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【インタビュー】サイバーショット DSC-T30開発陣に聞く

〜T9とは全く別な製品に

 昨年の発売以来、継続的に人気を博しているソニーのサイバーショット DSC-T9。屈曲光学系レンズを用いることで薄型を実現したTシリーズのテイストをそのままに、高感度時の特性を改善した画像処理を導入。さらにレンズシフト式の光学手ブレ補正機能を組み込んだことが人気の秘密だろう。しかし1cmまで寄れるマクロ機能、高レスポンスのAF機能、それにメリハリと鮮やかさを引き出しつつも、破綻が少ない絵作りなど、ソツのない作りも魅力だ。

 実は個人的にもDSC-T9を購入して使用しており、大変気に入っているが、そのT9に追加された上位モデルDSC-T30も気になるところだ。厚みを増したボディはTシリーズらしくないとも言えるが、一方で高解像度の3型液晶パネルやT9比で約2倍に伸びたバッテリ持続時間、サイズが大きくなりながらもほぼ変わらない重量、改善された操作性やビビッドモードの追加など、細かな変化もある。

 ソニーでサイバーショットTシリーズ商品企画の岩槻豊氏、T30設計リーダーの山口幸一郎氏、画質調整担当の福田孝氏、それにT30の700万画素CCDのデバイス設計を担当した石上富士氏に、T30にまつわる話を伺った。


薄さはT7で限界に。機能を盛り込む方向へ転換

 T30とT9、この2つは同じレンズユニットを共有し、同サイズのCCDを採用するが、並べると似たようなデザインを持つ。しかし、スペックを見て、さらに手に取ってみると、全く異なるテイストが与えられていることがよくわかる。T30がT9の後継機種と位置づけられていないのは明らかだ。

 ではT30は、どのようなコンセプトで生まれた製品なのだろうか。増えた厚みは他のスタイリッシュコンパクト機と同等レベルで、特別に薄いモデルではなくなってしまった。

 質感もステンレスによる重厚な外装から、軽量なアルミ外装へと変更。その分、レンズバリアをスライドさせた時の感触も、どこか軽く感じられてしまう。レンズバリアの開け閉めなどもT9の方が、キレよく気持ちよくできるし、指の引っかかりがいいために片手で操作しやすい。

 などとT30の担当者を前に、かなり正直にT30の印象を話したあと、T30のコンセプトについて訊いてみた。


商品企画の岩附豊氏
──個人的にはT9の高い質感と胸ポケットでの薄さ、キレよく開閉できるレンズバリア兼用電源スイッチなどが気に入っていたのですが、T30はちょっと味付けが違う。非常によく似た部分を持ちつつ、T9とは異なる製品として生まれたT30のコンセプトについて聞かせてください。

 「ご存じのようにTシリーズは薄くて大画面液晶を採用してきました。T9はおかげさまで大変好評を得ていますが、その背景として我々が考えていたよりも早いタイミングで、既存のTシリーズユーザーが買い換えにシフトしているという市場動向がありました。T9に関しては、このトレンドに乗るだろうということで、ある程度市場での成功を見込んでいました。

 しかし従来のTシリーズのコンセプトを頑なに守ったT9とは別に、高感度と手ブレ補正による“ダブルでブレない”技術を用い、スタミナもある製品を開発したいと考え、2つの製品を開発を並行して行なっていました。また、N1やT9では液晶画面上でスライドショーを見せる機能を盛り込みましたが、これがユーザーにも好評でしたので、より楽しめるようにと高精細の3型液晶パネルを搭載し、さらに最高の画素数を与えよう。こうして生まれたのがT30です。確かにレンズユニットはT9と共通ですが、製品としては全く別のモデルに仕上がったと思います」。


T30(手前)とT9
T30(手前)とT9

──かつてソニーはメカトロニクスとその小型化、それにアナログ信号処理技術で世界を制しました。それはソニーならではの独自性が際だっていたからでしょう。現在のデジタルカメラには、部分的にはアナログ信号処理的な要素や小型化を実現するための技術、それにメカトロ的な部分も残っていますが、そこで“ソニーならでは”という部分を挙げるとすれば、何を挙げたいと思いますか?

 「自分たちの強みはコンパクトで魅力ある製品を作ることにあると考えています。T30に関しても、超薄型のT7やT9の設計ノウハウを継承し、考え得るコンパクト化のアプローチを集めて1つの製品にまとめています。T9から引き継いだレンズユニットも、これ以上ないほどに小型化されています。そうした小型化、薄型化の技術を用いた上で、少し厚みを持たせることでバッテリと液晶パネルにより大きなものを使いました」。

──つまり小型化技術を活かす方向を、T9とT30で分けたということでしょうか?

 「より小型に作るための基本的な技術として、基板実装技術がありますが、薄く作るという方向ではT7の段階で限界まで進めることができたと考えました。薄さの追求はそこで やめて、今度は必要な機能をどこまで入れることができるのかという方向に開発方針を転換したのです」。


T7から時間をかけてブラッシュアップした絵作り

設計リーダーの山口幸一郎氏
──先ほどからレンズユニットは共通という話していますが、実際に使ってみた感覚としてはT9よりもT30の方が、(手ブレ補正の)効きが少し良いと感じました。本当に何も変わっていないのですか?

 「センサーから入力された情報を元に、補正レンズを動かしています。今回のT30では、こうした制御部分に新しいノウハウを用いているため、同じレンズユニットではありますが、手ブレ補正の能力は上がっています。ただし“何段分”といった具体的な話はしていません。ちなみに手ブレ補正の設定ですが、デフォルトの“撮影時”というポジションが、もっともよく手ブレ補正が働きます」。

──画像処理技術に関してはどうでしょう? アナログ信号処理時代はノウハウの差が激しかった。しかしデジタルになって、その差は搭載するLSIに強く依存している。その中でソニーがデジタルカメラで一定以上のブランドを保てているのは、ビデオカメラ時代から続くデジタル信号処理の技術が活かされているのでしょうか?

 「ルーツはビデオカメラにありますが、しかしスチルカメラの中で独自の文化が生まれ、ビデオとは別に進化が進んできました。このため、現在ではかなり異なるものになっていると思います」。

──ソニーのデジタルカメラは、どのような絵作りを目指しているのでしょう?

 「記憶色といいう言葉がありますが、いくつか記憶に残りやすい特徴的な色を中心に、より好ましい色再現を行なうよう作り込んでいます。忠実さも重要ですが、人が美しいと思う空の色、緑などの自然色を好ましく見せてあげることも重要でしょう。また、T30からは明暗のダイナミックレンジを従来の135%に高める絵作りを行ない、これまでは使っていないかった輝度領域を階調に反映させています」。


画質担当の福田孝氏
──人間の目が感じる輝度差は限られていますから、ひとつの場面をキャプチャしたCCD RAWのデータから素直にRGBデータを取り出すと、どれも同じようなダイナミックレンジになりますよね。つまりJPEG化した段階で、RAWデータが持つ明暗のダイナミックレンジは一部失われます。より広いダイナミックレンジをRGB画像として出力するには、ハイライトの飛びやシャドウのつぶれの部分を非線形に処理するしかありません。コントラスト感を落とさず、8bit階調でダイナミックレンジを広げるために、どんなことをしているのでしょう。

 「RAWデータに含まれる階調データに、ガンマカーブの処理を加えて、最終的に0〜255の階調信号に割り付ける。このとき、単純に線形特性で割り付けると、白飛び、黒潰れが発生するのは指摘の通りです。そこで黒側は素直にシャドウへと落としながら、白ピーク側は一番明るいところの輝度差を圧縮してより幅広い明暗差を割り付けるように微妙な調整を行なっています。これにより唐突に白飛びするのではなく、階調が粘るようになりました

 また絵作りという面では、ビビッドモードの追加もあります。フィルムを変えるようにして、異なる絵作りを切り替えて楽しんでもらいたいと考えています」。


──私はT9が個人で所有した初めてのソニー製デジタルカメラなのですが、以前にテストで使用した時と比べると、絵のまとまりがずいぶん良くなったように感じました。感覚的な部分での話ですが、最近のモデルで何か新しい要素でも導入されたのでしょうか?

 「実はT9から新しい画像処理の仕組みを導入しています。具体的には色差空間で色をシフトさせて絵作りを行なうだけでなく、色空間を輝度方向にも見て、各輝度レンジで異なる色のチューニングを行なえるようになったのです」。

──3D空間での色調整は、たとえばテレビなどの絵作りでも積極的に使われていますね。しかし使いこなしが難しく、露出によって肌色の再現性が大きく変化してしまうなど、違和感を感じる要因にもなりやすい。そうした弊害はT9を使っていてもあまり感じません。

 「このシステムはハード的にはT7から導入されていたのですが、すぐに使いこなすことができず、ようやく使いこなせるようになったのがT9からでした。ブラッシュアップには相当の時間をかけています。また、ソニー全体で絵作りをどのようにしていくのか、カムコーダの開発担当などとも意見交流を行ない、3Dでの色調整ノウハウを共有しながら効率よく開発を行なっています」。


T30の内部
T30のブラックモデルとシルバーモデル

大きく変化したのは信号処理

CCD担当の石上富士氏
──T30の最高感度がT9のISO640相当からISO1000相当までアップしています。この理由は何でしょう?

 「いくつか複合的な要因があります。まずCCDですが、同じ1/2.5型で600万画素から700万画素へと向上していますが、両CCDのS/N比は全く同じと考えていただいてかまいません。信号の転送路をコンパクト化し、両者のフォトダイオードを同じ大きさにできたためです。またフォトダイオードと配線部分の高さ方向の位置関係が近くなったため、斜めの光への対応度も向上しています。

 一方、アナログフロントエンドがT9から変更され、低域ノイズが改善されています。低域ノイズというのは、低周波で色や輝度が変化するノイズで、モコモコっとしたうねりのようなノイズです。これがT30では大幅に減りました。

 しかし一番大きく変化したのは信号処理でしょう。具体的な違いは言えませんが、T9とT30では発売時期が異なることもあり、信号処理アルゴリズムの洗練度が異なります。

──CCD RAWのレベルでノイズリダクション(NR)をかけるということですが、“CCD RAWのレベルでNR”という説明が、よくわかりません。RAWデータのままでは輝度情報はともかく、色情報が確定していませんから、もっとも目立つ色ノイズ低減がやりにくいように思えるのですが。

 「以前はYCCデータに変換してからNRをかけていました。しかし今回はRAWデータのクロマ情報(色情報)に直接NRをかけています……では説明になっていませんね。簡単に言えば秘密ということです。RAWデータからYCCへと演算によって情報を構築する計算を行なう段階で、徐々に計算を重ねるごとにノイズが拡散していきます。基本的な考え方としては、そうしたノイズの拡散が発生する前に、なるべく“川上”でNRをかけた方がディテールを落とさずに済むというものです。ノイズ低減も重要ですが、ディテールが落ちてしまえば、そもそも高画素が必要ありません。ディテールを落としてノイズを低減している製品もあるようですが、我々はそうしたアプローチを取りたくない」。

──CCDの特性は600万画素から落ちていないという話ですが、“落ちない”ではなく“向上した”という言葉を期待したい読者も多いでしょう。技術進歩で特性が改善すると、すぐにそれを画素数に転換しているのが、現在のデジタルカメラ用CCDだと思いますが、今後のトレンドはどうなると考えていますか?

 「S/N比とダイナミックレンジの向上が技術課題だと捕らえています。画質を上げるにはデバイスのS/Nを上げないと、後処理だけではどうにもならない部分があります。今回は600万画素と700万画素で同じ特性を実現できましたが、さらに改善して1〜2段分ぐらいは特性を上げていかないといけないと考えています。CCDの場合、暗電流をいかに抑えてS/Nを向上させるかが鍵です」。


──そうは言っても、そうして苦労して開発したCCDの技術も、より高画素化することで打ち消されてしまうのではないでしょうか? CCDベンダーとしてのソニーはどう考えているのでしょう。

 「ソニーが高画素化をやめても、他CCDベンダーは続けるかもしれません。他社製CCDでは1,000万画素の素子も登場していますから、それぐらいまでは行くのかもしれない、といったことは考えています。しかしもっとも重要なことは、カメラメーカー、カメラユーザーが何を要求するかです。よりすばらしいカメラを開発する上で、どこに注力すべきなのかをカメラベンダーからニーズを聞きながら作っていくことが大切だと考えています」。

──もう少し直接的に伺うと、もう画素数はそろそろお腹いっぱいじゃないかな? ということなのですが。

 「はい。しかし一方でユーザーの中にも、高画素需要がしっかり存在しているんですよ。これは日本に限らず、世界中どこの地域でも同じです。もっと画素を増やしてディテールを再現したいという要求は止まりません。需要がある限りその方向(画素数向上)の開発をやめることはできません。高画素とは別に、階調性やダイナミックレンジ、感度といった別の切り口での付加価値を創り出し、高画素化トレンドとのバランスを取っていくというのが現実的な方向でしょう」。

──最後に今後のTシリーズの行方について伺いたいのですが、今後はT9とT30の系列が、それぞれ別の方向性で進化していくのでしょうか?

 「今後は両製品のサイズをそれぞれそのままにして、その中身をどこまで充実させることができるのかを考えていきたいと思います」。


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( 本田 雅一 )
2006/05/29 00:00
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