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【インタビュー】キヤノン「EOS Kiss X3」の狙いと一眼レフ戦略


 3月3日に米ラスベガスで開催されたPMA09では、ややおとなしかったキヤノンだが、フォトイメージングエキスポ2009(PIE2009)前日には新機種のEOS Kiss X3やバウンス機能を備える小型ストロボ270EXを発表。展示の中心に据えている。

 キヤノンのイメージコミュニケーション副事業本部長兼カメラ事業部長の打土井正憲氏と、カメラ事業部の笠松厚雄副部長に話を伺った。笠松氏は本誌一連のインタビューでは初登場となるが、実際には打土井氏のインタビューにこれまでにも帯同していた。笠松氏は入社直後からEOSシステム立ち上げ時の商品企画やマーケティングに携わってきた人物。今回は、より積極的にインタビューに参加していただいた。(聞き手:本田雅一)


PIE2009のキヤノンブース、キヤノン一眼レフカメラ50周年の記念展示の前で。左からカメラ事業部の笠松副部長、イメージコミュニケーション副事業本部長兼カメラ事業部長の打土井事業部長 PIE2009に出品されたEOS Kiss X3

センサースペックを決める基準を変更。よりS/N比重視に

 なんと言ってもPIE2009での一番の話題はEOS Kiss X3である。打土井氏は「他社も新機種を並べると思っていたので少し意外」と話しているが、ペンタックスの新一眼レフカメラの開発がやや遅れたことと、ニコンが発売準備を終えていると見られていた新機種の発表を見送ったことで、新製品展示という意味では、確かにやや寂しい面はある。ただ、夏のボーナス商戦に向けては何社かが新製品を発表すると見られている。

 そのEOS Kiss X3に関しては、すでにスペックは発表済み。実際のインプレッションレポートも、今後いろいろな記事が掲載されていくことだろう。そこで、製品を触れてのインプレッションからは判りにくい部分について、まずはお二人に質問をしてみた。

――EOS Kiss X3では約1,500万画素で常用ISO3200、拡張設定でISO12800相当までゲインアップ可能になりましたが、画素ピッチはEOS 5D Mark IIよりも細かなものになっています。"常用"とする範囲や"拡張設定が可能な範囲"を決める基準を変えたのでしょうか? それともセンサーの特性向上によってカバーしているのでしょうか?

打土井「センサーの性能向上と画像処理技術の向上。この二つの組み合わせです。常用域とする範囲や拡張設定で可能にする範囲に関しては、従来からキヤノンの内部基準があり、その範囲には収まっています」

――実際にEOS Kiss X3の製品版ファームウェアで撮影すれば、どのような画質になっているか、いずれ判ることでしょう。とはいえ、1,500万画素と言えば35ミリフィルムフルサイズ相当では3,800万画素くらいになりますから、EOS 5D Mark IIと同世代のCMOSセンサーでは難しいようにも思えますが……

打土井「センサー自身のS/Nから言えば、ISO12800に設定した際には5D Mark IIの12800時よりは落ちます。しかしパッと見は近いS/N感になるよう画像処理の面で工夫は行ないました。両者は商品としての性格が異なりますから、"拡張設定可能な範囲"といっても同じではありません。どちらも基準内ですが、EOS 5D Mark IIの方が余裕があります」

――画像処理によるノイズリダクションのチューニングを変えているということでしょうか?

打土井「このクラスのカメラユーザーは、初めて写真を撮り始めるという方が多いですよね。こうしたお客様はまず、室内での写真を撮ることが多い。生まれたての赤ん坊や小さな子ども、それにペットなどです。室内で十分な光を取り込めない上、被写体ブレも起きやすい。こうした使われ方をするエントリークラスのカメラには、超高感度設定が必要だと考えました。高級機種だけに高級なセンサーを入れるというのではなく、そのカテゴリで求められているスペックは実現しようと考えました」


――以前、打土井さんにインタビューさせていただいた時、"センサーに関しては他社に追いつかれた"と話していました。EOS 5D Mark IIやEOS Kiss X3に搭載されたCMOSセンサーは、その後の改善の成果と言えそうですね

打土井「元々、センサーの特性を高めることで画質面での優位性を得ましたが、その貯金を使い切った頃が前回のインタビューの時でした。とはいえ、CMOSセンサーの性能はプロセス技術の進歩とともに改善されます。新しい世代のCMOSセンサーを投入することで、この点はかなり改善されています。ただ、良くなったと一言で言っても、実はその仕様の決め方は変化しているんです」

打土井「従来はセンサー性能が向上すると、その分を画素数向上に注ぎ込んできました。しかし高ISO撮影というものに、ユーザーが思ったよりも大きな価値を見いだしていることに気付きました。たとえばEOS-1Dシリーズを使うプロが、ギリギリの高ISO感度まで上げて撮影するなんて、おそらくしないだろうと思っていた。ところが実際にはプロが積極的に高ISOを使いこなした。これは一般ユーザーの使い方においても同じです。そこで、センサー開発の方向に関しても画素数は向上させていくのだけど、同時にS/Nも向上させていくというように、ノイズ特性を改善させる方の比重を高めています。言い換えると、画素数を向上させる事による撮影領域や応用領域の拡大よりも、ISO感度を高めることによる撮影領域の拡大の方が利が大きい状況になってきたと判断しました」


――ニコンがD3で超高ISO感度を実現して、従来は考えられなかったような場面でのノーストロボ撮影を手持ちでも行なえるようにしました。ここでのカメラの扱い方の変化というのは、ものすごく大きかったように思うのですが、その影響は少なからずキヤノンの製品にもあったということでしょうか?

打土井「ニコンD3の影響はあります。もちろん、キヤノンとしても超高ISOには取り組もうとしていましたが、競争相手が実際に製品を出したことで、実用化に向けての開発速度が速まったとは言えます。そうした意味では、ニコンの製品がよい刺激になって、我々の製品をより幅広いユーザーに受け入れて頂ける製品にできたと思います」

――私自身、D300を所有していますし、D3に関してもかなり使いましたが、このとき驚いたのは、プロ機とハイアマ機というマニアックな製品なのに、高ISO設定では、それまでより明白に強いN/Rがかかっていることでした。もちろん、調整はできますし、ISO感度を下げればディテール重視の絵になっていきます。結果、ユーザーはこれを受け入れて使いこなしている。このあたりの調整の塩梅というか、落としどころも参考になったのでは?

打土井「そうですね。現実として、初心者にこそ高感度が必要なため、APS-Cサイズセンサーの低コスト機でも高ISOを実現しなければならない、という現実のニーズがあります。一方でキヤノン社内では、ディテールが失われるようなところまで画像処理でNRをかけた画像は絶対に出さないという基準で開発をしていました。ライバルの製品やそのユーザーの使い方が、こうした考え方の部分に柔軟性をもたらしたと思います。社内基準といっても、使われる場面をきちんと想定した上で、もう少し幅を持たせるべきだと考えるようになりました」


入れられるものはすべて入れた

270EXは上方向へのバウンス発光が可能
――ニコンと言えば、新しく追加されたストロボの270EXは、ニコンSB-400のコンセプトと似ていますね。コンパクトストロボなのにバウンス撮影にも対応する。

打土井「直接、SB-400と関係しているわけではありませんが、270EXも開発の考え方を変えようという一連の動きの中で生まれたものです。銀塩フィルムカメラ時代の常識から言えば、ガイドナンバーの小さいストロボにバウンスを付けたところで、たいして役に立たないという認識でした。それなら低コストで、よりコンパクトな方がいい」

――しかしデジタル一眼では、フィルム時代よりかなり高感度に設定できますから、小型ストロボのバウンスでも十分な場合が多いですよね? SB-400はデジタル時代だからこそ出てきたストロボでした。

打土井「その通りでEOSシステムを構築した時に生まれてきた不文律を、デジタル時代の新しい価値観に置き換えて見直す時期なのだと考えました。小型ストロボによるバウンス撮影も、前述したように室内で子どもをキレイに撮影したいという人には、是非とも欲しい機能です。ならば製品化しようと頭を切り換えました」

笠松「開発コンセプトの意識の切り替えという面はEOS Kiss X3でも同じで、"これは初級者向けカメラだから、この仕様でもかまわない"といった差の付け方を徹底して排すように努力しました。(プロ機、中級機、エントリー機では)想定する使い方が異なるため、あえて仕様を変えていたり、機能を減らすといった取捨選択をしていましたが、EOS Kiss X3には入れられるものはすべて入れています。そうした意味ではEOS Kiss X2の後継機ではなく、EOS Kiss X2と併存できるくらいの機能と性能を持たせました。以前、本田さんにインタビューで言われた"出し惜しみしているようにユーザーからは見られている"という言葉が、我々としてはとても重く心にあって、そうした残念さを感じさせることはないようにと、現時点での全力投球をしています」

――ここまでKiss X3の機能や性能が高くなると、いくら操作性を含めたボディとしての格が違うとはいえ、EOS 50Dへの影響は避けられないように思います。その点での躊躇はありませんでしたか?

打土井「似たようなスペックで社外の製品とケンカするより、社内の製品ラインナップの中で各製品がケンカしているくらいの方がいいですよ。EOS Kiss X3がよいと評価されたなら、次にEOS 50Dの後継機を開発するメンバーが頑張ればいい。出し惜しみは良くありません。それにEOS Kiss X3に巨大な重いレンズは似合いませんし、使いにくいですよね。EOS Kissらしさは小型・軽量ですから、そこを守った上でコストも決められた範囲内ならば、できる限りのスペックにすべきです。このクラスだからこの程度でいいや、という考えは捨てています」


高感度性能はさらに上を目指す

――昨年の秋にEOS 5D Mark IIを発表して今年の春までに、いくつかのフィードバックがあったと思います。初めての動画撮影機能に対して、どのような反応がありましたか?

打土井「EOS 5D Mark IIを開発しているときには、これほど動画機能が注目されるとは、実は考えていませんでした。ところが、出してみると写真家だけでなく映像作家の方にも、高画質な動画撮影機材として思った以上の評価をいただきました。当初、それほど使用頻度が高いと考えていなかったため、動画撮影まで至る操作が煩雑になっていたため、そこをEOS Kiss X3ではよりシンプルにしています」

笠松「EOS Kiss X3は搭載プロセッサの能力が異なるため、動画撮影時のフォーマットには制限があります。フルHD時には毎秒20フレームの撮影で、毎秒30フレームにするには720Pにしなければなりません。これはハードウェア上の制約です。一方、添付の動画編集ソフトを改善して欲しいという声があったため、従来のカット編集機能だけでなく、複数の動画をマージする機能などを加えています。また5D Mark IIでは映画を撮ってみたいという方には評価されましたが、そのままではビデオカムコーダに慣れたお客様には向いていないでしょうから、一般ユーザーが使う動画カメラという視点でのアレンジも加えています」

――思ったよりも動画に対して真剣に取り組もうとしているという印象ですが、そうなってくるとレンズの動画対応も必要になってくるのでは?

打土井「EOSはあくまで一眼レフスチルカメラですから、ビデオカメラとの線引きはきちんとしておきたいと思います。またコンパクトデジタルカメラでカバーできる動画撮影の領域も、EOSの動画撮影機能が目指すべきところではないでしょう。ビデオカムコーダやコンパクトデジタルカメラでは実現できない動画撮影機能を考える必要があります」

――それは既存のEFレンズシステムを活かすために、ボディ側で動画撮影機能をどう磨き込んでいくか? といった方向性ですか?

打土井「そうですね。キヤノンが作っているのは一眼レフカメラですから、そのレンズシステムを活かす形がいいと思っています」

――デザインに目を向けると、コンパクトさは変わらないのに、ボディの存在感や持ちやすさといった面では、かなり改善されました。特にグリップは良くなりましたね。

打土井「Kissシリーズのグリップに関しては、本田さんを含めいろいろな人からかなり指摘されていましたから。開発側は、もちろんこれまでも工夫して軽量コンパクトと持ちやすさの両立を目指して、その時点でよいものを作っていたハズなのですが、さらに改善をさせてみると、また新しくよいものにできました。今回のグリップは小指までしっかりと掛けられるようになっています」


――APS-Cサイズで1,500万画素という数字に関してはどうでしょう。実際にフルサイズで2,000万画素オーバーのカメラを使ってみると、輝度成分のスルーレートが低画素時より幅広く表現できるので、硬さと柔らかさの描き分けが自然に行なえるようになったと感じました。クロマの解像度はベイヤ配列センサーではもともと高くありませんから、この部分での良さもある。こうした点は、今後少しづつユーザーにも受け入れられるようになるかもしれません。

打土井「そういった話は抜きにしても、画素数は一般論として多ければ多いほど、画像としての表現力は高まります。問題は高感度を実現するためのS/N比をどうするかという点です」

――ISO感度は少し前までISO800での常用を基準にキヤノンは開発をしていましたね。それが現在はISO3200を常用域とするようになった。これで十分とお考えでしょうか?

打土井「いえ、まだ足らないでしょう。ISO6400が常用域と言われる程度までは改善したいと思っています。超高ISOを実現することで、肉眼での見た目とは全く異なる映像を捉える楽しみも生まれます。動画でもロウソク一本の明かりで撮影ができる。ISO6400を常用範囲とした上で、さらに高画素化も進めていくことになります。もちろん、高画素の追求だけに特化したモデルがあってもいいとは思います」


軸足はあくまでも“静止画撮影用の一眼レフカメラ”

――PMAではサムスンのNXシステムが話題でしたし、パナソニックもDMC-GH1で存在感を示しました。一眼レフカメラの進化の方向として、どのような方向があるとお考えですか?

打土井「今の一眼レフデジタルカメラは、かなり完成された領域にまで進化しました。ではその先はどうなるのか。これから2〜3年先に出てくるだろうカメラのことを今は考えています。メーカーが気付かない可能性をユーザーが教えてくれることがよくありますから、ユーザーからのフィードバックを注意深く分析しています」

打土井「ミラーレスの一眼はあってもいいとは思います。一眼レフカメラが進歩していく中で、いろいろなユーザー層がありますから、必要であればそこには製品を投入したい。しかし、我々の軸足はあくまでも"静止画撮影用の一眼レフカメラ"です。この領域を拡大することは考えていますが、全く新しいことはしません。ひとまずは、現在の一眼レフカメラの応用範囲を、どう拡大していくかに注力しています」

――最後に市場動向について。3月初旬の段階で、昨年に高くなっていた在庫レベルが減ってきたという話がありました。コンパクトデジタルカメラに関しては、かなり落ち込みが激しいようですが、一眼レフはそうでもないというのが、ここに来ての状況のようです。キヤノンはどうでしょう?

打土井「一眼レフカメラだけに限れば、不景気と言われているほど悪くありません。これは昨年後半以降、ずっと継続してそうです。今年に入ってからは、地域によっては2割くらい売り上げが伸びていますし、ワールドワイド全体でも1割程度の伸びがあります。ただ、全体に不景気で販売店側のキャッシュが減ってきているようで、あまり多くを店側が仕入れられない状況でした。このため、メーカーからの出荷は極端に減り、在庫レベルが極端に低い状況になっています」

――北米ではかなり販売単価が下がっていると聞きました。

打土井「2月は北米で大手カメラ販売店系列が倒産という事態になり、その影響で価格が下がりました。しかし、極端な円高でどのメーカーも価格を下げたくとも下げられない状況ですから、4月からは値を戻すはずです。世界的に見ると日本市場がもっとも厳しいと言われていますが、それでも昨年対比ではプラスに推移していますし、欧米は堅調ということで、昨年よりも悪くなる要素は今のところありません」

――では、例年通りに新しい機種も投入されるのでしょうか。

打土井「今年が1機種だけということはありませんから、まだ新機種発表はあるでしょう。いずれにしても、前モデルと比較して、あまり代わり映えのないものならば、新製品に置き換える必要がありません。出すからには、明らかに改善された製品。それが完成した時に発売します」



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/

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( 本田雅一 )
2009/03/30 00:36
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