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キヤノン、大判プリントによる文化財複製プロジェクトに協賛


大判プリンタで複製した屏風
 財団法人京都国際文化交流財団とキヤノンは5日、大判インクジェットプリンタで文化財を複製する「文化財未来継承プロジェクト」に関する記者発表会を開いた。3月から2010年2月までの間、デジタルによる複製作業をキヤノン製品で行なう。

 同プロジェクトは、屏風や襖絵などの文化財をデータとして記録し、そのデータをもとに大判インクジェットプリンタで原寸大にプリント、必要に応じて金箔や表装を施し、オリジナルに限りなく近い複製品を完成させるというもの。完成した複製品は広く公開し、デジタルアーカイブにとどまらない活動を試みるという。愛称は「綴(つづり)プロジェクト」。京都国際文化交流財団が主催し、キヤノンは協賛として参加する。

 プロジェクトの主要なテーマは、「海外へ流出した作品の里帰り」、「日本を代表する水墨画作品」、「歴史をひもとく文化財」の3つ。国内外に保存・展示されている日本の文化財のうち、15作品以上の複製を予定している。寄贈先は京都市のほか、里帰り先である建仁寺などが決まっている。

 2007年は、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する「八橋図屏風(やつはしずびょうぶ)」(尾形光琳筆)、「老梅図襖(ろうばいずふすま)」(狩野山雪筆)、「列子御風図襖(れっしぎょふうずふすま)」(狩野孝信筆)の原寸大複製の制作が決定している。また、東京国立博物館所蔵の「松林図屏風(しょうりんずびょうぶ)」(長谷川等伯筆)、シアトル美術館所蔵の「琴棋書画図襖(きんきしょがずふすま)」(狩野孝信筆)などの複製についても協議中だという。

 制作は、入力、出力を経て、金箔、表装を施して完成する。入力は大型デジタルスキャナ、またはデジタルカメラで行なう。いずれも機材は原寸大レベルの複製を前提とする。なお同財団とキヤノンは、二条城でも手法の検証をテストしているが、その際にEOS-1Ds Mark IIを用いている。


iPF9000によるデモ出力も行なった 財団の可児達志理事長

複製プロジェクトの例 「海外流出品の里帰り」もテーマ

 デジタル化したデータは、出力までにおおよそ次の行程を減る。光源ムラによる色調や濃度のばらつきを修正→目標のイメージに補正→ポイントとなる部分の試し刷り→文化財との比較検証→本刷→色調、明度、彩度、濃度、質感、遠近感などを判定→一双(屏風全体)のイメージをチェック。

 各工程を経て得られる最終出力の品質は、結果的に用紙メディアやプリンタの性能も重要になるという。財団がプリンタとして選んだのはキヤノンの「imagePROGRAF iPF9000」。60インチ幅(1,524mm)に対応し、4plの12色顔料インク「LUCIA」を採用する。用紙は同プロジェクトのために用意した専用の和紙で、コウゾを主体にミツマタを混合させたもの。さらに特殊な溶剤を表面に採用しているという。

 財団理事長の可児達志氏は、プロジェクトについて「匠の技とデジタルの融合であり、デジタルアーカイブの新しい幕開けであると確信している。文化財がより身近になれば」と述べた。また、従来の複製作業(模写)と違いを「(技術の継承という意味で)意味のある作業だが、とにかく時間がかかる。その間にオリジナルが朽ちる可能性も。デジタルでの複製は品質も良い上、時間も短縮できる」と説明している。コスト面では「1枚あたり500万~1,000万円ほど」(同財団)との説明があった。

 また同プロジェクトに総監修として参加した裏千家前家元の千玄室氏は、「京都は文化財の多いところ。その継承は大きな課題だった。国家は文化財の保護に関心が薄い」と切り出し、「見事な複製の細密さに眼を見張った。素晴らしいお仕事。京都にとってもありがたい」と、デジタル技術への賞賛を送った。


総監修を務める裏千家前家元の千玄室氏
キヤノンLプリンタ事業本部長の本間利夫氏

箔工芸作家の裕人礫翔氏による金箔貼付け 左が金箔を貼付けたもの。右が金箔なし

 一方、キヤノンLプリンタ事業本部長の本間利夫氏は、「社会的意義のあるプロジェクトとして意識している」と挨拶。「弊社にとって新たな取り込みであり、社会貢献活動の第1歩」と述べた。

 同財団はかつて、デジタル出力での複製出力を日本HPに依頼。2006年5月には北野天満宮への複製の奉納などをマスコミに公開していた。また、2006年3月のイベント「Artexpo New York」には、HPのプリンタで出力した南禅寺の「群虎図」などを共同出展している。

 今回、プロジェクトをキヤノンと共同で起こしたことについて可児氏は、「いままでいろいろプリンタを研究してきた。HPとの関係は共同出展もあり、研究の中の少し大きめなケースと見てほしい。キヤノンとは3年間のプロジェクトに決まったが、その素晴らしい技術から、一緒に仕事ができたらという想いがかなった」と説明した。



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  ニュースリリース
  http://web.canon.jp/pressrelease/2007/tsuzuri2007.html
  京都国際文化交流財団
  http://kyo-bunka.or.jp/

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日本HP、北野天満宮に重要文化財のプリンタによる複製を奉納(2006/05/30)


( 本誌:折本 幸治 )
2007/03/05 20:03
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