デジカメ Watch
最新ニュース
【 2016/01/26 】
【 2016/01/25 】
【 2016/01/22 】
【 2016/01/21 】
【 2016/01/20 】

【インタビュー】K10D開発者に聞く

~ペンタックスが変わった理由

 発表以来、予想を超える話題を振りまき、発売後もあっと言う間に在庫が無くなるヒット商品となっているペンタックスのK10D。「作り溜め」のために発売日を遅らせたものの、あっと言う間に在庫を切らせてしまったようだ。

 これまでもペンタックス製デジタル一眼レフカメラは根強い人気を持っていたが、ここまで話題を提供することは無かった。K100D以降、なぜ急にユーザーに認められる製品が生まれるようになったのか。K10Dの機能や評価記事はすでに出ていることもあり、ペンタックスイメージングシステム事業本部第二開発部の畳家久志氏に、その開発の背景を中心に話を聞いてみた。


予想を超えた「桁違い」の受注

畳家久志氏
-- K10Dは魅力的なスペックを備えていたため、おそらく国内での人気は出るだろうと予想していましたが、ペンタックスのブランド力が比較的弱い欧州で開催されたPhotokinaでもブースでは大好評でした。国内でも発売前の予約段階から品薄感が出ていました。こうした市場の反応を、開発側としてどのように受け止めていますか?

「今年はK100Dというヒット商品があり、K10Dも伸びるだろうとは予想はしていました。もっとも、そうした背景があったとはいえ、発売前の予約状況は予想を超えたものでした。本当に桁違いの人気で我々自身、驚いています」

-- 桁違いというのは比喩としての桁違いでしょうか? それとも本当に予想とは桁が違っていたのですか?

「価格的には10万円を超える商品ですから、売れるとは思っていてもK100Dほどではないと考えていました。ところが、具体的な数は申し上げられませんが、K100Dの予約台数の2倍では済まないぐらいの発注が殺到したんです。例を挙げると、K100Dの事前予約で300台を売っていただいたある大手流通は、予約台数が1,000台を超えました。これが日本の状況なのですが、海外での反響は日本以上です」

-- 元々、ペンタックスは欧州のブランド力や流通が弱いという印象があったのですが、欧州でも好調なのでしょうか?

「ペンタックスブランドは日本ではある程度確立されており、北米では古くからのファンが多数いらっしゃいます。一方で欧州は弱い面もありました。ところがK10Dの前評判が良く、ある国の流通は過去の実績から50台ぐらいだろうと見込んでいたら、1,000台もの発注が来てしまいました。日米各市場と同じぐらいに、欧州からの予約が入っており、全く予想外のことに面食らっているというのが正直なところです。加えてK10Dに関してはアジア……香港や韓国での過熱ぶりが凄い」


組織変更がK100Dを生んだ

K10D(右)とK100D
-- Photokinaでの鳥越氏へのインタビューでは、開発現場の雰囲気が大きく変化したとのコメントがありました。実際にプロジェクトを率いる立場として、どのような変化を感じているのでしょう。

「K100Dが予測以上に売れたことで、雰囲気は大きく変わりました。エンジニアも人間ですから、自分が苦労して作ったものが世の中で受け入れられれば、もちろんうれしい。それが強いモチベーションとなって、K10Dの最後の仕上げを行う追い込み作業は、ものすごく中身の濃い仕事になったと自負しています」

-- 中身が濃いというのは、具体的にはどのようなところでしょう?

「K100DとK10Dの開発メンバーは一部重なっているのですが、K100Dが終わってからK10Dの追い込みが終了するまでの3カ月間、もともと機能が多く作業量が多い中級機にもかかわらず、さらに自分から進んで機能や性能の細かな追い込みをやったことが大きいですね」

「たとえば毎秒3コマの連写スペックですが、追い込み前の段階では秒3コマがギリギリのスペックでした。しかし、少しでも速くできるかもしれないとチューニングを見つめ直し、そのパートの開発担当者本人しか思いつかないような、処理シーケンスを組み立て、露出条件の厳しい時にもきっちり3コマが出るようになっています。おそらく、実測していただければ、良い条件下では毎秒3コマ以上の連写が出来ます。実際にシャッターを切っていただければ、レスポンスの良さをわかってもらえるのでは」

「また、当初はRAWモード時の連写は、バッファがいっぱいになると連写が止まり、あとはひたすらメディアに書き込みを行なうようになっていましたが、並行して書き込み処理を行なうことにより、少しでもバッファに空きを作り、連写可能枚数が1~2コマ増えるようにチューニングしています」。

「こうした細かな部分での追い込みを、誰もが進んで行なったことで、本来、カタログ値として設定していた性能を発揮できているのはもちろん、むしろカタログ値よりも良くなっているところがたくさんあります」


-- *ist Dや*ist DSもなかなか良い製品でしたが、今回ほどのヒットは出せませんでした。K100D以降とそれよりも前。一体何が変化し、製品コンセプトのどんなところが受け入れられたのだと自己分析していますか?

「K100Dのヒットでモチベーションが上がりましたが、かといって開発エンジニアがKシリーズになってから急に変わったり、能力が向上したわけではありません。一方で組織の変化は大きかった。昨年の4月、それまで開発側の商品企画と、販売会社系のマーケティング部隊が別々に存在していたのを一体化しました。市場からの声を調査、吸い上げてまとめる部署と、製品開発の舵取りを行う部署を一緒にしたのです。これが良い効果を発揮し始めたのがK100Dでした」

-- つまりユーザーニーズを的確に素早く製品に反映できる体制を整えたことが成功に繋がったということでしょうか?

「これまでもニーズは把握できていたのですが、様々な意見を一本化できていませんでした。マーケティングと開発の間を直結したことで、製品ごとにターゲットユーザーを明確にすることができたのです。“一眼レフなんてカメラは写真好きのおっさんだけなんだから、マーケティングも何もないよ”という意見もあります。しかし、実際には様々なタイプの方々がデジタル一眼レフカメラを購入しています。きちんとターゲットユーザーを定め、想定するユーザーにとって明確に良いと言っていただける製品を出そうと考えました」


小さな会社のメリットを引き出す

-- なるほど。ではK10Dの場合、そうした開発コンセプトがどのような点に活かされているのでしょうか?

「K10Dに関して言えば、とにかく中途半端はやめようということです。中庸をなして誰でも使えるカメラはK100Dが担うべき役割です。上位機種であるK10Dはお気楽なピクチャーモードもなくし、デザインに関してもサイズより機能性。防塵、防滴、それに重厚感を引き出せるように作りました」

-- 最初にK10Dのスペックだけを見た時は、軽量・コンパクトを大きな特徴としてきたペンタックスにしては重いかな? とも思いました。もちろん、カメラの場合は重いことが悪いことではありませんが、従来の路線とは違いますよね。

「開発の初期段階で、中級機に必要と思う機能とそのために必要な部品は、削らずに入れていこうと決めていました。もちろん、防塵、防滴も必須と考えています。そこで、ざっくりと最終製品に詰め込まなければならない部品を並べてみて、大きさや重さが決まるわけです。営業サイドからは“本当にこの大きさで商品化が進むのか?”と疑問の声が挙がりました」

「しかし小型・軽量を優先した機種としては、すでにK100Dがあります。また、これだけの機能を詰め込んだ製品としては、他機種比でもかなり軽量には仕上がっています。K10Dは小型化を主眼に開発する製品ではないだろうと考え、機能と使いやすさを優先させて開発を進めました」


-- 元々、ペンタックスのカメラにはハイパーマニュアルなど、新しい発想で操作性を改善しようとしたユニークな機能が備わっていました。しかし、今回、さらにISO感度優先モードなど新しい露出モードが搭載されています。これらの機能はどのように生まれてきたのでしょう?

「カメラ、写真を撮影することが好きでペンタックスで開発を行なっているメンバーばかりですから、普段から“こういう機能は便利じゃないか”という考えを持つエンジニアはいました。しかし、それを具体的な商品に組み込んで提案というところまでは煮詰められていなかったというのが、今までだったと思います」

「しかし前述した組織改革で、開発メンバーも商品企画やマーケティングの中枢とフリーディスカッションする機会が増え、新しいアイディアが出てくるようになったんです。K10Dを購入してくれるお客様はどんな人だろう? きっと本物志向のカメラが好きな人に違いない。では、本物志向とは何なのか?」

「そうした中で、カメラを操る基本として、露出制御の概念を変えてみるのはどうだろう。もっと使い手の多様な発想に合わせた露出モードを選べないだろうか? という話になりました。せっかくのデジタルカメラですから、フィルムカメラと同じ発想では面白くありません。デジタルならではの良さを活かした新しいカメラの操り方を議論した結果、ふたつの露出モードが加わりました」

-- お話しを伺っていると、組織改革の効果もさることながら、小規模な会社だからこその風通しの良さ、自由さが、柔軟な発想を生んでいるような気がします。

「市場からの声を開発現場に伝えると、実はその解決策を設計者や開発者が持っているということが良くあるんです。大きな組織の中でレイヤが増えてくると、そういう情報の伝達が難しくなります。K10Dの場合、マーケティング担当、商品企画、現場の開発・設計者たちが消費者の目線に近づいて、対等にいろいろな話ができたことが、本当にちょっとしたことなんですが、細かいアイディアやスペックに反映されています」


「たとえばRAWボタンにしても、社内で議論をしていると、ほとんどの人はJPEGで撮るという意見もあれば、俺はRAWでしか撮らないという者も出てきて意見がまとまりません。では実際にはどうなのか? というと、普段はJPEG撮影でも、場面に応じてRAWを選択的に選ぶ人も多いだろうと。“ボタンを増やす”というのは、メカ設計、ファームウェア、ユーザーインターフェイスなど様々なところに影響が出るのですが、きちんとユーザーニーズの本質の部分を検討してのアイディアですから、すんなりと企画が通る」

「組織変更は、もともと小さい会社であるペンタックスならではの良さを引き出したのだと思っています。デザイナー、メカ屋、電気設計。開発に関わる全員を、お客様の求める製品を作ろうというベクトルに揃えることができました」


「叩き落し」とコーティングでゴミ落とし

K10DのCCDユニット
-- ゴミ落とし機能を今回は搭載しましたが、コーティングなども含めてどのような工夫をしているのでしょう?

「CCDユニットを“落とす”という表現が使われることが多いのですが、我々のゴミ落としは、実は手ブレ補正用アクチュエータを用いて加速させ、叩き付けているというのが正しい表現だと思います」

-- 当然、耐久性などに対するテストは行なっていると思いますが……

「はい、まずは誰もがそこに注目しますよね。もちろん、CCDのデバイスメーカーに何も言わずに開発しているわけではなく、部品として何十Gまでの衝撃に耐えられるのか? といった情報の交換をしています。その部品スペックに、十分と考えられるマージンを取った上で重量加速度の設定を行なっていますから、それによってCCDの性能が落ちたり、内部のボンディング配線が外れることはありません」

「実は叩き付けて落とすアイデアは、かなり以前にパテントを取っていたんですよ。しかし、それだけではゴミは落ちません。そこで研究開発部が目を付けたのが、メガネ用レンズの開発部門が持っていた、皮脂の油を弾く機能を持つハードコードの技術でした。このハードコートは表面をミクロレベルで平滑にするのですが、これ単体ではゴミが付着することもあります。しかし叩き付けのアイディアを組み合わせると、効果的ということがわかったんです」

「ゴミに水分や油分が多く含まれていると、どんなに物理的にエネルギーを加えても、吸着してしまってなかなか落ちません。乾いているものなら、簡単なんですけどね。コーティングによって表面の凹凸をなくして摩擦を減らし、油分を弾くことで、そもそもゴミが付きにくく、そして落ちやすい表面にする。この技術をカメラに応用しているのはペンタックスだけです」


左がK100DとそのCCDユニット
-- 手ブレ補正のシェイクリダクション(SR)は、2世代目で進化したポイントはあるのでしょうか?

「CCDを動かすアクチュエータのパワーを上げ、制御プログラムを変更しました。実はここでアクチュエータを大きくしたために、ユニット全体が大きくなり、重量も大幅に増えています。新CCDが以前のパッケージよりも大きく、重くなっているため、それに合わせて強化したんです。しかし、どうせパワーアップして重く、大きくなるなら、SRの効果を高めるためにも使おうと。実はここが手ブレ補正精度の向上に繋がっています」

「制御プログラムのアルゴリズムは、主に安定性を高めるよう工夫をしています。従来、うまく動作しない動きパターンがあったのを、試行錯誤であらゆる場合に安定して効果が出るように工夫しました。アクチュエータのパワーが増えたため、動きだしが俊敏でブレーキもかけやすい。これを活かすことで、より安定した効果が得られるようになりました」


スペックではなく、本当に必要なものにコスト配分

-- 画質面では色の設定でナチュラルがデフォルトになったという違いもありますが、全体に抜けがよくスッキリとした絵作りになった印象があります。どんなところが変化したのでしょう?

「基本的な考え方は、*ist D以来、まったく変わっていません。しかし、映像処理エンジンのパフォーマンスが上がったことで、たとえば輪郭補正もより高度な処理を行なえるようになっています。エッジ処理で、輪郭部の断ち落とし部が太く見えず、細くなったことでスッキリとした見えになっているかもしれませんね。新しい映像エンジンはパフォーマンス向上で、今までとは違う映像処理が行なえるようになり、よりチューニングを追い込めるようになりました」

-- ニューコアテクノロジ製の新アナログフロントエンド(AFE)と富士通製の最新画像処理プロセッサの組み合わせが効いているのだと思いますが、どんな点が優れているのですか?

「我々はエンジンの詳細を公開していません。中のファームウェアなども独自に開発を行なっています。もっとも、おっしゃるように新しいAFEが22bitのADコンバータを持ってることで、その後の映像処理に余裕が出ているのは確かです。デジタル処理部分の改善は、とにかくスピードに尽きます。メモリもDDR2になり高速化され、バス帯域が広くなったので高画素の映像に対して、余裕をもって画像処理を行なえます」


-- 一部には最高1/4,000秒のシャッター速度や秒3コマの連写スペックに不満の声もありますが、個人的にはここを抑えて、防塵・防滴などにコストを投入したのは正解だったのではと思います。あえてこのようなスペックの数値にこだわらなかった理由は?

「たとえば10年以上前を考えてください。当時、1/8,000秒シャッターは当たり前、ストロボ同調速度も1/250が当然で、カメラスペックを眺めて満足できなければ駄目という前提条件があって、さらにレンズはF2.8通しのズームじゃないと自慢できないといった風潮がありました。しかし、今ではそんな話はほとんど聞かれなくなっています」

「それだけユーザーの目が肥えて、写真を撮影するためにどんな要素が必要なのかを、自分で判断できるようになってきたのだと思います。デジタルになって感度がコントロールできるようになり、1段明るいレンズを使うよりもコンパクトさや他の機能を重視するようになったり、使わない高スペックよりも普段使いの使いやすさを求めたりとニーズは多様化しています」

「そうしたことを踏まえた上で、シャッター速度やコマ速を上げようとすると、チャージ系の高速化はもちろん、ミラーのバウンス対策、SRのパフォーマンスバランスまで追い込まなければメカ的に対応できません。さらにCCDも4ch読み出しにした上で、AFEも今の2倍の数を搭載しなければならない。メモリバッファも増加させる必要があります。技術的には可能ですが、かなり高価な製品になりますし、大きく重くもなることが予測できましたから、かなり早い段階で仕様から落としています」

-- つまりコスト配分を、シャッター速度やコマ速以外の部分に振り分けようということですね。

「中級機で本当に必要なものを選び抜き、コストの配分をきちんと見直した結果です。30~40万円の機種ではなく、皆さんに買っていただける製品にするために、ある枠に収めようと意識しました。その分、K10Dの価格帯において、実際にユーザーが利用する環境における高い性能と使いやすさを実現できたと思います。今後もユーザーの目線がどこに向いているのか。数字ばかりのスペックだけではなく、実利用時の使いやすさを考えた製品を開発していきます」



URL
  ペンタックス
  http://www.pentax.co.jp/
  製品情報
  http://www.digital.pentax.co.jp/ja/35mm/k10d/feature.html
  ペンタックス K10D関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/09/15/4605.html

関連記事
【インタビュー@Photokina 2006】
夢を語れる会社に生き返ったペンタックス(2006/09/28)



( 本田雅一 )
2006/12/05 00:31
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.