特別企画
フルサイズEマウント新レンズ「ZEISS Batis 2/40 CF」初撮りレビュー
常用レンズにふさわしい使いやすさと、ツァイスならでは高画質
2018年10月19日 07:00
カールツァイスからソニーEマウント用交換レンズとして、AF付きの40mmが登場した。「Batis 2/40 CF」。開放F値F2の大口径単焦点レンズで、Batisシリーズとしては既存の2.8/18mm、2/25、1.8/85、2.8/135に次ぐ5本目となる。準標準レンズともいえる40mmが加わったことで、超広角域から望遠域まで、ひととおりのラインアップが出揃ったわけだ。
いまのところ海外発表のみで、日本での発売は年内とだけアナウンスされているが、先行して試用することができたので、画質や使い勝手などについてレポートしたい。
AF機能を持つソニーEマウント用レンズの40mmは、現時点でこの製品だけ(発売時期未定のSIGMA 40 mm F1.4 DG HSM | Artの除く)。フルサイズ対応の一般的な標準レンズ(50mm)よりも若干広めの画角を持ち、明るい開放絞りF2による浅い被写界深度と円形絞りが生み出す美しいボケ味が特徴。
名称の語尾に付くCFは"Close Focus"の略であり、近接撮影に強いことを意味する。最短撮影距離は24cm、撮影最大倍率は1:3.3。準マクロレンズ的な撮影が可能なレンズといってよいだろう。
本体重量は361gと、フルサイズ対応の明るいレンズとしては比較的軽めに仕上がっている。
被写体に寄れて、画角も扱いやすい。そして軽いとなれば、常用レンズとしてぴったりの製品といえそうだ。
デザインと装備
フォーカスリミッターの切替スイッチ以外には突起物が無い、Batisシリーズらしいシンプルなデザインに統一されている。専用フードを装着した時に完成するデザインだが、レンズのホールディングまで考えられた人間工学設計だ。
そのフォーカスリミッターは、24cm〜0.5m/0.4m〜無限遠/全距離の3種類から指定可能。それぞれの撮影距離に応じて使い分けることで、素早い合焦が行える。近距離に強く、マクロレンズ的な使い方のできる本製品らしい装備といえる。マニュアル時のフォーカスリングは軽い動きでスムースだ。
レンズ鏡筒上には有機ELディスプレイを搭載する。カメラの電源スイッチを入れた時に一瞬浮かびあがるZEISSの文字も、Batisシリーズならではの遊びごごろ(編集部注:有機ELディスプレイの表示モードは、「マニュアル時もAF時も常に表示(ON)」、「マニュアルモード時のみに表示(MF)」、「常に表示なし(OFF0」のいずれかに設定可能です)。
もちろん、遊びごごろだけではない。使用時は撮影距離が有機ELディスプレイに表示される。「0.24m」という表示は、本レンズの最短撮影距離が24cmであるため。
また、マウント周辺に施されているゴムシーリングは防塵防滴のためもの。ZEISSのコーポレートカラーであるブルーが用いられている。
レンズフードは逆向きに装着可能。コンパクトになるので、バッグに入れての移動時に便利だ。
作品
レンズ構成は8群9枚のディスタゴン系列。カールツァイスらしく逆光に強く、解像力、ボケ味とも優秀。歪曲収差も抑えられている印象だ。動植物や商品などの近接撮影から、建築物や夜景、そしてスナップからポートレートまであらゆるジャンルの撮影に重宝するレンズといえよう。
京都、祇園の裏通り。スマートフォンでお客さんを撮ってあげるのもサービスのうちなのだろうか(笑)。フォーカス合焦部はシッカリ解像しながら、その他の部分は滑らかにボケていく。若干広めの画角の標準レンズとして、いろいろな場面で使える。
鴨川沿いの土手に咲いていた小さな白い花。F4まで絞っても近接以外はボケ量が大きく、また40mmという焦点距離のため、標準50mmレンズと比べると後方の画角は広がる。
花見小路と四条通の交差点で後ろ姿を撮らせていただいた着物姿の女性たち。これくらいの距離だと50mmレンズと大きな差異は感じられないが、実際には背景を広くとり入れることができる。
F16まで絞ってパンフォーカス気味に。雲の流れとコンクリートのオブジェを合わせて見た。
最短撮影距離の短さをいかせば、被写体にぐっと近づいた撮影が可能。最短24cmという最短距離は、撮影の幅を様々に広げてくれる。
宵が近づく時間帯、店へと続く小路を格子戸をボカしながら覗いた。打ち水で濡れた石畳から木塀に反射した部分も美しい。奥に見える明るい空も再現できている。
観光客向けに流行っている貸衣装屋さんの軒先。暖簾越しに見える草履にフォーカスした。暖簾のボケに温かみを感じる
最近の京都では町屋を改築したお店が多い。写真はすだれを通した灯りに風情を感じる木造家屋。このような暗い条件下であっても絞り開放から素晴らしい解像力を発揮してくれるし、歪みの少なさは建築物の撮影にも向く。
隠れ家のようなBarで出された箸置きを手持ちのままマクロ的に寄って撮る。AFが静かに合焦するので、落ち着いた店内でも気にならない。
千葉県の香取神宮参道のもみじの葉を撮影した。フォーカスを合わせた位置はカメラから70〜80cmくらいの距離。それでも絞り開放だと美しく滑らかにボケが得られる。人物ポートレートも撮ってみたくなるレンズだ。
昭和以前の匂いがする建物が多く残っている佐原地区。絞りF8で店先を撮影した。タイル、竹、布地のそれぞれのマテリアルが克明に描写されながらも、奥にいくに従って滑らかにボケていく。小雨模様の中でも色ノリは良い。
引きがない場面でも標準よりも広い画角で建物全体を取り入れて撮影できる。しかもパースにも誇張がない。建物を形成する様々な部材も、その質感を高い解像力で描写。こちらも佐原の町で見つけた古い建物だ。
海に面した公園に落ちていた松ぼっくりにピントを合わせ、2段半絞って撮影。F3.5まで絞ると奥に見える雑木林の遠景に雰囲気がでてきた。
今では見かけることが少なくなった木塀が新調されていた。手前から2枚目の板にフォーカスして絞り開放で撮影。滑らかなボケ味でグラデーションのように奥行きが出る仕上がりとなった。
逆光や半逆光といった条件下でもいろいろ撮ってみたが、このレンズはかなり強い耐光性能がある。ほとんどフレアを感じることなく、輝度の高い部分から暗部まで高い解像力で再現している。
絞り開放での浅い被写界深度と近接ギリギリまで寄ったクローズアップ撮影は魅力的。ファインダーを覗いているだけでもワクワクする。
絞り開放で小さな花びらに思いきり寄って撮影すると、まるで中望遠レンズのような効果が出る。明るめの空を背景にしても色収差は気にならない。
上の写真とは対照的に遠景を入れてワイドレンズのような広がり感を狙ってみた。周辺部の光量落ちも少なく、波のハイライトから桟橋の暗い部分まで画面全体で解像力のあるレンズだ。
まとめ
カールツァイスのレンズといえば歴史的なブランド力やその光学性能はもちろんのこと、デザインが好きで使用しているファンも多いことだろう。殊にBatisシリーズはミニマリズムともいえる必要最小限まで削られたシンプルかつ機能的なデザインで、持ち歩く道具としても大きな魅力がある。
明るい開放F値をいかした美しいボケ味はポートレートにも向いているし、重量も361gとフルサイズ対応の明るいレンズとしても、かなり軽い造りなのでスナップ撮影にも最適だ。優れた解像力と準マクロ的要素をあわせ持ちながら広めの画角表現も出来ることから、様々な場面で活躍が期待される、もうひとつの常用標準レンズだ。
制作協力:カールツァイス株式会社