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【インタビュー】EOS Kiss Digital Nの狙い

〜Kiss Digital Nこそ、我々にとっての「EOS Kiss」

カメラ開発センターの村野誠 所長(左)と大原経昌 副所長
 エントリー向けながら上位機種に迫ろうという機能とクオリティで登場したEOS Kiss Digital N。その開発意図を、カメラ開発センターの村野誠 所長と大原経昌 副所長に、山田久美夫氏がインタビューした。

 本稿は、2005年3月31日に行なわれた山田久美夫氏によるインタビューを、編集部が再構成したものである。また、写真はすべて編集部が撮影した。(文中敬称略)


初代からNへ

−−初代EOS Kiss DigitalからEOS Kiss Digital Nへ、このように振ったのはなぜでしょう。

村野 “振った”という感じはしていません。

大原 EOS Kiss Digitalは普及クラスということで、初代とターゲット層は同じですし、使いやすく、幅広いお客様に高画質を楽しんでいただくという基本的な軸は同じです。我々としては、「同じ方向に進化した」と位置づけています。高画質化のほか、小型化とレスポンスを含めた快適性を追求していこうという方向です。


左からKiss Digital N(ブラック)、Kiss Digital N(シルバー)、初代Kiss Digital(シルバー)
−−初代はターゲットユーザーが広かったと思うのですが、それに対してNではターゲットが絞り込まれているようなイメージを持ちました。

大原 そうではありません。デジタルのKissは銀塩のKissと比べるともうすこし上のほうのユーザーまで広がってます。そういう意味では銀塩よりもユーザー層は幅広いといえるでしょう。ホワイトバランスやAFモード選択などのコントロール機能は上級機のEOS 20Dに近くなっていますし、スピードやミラーの切れ感、動作時間などは初代よりもさらに向上しています。

 ですから、初級入門者に絞り込んだわけでなく、幅広いユーザーをターゲットにするというところに変わりはありませんし、より広くなっています。

−−具体的にどんなユーザーがターゲットでしょう。

大原 今はコンパクトデジタルカメラをお持ちなんだけど、もっと高画質でいろんな写真を撮りたいという期待を持ってデジタル一眼レフを初めて使ってみようかな、というお客様ですね。

 それから、銀塩を含めてすでに一眼レフについてはある程度スキルがある中級クラスのお客様の、作画のコントロールなどの要求にも応えられます。今回は特にレスポンス面はメカの動作時間を含めてかなり改善していますので、撮影したときのフィーリングは20Dにより近く仕上げてあります。

−−2代目EOS Kiss Digitalは、小型化や機能充実よりも、価格を下げてくるのではないかと予想する人が業界には多かったのです。初代の“低価格”というインパクトが強かったので、そちらの方向に振るのかなと思っていました。

村野 我々の「EOS Kiss」は、このKiss Digital Nなんですね。初代のときの技術では初代の大きさにしかなりませんでしたが、Nでやっと銀塩のKissと同じ大きさになりました。機能面でも、銀塩のKissは今ではだいたいフル機能になっています。その延長線上でいくと、Kiss Digital Nは初代が素直に進化したといえるでしょう。

大原 デジタル一眼レフのピラミッドがあれば、Kiss Digitalは裾野の部分にあたりますが、一眼レフですから、高画質、広い撮影領域、作画の自由度などの性能を伸ばしていかないとならないと考えました。これからもっとデジタル一眼のお客様が広がっていくと、もっと性能をよくして快適さを追求することが大切でしょう。

−−そういう意味では初代には、作り手としては不満がありましたか?

大原 今にして言えば、大きさに関してはそうですね。初代ではコストを下げることが大きなハードルでした。

−−具体的に、初代にはユーザーからどのような不満が寄せられていたのですか?

大原 ひとつはレスポンス、特に起動時間ですね。大きさについてはさまざまでしたが、女性ユーザーは大きすぎると感じられたようです。AF機能など、いくつかの機能ではユーザーがコントロールできる領域が足りないという声もありました。


小型化の経緯

−−大きさについては、個人的には小さすぎるように思います。ist Dは小型化してもファインダーやグリップなど重要な部分では使いにくさを出さず、他の部分で切り詰めている感じがします。Nではもうひと息という気がします。

大原 ファインダーに関してはスペック的には初代から変わっていません。グリップは細身になっていて、小指がかからないことは確かにあります。

 一見、持ちにくいという印象を持たれる方もおられるでしょうが、Nのグリップはこの大きさの中でもかなり吟味しましたし、いろんな姿勢でもレリーズしやすいよう、手を拘束しすぎないことを重視しています。撮影時の操作性は、それなりに仕上がったと思っています。

 光軸をグリップの反対側に寄せればグリップに余裕ができますが、一眼レフらしい全体のプロポーションを維持するのにこだわりました。

村野 この大きさにまとめるには、優先順位を決めなければなりません。*ist Dではファインダーを優先しましたが、私たちは高画質化を優先しました。メーカーによって違うまとめ方をしているということです。

大原 ファインダーはガラスプリズムでなく、ペンタダハミラーを使っています。ガラスプリズムでは光がガラスの中を通りますが、ミラーでは空気の中を通ります。ガラスは空気よりも屈折率が大きいのでピント板が大きく見えます。しかしミラーは軽量でコンパクトに作れますし、コストも安くなるメリットがあります。

−−小型化するにあたって、*ist Dsは意識しましたか?

村野 Kissのサイズ感を実現したいという目的のほうが大きかったです。*ist Dsが登場していなくても、この大きさになったでしょう。

 実は、*ist Dsが出たとき「あちらよりちょっと大きいね、どうしよう」という話は出ました。グリップの反対側のボディを削れば小型化できるのですが、それは本質的な問題ではないということで、この大きさになりました。

−−小型化という点では、CFよりもSDメモリーカードのほうが有利に思えるのですが。また、書き込み速度もSDのほうが有利に見えます。

大原 今のところ、普及度と容量はCFのほうが有利です。容量あたりの価格もCFのほうが安いのでCFを選択しました。また、SDカードスロットの実装面積は確かにCFスロットより小さいのですが、カメラ全体としてのサイズは変わりません。

村野 書き込み速度に関しても、SDメモリーカードはメディアの速度は速いのですが、CFも速くなっています。それよりもお客様にとっては、容量や価格のメリットのほうが大きいと考えました。


高画質を求めて800万画素センサーを採用

−−撮像素子(センサー)を800万画素にした最大の理由はなんでしょう? 600万画素でもよかったという意見もあります。

村野 議論はありましたが、画質に関しては第2世代として揃えたかったということです。

大原 EOS DIGITALシリーズが重きをおく場所は「画質」と考えています。最新のセンサーで800万画素に持って行きたいと考えました。


Kiss Digital Nの主要パーツ
Kiss Digital NのCMOS

−−20Dのセンサーでなく、新しい800万画素センサーを作ったのはなぜでしょう。

村野 製造コストの問題です。新規にセンサーを起こすとそのほうがお金がかかりそうに見えますが、半導体のコストは歩留まりがもっとも響きます。半導体はウェハというシリコンの板から作ります。例えば1枚のウェハから1.5倍の数のセンサーを作れれば、そのほうが安くなるわけです。

 Nのセンサーではまず、回路を簡単にして歩留まりを上げました。それからセンサーのサイズを微妙に小さくして、1枚からとれる数も多少増やしています。

−−センサーの性能としては、20Dと比べてどうでしょう。

大原 画質ということでは同じ性能です。

村野 高感度の特性が若干異なりますが、実用上は20Dと同じと言えます。

−−ボディが小さくなったので、従来のEFレンズが大きくなって、バランスが悪くなったように思います。個人的にはこのボディに見合った大きさのレンズが欲しい。このクラスのボディでもISO400が常用できるようになりましたから、極端に明るくなくても、EF-Sで薄型のレンズがあるといいなと思います。

大原 多くのEFレンズがボディより下にレンズが出るようになりましたが、これはしかたないと思います。EF-Sに関しては、焦点距離に対しては小型になっています。レンズの小型化も進んでいます。

−−センサーがよくなったので、標準レンズの画質をもうちょっと上げてもいいのかなと思います。

大原 標準域をカバーするレンズはいろいろありますし、EF-S 18-55mmもキットに付ける標準レンズとしては、従来の水準よりも高画質に設計してあります。


省電力が小型化とミラーの切れ向上につながった

左が初代。バッテリが小型化された
−−電池が小さくなりましたが、ボディを小さくするために、電池も小さくしなければならなかったのでしょうか。

大原 ボディの小型化のために電池を小さくしたいという要望はありました。DIGIC IIでは省エネが進んで、電池容量を小さくしても同じ枚数を維持できるため、電池を小さくできたのです。

−−DIGIC IIでどのように省エネ化が実現されているのでしょう。

大原 DIGIC IIでは細かく電源の制御ができます。無駄な電気が流れるタイミングを、キメ細かくカットできるのです。必要なときに必要なところにだけ、電気を流せるように、細かく制御できるようになったのです。


マウントの向かって左側に見えるのがミラー駆動モーター。ミラーの回転軸とモーターの駆動軸が揃っている
 省エネという点では、DIGIC II以外にも、機械系の伝達ロスが減り、ミラーを駆動するモーターを小型化できました。初代よりもモーターを小さくし、初代で電池があった空間にモーターを置けるようになりました。これによりモーターの回転軸をミラーの回転軸に合わせることができ、伝達ロスが減ったのです。これにより、ミラーの消失時間の短縮にも効きました。初代に比べて消失時間は3割くらい短くなっています。


ボディ剛性で質感を向上

−−メカ部分ではほかにどのような改良があるでしょう。

大原  ファインダーのスペックは初代と一見同じですが、ファインダーとミラーの剛性も従来より高くなるよう、構造をまったく見直しています。ファインダー系の剛性は、覗いた時の像のクリアさや、歪みに影響が出ます。

 ボディの剛性には初代からこだわっています。Nでも小さくなっても強度を落とすことのないよう、しっかり感が出るように重視しています。外観に複数のビスが出ていますが、ボディをしっかりさせるためには必要なことなのです。デザイナーは嫌がりますが(笑)

−−使った感触が初代よりワンランクあがっています。

大原 撮影フィーリングはうまくあがったと思います。メカ設計をする担当が、ミラーの切れ感や音などを上のクラスに近づけようと、かなり意識しました。音関係は定量的な見通しを出しにくいのですが、わりとうまくいったのではないでしょうか。

村野 とくに今回のように機構が変わったときは、比較すべき前例がないので、推定の精度が上がらないのです。

大原 一眼レフは内部に空気がけっこうあるので、比較的共鳴しやすくなっていますから、机上の推定だけではわからないところがあります。Nでは伝達メカニズムやミラーの当たる部分の改善に、切れ味や作動時間、音などをよくする方向での設計をかなり盛り込んだので、狙いに対していい結果になりました。

−−操作系ですが、プログラムオートに、ISOオートがあるとよいと思うのですが。

大原 ISO感度を動かせるということは、デジタルならではの新しい機能だと考えています。ただ、もともとのコンセプトが、モードダイヤルの半分(全自動モードやポートレードモードなどの簡単撮影ゾーン)がおまかせの領域で、P/Tv/Av/Mはお客様の意思を入れてコントロールしていただく領域と位置づけています。

 今回はこのような形でまとめましたが、ノイズ性能も上がったことですし、検討はしていきます。

−−ブラックボディは最初から用意していたのですか?

大原 初代でもブラックの評判がよかったので、Nでも最初から用意しました。

−−外観については、小さくなったこと以外はキープコンセプトのようですが、もう少し遊びがあってもいいのではないか、という意見もあります。


“肩”をたち落として、ボディ外皮が黒いコアを包む意匠は初代から継承された
大原 初代からの進化系として考えるとキープコンセプトしかありえませんでした。小さくすることを含めて、デザイナーには凝縮感やシャープな感じを狙ってくださいとお願いしました。これに関しては非常によくできていると思います。

 一眼レフらしさを軸にしたデザインですし、全体がまとまっているので突出した遊び感は一見ありませんが、意外と思い切った面を使ってみたり、ストロボ部を思いっきり張り出させたりしています。また、モードダイヤルのローレット(ダイヤル外周の滑り止めのギザギザ)を高級感、金属感のある、本体と異質な雰囲気のものにして、アクセントにしています。

 初代でも、グリップの反対側のボディを断ち落としたようなデザインにしています。さらに、黒いコアを銀の外皮が包むような意匠を施しています。Nでもこれらは継承しました。

 ブラックボディではこの意匠が目立たないのですが、逆にオーソドックスな感じに仕上がっています。同じデザインでも、ブラックとシルバーではかなりテイストが違うようになりました。

村野 初代でもブラックボディを選んだ方は一眼レフらしさを求める方が多かったので、狙い通りのデザインといえます。

−−ありがとうございました。



URL
  レンズ交換式デジタルカメラ機種別記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/dslr.htm

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( 山田久美夫 )
2005/05/26 00:38
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