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オリンパス中国工場レポート(前編)

~Zuiko DigitalレンズやE-510用パーツを製造するシンセン工場

 2002年、オリンパスは中国広東省の深セン市深セン経済特区(以下、シンセン)と広州市番禺区(以下、パンユウ)という2つの区域に、デジタルカメラ工場を新たに展開した。それは同社が、デジタルカメラの生産拠点を日本から国外である中国へ移動させるという、未来を見据えた新たな生産計画の第一歩だった。


レンズ生産と部品製造を担当するシンセン工場 デジタルカメラの組み立てを担当するパンユウ工場

 オリンパスは現在、中国の2つの工場に、仕事を分割して割り振っている。シンセン工場はデジタルカメラ用の部品製造とデジタル一眼レフ用交換レンズの部品製造から組み立てまでの一貫した生産、そしてパンユウ工場はコンパクトデジタルカメラとデジタル一眼レフカメラボディの組み立てという役割分担である。それは決して2つの工場を分断するためのものでなく、2つの工場を連携させて効果的な生産を実現させるための手法だという。

 同社が「DI(デジタル・イメージングの略)」と呼ぶデジタル式のカメラ製造の本格的な海外進出を始めてから、すでに5年が経過している。2つの中国工場はコンパクトデジタルカメラ製造で経験を積み、「E-330」や「E-500」などのデジタル一眼レフを作り上げてきた。そして、従来のカメラと比べるとパーツ同士の集積度が段違いに高い「E-410」の製造をやり遂げた。


E-510の組み立てを担当するパンユウ工場の女性従業員
 これに続いて、7月に発売される同社初の撮像素子シフト式手ブレ補正機構を搭載する「E-510」の製造も始まっている。その現場の様子をレポートする。

 なお、このページに掲載される写真はすべて、取材先であるオリンパス中国工場で試作されたデジタル一眼レフカメラ「E-510」のβ機で撮影した。蛇足であるが、かの地では、「オリンパス」は「奥林巴斯」という漢字で表記されている。


シンセン工場の概要

7月に発売のデジタル一眼レフカメラ「E-510」。オープンプライスだが、店頭販売価格は約11万円前後の見込み
 オリンパスの海外生産拠点の1つ、レンズ製造とデジタルカメラ用パーツの製造を担当するシンセン工場は、香港特別行政区からフェリー、鉄道、高速道路で結ばれるシンセン経済特区に建てられた。シンセン市は、世界の主要都市と多くの航空ネットワークを有する香港、24時間行き来が可能という大きなメリットを持つ。実際、海外からの訪問者にとってのこの地方への入口が香港となる場合が多い。現地では通貨は人民元が用いられ、香港と比べれば物価と人件費は比較的安い。なお、工場内では中国普通語(プゥートゥン・フア)が公用語として用いられている。

 シンセン工場は1992年12月に設立された。パンユウ工場がカメラ本体の組み立て業務が主流であるのに対し、シンセンでは技術開発と高付加価値部品の製造が主流となっている。年間生産能力は、デジタル一眼レフ用交換レンズが100万本、コンパクトデジカメのレンズユニットが2,000万個となっている。


シンセン工場全景。敷地内にはライチの木が植えられている 従業員の通勤支援などに使用されるバス

シンセン工場はEシステム用の交換レンズのうち4本を担当している
 シンセン工場の主な業務は、パンユウ工場で組み立てるデジタルカメラ用部品の製造、レンズ部品の製造と組み立て、金型の設計と製作、さらにデジタルカメラの製造技術開発や試作品の製造などだ。デジタルカメラなどハンドメイドで行なわれる初期の試作といった開発業務は日本で行なわれるが、機械を使用した試作も含めた製造業務の立ち上げ、量産品への追い込みはシンセンで行なわれる。

 2007年のデータでは、シンセン工場の敷地面積は10万2,255平方m、従業員数が9,606人、主な生産品目は「デジタルカメラ用交換レンズ」、「デジタルカメラ用の部品」、「コンパクトデジタルカメラ用の部品」などとなっている。

 現在、シンセン工場では、デジタル一眼レフ専用のスタンダードレンズが製造されている。それらは「Zuiko Digital ED 14-42mm F3.5-5.6」、「Zuiko Digital ED 40-150mm F4-5.6」、「Zuiko Digital ED 17.5-45mm F3.5-5.6(現在は海外専用モデル)」、「Zuiko Digital 35mm Macro」の4本だ。E-410の売れ行きが予想以上に好調なため、レンズキットに同梱されるZuiko Digital ED 14-42mm F3.5-5.6 とZuiko Digital ED 40-150mm F4-5.6の2本のレンズは増産がかかっている。特にZuiko Digital ED 14-42mm F3.5-5.6 は大増産中で、5月末現在は製造ラインが通常の2倍に増やされている。


デジタル一眼レフ用交換レンズは最高レベルのクリーンルーム内で組み立てる
 レンズユニット製造では、レンズの研磨から組み立てまで一貫した生産が行なわれている。研磨機械は日本製で、モールド成形用ペレットや研磨剤などの消耗品の一部は日本と同じ機能をもつ中国製を使用し、従業員はすべて中国人。まさに日本と中国の合作である。実際、レンズの鏡枠などの開発・設計は日本側の責任で行なわれるが、射出成形される製品の金型は設計から製造まですべて中国側の責任で行なわれている。


 シンセン工場は、現在のところ「Zuiko Digital ED 300mm F2.8」のようなスーパーハイグレードレンズやハイグレードレンズの製造は担当していないが、それは研磨技術や作業精度だけの問題ではない。同レンズ群は耐久性を出すために多くの金属パーツを採用している。そこで、中国はスタンダードレンズという大量生産に向いたレンズを製造して、日本では少量生産レンズを製造するという役割分担ができあがっている。

 ただし、中国人リーダーの1人である載(ダイ)氏は「いつの日か中国で最高レベルの製品である受注生産レンズを担当できるようになりたい」との夢を語ってくれた。


まだ時期が早く青いがすぐに赤くなるライチの実。真っ赤に熟すと社員食堂で無料配布される レンズ工場内の池には魚が住み着き、それを狙った野鳥も飛来する

工場責任者へのインタビュー

シンセン工場の製造現場のリーダーたち。左が川辺氏、中央が載(ダイ)氏、右が邱(キュウ)氏となっている
 オリンパスは、1990年代より中国のフィルムカメラなどの製造を開始していた。しかし、2002年を境にそれまで日本国内でしかできないと思われていたデジタルカメラ製造の拠点を、中国本土へと移動した。日本と中国ではかなり環境も異なるので苦労も多いはずだ。

 小松OHC(Olympus Hong Kong and Chinaの略)副総経理、沖村シンセン製造本部長、川辺副部長、中国人リーダーらの工場を代表する立場の人々に、特にデジタル一眼レフ製品製造に関する話を聞かせてもらった。


交換レンズ製造へは、可動部へのグリスの塗り方1つにもにこだわる邱(キュウ)氏、中国オリンパスの創業時からのメンバーの1人
 オリンパスが中国で事業を立ち上げた頃から同社に在籍するベテランであり、OHC技術部門の副本部長である邱(キュウ)氏は語る。「ズームやピントを手動で操作するデジタル一眼レフ用の交換レンズだけに、製造時に製品の操作性の向上に努めています。可動部のグリスの選択や塗る量によって使用感が大きく異なりますので、ユーザーが満足できる使用感を出せるように研究を重ねています。我々は従業員たちに自らの作業の意味を理解できるように十分な教育を施して、五感のすべてを駆使して製造・検査を行なうように指導しています。製造ライン中に、従来以上に多くのチェックポイントを増やして製造の初期段階の品質保証に努めています。これは一見時間がかかって無駄に思われるかもしれませんが、全て組み上がった後に不良が発覚するよりははるかに効率が良いのです」。


デジタル時代に対応するために、写真教育は意識改革から始めたという中国人スタッフの載(ダイ)氏
 シンセン工場は歴史が長く、フィルムカメラをメインに作っていた時代もある。しかし、デジタルカメラ時代となって、あらゆる作業への対応や速度がとても速くなり、従業員達の意識を改革する必要があった。こう語るのは流暢な日本語を話す載(ダイ)氏だ。

 「Zuiko Digital ED 14-42mm F3.5-5.6の製造を準備し始めた頃はデジタル一眼レフ用交換レンズの製造というプレッシャーから、少し心配もありました。しかし。実際に製造を開始してみると組み立て不良もなく、予想を遙かに超え得る成果を喜びました。ただ、検査工程の授業員たちの目が良すぎることから、基準値を遙かに下回る小さな問題まで発見してしまうので、気を付けないと過剰品質となってしまうという、まったく予想しなかった問題が発生したのには驚きました。せっかく約1万人以上の従業員がいるのだから、彼らの智恵を活用しないのはもったいない。苦労したが今では従業員たちのモチベーションも高く、年間生産台数100万台も決して得難しい目標ではありません」。

 かつて日本で研修を受けた経験をもつ彼は、試作機の評価に参加するだけではなく、シンセン工場の製造部門の責任者であり、中国人従業員達のマネージメントを担当する立場にある。あの手この手で従業員達のやる気を引き出し、忙しいスケジュールの合間をぬって月に1度はライン製造現場の従業員たちとのコミュニケーションをはかっているそうだ。


小松OHC副総経理
 小松OHC副総経理は、「現在はほとんどの中国人従業員が製造を担当していますが、ゆくゆくは幹部以外でも日本での開発にも参加できるレベルに達すると考えています。中国人と日本人の間に壁を作ることは考えていません」と語った。

 一方、沖村本部長は、「実際、レンズ研磨技術者として中国でもマイスタークラスの人材が現れてくれないと困るのです。シンセンでも日本で行なわれたレンズ研磨大会で第2位を取った人材もいるのです。これからが楽しみです」とも付け加えることも忘れなかった。

 マイスターとは、オリンパス社内で特級クラスの研磨技術をもつと認められたごく一部の従業員に与えられる称号で、具体的には受注生産レンズの中でも最高のテクニックが要求されるZuiko Digital ED 300mm F2.8の前玉レンズを研磨することが許された、選ばれた者達のことだ。このレンズの前玉は、東京ドームほどの大きさに拡大したとしても、研磨誤差は髪の毛1本以下という精度が達成されているという。


沖村本部長
 話を聞いていると、中国人リーダーたちが揃って口にするのは「質の高い製品の製造現場で一番大切なのは、機械よりもそれを扱う人間の質」ということだ。言われたことだけを機械のように繰り返すようでは困るというのだ。例えば、ライン製造現場の従業員こそ作業上の多くの改善点に気づいているはずだという。ならば、そのアイデアを集めたり、現場レベルで検討してもらってオリンパス製品の品質の向上に努めてもらいたいのだそうだ。


社員食堂で食事中の従業員達。平均年齢は21歳。ほとんどが女性 社員食堂のメニュー。ニンニクの芽と豚肉の炒め物や、セロリと骨付き豚肉の炒めものだ。ご飯も付いて食事代は1食2.5~3.5元

工場の製造現場を訪問

 工場のデジタルカメラの部品の製造の現場は、レンズの研磨とプラスチック部品の射出成形に分かれる。射出成形作業は製造されるパーツの色によって分けられる。黒いものはクリーンルームの外で製造され、汚れの目立つ透明のものはクリーンルーム内で製造される。なお、一部のコンパクトデジタルカメラのレンズやデジタル一眼レフのファインダーのレンズも、射出成形技術で製造されたものだ。


射出成形されたプラスチック部品は自動機械で製造される プラスチック部品の仕分けや検査は人間が行なう

射出成型用の金型を整備中

 レンズ研磨は、ラインに載せられた硝材の形を整える「球面研削(荒削り)」→ダイヤモンドペレットで1回目の研磨となる「精研磨(スムーシング)」→ダイヤモンドペレットで2回目の研磨を行なって仕上げとなる「研磨(ポリッシング)」→レンズ形状を円形に削る「心取り(センタリング)」という順序で行なわれる。これはデジタル一眼レフ用交換レンズでもコンパクトデジカメ用のレンズでも変わりはない。

 レンズ研磨作業の内容は日本と同様だが、中国の気温や湿度が影響して研磨したレンズの劣化(化学反応)は日本以上に早いので、研磨後のレンズ(特にEDレンズ)の放置は厳禁だ。すぐにコーティングを行なって空気と硝材の接触を断つ必要がある。


球面研削用機械の全景 加工を待つ硝材

写真中央で自動機械が球面研削作業中。最近では人間が手作業で研磨を行なうことはまずない 精研磨の作業風景。研磨は機械が担当し、従業員はレンズの差し込みや取り外しを担当する

原器と照らし合わせて曲率の確認を行なう 最終段階にあたる研磨作業の風景

レンズの裏面研磨用のペレット レンズの表面研磨用のペレット

研磨が終了したレンズは作業員が手作業で取り外す半自動式 「洗浄カゴ置場」。研磨後のレンズはしっかりと洗浄されてからコーティング作業場へ運ばれる

研磨作業の全行程が終了したレンズの最終検査 研磨したレンズにコーティングする前の検査。乱反射対策だけでなくレンズ腐食の防止効果もある

検査後、大量のレンズを機械に並べてコーティングが蒸着される

 デジタルカメラの部品の組み立て場所は、可能な限りクリーンである必要がある。製品の中に塵、埃、ゴミがある一定以上に混入してしまうと不良品となって市場へ流せなくなってしまうからだ。

 開発・技術・購買・品質本部の川辺副部長によれば、シンセンのクリーンルームは1立方フィート内に塵や埃が1,000個までに抑えられた一般的な組み立て室、300個までに抑えられたデジタル一眼レフ用交換レンズ組み立て室、50個までに抑えられたデジタル一眼レフ用レンズ鏡枠へのレンズの落とし込みを行なうなどの一部の環境、という3レベルで仕切られている。


 「デジタル一眼レフ用交換レンズにはコンパクトデジカメ用レンズと比べると1ランク高いクリーンルームが必要です。なぜならレンズ内に混入してしまった塵や埃がとても目立つからです。実際に撮影には影響のないレベルの塵や埃であっても、日本のユーザーはレンズへの混入を許さない質の高い目をもっています。そんな高レベルなニーズに答えるために、空気中に浮遊するゴミを徹底的に排除しました」。

 工場内で研磨されて完成したレンズは、鏡体内部に組み込まれる前にレンズ外枠を黒く塗られる。その後レンズ同士の結合(レンズの貼り合わせ)が行なわれて、本格的な組み上げに入る。

 組み上げられた交換レンズは、シンセン工場で梱包されて香港の流通センターを経て、世界中へ輸出される。そして、デジタル一眼レフのレンズキットに同梱される製品、デジタル一眼レフカメラ用のパーツ、コンパクトデジタルカメラ用のパーツなどは、高速道路を利用して組立を担当するパンユウ工場へと送られる。


レンズ組み立て風景。従業員は立ったままラインを作る。部品が流れ作業で1つのボディに集約される 1つのパーツになったレンズ部品

レンズの電子部品のハンダ付け Zuiko Digital ED 14-42mm F3.5-5.6の鏡枠に青いラインを張り付ける作業

絞りユニットを製作中。絞り羽根をピンセットで組み上げる 組み立て工程のほぼ最後にレンズに前枠を付ける

作業員が耳をあてて、絞りの動作状態を開け閉めの作動音で確認する ズームリングを動かしてレンズ内の混入物がないかチェック中

 次回は後編。オリンパスのもう1つの海外生産拠点、デジタルカメラの組立を担当するパンユウ工場で、E-510が組み立てられる様子をお届けする。

 パンユウ工場は、シンセン経済特区から高速道路で約1時間の距離にあり、シンセン工場で製造されたパーツを組み立ててE-510などのデジタル一眼レフのボディを製造する。

 ~後編はこちら



URL
  オリンパス
  http://www.olympus.co.jp/
  オリンパス E-510 関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/03/12/5812.html
  製品情報
  http://olympus-esystem.jp/products/e510/

関連記事
オリンパス中国工場レポート(後編)(2007/06/07)


( 本誌:織原 博貴 )
2007/06/06 02:07
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