〜102400ISO 50〜204800
最高シャッタースピード1/8,000秒(メカ)、1/32,000秒(電子)1/8,000秒(メカ・電子)1/8,000秒(メカ・電子)1/8,000秒(メカ・電子)
ファインダー0.5型有機EL・約369万ドット0.5型有機EL・576万ドット0.5型有機EL・約369万ドット0.5型有機EL・約236万ドット
ファインダー表示フレームレート60/120fps60/120fps60/120fps選択不可
液晶モニター3.0型タッチパネル液晶・144万ドット3.0型タッチパネル液晶・144万ドット3.0型タッチパネル液晶・144万ドット3.0型タッチパネル液晶・92.16万ドット
AF測距点数位相差693点、コントラスト425点位相差567点、コントラスト425点位相差399点、コントラスト425点位相差693点、コントラスト425点
連写最高速20コマ/秒(電子)、10コマ/秒(メカ)10コマ/秒(メカ・電子)10コマ/秒(メカ・電子)10コマ/秒(メカ・電子)
連写可能枚数361枚(L エクストラファイン)、239枚(RAW)68枚(L エクストラファイン)、68枚(RAW)76枚(L エクストラファイン)、76枚(RAW)163枚(L エクストラファイン)、89枚(RAW)
動画XAVC S、AVCHDXAVC S、AVCHDXAVC S、AVCHDXAVC S、AVCHD
動画解像度3,840×2,160・30p3,840×2,160・30p3,840×2,160・30p3,840×2,160・30p
画素加算全画素読み出しSuper 35mm時は全画素読み出しSuper 35mm時は全画素読み出し全画素読み出し
記録メディアSD×2SD×2SD+MS Duo/SDSD+MS Duo/SD
大きさ(幅×高さ×奥行き)128.9×96.4×77.5mm128.9×96.4×77.5mm126.9×95.6×73.7mm126.9×95.6×73.7mm
重さ(電池・カード込み/単体)678g/593g665g/580g657g/572g650g/565g

北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。