20周年企画

デジタルカメラニュースの20年を振り返る/第13回(2016年)

成熟が進む一眼レフカメラ ミラーレスカメラには中判モデルが

「デジカメ Watch」がサイト開設から今年で20周年を迎えることになりました。ひとえに皆様のご愛読によるものであり感謝申し上げます。

1年ごとにデジカメ Watchのニュース記事を振り返るこの企画も、今回で折り返し点を迎えました。では、2016年の記事を紹介します。

デジタルカメラニュースの20年を振り返る
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/20th/


ソニーイメージセンサー工場が熊本地震で被災

この年の出来事として忘れられないのが、4月に発生した熊本地震です。熊本地区に工場を構える主要メーカーから、被災状況やその後の復旧について情報が寄せられました。

特にイメージセンサーの基幹工場を擁していたソニーの被害が大きく、同社はデバイス分野で通期400億円の営業損失の見込みを発表。6月から順次再開されたものの、カメラ業界に大きな影響を落としました。

ミラーレスカメラに中判の風が

この年、富士フイルムXシリーズのフラッグシップが「X-Pro1」から「X-Pro2」へとモデルチェンジしました。当時のリリースペースとしては若干遅い、約3年ぶりの更新となります。

センターファインダースタイルの「X-T1」が好調なだけに、この「X-Pro」系列の存続を心配する声もありましたが、新規の「X-Trans CMOS III」を搭載するなど、フラッグシップにふさわしいブラッシュアップぶり。ごついボディも健在で安心しました。

同じくフラットタイプの「OLYMPUS PEN-F」も記憶に残るカメラです。「OM-D」がフィルム一眼レフカメラの「OM」を、「E-P1桁」が「Pen F」をオマージュしたものとすれば、こちらはよりカジュアル層の支持を得た「Pen」。前面に設けられた「クリエイティブダイヤル」も特徴的でした。

ハッセルブラッドからは、同社初のミラーレスカメラ「X1D」が発表されています。後に1億画素CMOSセンサーを搭載する現行機種、「X2D 100C」のルーツとなった製品です。

一見すると中判デジタル一眼レフカメラ「H」シリーズの流れをくんだ見た目ですが、圧倒的な薄いボディが目を引きます。さらに新規の「Xマウント」を採用。もちろんレンズシャッター内蔵のレンズを装着でき、しかもコントラスト検出式のAFが可能というから驚きでした。

ちなみに当時、DJIがハッセルブラッドの株式を少数所持しており、両社は当時協業関係にありました。さっそくドローンでその成果物が出ています。

続いて富士フイルムも、中判ミラーレスカメラを発表。この年は後にも先もない「中判ミラーレスイヤー」だったのです。新マウントのレンズを一挙に6本発表するなど、力の入ったスタートでした。

「FUJIFILM GFX 50S」は「X-T」系を大きくしたようなスタイリングで、操作性もXシリーズを踏襲。中判という割には意外にもなじみやすいものでした。ちなみにすでにこのとき、1億画素の実現についての言及されています。

これまで富士フイルムは、フルサイズセンサー搭載モデルを投入することなく、APS-Cセンサーでミラーレスカメラをラインアップしてきました。今後はGFXとXの2本柱でミラーレスカメラを展開することになります。

その富士フイルムですが、ヒットモデル「FUJIFILM X-T1」の後継機「FUJIFILM X-T2」も発表。とにかく勢いに乗っていました。

同社がこのモデルでアピールしていたのは、連写中のブラックアウト時間の短縮です。当時、ミラーレスカメラの進化が進むほどに、ブラックアウトや表示遅延が取り沙汰されていました。本格的に動体性能を追求する姿勢が見られた製品といえます。

後発ながらぐっとシェアを拡大していたキヤノン「EOS M」シリーズに、ようやくEVF搭載モデルが登場します。「EOS M5」がそれで、加えてデジタル一眼レフカメラで定評のある「デュアルピクセルCMOS AF」を搭載。そのため、このモデルから像面位相差AFのみでの測距となっています。

ソニーはこの年、APS-Cセンサー搭載のミラーレスカメラのうち、フラッグシップとなる「α6500」を発表しました。この時点でフルサイズセンサー搭載モデルの「α7 II」系に続き、ボディ内手ブレ補正を実装。グリップが大きくなりEVFを内蔵するなど、現在のAPS-Cαに近くなってきました。

さらに同年11月、オリンパスがフラッグシップモデル「OM-D E-M1 Mark IIを」発表。2013年の「OM-D E-M1」の約9コマ/秒から約18コマ/秒へと連写速度がアップ。有効画素数も他社同クラスと並ぶレベルの2,037万画素になるなど、大幅なスペックアップを見せています。シャッターボタンの半押しから記録を始める「プロキャプチャーモード」の搭載もこのときから。120fpsのEVFにも見られるとおり、レスポンスや操作感にもこだわりました。

主力級の発表が相次ぐデジタル一眼レフカメラ

この年、年明け早々にニコンから「D5」「D500」が発表されています。この2機種のインパクトは大きく、「ミラーレス勢にプロ・ハイアマ市場は渡さない」との決意表明にも感じられるものでした。

フラッグシップの「D5」は、拡張ISO 3280000、153点AF、約12コマ/秒連写、4K UHD動画記録など、ミラーレス勢へのカウンターパンチともいえる強力なスペックを繰り出してきました。購入時の対応メモリーカードスロットをXQDダブル、またはCFダブルから選べるようにしたのも新機軸です。背面モニターへのタッチパネル採用も、当時のプロ機としては目新しいものでした。

一方の「D500」は、長らく待ち望まれていた「D300S」(2009年)の正統的な後継モデル。APS-Cモデルの最上位機という位置づけで、「D5」と同等のAFシステム、約10コマ/秒(ファインダー時)の連写性能を実現。XQDとCFのダブルスロットを搭載するなど、どちらかといえば高速性能を売りとしていました。キヤノンでいえば「EOS 7D Mark II」(2014年)に近い思想といえます。

ニコンの「D4」に続いて、キヤノンもプロ機の「EOS-1D X Mark II」を投入します。「デュアルピクセルCMOS AF」や約14コマ/秒(ファインダー時)の連写など、こちらも動体性能に振ったスペックです。映像処理エンジンは「デュアルDIGIC6+」。4K60P動画記録への対応や、「D4」と同じくタッチパネルを採用するなど、プロ機の世界も世代が順当に更新された印象を受けました。

さらにキヤノンは、APS-Cの2桁ミドル機もモデルチェンジします。「EOS 80D」は、2桁機としてついに視野率100%のファインダーを獲得。もちろん「デュアルピクセルCMOS AF」を採用するなど、これまで集積してきた機能を網羅してきました。「EOS 7D Mark II」が動画に全振りしたようなスペックだったので、自然風景やスナップなどを嗜好する層に適したモデルだったといえます

そしてついにPENTAXブランドから、フルサイズセンサー搭載のデジタル一眼レフカメラが正式発表されました。その名も「K-1」。昨年後半からティザー広告を更新し続け、ついに正式発表にこぎ着けました。

ローパスフィルターレスの有効3,640万画素CMOSセンサー、視野率約100%・倍率0.7倍のファインダーなどをはじめ、フラッグシップだけに装備はさすがに豪華。重厚感ある外観も、ペンタックスらしいと評判でした。

特徴的だったのが背面の3.2型液晶モニター。4本のステーにより、これまでにない自由度の高い角度調整に対応するという新機軸になります。

ここ数年、レンズ一体型の「dp Quattro」シリーズに注力していたシグマでしたが、ここにきてレンズ交換式の「sd Quattro」「同H」を発表。これがSAマウントを採用するデジタル一眼レフカメラというから驚きです。ミラーレスカメラで新マウントに参入するよりも、既存のレンズラインアップを生かす道を選んだということで、「SD1」「SD15」などのユーザーも納得していたかと思います。

一眼レフ機構を採用したとはいえ、そのスタイリングは独自性の高いもの。いま見ても強烈なインパクトがありますね。10万円を切る価格にも驚かされました。

手を緩めることなく、キヤノンは8月に「EOS 5D Mark IV」を発表しました。フルサイズセンサー搭載のミドルクラスとして定番ともいえる「EOS 5D」系列の最新モデルです。2015年発表の「EOS 5Ds」「EOS 5Ds R」とは別ラインの製品となり、純然たるフルサイズミドルクラスを受け持ちます。同じく定番の「EF24-105mm F4L IS USM」もII型となり、両者を組み合わせたキットも用意されました。

このモデルはその後も長期にわたってEOSデジタルの中核を担います。現在も現行機種です。

幻に消えた超広角ズーム搭載コンパクト

この頃になると高級コンパクトデジタルカメラの分野で若干影が薄かったニコンですが、この年には1型センサーを採用する「DL」シリーズ3モデルを発表。カメラ好きが喜びそうなスタイリングや装備が注目されました。

特に話題になったのが「DL18-50 f/1.8-2.8」です。超広角18mm相当からのズームレンズを登載するというチャレンジングな製品で、発表当初からファンの期待を集めました。

しかし同年6月、画像処理用ICに不具合が見つかったことから発売を延期。さらに翌年にはデジタルカメラ市場の減少を受け、発売の中止が告げられました。こうして1型センサーの超広角ズームのコンパクトデジタルカメラは幻となり、現在までも製品化はされていません。その後、スマートフォンの世界で超広角レンズが流行することになりますが……

パナソニックのAndroidカメラが2世代目に

2014年に話題を呼んだパナソニック「LUMIX DMC-CM1」が、この年にモデルチェンジしています。新モデル「LUMIX DMC-CM10」では通話機能が省略され、より純然たるカメラへと近づきます。さらに限定販売を解除、専用回線プランを用意するなど買いやすくなりました。

とはいえその後のスマートフォンのカメラの進化も早く、そのせいかこのシリーズは本機で打ち止めとなりました。1型センサーを搭載していたことから、複数レンズのブームに乗れきれなかったのが敗因でしょう。この製品の意思を受け継ぐ「Leitz Phone 1」「AQUOS R7」「Xperia PRO-I」が登場するのは、2021年になってからです。

ニコンが送りだした360°アクションカメラ

ニコンがアクションカメラを出していたのをご存じでしょうか。この年発表された「KeyMission 360」「同170」「同80」がそれです。それぞれの数値は、焦点距離ではなく画角を表します。

中でも「KeyMission 360」は、アクションカメラにして4K UHDの360°記録が可能です。すでに「RICOH THETA」が2013年に発表されており、全天球画像へのニーズが定着してきた時期でもありました。製品化できたのは、当時ニコンが展開していたスマートフォンへの自動転送アプリ「SnapBridge」の存在もあったからでしょう。

同様のコンセプトを持つ「GoPro Fusion」が登場するのが2年後の2018年でしたから、いま思うと多少時代を先取りしすぎたのかもしれません。

MFレンズをAFに……電動ヘリコイド内蔵のマウントアダプター

ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7」シリーズが徐々に浸透する中、再び活性化してきたのがマウントアダプター業界です。マイクロフォーサーズやAPS-Cのミラーレスカメラが出た頃と違うのは、中国系のメーカーが市場で目立っていたこと。さらに、今までにない付加価値を持つ製品が話題になりました。

特に、この年発表されたTECHARTの「LM-EA7」は、ライカMレンズをソニーEマウントカメラでオートフォーカスさせるという登場。本来マニュアルフォーカスでしかピントを合わせられないライカMレンズ、それをオートフォーカス化できるという夢のような製品でした。最短撮影距離を短くするため、内部にヘリコイドを設けたマウントアダプターはそれまでにもありましたが、そのヘリコイドをモーターで前後させるという発想です。

当初は合焦速度も遅く実用的とはいえなかったものの進化を重ね、現在、AF対応マウントアダプターは市場に受け入れられていきます。

Peak Design「エブリデイバックパック」がお目見え

人気のカメラバッグ、Peak Designの「エブリデイバックパック」がこの年に発表されています。すでにカメラ保持アイテムの「キャプチャー」やストラップ取り付け具の「アンカーリンクス」で人気のPeak Designでしたが、バッグ製品の分野では無名といって良い存在。クラウドファンディングを通じての開発だったようです。特徴の1つである折り紙のような中仕切り板も、この頃すでに実現していました。

出先でのバックアップ用ストレージはHDDからSSDへ

出先でのバックアップ用途などでプロから支持を得ているSanDiskの「Extreme ポータブルSSD」シリーズですが、最初の製品がこの頃に登場しています。容量480GBでインターフェイスはUSB 3.0。

当時のバックアップ手段といえばポータブルHDDが全盛の時代でしたが、速度と信頼性、薄さなど面から、徐々にこの手の製品へとニーズが移っていきました。

立ち上がりだした個人向けNAS市場

この頃からコンシューマーに浸透し始めたのがNASです。それまでにも存在していましたが、扱いづらさや価格の面から、法人向けというイメージが強かったのです。それを打ち破ったのがSynologyの2ベイ製品でした。導入しやすい価格と専用OSによるインターフェイスで、カメラユーザーからも一定の支持を得ていきます。

Photoshop「コンテンツに応じた切り抜き」がもたらした衝撃

現在に至るまでの覇権レタッチソフトが「Photoshop」。この頃、すでにサブスクリプション化した「CC」に切り替わっており、この年発表されたのが「コンテンツに応じた切り抜き」でした。

傾き補正自体は古くからありますが、この機能では補正した後に失われる周囲のスペースを自動で補完するという有能ぶり。このあと「Adobe Sensei」から「Adobe Firefly」へと進化する道筋の入口に立っていたといえます。

本誌:折本幸治