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【インタビュー】2008年の戦略を訊く[ニコン編]

~ニーズがあればフルラインナップで対応

 PMA08、フォトイメージングエキスポ2008(PIE2008)では、各社から気合の入った新製品が発表された。秋にはPhotokinaも控える2008年だが、これを機に各社の戦略について本田雅一氏がインタビューした。シリーズでお届けする。

 昨年末、“2つのフラッグシップ”と銘打ち、D3とD300をほぼ同時期に投入したニコンは、年末商戦の話題をさらうことに成功した。この春はエントリー機のD60を投入したが、やはり気になるのは、D80後継機を含めた今後の展開だろう。

 昨年末に発売した製品、高いシェアを誇る現状に対する自己評価などを含め、一眼レフカメラの開発部門を率いる風見一之開発本部長に話を聞いた。


D3 D300

やりたかった超高感度高画質

風見一之開発本部長
──世界市場で約40%でキヤノンに僅差の2位、日本市場では40%を超えるシェアで一眼レフ市場でトップに立ちました。エントリークラスが堅調なこともありますが、昨年末のD3、D300の好調が全体を底上げしているように見えます。

 両製品とも期待値通りに売れてくれました。片方だけが受け入れられたというのではなく、D3とD300、それぞれが好調です。特にD3に関しては予想以上に絶好調です。D3は、市場の大きさをピラミッド型にたとえると、その頂上部に位置する商品ですが、当初の予想を上回る数が売れて我々も驚きました。プロからの高い評価だけでなく、アマチュアカメラマンからも高評価を得て、ネット上の評価などでも良いことばかりを書いていただけました。こうしたあらゆる方面からの高い評価が、素直に商品の売り上げに繋がったと思います。

 これだけ多くの方面から高い評価を受けたこと。多数のお客様が購入いただけたこと。そしてかつてない性能や機能を実現できたことなど、さまざまな意味で(ニコンの)歴史に名を刻む製品だと思います。


D3のCMOSセンサー
──D3はさまざまな面で驚きがありましたが、中でも画素数をあえて抑えて、色再現性の良い、使える超高感度撮影が撮影領域を大きく押し広げたところが印象的です。ニコン自身は、何がもっともユーザーに受けたとお考えでしょう?

 わかりやすく一言で言うならば“高画質”でしょう。高画質といってもさまざまな切り口がありまますが、従来は不可能だった撮影が、超高感度撮影によって可能になったことが大きいと思います。

 超高感度そのものは、要求もありましたし、早く実現したかったのですが、難しいことがありました。私自身、D3の開発当時は商品企画として関わり、超高感度の高画質撮影というテーマを開発チームに投げかけたのですが、昨年のあるタイミングで試作機を見て、“うちの開発ってスゲーなぁ。本当に作っちゃったよ”と思ったほどです。

 商品企画をやっていた頃は、開発や技術的な限界といったことは強く意識せず、お客さんの意見を吸い上げながら、あんなことができたらいい、こんなことも盛り込みたいとやるわけですが、そういう仕事は右往左往しながらも、きちんとユーザーからの声に向き合えばできます。が、実際にユーザー視点での理想論に対して、答えを出してきたことに自社の開発チームながら驚いてしまいました。

──ではD3の基本的なコンセプトは、FXフォーマットで超高感度ということだったのですね。

 いえ、FXフォーマットありきでスタートはしたわけではありません。超高感度撮影、具体的にはISO6400でも常用できる特性を、1,200万画素センサーで達成することが、設定したターゲットでした。それを実現するための手段として、結果的にFXフォーマットが生まれたということです。


フィルム時代に確立された形を踏襲していきたい

──高画素機の噂も出ていますが、キヤノンがEOS-1Dsでスタジオ撮影における中判カメラの置き換えを狙ってある程度成功しています。そこにD3のバリエーションモデルを投入するといった企画はないのですか?

 当然、そのような要望があることは理解しています。具体的な製品計画については、ニコンから話をしたことはありませんし、話すこともできませんが、さまざまな形で研究開発は行なっています。

──縦位置グリップ部のないコンパクトなD3ファミリーとか、D3を軸にファミリー展開する計画は?

 それは言えません。(否定はしないの? と尋ねると)お客さんが求めているものが、バリエーションの展開ならば、バリエーションを増やすでしょう。D3の後継機をなるべく早いタイミングでというのであれば、そのために開発のリソースを割くべきです。顧客のニーズをすべてカバーはできませんが、ニコンとして商品を提供できる可能性があるならやります。


D60
──一方のエントリークラスですが、現在は上下に展開するラインナップですが、異なるタイプのカメラで間口を拡げようとは考えていませんか?

 ニーズが存在するところに対して、フルラインナップで対応しようとしています。多様なニーズがありますから、それに伴って各種の研究開発は行なっていますが、それらが全部製品化されるわけではありません。

──もうすこし掘り下げると、これまではフィルム時代の一眼レフカメラにデジタルで静止画を捕捉する仕組みを組み合わせるだけでした。一方でコンパクト機はさらにその先、デジタルでキャプチャすることで、何か新しいことができないか? というフェーズに進んでいますよね。一眼レフカメラも、撮像部を置き換える以外に、別の付加価値を求めるようになるでしょうか?

 その通り、一眼レフカメラのフィルムを撮像素子に置き換えたのが現在の我々の一眼レフデジタルカメラです。しかし、少しづつデジタルならではの要素は追加しています。感度を切り替えながら撮影したり、自動で感度を変化させるといったことはデジタルならではの機能ですし、ユーザーが現像パラメータを微調整して絵作りするといったことも、フィルムカメラではできませんでした。D3、D300に入っているデジタルの収差補正もそうです。しかし、世の中にはもっとデジタルらしい要素・機能もどんどん提案されています。それは自分たちでも取り組みたいですし、将来に向けて考えなければならないでしょう。

 ただ、その一方でフィルム時代に確立された操作性や形状などは、昔の形を踏襲していきたい。モノの形には理由があって、長い時間をかけて現在のスタイルになっていますから、その面では伝統をしっかりと受け継いでいきます。

 あとはユーザーインターフェイスですが、こちらは勉強していかないといけないと思います。iPod touchのように、全く新しい発想のユーザーインターフェイスが登場していますから、そうした技術を一眼レフカメラにも応用できないだろうか? とは思います。

──一眼レフ市場は順調に伸びていますが、どこまで拡がるでしょう?

 観光地などに行くと、一眼レフカメラで撮影している方が、フィルム時代に比べて圧倒的に増えています。安くなったとはいえ、ボディだけで5万円もするんですから、そんなに安いものじゃありません。消費者に趣味を楽しむ余裕ができているのではないでしょうか? 写真はカメラさえあれば、誰でも楽しめる趣味ですから、スポーツなどよりも入りやすいのでしょう。

 もうひとつ、数字の面で言うと、一眼レフカメラ市場はフィルム時代、年間約750万台がピークでした。フィルムカメラと比べていろいろな面で便利なデジタル一眼レフは、少なくともそれ以上伸びると思います。デジタルカメラ市場全体を1億~1億3,000万台とするなら、1,000万台ぐらいは十分売れる可能性があります。


DXでもD3並みの画質が可能に

──今後、直近にはD3で培った超高感度撮影という付加価値を、どのように下のモデルに反映していくか? という点に注目しています。センサーサイズを拡大することで実現した超高感度撮影による付加価値を、DXセンサーの下位モデルにも与えることができるでしょうか?

 超高感度化を達成できた理由は、代表的にはセンサーサイズの拡大です。しかし、画像処理においてノイズリダクションの技術が進歩していることも大きいです。画像エンジンの技術はDXセンサーでも享受できますから、ローエンド製品の高感度性能も高まっていきます。もちろん、最上位機種ほど高性能な画像エンジンを搭載することはできませんから、コストによる上下関係は残ると思います。

──D3とD300の関係を見ると、DXセンサーでD3並の高感度性能というのは遠いように思うのですが……

 D300での画像処理はD3と似たことをしていますが、チューニングの方向が異なります。将来はD3並みの高感度性能を、センサーサイズの拡大に頼らず画像処理だけでもできるようになるでしょう。画像処理エンジンも時代に合わせて進歩していきますので、かなりの改善が図れると考えています。

 また、高感度以外の部分、たとえば機能面では上からのシャワー効果ではなく、COOLPIXシリーズからの噴水効果も狙っています。D-ライティングや赤目補正、顔認識などは、すべてCOOLPIXがオリジナルです。COOLPIXシリーズで取り組んで、ユーザーからの支持を得た機能は、一眼レフカメラにも取り込んでいきます。

──画像エンジンの能力次第で高感度対応、高画質化ができるのであれば、時間をかけて現像してもよい現像ツールを用いることで、今すぐにでも提供できる技術があるのでは? たとえば現像時間が現在の数倍になるが、しかし高画質という現像モードがあってもいいでしょう。

 今、手元にあるソフトウェア処理技術の究極を、PCの高性能なプロセッサでやるというのは発想として“アリ”だと思います。ニコンが提供できる付加価値を、どのようにして提供できるかを考えていきたいと思います。



URL
  ニコン
  http://www.nikon.co.jp/
  ニコンD3関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/08/24/6896.html
  ニコンD300関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/08/24/6897.html

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【インタビュー】FXフォーマットは高感度画質のために(2007/09/18)


( 本田 雅一 )
2008/05/20 00:08
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