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優秀賞受賞者6名の作品をレイアウトした会場のパネル
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キヤノンは11月28日、「写真新世紀2008」のグランプリ選出公開審査会を開催した。会場は東京都写真美術館1階ホール。11月30日まで「写真新世紀東京展2008」を開催していた。
写真新世紀は、新人写真家の発掘、育成、支援を目的として、同社が1991年に開始した写真コンテスト。4月から6月にかけて公募した応募作品の中から、優秀賞受賞者6名と佳作受賞者28組30名の受賞作品の展示と、2007年度の準グランプリ受賞者の新作展を同時開催した。
今年は1,517名の応募があり、過去最高の応募数となった。グランプリは公開審査の中で、優秀賞受賞者6名のうち1名を選出する。
審査員は荒木経惟氏(写真家)、飯沢耕太郎氏(写真評論家)、榎本了壱氏(アートディレクター)、大森克己氏(写真家)、南條史生氏(森美術館館長)、野口里佳氏(写真作家)の6人。公開審査会は受賞者が壇上で作品をスライド上映しつつ、制作意図などについてプレゼンテーションを行なう形式。
■ 「可能性のある、面白い方向性の作品だ」
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「ヨッシワールド」の制作方法について語る岡部東京氏
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最初にプレゼンテーションを行なったのは「ヨッシワールド」を制作した岡部東京氏。社会風刺、ファンタジー、ブラックユーモア、愛、友情などあらゆるジャンルを取り入れた短編集で、被写体はすべて岡部氏の親友1名。ビジュアル的なわかりやすさとインパクトを重視し、写真のエンターテイメント性にこだわったという。それぞれの写真の中に様々な物語や人格を作り、登場人物の表情や動きを通して、「世の中には色々な人がいるが、同じ人はいない」ことを表現した。
「ヨッシワールド」を優秀賞に選んだ榎本氏は、「写真というテクノロジーを使いながら、どこまで新しい表現が開発できるのか、というのは私が写真に最も期待していること。撮れないものを撮ろうとする意欲を評価した」とコメント。荒木氏は「説明できないおもしろさが写っていて、面白いと思う」と評価した。
「白夜夜行」を制作した小山航平氏は、「刻々と表情を変える空を見るのが好きで、空を見ているときに吹く風を感じるとき、凄く不思議な気分になる」と語った。普通に撮影しただけでは写らない「風景を見ている時に感じる感覚や気持ち」を表現するための手段として、制作手法に「合成」を用いた。
選者の南條氏は、「写真には、現実にあるものだけを撮るというだけではなく、現実にはないものを作る力もあると思う。そこに焦点を当てたいという思いから、合成という手段を用いた作品を選んだ」と選出理由を説明した。その一方で榎本氏は、「人が登場しない風景の作品は、『不思議な風景を作ろうとしている』というだけに終わっているのではないかという気がした。そこに何かしらの物語性を盛り込むとしたら、何かしらの生命の介在は必要だと思うので、その点で物足りなさを感じた」と感想を述べた。
菅井健也氏の「テレパシー」は大量に撮り溜めた写真の中からのセレクトで、具体的なテーマは定めず、「不思議な世界」という世界観のもと、ノンフィクションではあるが「やらせかな?」と思うようなわざとらしさのあるものを残したという。また選ぶ基準として「人に見られたくないようなちょっと恥ずかしい場面や、お行儀の悪い瞬間など、少しイラッとしてしまうような場面」を挙げた。
選者は大森氏で、「きわどい道を行っていると思ったが、この作品は同時に菅井さんにとって必要なものなのだと感じた。その点がいいなと思った」と選出理由を述べた。作品のスタンスについて飯沢氏は、「こだわりのようなものをもう少し育てた方が良いと思ったが、可能性のある、面白い方向性に変わりつつある作品だと思う」とコメントした。
■ 「写真というメディアの新たな可能性だと思う」
「遊び言葉」の秦雅則氏はまずタイトルについて、「話の内容とは直接関係ない言葉」という意味での「遊び言葉」と、「言葉の発音や意味を利用した遊び」と言う意味の「言葉遊び」のダブルミーニングについて説明。制作については「プリントに色を塗り、文字を貼り付けることで、写真の持つ雰囲気が違うところへ導かれてゆく気がした。そこで、これを通して、今の自分を表現してみることを試みた」と解説した。作品の一枚一枚に日付と名前を記入しており、それらをすべて「今の僕」の連続ととらえ、支離滅裂な中から最終的に全体としての「僕」を表現する。
この作品を選んだ野口氏は「最初に作品を見た時の「何だろうこれ」という最初の驚きが今でも継続していて、興味深く思っている。秦さんの作品の卑猥な感じは私の作品にはなかなか出てこないものなので、その点が私にとって面白いと感じたところ」と評価。また、榎本氏はこの作品を評するに際して、「左手をリストカットしてバリバリになっちゃった女の子の腕のような作品だと思う。サディスティックでマゾヒスティックな作品という感じがする」という表現を用いた。
保谷綾乃氏の「Gift」は、「無意識」をテーマにした作品。断片的な記憶、鮮明に覚えている脈絡のない夢など、いつの間にか自分に馴染んでしまっている事柄を意識して、浮かんできたイメージと向き合い、試行錯誤を繰り返すことで形にしたという。「Gift」というタイトルは、断片的な記憶や昔見た夢は、いつの間にか枕の横に置いてあったプレゼントのようなものだという考えからつけた名前。
「こういう感覚の女性は好きだ。作品の細かな解説はいらない。こういうのは説明なしでミステリアスな方が良い」と絶賛するのは選者の荒木氏。飯沢氏も「イメージとイメージの戯れというか、自分の思いつきが頭の中で育って行って、その一つ一つが形成されていくという思考の運動はとても気持ちの良いものだが、それを後付けで解説してしまうと少し白けてしまう部分もある。今は連想の広がりを楽しんで、無理に解説を付けなくてもよいと思う」と賛同した。
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「zoe」作者の元木みゆき氏
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元木みゆき氏の作品「zoe」のプレゼンテーションではまず、食肉処理場(屠場)を撮影した写真のスライドショーを上映。「牛たちにとっての『生』とは一体何だろう?」との疑問を出発点に、牛たちの「管理された生と死」の現実を見せることを通して、人間社会における「zoe(生物学的な生)」のあり方を問うた。
選者の飯沢氏は、「我々の現実社会の中に見えてこない部分、隠されてしまう部分をこうして新たな形で改めて見方を提示するということは、写真というメディアの新たな可能性だと思う」と作品を評価した。一方で榎本氏は、「近代から私たちは、解体を専門家に任せることによって、解体が異様なことのように見えてしまう。ここで付きつけようとしているのは、こういう場面を見て、飽食の時代をしているのではないのかと問いかけているように見えるのだが、プレゼンを聞いていると、工場化してるから別に何の問題もないことだよという風に聞こえる。そういうギャップはやや感じた」と指摘。加えて、フォトドキュメンタリーとしての完成度の高さを認めつつも、社会性についてどう考えているかというところの不透明性にも触れた。
■ 「これからどこに向かっていくのかを見せてほしい」
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グランプリを受賞した秦雅則氏
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プレゼンテーション終了後、審査員は別室で協議を行ない、約1時間後、グランプリの発表が行われた。「写真の未来を考えるということで、将来性のある方に授与しようということになった」として、秦雅則氏にグランプリを授与した。
「グランプリ受賞の心境は」との質問に秦氏は「ありがとうございます。今まで写真を撮れて、これからも続けていけることがうれしいです」と答えていた。
審査員の講評で荒木氏は、「今日のはかなり面白かった。それぞれ色んな個性のあるものが出てきて、それが一番面白かった」とコメント。飯沢氏も「今まで、ここまでバラバラな作品が登場してきた新世紀は記憶にない。ゆえに、作品を選ぶ難しさを改めて感じた。今は『写真』のおかれている状況について、ネガティブな意見を言う人が多いが、最近は少し風向きが変わってきたように感じる。来年の展示で、また僕らをびっくりさせるものを見せてほしい」と参加者にエールを贈った。
今回ゲスト審査員として参加した榎本氏は、「優秀賞を選んで、プレゼンテーションを聞いて、ずいぶんきついことを言ってしまったなという反省もあるが、それは作品に対する批評というよりも、いま、写真という表現領域の中で、どういうことを考えていかなくてはいけないか、ということの一つのきっかけとして、参加者の皆さんの作品を使わせていただいただいたつもりだ」とコメント、野口氏は、「はっきり言われるということは大切で、その時は悔しかったりもするかと思うが、それが後々血となり肉となるので、その気持ちを忘れないようにやっていってほしい。グランプリの秦さんへの希望としては、今回受賞したものをずっと続けていくのではなくて、これからどこにいくのかを見せてほしい」と期待を表明し、公開審査会を締めくくった。
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荒木経惟氏
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飯沢耕太郎氏
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■ 大森克己氏と野口里佳氏のトークショーも開催
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大森克己氏
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公開審査会に先駆けて、大森克己氏と野口里佳氏によるトークショーも行なわれた。
トークショーではまず、大森氏の作品集「encounter」の作品を約17分間のスライドショー形式で流した。大森氏は「encounter」のスライドショーについて「撮影したものを自分の部屋でプロジェクションした時に凄く感動した。初めて写真を撮って自分で現像したときにだんだんと像が浮かんでくる感じとか、自分にとっての写真の原体験を思い出して、凄いなと思った。許されるならずっと見ていたい。」と思い入れを語った。
作品発表の形態としてのスライドショーに関しては「スライドショーで写真を見せる機会はなかなかない。けれどもそこも含めて、スライドショーでみてもらうのは好き。その見せ方はライブだから、所有できないというのも凄く良いと思う」と絶賛していた。
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「潜る人」から現在までの写真活動について語る野口里佳氏(右)と、司会進行の山内宏泰氏(左)
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続いて野口里佳氏が、初期の作品「潜る人」から現在までの活動について、エピソードを交えつつ語った。
「『潜る人』は埼玉・浦和のギャラリーから展覧会の依頼を受けて制作したもの。それまでは工事現場に通って作品を制作していたが、その後何を撮ろうかと思っていた時期だった」
次に取りかかったのが1997年の「フジヤマ」。この頃からカラーの作品を作りはじめたという。「潜る人」の続きをどこで作るかを考えているうちに、富士山に最初に登った時に凄く感動したことを思い出し、富士山で撮影を行おうと思ったという。
「撮影は夏場に行なった。8月に山小屋が閉じるまで、天気の良い土日は必ず登って、最初の年は6回くらい登ったと思う」
2004年に原美術館で行なった個展について話した際、「大森さんは『スライドショーはライブなもの』というふうにおっしゃっていたが、私にとっては展覧会がライブ。作品を本にするというよりは、展覧会で見せるといった方が自分の作品が辿り着く場所と思える。それは私の作品作りが、最初(「潜る人」のころ)から『展示をする』ことが前提にあったからだと思う」と自らのルーツについても語った。
質疑応答の際、「そもそもなぜ写真という表現を選び、続けているのか」との質問には「家族が写真好きで、自宅で現像をしていた。そういう環境はきっかけだと思う。大人になって、人との出会いを通してもっと好きになっていた」と大森氏。
野口氏は、「はじめは自分が写真が好きという意識もなく写真の学校に行っていて、ある日突然作品を作りはじめて、いつの間にか18年経っていたという感じ。いろんな作品の作り方があると思うが、私にとって写真の面白いところは、『目の前にいないと作品を作れない』ところだと思う。撮影でダイビングをしたり、招かれた場所で作品を制作して、私自身の人生が変わっていったと思う。」と回答した。
■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
写真新世紀
http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/
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・ キヤノン、「写真新世紀」2008年度の公募スケジュールを発表(2008/03/06)
2008/12/01 21:23
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