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岩下 知徳取締役(左)とカメラ開発センターの大原 経昌副所長。大原副所長に関する記事も後日掲載予定
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日本でも発表直後からさまざまな話題を振りまいているキヤノンのEOS Kiss Digital N(Kiss D N)。
その発表会に出席後、すぐにオーランドに出発したというキヤノン取締役、イメージコミュニケーション事業本部 副事業本部長の岩下知徳氏に、昨年秋のPhotokina 2004に引き続いてデジタルカメラ市場の展望について、米国オーランドで開催中のPMA 2005会場で話を伺った。
■ Kiss D Nでは一眼初心者と女性ユーザーの開拓が目標
Kiss D Nは前モデルで不評だったポイントをことごとく克服した上、小型軽量化も達成。Kissが元々持っていた気軽に撮影できる自動機能と、中級ユーザー以上が求めるマニュアルでの各種設定変更といった要素も盛り込まれている。ボディの質感も、材質が変更されていないにもかかわらず、手に取るとハッキリわかるほど向上していた。
--国内での発表会、筆者自身は米国への渡航のため出席できなかったが、発表会、その後の反応などをどのように感じ取っていますか?
岩下 もちろん、毎回、自信を持って商品を発表していますが、今回は予想以上に注目を集めていただけたと喜んでいます。非常に広くさまざまな分野の皆様から注目していただきました。印象的だったのはカメラ業界紙だけでなく、一般の雑誌や女性誌などからも質問を頂いたことです。あぁ、やっと本当の意味でKissになってくれた。こういう市場の広がり方、製品と捉えられ方がKissなんだと。これまでの一眼レフデジタルカメラとは異なる層からの反応の大きさに手応えを感じました。
初代のKiss Digitalが登場した頃、まだ一眼レフデジタルカメラは高価な製品で、それまで銀塩の世界で一眼レフカメラを使っていたユーザーも、価格が安くなった事でKiss Digitalに飛びついた。むしろ銀塩における“Kiss”のユーザー層よりも、まだデジタルの世界に飛び込んでいないアマチュアカメラマン層の方が多かったかもしれない。
--そうした観点からすると、今回の製品ではじめて、ローエンドユーザー層に直接訴求できる市場環境が出来、そこに直接訴求できる製品を作ることができたのかもしれませね。
岩下 Kissブランドと言えば、やはり女性や初心者のイメージが強いのですが、実は初代モデルの女性ユーザーは、全体の1割だけでした。銀塩のKissの場合、3割以上が女性で、特に主婦層への浸透が高い商品です。今回は市場環境もより成熟してきましたし、小型軽量化も達成したことで、本来の初心者や女性にも買っていただける製品になったと考えています。
--初代Kiss Digitalは女性比率が低かったとのことですが、カメラに対する理解度という意味では、どのようなユーザー層が多かったのでしょう。
岩下 製品アンケートで自分の一眼レフ経験について、初級、中級、上級と3段階に自己申告していただく項目があります。そのデータによると、やはり初級者が圧倒的ですが、半分を少し超える程度だったと記憶しています。中級ユーザーもかなりの割合に達しました。しかし今回の新製品では、初級者の割合がより増えて来るでしょう。
■ Kiss D Nと20Dの市場はきちんと棲み分けるだろう
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PMA 2005でのキヤノンブース
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中級ユーザーも多かったという初代Kiss Digitalは、しかし初級者が簡単に使える事を強く意識していたこともあり、撮影の自由度を意図的に低くしてユーザー操作の選択肢を減らすアプローチが取られていた。このため、中級者ユーザーからはマニュアル機能の充実を望む声が大きかった。それに対してもKiss D Nはキッチリと応えている。しかし、最も大きな違いは、レリーズ時のレスポンスなどユーザーが撮影時に体感するさまざまな要素がレベルアップしたことだ。感覚的にはEOS 10Dを思い起こす。
--機能面での充実はともかく、ここまで感覚的に進化するとマニュアル露出の操作性に拘るユーザー以外は、価格面で20DよりもKiss D Nを選ぶ中級ユーザーも増えるのではないでしょうか?
岩下 デジタル製品は時間と共に猛烈に進化するものです。これは銀塩時代との大きな違いでしょう。時間と共に技術全体のレベルが向上しているため、後から発売したKiss D Nの性能が上がっている事は確かです。操作系などターゲットとするユーザーが異なる事で変わる要素はありますが、感覚的なところでEOS 10Dと同程度と言われると、確かにそこまで到達することはできているでしょうね。
しかし20Dの市場を侵食するか? と問われると、それはあまりないでしょう。もちろん、一部に20Dを購入しようと考えていたユーザーがKiss D Nに流れる事はあるでしょうが、20Dの売り上げに大きく影響することはないと思います。またKiss Digitalが発売前にやや10Dの買い控え感がありながら、発売後はまた10Dの売り上げが回復した経験もあります。今回も中級機との差別化はキッチリと行なえています。
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EF-S60mm F2.8 マクロ USM
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--価格面を見ると昨年末からかなり値を下げていた初代Kiss Digitalが、今回の新製品で回復するようです。これは意識的に過度な価格競争を避ける意図があるのでしょうか?
岩下 いえそれはありません。今回、発表会ではボディ単体で10万を切りますと、キヤノン販売の方から話しがありました。確かに初代Kiss Digitalの価格はここ数カ月、軟化していました。しかし、モデルサイクルの末期で価格が軟化するのは自然な流れです。初代モデルが市場に投入された時、実勢価格は12万円程度でしたから、今回の10万円という設定は2万円程度安くしたと捉えていただければと思います。
--初代Kiss Digitalの生産は、日本と台湾で半分づつ生産し、国内向けは日本で100%カバーする形だったようですが、今回のモデルも生産拠点に関する変更はありませんか?
岩下 Kiss D Nに関しては100%が大分工場で製造されます。これは海外分も含みます。生産キャパシティも月産13万台体制ですから、十分に国産品だけで需要をカバーできるでしょう。大分は新工場も追加し、生産キャパシティが大きく増えており、今後も拡充していく事になっています。
--EF-Sレンズの今後の展開についてはいかがでしょう? 今回、60mmのマクロレンズが登場しましたが、今後、1.6倍焦点距離の製品向けにEF-Sを積極的に展開していくサインでしょうか?
岩下 いえ、現在も我々はセンサーサイズを用途に合わせて選択するという考え方は同じですし、APSフォーマットに対してのみレンズ開発のリソースを投入する事もありません。キヤノンのレンズはEFマウントが基本です。EF-Sマウントのレンズは、1.6倍焦点距離では不便になってしまう焦点域のレンズをピンポイントで提供していきます。それは超広角ズームであったり、今回の35mmフィルム換算で90mmのマクロレンズだったりですが、レンズ開発の主流がEFマウントであることに変化はありません。
■ キヤノン流、市場の拡げ方
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EOS-1D系、20D系、Kiss系で構成される三つのレイヤ(日本でのKiss Digital N発表会におけるプレゼンテーション)
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--昨年のPhotokinaで、3つのレイヤに分かれているユーザーピラミッドのそれぞれに強力な製品を投入することで市場をカバーできると話していました。今回の製品で各レイヤの製品が入れ替わり、新しいシリーズラインナップが完成したことになります。ではこのユーザーピラミッドのレイヤは、まだ増えることはないでしょうか?
岩下 プロ、ハイアマチュア、一般ユーザーの3レイヤは、今後もしばらくは変わらないでしょう。この3層を維持したまま、まだまだ市場を拡大していくチャンスはあると思っています。もちろん、3層と言っても時々によって適した製品は変化するでしょうが、現時点では最適で強力なラインナップだと考えています。
ただユーザーピラミッドだけに拘っているわけではありません。ピラミッドだけではカバーできない用途をカバーすることで、より市場を大きくしていくことが可能だと考えています。たとえば先日発売したEOS 20Dの天体写真モデル(EOS 20Da)ですが、これは天体写真の専門家から“キヤノンのCMOSは赤外の感度がきちんと出ているので、天体写真にはとても良い”と言われたのがきっかけでした。
--どちらかと言えば、ユーザー層の真ん中ストライクに売れ筋の製品をラインナップするというイメージが強いキヤノンが、天体写真というニッチ市場に向けて製品を出したのは意外でした。出荷ユニットの管理などを考えると、事業としては成り立ちにくいように思いますが、どのような考えで天体写真モデルを発売したのでしょう。
岩下 カメラがデジタル化すると、ソフトウェアと若干の仕様変更で、様々な特定用途のカメラにカスタマイズ出来ますから、こうしたユーザー層の拡大は市場を拡げる上で重要な事だと捉えています。確かに、まだ事業として利益が出る製品ではありません。しかし、今回は市場拡大の手法を探るトライアルとして発売を決断しました。天体写真用モデルの発売で、どのようにすれば効率的に細かなユーザーニーズに応えられる製品を用意できるのかを学習していきたいと考えています。
--つまり、天体写真モデルをモデルケースとして、今後、中心ユーザー層とは異なる個別のユーザーニーズに応じる製品を拡充することで市場のパイを拡げていく、ということでしょうか?
岩下 我々のデジタル一眼レフカメラの拡販は、ローエンドユーザーの裾野を拡げて行くことが基本です。その上で、通常のラインナップではカバーできない用途に向けてモデルの幅を拡げて行きます。天体写真モデルについて話しましたが、これはEOS-1Dsにも言えることです。1Dsはそれまで35mmフィルムカメラが使われていなかった、スタジオ写真館でも使われています。これら両方を同時に推し進めていきます。
■ デジタル一眼レフカメラ市場の過熱とソフトランディング
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PMA 2005 キヤノンブースの様子
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デジタルカメラに限らず、市場があまりにも過熱しすぎると、製品進化や市場拡大が鈍化しはじめたとたんに、反動で予想以上の冷え込みが起こるものだ。国内のデジタル一眼レフ市場を見ると、やはり一気に“過熱”しすぎている印象も受ける。
--各社、矢継ぎ早の製品投入でやや過熱気味とは言えないでしょうか? その反動が現れる可能性もあるかもしれません。
岩下 私は2つの仮説を持っており、それが正しければ、まだ当面は問題が顕在化しないだろうと考えています。まず、銀塩一眼レフカメラはコンパクトカメラ市場の10%程度のサイズでした。そのレベルには全く届いていませんから、まだまだ市場拡大の余地はあるだろうと捉えています。もうひとつはコンパクトカメラ市場との時間差です。デジタル一眼レフカメラ市場は、コンパクトデジタルカメラ市場の2年あとを追いかけている、というのが私の印象です。確かに現在、コンパクトデジタルカメラ市場は成長にブレーキがかかっていますが、2年の時間差を考えるとデジタル一眼レフカメラにブレーキがかかるのは、まだ2年ぐらい先の事です。
しかし2年後に市場にブレーキがかかる可能性があるならば、今から何らかの対策、計画を立てて行く必要があるでしょう。どんな市場でも、いつかは成長がフラットになり、いずれは縮小していく。
--そのカーブをなるべく緩やかなものにするソフトランディングのための“仕込み”は今から考えなければならないのでは?
岩下 これまでは、市場に投入すればどんな製品でも売れました。しかし、今後は売れるものしか売れなくなるでしょう。コンパクトデジタルカメラ市場では、すでにそのような傾向が強まっています。何でもかんでも、全方位的製品を開発して発売するのではなく、必要とされる用途を選択し、開発リソースを集中させ、より魅力ある製品を作る事に力を注ぐ必要がありますね。
そうして、きちんと売れるモデルで製品ラインを構成した上で、天体写真モデルやEOS-1Dsのように特定用途でのニーズに合わせてアレンジした製品を提供していきます。このように用途の幅を拡げ、多様な使われ方にも追従できるようにすることで、少しづつでも市場を拡げていければ、(徐々に成長が鈍るとしても)ソフトなランディングが可能ではないかと考えています。
■ コンパクトカメラ市場の展望
--コンパクトデジタルカメラに目を向けると、日本では大型液晶と手ぶれ補正機能を搭載した製品が人気を集め始めています。しかしキヤノンはこれらを採用しませんね。技術的な問題ではないと思いますが、なぜキヤノンはこの時流を追わないのでしょう。
岩下 ご存知のように、我々は手ぶれ補正技術を既に持っていますし、一部製品には組み込んでいますから、技術的に不可能なわけではありません。液晶パネルにしても、液晶メーカーがさまざまなサイズのパネルを提供していますから、その中からどれを選ぶか? という問題なのです。では、それらを組み込んだ上で、最もキヤノンらしいカメラが出来るのか? というとまだ疑問があります。
--液晶パネルにしろ、手ぶれ補正機能にしろ、組み込む事によるトレードオフはあるでしょう。それらトレードオフを検討した上で、現時点では敢えて採用していないということえしょうか?
岩下 なぜ採用しないか、あるいは採用するかもしれない、といったコメントは、今後の製品計画を明かす事にもなりますから、コメントはできません。しかし“商品としてのウェイトをどこに置くのか”を熟慮した上で、現在の製品になっているということです。
--成長にブレーキがかかっているというコンパクトデジタルカメラですが、今後の展望をきかせていただけますか?
岩下 よく言われているように、コンパクトデジタルカメラ市場の成長は止まってきました。今年はCIPAの予測で昨年並、横ばいになると言われています。しかし、これも魅力的な製品を出し続けなければ、すぐにマイナスになってしまいます。既にカメラが欲しいユーザーには行き渡っていますから、買い換えサイクルが長くなれば市場は縮小方向に向かうからです。言い換えれば、これまでと同じようにユーザーが買い換えたいと思ってもらえるよう、製品の魅力を強化していかなければなりません。
--これはPhotokinaの時に伺った話にも繋がりますが、新しい魅力を構成する要素はまだ存在するとお考えですか?
岩下 これまでユーザーの買い換えを促してきた要素は、まずは画素数、その次にズーム、液晶パネル、そして本体の小型化です。これに何かを加えなければ難しくなることは確かですから、社内でも様々な議論は進めて新しい切り口を探しています。しかし、まずはこれまでユーザーが求めてきた要素をさらに突き詰めることでしょう。
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( 本田 雅一 )
2005/02/22 00:12
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