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ソニーα9 IIの実力をスポーツ写真家がチェック

AF性能の安定感UP α9との違いは?

α9 IIとFE 400mm F2.8 GM OSSを手にする井上さん

ソニーマーケティング株式会社は11月19日、カメラマンおよび媒体向けに都内でα9 IIの撮影性能を体験できるイベントを開催した。当誌ではスポーツや航空機写真で知られる写真家・井上六郎さんに、α9 IIによる実撮影を通してどのような感触を得られたか、カメラとしての基本性能やファイル転送による即時納品への対応についてお話を聞いた。会場の模様とともにその感想をお伝えする。

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井上六郎
いのうえ ろくろう
1971年東京生まれ。写真家アシスタント、出版社のカメラマンを経てフリーランスに。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。この4月「今すぐ使えるかんたん 飛行機撮影ハンドブック」を技術評論社より刊行。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。


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撮影性能について

体験会当日は男子チアリーディングの実演とバスケットボール(3 on3)の練習試合の2本立て構成であった。どちらも縦横の動きが激しく、井上さんはシャッタースピード1/2,000秒を中心とし撮影にのぞんでいた。

初代α9を2017年の登場間もない頃から使用してきているという井上さん。FTP転送などに代表される即時納品への対応強化が目を引くα9 IIについて、カメラ基本性能の進化についてまずお話を聞いていった。

――本日の撮影を通してみて、特に進化したと感じられた点はどのようなところでしたか?

AF性能の安定度ですね。初代α9に比べ、トラッキング性能も向上し、合焦の信頼性も増したと思います。α9自体もファームウェアのアップデートを重ねてきたことで、上向いていたのですが、状況によって秒20コマ追随にはまだ足りない面もありました。そうした点がα9 IIでは、改善されてより使いやすくなってきていると思います。

撮影:井上六郎
α9 II / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 200mm / シャッター優先AE(1/2,000秒・F2.8・±0EV) / ISO 10000

――操作面でみるとどうでしょう?

メニュー表示のレスポンスが良くなりましたね。シャッターボタン以外でよく使う操作ボタンが大きくなり、存在感を示すよう視認性の良さとともに押しやすくなっています。ただ、その分、若干ストロークが深くなったとも感じました。

撮影:井上六郎
α9 II / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 162mm / シャッター優先AE(1/2,000秒・F2.8・±0EV) / ISO 12800

――グリップも深めになりました。

α9 II単体だと間違いなく握りやすくなっています。横位置使用に限っては200-600mmクラスでも、バッテリーグリップなしでも使える印象です。ただ、400mmF2.8や600mm F4の超望遠レンズを組み合わせた場合はホールド時の重量バランスを考え、バッテリーグリップが欲しくなります。ただ、バッテリーグリップを取り付けた際、僕の手が小さいせいか、小指の収まりが、バッテリーグリップの窪みに達せず、当初は違和感がありました。

撮影:井上六郎
α9 II / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 136mm / シャッター優先AE(1/2,000秒・F2.8・±0EV) / ISO 12800

――400mm F2.8や600mm F4も使用されていましたが、超望遠でのAFはどうでしたか?

ミラーレスカメラならではの画面上でのフォーカスポイント移動、追随機能に更に磨きがかかった気がします。AFで被写体をキャッチさえできれば、迷いなく追随してくれました。ただ、場面によってはキャッチに時間を要することもあり、さらなる追い込みに期待したいものです。

撮影:井上六郎
α9 II / FE 600mm F4 GM OSS / シャッター優先AE(1/2,000秒・F4・±0EV) / ISO 12800
撮影:井上六郎
α9 II / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 200mm / シャッター優先AE(1/1,600秒・F2.8・+0.3EV) / ISO 10000

速報性という観点からの評価は

α9 IIでは5GHz帯のWi-Fiへの対応や1000base-Tによる有線LANへの対応など、通信周りが大幅に強化された。またFTPサーバーへのデータアップロード時には、撮影データにテキストをメタデータとして付加できるようになるなど、現場にいないオペレーターに対しても、“何を撮影したもので、どのような状況なのか”といった現場の情報を伝えやすくする工夫も盛り込まれている。こうした機能にはどういった印象をもったのだろうか。

――α9 IIではWi-Fiや有線LANによる転送系も強化されています。これらの機能強化についてはどうでしょうか。

昨今のプロスポーツの現場では、計測器等の通信にも必要なLAN環境が整ってきています。報道の側面で、有線LANを使うのは規模が大きい媒体組織が運用しているという印象ですね。

撮影:井上六郎
α9 II / FE 400mm F2.8 GM OSS/ シャッター優先AE(1/1,600秒・F2.8・+0.7EV) / ISO 6400

――こうした通信まわりの強化は現場からみてどうでしょうか。

僕はフリーランスで仕事を受けるかたちで参加するのですが、場合によっては何人かで集まってグループをつくって撮影を請負うこともあります。そうした場面で、近年はSNSでの発信強化のために、すぐに写真データが欲しいといった要望を主催者サイドから受けることが多くなってきています。

例えばテニスの試合の場合、ひとつの試合は3セットで組まれるんですが、その中でコートが代わる場面でしか、カメラマンはもちろん、観客も移動は許されていないんです。そういった撮影現場では、やはり複数人でチームを組んで、このセットが代わるタイミングで交代して、撮影データの受け渡しに向かうことになるんです。

ですので、Wi-Fiでの高速かつ安定した接続を目論んだのは、報道の求めに応じた結果なのだと思いますね。

撮影:井上六郎
α9 II / FE 400mm F2.8 GM OSS / シャッター優先AE(1/2,000秒・F2.8・±0EV) / ISO 4000

――納品時に撮影カットへテキスト情報が付加できるようになりましたね。

スマートフォンを介する必要はあるけれども、メニュー画面から入ってタイピングする必要のない点はメリットだと思います。

音声によるテキスト記録はカメラ側の再生画面で吹き込む仕組みとなっている
FTPサーバーにアップロードされたところ。テキスト情報が埋め込まれていることがわかる

――フリーランスとしての立場として、またこれまでのご経験からみて、これら即時納品への対応やアプリなどの状況はどのように感じられましたか?

各種スポーツイベントのオフィシャルカメラマンを務めることもあります。主催者がSNSでの情報発信が常識となった今、カメラマンの仕事が増えてしまう面もありますけれども、主催者の一員として動くような撮影案件では、こうしたワークフローを提案して効率の良さも追求すべきだと感じました。

カメラの基本性能はもちろん、性能面以外の点でも現場で使える、“プロのカメラに仕上げたい”、ということを強く感じました。この規模で体験会を開催してユーザーに伝えようとするメーカーの姿勢は、それを体現するものなのだと思います。

初代α9の体験会もバスケットボール試合を再現したものでした。今回のα9 IIも含めて、ゲーム中に不規則に動き回る選手へのAF合焦はどんなカメラでも厳しい条件だと思いますが、あえて厳しい状況を用意する姿勢は、自社製品に対する自信の表れだと感じました。

仮に得られた結果が思わしくなくとも、バスケットボールのような競技シーンでキッチリ撮れるカメラを目指している、というメーカーの意思を感じました。

本誌:宮澤孝周