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【インタビュー】感性に訴えるデジタル一眼の開発を目指した

~開発者に聞くα-7 DIGITALのこだわり

カメラ事業部 開発部 第2開発グループ リーダーの井上 義之氏
 “待望”という言葉がこれほど似合う製品も多くはないだろう。

 ハイアマチュア層に多くの根強いファンを持つコニカミノルタα-7 DIGITALが、Photokina 2004で欧州でも発表された。イメージセンサーを動かすことで手ブレを補正するユニークなAnti Shake技術を、APS-CサイズのCCDにおいて実現している点も大きな話題を呼んでいる。
 α-7 DIGITAL、欧州名DYNAX 7 DIGITALの開発プロジェクトを率いたコニカミノルタ カメラ事業部 開発部 第2開発グループ リーダーの井上義之氏に新製品について話を伺った。


“オリジナル”の価値を持つ製品で勝負

 コニカミノルタのα-7 DIGITALは、日本の35mm判一眼レフカメラのメーカーとしては最後発のデジタル一眼レフカメラとなる。いわゆる“アーリーアダプタ”と呼ばれる、新製品に目がない購入層には一通りデジタル一眼レフカメラが行き渡りつつある状況で登場するα-7 DIGITALは、穿った見方をすればかつてのα7000と同じミッションを背負った製品とも見える。

―では開発者自身がターゲットにしていたユーザーは、どのような層なのか?

「第1に既にαレンズを所有しているユーザーに対して、その資産をデジタルカメラで活かせるようにしたいと考えて規格・開発を行ってきました。これは日本の……といったものではなく全世界共通です。αレンズは全世界で1,600万本が市場に出ています。この資産を活かせるカメラを作りたいというのが出発点です」

―コニカミノルタはα-7 DIGITALで、Anti Shakeという他社にはないオリジナルの技術を盛り込むことに成功した。このことを考えれば、かつてオートフォーカス機能を持つ一眼レフカメラを初めて実用化したα7000の再来を目指す勢いがあっても良いのでは?

「手ブレ補正機能をボディーに内蔵した点が一番の特徴であることは間違いありません。レンズに手を加えることなく、そのまま手ブレ補正がどのような効果を生んでくれるのかが分かります。従来のαレンズを所有しているユーザーに、是非ともその効果を実感して欲しい」

「デジタル一眼レフカメラ市場は、今まさに拡大路線に突入し、各社はその中を走り抜けようとしています。しかし低価格・高機能路線で大量販売を狙うパワーゲームを他社と行なうには、少々難しい状況に置かれていることを我々自身が感じているのです。それに、まずα-7 DIGITALは我々にとって初めてのデジタル一眼レフカメラです。まずは真正面から、自分たちのできるところからやっていきたい。その“自分たちにできる事”が、全くのオリジナル技術となるボディ内手ブレ補正機能と言えます」

―井上氏自身が話しているとおり、今はまさにデジタル一眼レフカメラが普及期を迎えたところ。αのデジタルカメラを待ち望んだミノルタファンは、もう少し積極性を持って欲しいと思うのではないか?


「我々はまだデジタル化を行なう事の本当の難しさを知りません。先ほども申し上げたように、α-7 DIGITALは最初の機種で、しかもまだ市場に出ていないのですから。ですから、この製品でデジタル一眼レフカメラに関してきちんと見極めたいのです。もちろん、デジタル化に伴う様々な技術的な問題に対しては対処を行っていますが、たとえばセンサーサイズが小さい事で画角が変わる事がユーザーの使い方などにどのような影響を与えるのか、そうした点もしっかりと見極めて次の方向を決める必要があります。そうしたノウハウの蓄積成しに、低価格化を繰り返す消耗戦に参加したくはないのです」

「ただし、α-7 DIGITALが高価な製品だとは思いません。10万円台前半の低価格機が人気ですが、今ならば20万円クラスの製品の方が、(性能や質感、機能などのバランスを考えると)リーズナブルだと思います。我々の製品は20万円のクラスになりますが、手ブレ補正機能がボディーに内蔵されている。たとえばレンズを3本同時購入したとして、その全てで手ブレ補正が効くと考えれば、トータルの価格は決して高くはないと考えています」

 同時発表のレンズはデジタルカメラへの最適化は行われているものの、焦点域は35mmフィルムカメラ向きの設定で、イメージサークルも35mmフィルムをカバーするものだった。イメージサークルはともかく、焦点域に関してはα-7 DIGITAL向けに使いやすいモデルも欲しいところだ。

「“現時点では”ですが、35mmフィルム向けとデジタル向けは、共用レンズでいいと考えています。しかし、将来的にはデジタル専用に向かう必要があります」

 今後、デジタル対応レンズへの投資が継続されるのかどうか。一眼レフカメラを選ぶ行為は、ある意味そのシステムと心中するようなものだ。カメラボディは消耗品だが、レンズは長く使えると思って購入するユーザーが多いだろう。将来の計画が曖昧ではユーザーもα-7 DIGITALに入っていきにくい。

「それは当然の事です。α-7 DIGITALへの投資は継続的に行っていきます。画角が狭くなったことで、今後はより短い焦点距離のレンズを拡充していかなければなりません」


α-7 DIGITAL 背面

Anti Shakeの耐久性はシャッター幕の数倍はある

―APS-Cサイズセンサーは、35mmフィルムのコマよりは小さいとはいえ、それでもDiMAGE Aシリーズで使ってきた2/3インチサイズよりも遥かに大きい。デジタル一眼レフカメラ用Anti Shakeはいつ頃から目処を立てて開発していたのか?

「開発当初からイメージセンサーを用いるカメラならば、どんな製品にも使えるだろうとは頭の中では考えていました。しかし当初からデジタル一眼レフカメラに搭載することを前提で開発を進めてきたわけではありません。開発を進めていく中で、これならばデジタル一眼レフカメラ用の大きなイメージセンサーでも大丈夫ではないか? そう思い始めてからは、常に大型センサーでも機能することを考慮しながらAnti Shaleの開発を進めました。ハッキリとこれならば使えると確信したのは、3~4年ほど前からです」

―あれだけ大型のパーツが動くとなると、その耐久性も気になるところだ。どの程度の耐久性があるのか?

「センサーサイズが大きいため、α-7 DIGITALのAnti Shakeは耐久性が低いと思われがちですが、実はDimage AシリーズやZシリーズに登載しているものよりも耐久性の面では遥かに有利なのです。これらのセンサーはα7 Digitalよりもずっと小型ですが、シャッターボタンを半押しにしている間は、ずっとAnti Shakeのアクチュエーターが動作したままです。しかし、α-7 DIGITALの場合はシャッターを押した瞬間だけセンサーをシフトさせるため、アクチュエーターが動作している時間が圧倒的に短いのです」

―ではシャッター回数で何回程度まで耐えられると考えればいいか?

「シャッター幕の数倍の耐久性はあります。もちろん、交換することも可能ですから、壊れても修理することは可能です。ただし、現時点では交換コストに関しては決まっていません。とはいえ、テストでは動作に伴う熱などもほとんどなく、性能は非常に安定しています」

―発表時のアナウンスではシャッタースピードで2~3段分の補正効果があるとされている。しかし、実際にはそう簡単に“何段分”と表現できるものでもないだろう。実際にテストしての感触はどうか?

「現在、最終的にカタログに謳うための数字をテストからはじき出しているところですが、2~3段分ぐらいを謳うことになるでしょう。きちんとホールドし、手ブレに気を付けてシャッターを切れば、かなりの効きを実感できると思います。しかし、わざと揺らしながらの撮影ではそこまでの補正効果は得られません」

「もっとも、試写している経験からすると、何段補正というよりも1/S(S=シャッター速度)で確実に撮影できるという感覚です。その上で、きちんと撮影すれば、2~3段分遅いシャッター速度でもブレないと考えればいいと思います」

―焦点距離によってAnti Shakeの動作には差が出るのか?

「基本的にブレの角速度を検出してセンサーを動かす距離を決めていますから、原理的には焦点距離には関係がありません。しかし、焦点距離によって多少、制御を変えているためレンズの焦点距離、被写体までの距離といった情報はAnti Shakeの動作に利用しています」


ASの動作を確認できるデモ装置。センサーは各方向に10mm近く動く
―すべてのαレンズでAnti Shakeが利用できるというのは、すべてのαレンズがそれらの情報を通知する機能を持っているということか?

「焦点距離に関してはすべてのαレンズがボディに対して報告します。測距情報に関してはD対応レンズからの対応ですが、それ以前のαレンズの場合でもボディ内で距離情報を管理していますから、そちらから値を拾って動作します。従って、すべてのαレンズで完全にAnti Shakeが動作するわけです」

―ボディの普及には低価格なレンズメーカー製レンズも必要不可欠だろう。彼らが売っている互換レンズでも動作するのだろうか?

「実際にテストしてみなければわかりません。テストは行なっていませんから、動作に関して予想もできないのです」

 ブースで質問してみたところ、ブレの角速度を検出してセンサーを動かすという現象への対応を行なうように作られているが、焦点距離情報がないため完全な動作とはならないとの説明を受けた。

「一切のテストを行なっていないため、そのような予測もできません。そのため、コメントは控えさせて頂きます」

―センサーはカメラ内でどの程度動いているのか?

「実際に可動できる範囲は相当に広い(上下左右にそれぞれ10mm近い)のですが、実際に手ブレ補正動作中に動く距離は5mm以下でしょう。ほとんどの場面で1~2mm程度しか動かないのではないでしょうか? ストローク面での余裕はかなりあります」


“自然な印象派”を目指して絵作りを行った

―ボディはほぼα-7の性能や機能をトレースしているが、デジタル化で特に強化したポイントはあるか?

「メカ部分では特に変わっていません。操作系が高い評価を頂いているα7と同じという部分をアピールしたいですね。ダイヤルを配置して分かりやすいユーザーインターフェイスにしています。しかし精度などは、以前にAPS一眼レフカメラを開発した時に相当高めているのです。フォーマットが小さいため、APS一眼レフカメラでは35mmフィルムよりも高い精度が必要でした。現在のα7、α9はそうした高い精度の基準で開発されており、オートフォーカス精度も高いのです」

―デジタル部分で特に気を付けた部分は?

「α7 Digitalでの大きなテーマのひとつが、誰にでも納得して頂ける“絵作り”です。自然でありながら印象的な絵、そして質感描写が高く被写体の素材が持つ雰囲気、透明感などを損なわない、それでいて派手であるべきところは派手で強い印象を与えるような。頭の中に残っている質感と色を再現することを目指しました。

―“自然な絵作り”と“印象的な絵作り”は、相反する要素ではないか?

「企業文化として、ミノルタはカメラメーカーでしたから素材の色をそのままに表現するナチュラル派でした。一方、コニカは印象的な美しいプリントを届けなければならない感材メーカーです。ミノルタの技術とコニカの技術が一緒になって、今回の新しい絵が生まれたという話は、何も発表会向けのフレーズというわけではありません。実際に両社の文化、具体的には技術者が交わった事でナチュラルな絵作りに“印象派”と言える色を加えることができたのです。特にディスプレイ上の絵ではなく、プリントした時にいかに良い絵になるかを強く意識した絵作りになっています」

 画像処理の部分では、今回新開発のRAW現像ツールを添付、高機能版は販売されることになる。これは完全に自社開発のものなのか? カメラメーカーはどこも自社開発のソフトウェアについて、使い勝手や機能において初期段階はかなり苦労していた。

「我々はDimage AシリーズなどでRAW現像ソフトのノウハウを蓄積し、使いやすさや機能などを改善してきました。Dimage Aシリーズでの経験から、ユーザーがRAW現像に対して何を求めているかは十分に把握していますので、それに一眼レフカメラならではの考え方を加えて新しいソフトウェアに仕上げています」

「もうひとつ、階調性へのこだわりも是非見て頂きたいと思います。デフォルトでのトーンカーブにも非常に拘っていますが、さらに明るさを複数のゾーンに分け、各ゾーンごとにトーンカーブを調整する機能を本体内に実装しました。たとえばハイライト部分のトーンカーブをカスタマイズし、ハイライト部分の粘りや階調性を微調整したい、あるいはノイズが目立ちやすい暗部を真っ黒に落としたり、逆にシャドウ部のディテールを活かしたいなどのカスタマイズをカメラ本体だけで行い、微調整できます」


ソニー製600万画素CCDを選んだ理由

―α-7 DIGITALが採用したAPS-Cサイズのイメージセンサーは、ニコンやペンタックスも使ったソニー製だが、画素数のトレンドや昨今のイメージセンサーの進化を考えると、他の選択肢もあったのではないか?

「最近は高画素にすること自体を目標とする傾向がありますが、目的は画素数を増やすことではありません。最終的な絵を良くすることが目的です。そうした原点に立ち返って、きちんと絵作りを煮詰めていくには、開発時点ですでに安定して量産されていたソニー製600万画素センサーが最適であると判断しました。このセンサーは特性などがよく分かっていますから、絵作りを突き詰めるのには適しているのです」

―つまり、発売時期から逆算して最新のセンサーを使うと、最終特性が決まるまで絵作りを完全に煮詰められないとの判断だったのか?

「そうですね。ユーザーは新しいセンサーを求めているのではなく、良い絵を求めているのですから。社内でセンサーを自製していれば、あるいはそのあたりの協業を密に行なうことも可能かも知れませんが、センサーの特性も安定しないうちから絵作りは行なえません」

―サブディスプレイを持たず、背面の2.5インチ液晶パネルと各種設定ダイヤルで構成するユーザーインターフェイスだが、こうしたデジタルとアナログを混在させた操作系は当初から考えていたのか?

「ええ、特にダイヤル式にはこだわりました。αの操作性の良さには自信を持っていますから、開発の初期段階からこの方向で行くことは決まっていました。この操作性も、αシリーズ、コニカミノルタが持っている価値のひとつだと思います」

―背面ディスプレイで露出ステータスなどを毎回表示していると、バッテリー駆動時間へのインパクトはないのか?

「影響はほとんどありません。もちろん、ゼロではないでしょうが、さまざまな部分での省電力化もあって、公称値として400枚の撮影枚数を実現しました。単純な連続撮影だけならば2,000枚程度でも大丈夫です。実際、このPhotokinaに持ってきてから、私が使っているα-7 DIGITALは一度も充電していませんが、まだバッテリ表示はフルのままです」


感性に訴えかける性能を磨いた

―α-7 DIGITALの、ここにこだわった、この部分は絶対に見て欲しいという部分はどこか。

「ファインダーの見え味は必ず見て欲しい。αシリーズ伝統のファインダーをデジタルでも楽しんで頂けます。ファインダーの見え味は単にファインダー倍率だけでは決まらない事がわかるでしょう。数値では測れない“見え味”という非常に感覚的な性能を期待するユーザーを裏切らないデキになっていると思います」

―今後のα DIGITALシリーズの展望は?

「今後、別のデジタル一眼レフカメラを開発する計画は、もちろん持っています。どのような機種になるかは、ここでは明言できません。しかし、αユーザーから“期待されている方向”は十分に分かっているつもりです」

―“期待されている方向”とは?

「我々のユーザーは中上級のアマチュアユーザーが主です。連写をガンガンするタイプではなく、落ち着いて撮影を楽しむ方々が多い。そうしたユーザーに対して、ファインダーの見え味だけでなく、各部の操作感、さらにグリップの形状もかなり繰り返し検討を重ねてきました。今後もそうした部分、フォーカシングスクリーンや手に触れる部分、感性に訴えかけるところでの品質を落とさないように開発を進めます」


コニカミノルタのホームページ
http://konicaminolta.jp/
ニュースリリース
http://konicaminolta.jp/about/release/kmhd/2004/0915_02_01.html
関連記事
【Photokina 2004】コニカミノルタ、欧州版α-7 DIGITALやDiMAGE A200などを展示
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/other/2004/09/30/176.html



( 本田 雅一 )
2004/10/02 10:13
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